海って誰のものだろう?【投稿のページ】04

 

 利根川河川行政についての疑問  その1 

漁民無視の北千葉導水事業

―利根川名産くだりウナギがたべられなくなる!―

“こりゃあ一大事だ!!”
鈴木久仁直 Profile2003年3月9日受領)


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もくじ

北千葉導水路事業と漁業への影響

質問に答えない回答に漁民の怒り 

利根川名産くだりウナギが減少

  国土交通省への要望書と抗議書

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MANAによる紹介メモ

 

第2弾 誠実さも責任感もない河川官僚たち

 

summary by MANA問題の所在メモと投稿者の紹介(長たらしいので無視して本文にどうぞ)

 千葉の友人、鈴木久仁直さんから電話がかかってきて、利根川と江戸川とを結んだ国土交通省の「北千葉導水路事業」によって利根川名産のくだりウナギ)が激減して、このままでは漁獲がなくなりそうな深刻な事態になっているという連絡を受けた。

§

 「北千葉導水路事業」とは、総事業費約3000億円をかけ、1974(S49)年から着手2000(H12)年稼動を開始した国土交通省の利根川下流工事事務所及び江戸川工事事務所による大規模公共事業である。同省のホームページ(http://www.ktr.mlit.go.jp/edogawa/project/kitachiba/a-4.htm)から建設の背景と事業目的をみると、

 

1.北千葉導水路事業の背景と目的……都市化現象の進行に伴い、資産の集積による洪水被害の増大,河川水質汚濁の進行,都市用水の不足等のが問題化した。

2.内水対策……手賀沼及び坂川流域の低地部は、古くは利根川,江戸川の氾濫区域であった。そこで、利根川,江戸川の河川堤防を建設して、氾濫を防除する方向で建設を進めた。この結果、代替的な氾濫危害はなくなったが、堤防建設により低地部の内水被害は増加してきた。そこで、内水排除の対策が強く要望された。

3.手賀沼等の水質浄化……手賀川は、漁業,農業用水などで広く利用されていたが、昭和40年代に始まる都市化の進行に伴い、全国一の汚れた沼になっていた。そこで、手賀沼の水質保全を図るため、浄化用水の導入等が望まれた。

4.都市用水の確保……首都圏における水需要は、昭和40年代からの高度経済成長に伴い、増大の一途をたどってきた。我が国経済の安定成長に伴って、水需要の増加が強く要望され、広域的な水利用の整備が強く要望された。

5.以上の様に、社会からの要望を受けて水の多目的利用を図り、合わせて洪水被害の軽減を図る対策として、北千葉導水事業が始まった。

 

と書かれている。

 新聞記事をぼくが普通に読む限りでは、「利根川ぞいの布佐から東京の金町まで太くて大きな管を地下にうめ、利根川の水を東京まで流そうという、事業で、その途中で、毎秒最大10トンの水を手賀沼に流すことにより、手賀沼のよごれた水が利根川の水でうすまり、きれいになることが期待される。」というように、「時代の要請を受けた新しい川作り行政」として大半が首都圏の利水事業としてのメリットを中心に報じられているような気がする。

§§

 ちょっと待てよ、そんなにいいことづくめなのかい、という首都圏の河川行政に対するチェックの目を持つ必要が必要ではないのか、とおもうのは、ぼく(MANA)だけではあるまい。

 北千葉導水路事業の根幹にある、利根川の治水・利水行政の歴史を背景として、利根川河口堰や利根大堰が、はたして当初の建設の目的や効果があったのか、そして建設によって当初予想していた影響による被害程度についての検証がきちんとなされているのだろうか、という点にも目を向けておくべきだろう。

 鈴木久仁直さんの「利根の変遷と水郷の人々」(1985年刊。彼の処女作ですが、名著です。)で、河口堰建設をめぐる漁業補償交渉の詳細な検討を加えた上で、次ぎのように書いている。

 

 水公団[水資源開発公団]は「河口堰は年間を通じて半分以上が自然の状態となり、後の半分は逸流させ、かつ魚道もある」と説明し、ほとんど[漁業]被害は出ないと予想した。下流部会で最大のシジミ漁への被害率は、[漁業者側の指摘要望との調整を図った結果]河口堰上流で40パーセントを45パーセントに、河口堰下流で30パーセントを45パーセントに訂正することで妥結した。また鰻の被害率は、5パーセントを15パーセントに修正している。

 河口堰による漁業被害は、学者や水公団の主張するような軽微なものに終わらなかった。実際の被害は、シジミも鰻も壊滅的な打撃を受けた。被害予測の低さが、完成後も再び大きな問題を引き起こすことになる。

[中略]補償総額の11億5900万円は、多いと思われる人がいるかもしれない。だが、[関係漁協]総組合員3万9864人で割ると、1人あたり2万9073円にすぎない。漁業への依存度が高い千葉県でさえ、1人あたり21万円にすぎない。半永久的に続く被害への補償としては少なすぎる。

[中略]河口堰の被害補償の話しは、一時関係漁民を喜ばせたことは確かである。水公団から河口堰の被害はあまりないと説明され、補償金額は尾ひれがついて拡大していったからだ。実際に補償金を手にした漁民は、少額なため驚いた人が多いようだ。

[中略]北総漁協の菅谷組合長は、交渉委員を務めていた。当時の様子を「学識経験者のまとめた影響は少ない、との調査報告に誤魔化された」と話す。

 また、両端に造られた魚道も、交渉の場では大きな役割を果たしたという。河口堰を閉鎖しても魚道を通じ、魚類が上下するので影響が緩和されると信じられていた。だが完成後魚道はほとんど役にたたなかった。[中略]

 河口堰による被害は少ないという予測を、水公団は漁民へ押しつけ定着させた。そして反対を和らげ被害補償額を少なくさせた。だが河口堰が完成し運転を始めると、水公団や学者の主張や予想を裏切った。それは、大きな社会問題に発展した。

 【名産利根川シジミの全滅】 大きな問題とは、シジミの死滅のことである。[後略]

 

その後の漁業被害に対する漁業者の水公団の責任の追及に対し、補償済みのため再補償はしないという対応はさらに県の調整により、結果的に、水公団はその後、実質的にシジミ死滅への影響を認め、シジミ漁業権の消滅補償へとつながることになる。

 河口堰によって、漁業者は上流と下流に分断され、さまざまな影響をその後も受けながら現在までウナギ漁などが行われてきたが、漁業資源や利根川の生態系への悪影響ははかりしれないものがある。その影響については、鈴木氏も参加した当時の環境庁の委託で行われてた日本自然保護協会による「利根川河口堰の流域水環境に与える影響調査」

http://www.nacsj.or.jp/ のデータベースより

http://www.nacsj.or.jp/database/kasen/tonegawa-report-00.htmlで読むことができます)

により明らかにされているとおりである。

§§§

 

「海の漁業権にくらべて川の漁業権は弱い」と、鈴木さんも前述著書のなかにも述べている。一度決着して工事が終了してしまった事業によって、こうむる本来起こるべき影響にたいしても、また新たに引き起こされる被害に対しても、その後も漁業を継続し続けている漁業者たちの被害の訴えや対策の要求にたいしては、すべて「影響補償済み」や「漁業権消滅補償済み」を理由に、河川行政当局はまともに答えようともしない。新たに行われる事業としての「北千葉導水路事業」についても、そのメリットがあるとされる好印象条件だけではなく、一連の利根川河口堰や利根大堰による漁業被害や生態系への影響問題とが密接にリンクして起こっているデメリットの面についての事実を、もっと明らかにしていかなければならないのではないだろうか。

 漁業という生産・経済活動を続けているからこそ、明らかになってくる利根川の漁業資源の激変の状況、壊滅的な打撃といってもよい現状を、ほとんど孤立状況の中で行政当局に訴え続けている漁業者たちの声として、ぜひ全国の河口堰やダム建設の問題を考えている方々に知ってもらえれば、ということから、鈴木さんのホームページ上でのレポートとなった。

 利根川沿いの小見川街に行くと、東京などでは超貴重品としての天然くだりウナギの蒲焼を季節になると東京では考えられない普通の値段で食べることができる。ウナギ鎌(あるいは「かぎ」)という、長い竿の先につけた三つの引っ掛け鈎もつ鎌で海へと下って行くウナギを引っかける漁法の名人達が取ってきて、地元の知り合いの鰻屋や料理店に持ち込む。

 東京の有名な鰻屋もこのくだりウナギを仕入れようと川魚問屋さんにはなしをもちかけても、こうした漁師さんの間での地場の流通によって流れているだけだから、ほとんど手にはいらない。逆に、このウナギかま漁法で取ったウナギをみて、「これじゃあ売り物にならない」といったという。

 川を下るうなぎを小船の上から名人漁師さんが、カンイッパツで引っ掛けるときに、鰓から腹に付いた2つあるいは三つのアナが、蒲焼にした時に、真っ黒なシミになってのこるのである。これが、商品価値を落とすという理由らしいが、いいじゃないか。こんなうまいウナギを東京に持って行かれないで、しっかりと地元だけで消費できる“特選素材”になっているのだから。それこそ不幸中の幸だ。

 このカギの痕のついた蒲焼こそが、利根の天然くだりウナギの証明だ。そうおもって、くだりウナギの季節になると、小見川の鈴木君のところに遊びにいきついでに、最高級の贅沢を味合わせてもらったことがたびたびである。

 この、ウナギかぎ漁が、河口堰により激減したうえに、北千葉導水路事業の影響で決定的な打撃を被っているという。これはくだりウナギ好きとしてみれば、聞き捨てにできない重大事である。

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Kuninao Suzuki すずき・くになお Profile

千葉県出身。法政大学在学中から東大自主講座の取り組みに参加。東京湾や房総の漁業問題にとりくみ、漁民運動のリーダー的存在であった渡辺栄一さんの半生を聞き書きでまとめた「反骨人生―房総の男が生きた昭和の時代」(崙書房)をまとめ、また、故郷・小見川町をベースに利根川の川漁師の声を聞きながら「利根の変遷と水郷の人々」(崙書房)や「変貌する利根川」(同)をまとめる。利根の漁師たちが被る利根川河口堰、利根大堰建設をめぐる漁業補償が一段落したあとも漁業を続けていく川漁師の声を聞きつづけ、河川漁業問題をとおして川水や河川環境の問題などに潜む河川行政や水利行政などの実態を取材しつづけている。地元清掃組合に職を得ながら、地域医療問題にも関心が深く「すべては患者のために―諸橋芳夫と旭中央病院」(アテネ社)「続・すべては患者のために」(同)の著者として、また酒好きこうじ、千葉の酒造りの歴史にも造詣が深く「ちばの酒ものがたり」(千葉県酒造組合)の著書もある。

 

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利根川河川行政についての疑問

漁民無視の北千葉導水事業

―利根川名産くだりウナギがたべられなくなる!―

鈴木久仁直 Profile2003年3月9日受領)


 

北千葉導水路事業と漁業への影響

1997年に河川法が改正され、河川環境の整備と保全が追加された。河川環境は法制度上明確に位置づけられたが、河川行政の現場は旧態依然のままである。利根川下流の漁業者にとって、そう嘆かざるを得ない悲しい現状である。

利根川は首都圏を支えるため、下流の河口堰から上流のダム群まで、極めて水源開発が進んでいる。さらに高度な水利用を図るため、利根川下流と江戸川を導水路で結ぶ北千葉導水事業が運用されている。北千葉導水事業は流況調整河川と呼ぶまったく新しい河川事業で、総事業費2,900億円を要した大事業である。同事業は1969年に予備調査を開始し、1974年に建設工事に着手し、2000年4月から運用を開始している。

北千葉導水は利根川下流と江戸川を結ぶ30km弱の導水路である。目的は新規水利権毎秒10トンの開発、既存の水利権(利根川河口堰など)毎秒20トン、合計30トンの膨大な都市用水を利根川から江戸川へ送水する。

 図―1 北千葉導水路の概略位置

さらに日本一汚れている手賀沼を改善するため、毎秒10トンもの浄化用水で手賀沼の汚れを利根川へ洗い流す。かつて近づきたくないほど汚れていた隅田川の水質改善のもっとも大きな理由が、利根川から浄化用水を流入させたことによる。それを考えても手賀沼の浄化には効果があるだろうが、手賀沼の汚れを流される利根川の負担や影響は大きいだろう。そう考えるのが普通である。

我孫子市布佐地先の第1機場は取水で毎秒40トン、排水で80トンの巨大なものである。排水は洪水対策で内水を排除する。北千葉導水は多目的な事業である。

建設着手から29年、運用開始から3年が過ぎようとしているのに、事業主体の国土交通省関東地方整備局利根川下流工事事務所(以下利根下流と略)は今だに関係する2漁協の同意を得ていない。異常なことであろう。

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質問に答えない回答に漁民の怒り

 

北総漁協は香取郡小見川町の漁業者で、利根川下流を漁場とする。利根川の自然環境と漁場環境の悪化のために、北総漁協の組合員は、1965年に148名、75年には145名を数えたが、85年には119名と減少している。さらに90年に61名、2000年には50名と三分の一に激減している。組合員数の減少がそのまま利根川の漁場や自然環境の悪化を示している。

北総漁協が同意しない理由は、利根下流が漁業被害を取水口への魚の迷入(吸い込み)だけに限定し、それ以外の漁業被害を考慮しないためである。北総漁協は河口堰の建設時から現在まで、建設省から国土開発省と名前が変わっても、自然や漁業者を軽視する姿勢が続くと怒り心頭である。

北総漁協の不安が現実となる。2001年7月10日前後、利根川で赤潮が発生した。夏季の赤潮は初めてで漁業者は愕然とした。北千葉導水事業が稼動して一年余り、ついに恐れていた事態が発生した。7月上旬、同事業で実施した手賀沼の汚濁水を利根川に流したことが赤潮の主な原因と考えられる。特に7月4日、5日に流した毎秒10トン、時間当たり3万6000トンに及ぶ汚濁水は負担が大きかった。

さっそく北総漁協は、利根下流へ通報し、赤潮の確認と原因究明を依頼した。しかし驚くべきことに、利根下流は「赤潮は確認できなかった」と回答してきた。

そこで北総漁協は8月8日、7月に発生した赤潮の原因究明、北千葉導水事業への疑問、同意を得ないでの稼動等を文書で抗議した。利根下流の回答がないため、8月17日、赤潮発生の事実確認事項を七項目、北千葉導水事業への質問事項を六項目に整理し、再抗議書を提出する。

2001年11月13日、利根下流は北総漁協へ、「北千葉導水事業の運用について」との文書を、口頭で「回答書です」と渡した。不思議なことに、どこにも回答とは明記されていない。ただ「事業の影響はない」と一方的な説明だけだ。質問に答えない文書は回答でない。11月26日、北総漁協は利根下流へ三ヶ月も待たせたうえ、誠意もまったく感じられない非常識な対応と抗議し、改めて以下の内容の抗議書で回答を要求する。

 

「回答にならない文書で明確になった事実は、次の三点と我々は理解しました。

@漁業者が赤潮の発生を通知するまで、貴職(利根下流所長)は利根川で赤潮の発生を知らなかった。A赤潮は目視でも簡単に確認できるのに、通知した当日は赤潮の確認をしなかった。B利根川で赤潮が発生した事実も把握できないのに、北千葉導水事業による水質への影響はないと断言する貴職の傲慢な対応です。

  (中略)そこで再抗議書の回答書を要望します。」(11月26日付の抗議書から)

責任と誠意ある回答を要望したが、12月10日、回答でないと批判した同じ文書を恥ずかしくもなく再び持参した。利根下流の硬直した河川行政に漁業者の声は届かない。「漁業者にまともな回答は必要ない、初めに事業ありき、ゴチャゴチャ文句を言うな」との姿勢である。

つまり一度として利根下流から誠意や内容のある回答がなかった。困り果てた北総漁協は、2002年10月23日、「北千葉導水事業への要望書」を国土交通省関東地方整備局河川部長に提出した。出先の所長でなく、河川部長に解決の糸口を求めた。だが河川部長からの回答もなく、12月11日に北総漁協は回答の督促書を提出した。2003年1月30日付けで、やっと河川部長から回答と称する文書が2月7日に届いた。

しかし、北総漁協が回答督促書で「要望書の4項目に触れない文書を回答と称するのは欺瞞、詐欺以外のなにものでもありません。詐術でないなら日本語が分らない」と批判した、平成14年11月29日付けの利根下流の文書を強引に回答としたものである。そして出先の利根下流の所掌事項で関係ないとした。逃げ口上のみで、一片の責任も指示すらない。官僚の悪い見本のような情けない文書で、漁業者へ深く失望感与えた。筆者が見てもまったく内容も人間味もないものだ。

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利根川名産くだりウナギが減少

 

北総漁協と利根下流の考えはまったく違う。北総漁協と同じ主張をする漁協が出てきた。印旛沼漁協はすでに同意していたが、2003年2月3日、利根川の関係漁協に、「利根川下流部漁場環境悪化について」という文書で呼びかける。

同文書を抜粋して紹介しよう。

 

「近年利根川下流部の漁場環境は著しく悪化しており、刺し網等の漁具に、当初はアオコ、現在はヘドロ等が付着し、漁民からの苦情が多くよせられておる現状です。昔は透きとおるような清水だったが、現在は乳白色のような水の色の状態で赤潮等の発生もあり、赤潮に関しては利根下流事務所も認めているとおりで異常事態となっております。

 これらの原因が北千葉導水に伴う毎秒10トンの手賀川からのたれ流し的な排水が原因と考えられます。そのように印旛沼漁協としては推測しております」

北総漁協の主張を追認するような印旛沼漁協の推測である。印旛沼漁協は取水に伴う迷入のみの補償をもらっている。利根川を生活の場とする漁民の推測は正しいのだろうが、科学的な証明が漁民にはできない。だから漁民を無視しようとするのには行政の怠慢である。さらに北総漁協の主張を裏付ける答弁が千葉県議会において実施された。

2002年12月10日、千葉県議会において、県水道局の椎名賢局長は、「取水上の水質は導水路稼動前の平均値2mgに対し、稼動後は3.1mg。かび臭は稼動前の約10倍になった」と利根川の水質の悪化を明らかにする。水道局長は原因を「手賀沼の水が大量に排出されたこと」と指摘している。

 利根下流の主張のように、取水時に吸い込む魚や魚卵だけに影響を限定するのは強引で無理があろう。

北千葉導水の稼動後、北総漁協はくだりウナギの激減に苦しんでいる。くだりウナギは9月末から12月にかけて産卵のために海へ下るウナギのことである。利根川のくだりウナギは昔から脂が乗り肉は厚く美味で知られている。

北総漁協の組合扱いのくだりウナギをみよう。ウナギ鎌の漁である。

北千葉導水の稼動前、1995年559kg、96年472kg、97年479kg、98年720kg、99年558kgで、過去5年間の平均は558kgである。

稼動した2000年は508kgとなんとか維持した。しかし翌01年は336kg、02年は225kgまで減少している。このまま減少すれば今でも貴重なくだりウナギが食べられなくなる。これだけはっきりした減少傾向があるのに、どうして北千葉導水の影響を否定できるのか不思議である。

利根下流はもっと謙虚になるべきだろう。自然や生物、漁業者に優しい河川行政を求めたい。そして世界の潮流が民意の反映と環境を重視している。

2003年2月25日、北総漁協は事態を打開すべく、国土交通省関東地方整備局の渡辺局長へ要望書を、青山河川部長へ再度抗議書を提出した。江戸時代でも目安箱を設置し、庶民の意見を参考にしていた。平成の世に、今後も漁民を無視しごまかそうとするのだろうか注目したい。硬直した河川行政に猛反省を促したい。参考に北総漁協の提出した要望書と抗議書を、北総漁協の了解を得たので以下に全文を紹介しよう。  

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国土交通省への要望書と抗議書

 

   北千葉導水事業への要望書 

 

平成15年2月25日


国土交通省関東地方整備局 
局 長  渡 辺 和 足    様 


北総漁業協同組合     
組合長理事 宮崎 米秋 

 

北千葉導水事業への要望書

私たちは利根川下流を漁場とする漁業者です。貴職におかれましては、突然の要望書に驚かれるでしょうが、やむにやまれず提出する事情をご賢察ください。

これまで国土交通省利根川下流工事事務所長(以下利根下流と略)様宛ての抗議書を提出してきました。例えば平成11年4月「北千葉導水事業及び霞ヶ浦導水事業への抗議書」、平成12年8月「漁業者無視の北千葉導水事業への抗議書」、平成13年8月8日に「河川環境を悪化させる北千葉導水事業への抗議書」、同年8月17日、「赤潮を発生させた北千葉導水事業の再抗議書」、同年11月26日、「『赤潮を発生させた北千葉導水事業の再抗議書』の回答要望書」と何度も文書を提出してきました。

しかし残念なことに、一度として利根下流から誠意ある回答がありませんでした。そこで平成14年10月23日、「北千葉導水事業への要望書」を関東地方整備局河川部長に提出しましたが、河川部長からの回答がなく、12月11日に回答の督促書を提出しました。平成15年1月30日付けで、やっと回答と称する文書を2月7日にいただきました。

しかし、私たちの回答督促書で「要望書の4項目に触れない文書を回答と称するのは欺瞞、詐欺以外のなにものでもありません。詐術でないなら日本語が分らない」と批判した、平成14年11月29日付けの利根下流の文書を強引に回答として、出先の利根下流の所掌事項で関係ないとする逃げ口上で、一片の責任も指示もありません。官僚の悪い見本のような文書は情けなく深く失望しました。まったく内容も人間味もないものです。

平成九年に河川法が改正され、河川環境の整備と保全がやっと追加されました。河川環境は法制度上明確に位置づけられましたが、河川行政の現場は旧態依然のままです。利根川下流の私たち漁業者にとっては、そう断言せざるを得ない現状です。

北千葉導水事業による漁業被害は、取水口への迷入(吸い込み)だけに限定し、それ以外に漁業被害を考慮しません。流況調整河川という新規事業なのに謙虚さは微塵もなく、河口堰の建設時から現在でも、自然や漁業者を軽視する姿勢が続いています。

平成13年7月10日前後、利根川で赤潮が発生しました。夏季の赤潮は初めてで愕然としました。北千葉導水事業が稼動して一年余り、ついに我々が恐れていた事態が発生しました。7月上旬、同事業で実施した手賀沼の汚濁水を利根川に流したことが赤潮の主な原因と考えます。特に7月4日、5日に流した毎秒10トンもの汚濁水は利根川への負担が大きかったと推測しています。

私たちの主張を追認するように、平成14年12月10日、千葉県議会において、県水道局の椎名賢局長は、「取水上の水質は導水路稼動前の平均値2mgに対し、稼動後は3.1mg。かび臭は稼動前の約10倍になった」と利根川の水質の悪化を明らかにしています。原因は「手賀沼の水が大量に排出されること」と指摘しています。

北千葉導水事業は運転を強行していますが、常識では運用前に私たちの同意を得るべきでしょう。中身も誠意もない回答で事実を隠し、そのまま放置しています。そこで貴職のお力と責任により、以下のことを善処するよう要望致します。

@利根下流及び河川部長へ何度要望しても回答がないのか納得できません。回答して初めて議論や理解が深まります。質問や疑問に触れず自論を述べただけでは、回答でありません。その場しのぎでなく、事実を直視した誠意ある回答を再度要望いたします。

A利根下流は、『利根川河口堰総合評価検討報告書』(平成13年11月)の「おわりに」で「多くの点が明らかになったが、いまだ不明な点や解明されていない部分も少なくない」と、30年間の管理実績を大勢の学者が検討評価して、謙虚に未解明と認めています。利根川には多くの事業が展開されていますが、事実自然環境に与える影響を的確に把握することが無理でしょう。「迷入以外に影響はない」と、利根下流が本気で断言していると思えません。使い分けやごまかしで交渉するのは止めさせていただきたい。

B北千葉導水事業による漁業交渉はなく、ときに同意を強要するだけでは、行政の怠慢です。このまま同意を得ることもなく、ただ事業を強行運転するお考えでしょうか。

C私たち漁業者を無視したまま事業を強行するのならば、不本意ながら、漁業被害を排除できる漁業権にもとづき司法に訴えること、広く世間に問うことを考慮せざるを得ません。それを貴職は希望されるのでしょうか。

 

自然や環境、漁業者に優しい河川行政を求めるのは私たちだけでなく、日本各地で、そして世界の潮流が民意の反映と環境を重視していると考えます。貴職もそうお考えであれば、利根下流が誠意ある対応をするように善処と指導をお願いいたします。

   


 

  国土交通省への抗議書 

 

  

平成15年2月25日


国土交通省 関東地方整備局
河川部長 青 山 俊 行    様


北総漁業協同組合     
組合長理事 宮崎 米秋

 

北千葉導水事業への抗議書  

この抗議書を提出しなければならないのは誠に残念です。やむにやまれず貴職へ提出した平成1410月23日付け「北千葉導水事業への要望書」、さらに要望書の回答督促書に対し、平成15年1月30日付けで回答と称する文書を2月7日にいただきました。

平成14年11月29日付けの関東地方整備局利根川下流工事事務所長(以下利根下流と略)の文書を本当に貴職は回答と呼ぶのでしょうか。回答督促書で「要望書の4項目に触れない文書を回答と称するのは欺瞞、詐欺以外のなにものでもありません。」と批判したのに、うその上塗りの文書が恥ずかしくないものか驚かされました。

北千葉導水事業は総事業費2,900億円を要した流況調整河川と呼ぶ新しい河川事業です。貴職も計画立案から関与した大事業ではないのですか。出先の利根下流の所掌事項ですから関係ないと逃げ口上のみで、一片の責任もないのでしょうか。官僚の悪い見本のような文書には情けなく深く失望しました。利根川の河川行政に一切の責任も、発言も、指示もしないというなら、河川部長の看板を下ろすべきでしょう。

利根下流は北千葉導水事業の影響を取水口への迷入だけと主張し、事実をねじまげ、我々漁業者をごまかすものです。稼動後、利根川で夏季の赤潮が発生し、うなぎが激減しています。また当漁協だけでなく、印旛沼漁協も利根川下流の漁場環境の悪化を嘆き、原因を北千葉導水と考えています。さらに千葉県水道局長は県議会で「かび臭は稼動前の約十倍に」と、利根川の水質の悪化をはっきり認めています。それでも無視し続けますか。

平成九年に河川法が改正され、河川環境の整備と保全が追加されました。河川環境は法制度上明確に位置づけられましたが、河川行政の現場は旧態依然のままですね。世界の潮流が民意の反映と環境を重視しています。我々漁業者の要望や意見を汲み取り、河川行政に反映されることを希望します。

なお貴職及び利根下流はその場しのぎで内容のある回答をする姿勢もないため、広く世間一般に問いかける所存であることを申し添えます。

 

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第2弾 誠実さも責任感もない河川官僚たち

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