味探検64-味食クラブ2(東京新聞1998年4月23日12面掲載) 大塚 なべ家・ご主人 福田浩さん

清貧食の極致

『豆腐百珍』の世界を存分に味わう

「豆腐三徳を讃(たた)える」という中国の古い詩がある。老先生、官を 辞し山中に引きこ

もってしまう。患った目でも器に盛られた豆腐のどこをすくっても変わらぬ味を楽しめ(1徳)、すいた歯でも食の苦痛がなく(2徳)、生臭みのないさっぱりとした味(3徳)をひたすら愛した。鶏や豚の贈り物を拒絶し、豆腐食ざんまい。農民にして豆腐作り名人への賛辞が残る。

 「豆腐料理には夢がある」と江戸前料理で知られる東京・南大塚の「なべ家」(電話03-3941-2868)主人の福田浩さん。江戸時代のベストセラー本「豆腐百珍」の魅力にとりつかれてしまった。「料理の説明に調味は好み次第と書いてあるものが多く、それだけに料理の復元というより素材を生かした自由な発想も楽しめます。豆腐は近所の豆腐店で十分」とか。

 真っ白な立体を,福田さんが三つの姿煮変身をさせて見せてくれた。約5ミリ角に刻んだ豆腐とくず湯に青葉を添えた「豆腐粥(がゆ)」。ショウガの香りですするように味わう。汁うどん見立ての「別山焼」(べつざんやき)。コショウ風味に焼き味噌の香ばしさが絶妙なアクセント。水晶細工のような寒天で包みこんだ「玲瓏(こおり)豆腐」・黒みつの甘さの向こうに確かな豆腐の味がした。

 1丁150円の豆腐変化の妙をしっかり堪能した。(中島満)

レシピより

☆「別山焼」(べつざんやき)

@材料=絹ごし豆腐、出し汁、しょうゆ、酒、ご飯、味噌、割りコショウ。A作り方=豆腐はきしめん状に切り、しょうゆと酒で味付けした出し汁で煮る。暖かいご飯を少々もみ、つくね状に2個握り、割りコショウを混ぜた味噌をまぶし、串に刺して焼く。器に豆腐と汁を入れ、少し焦げ目をつけたお握りをそっとのせてできあがり。B食べ方=お握りははしで崩してお茶漬けのようにして食べる。

○参考書=福田浩ほか著『豆腐百珍』(新潮社・とんぼの本)

MANA取材メモ 1

 数年後、味探検で巣鴨⇒大塚を歩いたとき、福田さんから、福田さんがいつも使用しているお豆腐は、なべ家からすぐ近くの「ゑん重」というお豆腐屋さんのを購入されると聞きこむ。さっそく、ゑん重という豆腐店で豆腐を探検者も買って帰った。同店名の豆腐懐石のお店の脇の細路地を入ったところに小さな間口半間ていどの売場があった。下町のお豆腐屋さんというテイの店で、お豆腐の他京ガンモなどとてもおいしかった。

MANA取材メモ 2

 「豆腐三徳を讃(たた)える」という中国の古い詩=青木正児著『酒の肴・抱樽酒話』岩波文庫版「豆腐腐談」より新聞用に原文「豆腐三徳賛」を「豆腐三徳を讃(たた)える」とした。中国元の時代の虞集という文豪の詩文集に出ていた話として引用されていた。中国文学者、青木正児は食通として知られたが、世に言う美食家というより、食の世界を愛したひとであった。この本に含まれた文章がかかれた時代は、戦時中から戦後にかけてで食を味わえる時代ではなかった。こんな時代だったからこそ、中国の食の世界を描きながら、ときに得がたい焼き筍の話や豆腐や酒の話を書いた。『華国風味』(岩波文庫版)や『中華名物考』(東洋文庫版)や、『随園食単』(岩波文庫版)の翻訳解説は、ぼくにとって食の素材についての原点を教えてくれる最高級品質の「ネタ本」でもある。 

●「豆腐百珍」はこちらで見ることができます。

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