海って誰のものだろう?【投稿のページ03

 

奄美大島戸円(トエン)集落地先で起こっていたこと

戸円集落前面海域での砂採取に伴う補償問題等について
田中克哲 Profile2002年12月1日)


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001 海を守るということはどういうことか?|002熊本県川辺川ダム漁業権強制収用への疑問

003漁業権は財産権である!!

投稿―強制収用委員会への意見書(やつしろ川漁師組合)

投稿最高裁平成元年判決問題と漁業行使権(水口憲哉)

 

もくじ

summary by MANA

1−経緯と問題の所在

2―地元集落民がイノーの水産動植物を伝統的に採捕してきているが、非組合員である集落民に対し、大和村漁協の漁業権の侵害罪が成立するのか?

3―戸円集落に配分されていた漁業補償金の位置づけについて
4―大和村漁協の漁業補償金の受け取りと配分の手続きについて
【海砂採取と漁業権―関連リンク】

 

summary by MANA鹿児島県奄美大島名瀬市の西隣に位置する大和村の戸円(とえん)集落の地先で海砂採取が行われていた。地元漁協は戸円集落に対し、砂採取業者が支払う砂採取に伴なう被害補償金の3割を支払うことで合意していたのだが、実際に戸円集落への補償金の支払いは年々その比率は減ることとなり、支払いが滞る事態に不満を募らせた戸円集落の人々が漁協に対して起した行動の経緯と問題の所在を、田中克哲さんが投稿してくれた。この事例からは、漁協が海砂を採掘して直接被害をこうむる地区の集落民(沖縄や奄美大島などでは、地区漁民集団というよりもイノーと呼ばれるサンゴ礁や磯のエリアを総有的に利用している集落住民である場合が本土との違いである)の地先の管理や利用の慣習的権利を無視して、被害を直接被害をこうむらない組合員が多数を占める漁業協同組合の幹部によって、「補償金」の配分を勝手に決められていることがつぶさに見ることができます。〔前置きが長い!!⇒すぐ本文へ

 こういう事例とほぼ同一の問題として、大分県の佐伯市大入島の住民が主張している「磯草の権利」訴訟があることを付記しておきましょう。ここには、漁協あるいは漁村集落が合併を繰り返して複数の地域漁民集団で構成されることとなった広域漁協に、一括して免許されることになった共同漁業権の権利の主体をめぐって引き起こされることとなる問題の応用編を見ることができる。

 現在の広域合併推進に当たっては、旧漁協・組合員あるいは漁村集落・構成員が本来個々に有する漁業権行使を行う仕組みが作られているが、現実には、過去の合併事例のなかでは、合併漁協への一括免許が行われてきた事例も又多く存在し、このことによって、個々の漁村集落・及びその構成員の地先水面への権利が変質するかのような、漁村のリーダーたち、あるいは行政の恣意・思い込みによって引き起こされる問題も存在していることを教えてくれる。

 戸円集落の問題は、集落構成員が昔からの共同体的な地縁のつながりのある人々によってまとまっているから、「集落の意思」VS「複数地区を含む広域漁協」との権利の所在と対立点が明白になるから比較的理解がしやすいかもしれない。  〔前置きが長すぎる!!⇒すぐ本文へ

 しかし、漁村集落の中に漁業者と地区外からの移入住民とが混成している地区が、一般的になりつつある社会においては、権利主体は法律の上では明確であっても、権利主体としては認めないという主張したり解釈を展開するものが、集落・地区の内外に存在してしまうことは当然にありうるのである。このような問題は、入会権や漁業権の権利をめぐって、新しい現代的な問題として、さらに多様な紛争を引き起こすこととなるのである。それゆえに、問題の所在を、ばくぜんと「輻そう」した社会や組織におくのではなく、漁業権が原因であることと、ここから先は漁業権とは関係のない問題と、きちんとした整理が必要になるのであるが、こうした具体的な事例の一つの例として、戸円集落住民の要求を見てみることが必要になるのだと思う。

 ちょっと前には、遠い一地方のトラブルに過ぎないと見過ごされてきたようなもののなかに、実はとても現代的な重要なテーマ・意味があるのだと、思う。この「戸円集落」対「地元漁協」のトラブルを、地域の漁業者同士の補償金がらみの権益争いと読むのか、そうではないぞ、このなかにわれわれの社会の住みずらくなった社会の輻そうしてもつれたイトスジをときほぐしていくカギが隠されていると読むか。

 こんなシチめんどうくさい、ホームページなんて、だれも読んではくれないのかも知れない。これがきっとあたりだろう。前置きが長くて、著者さんごめんなさい。

 

奄美大島戸円(トエン)集落地先で起こっていたこと

戸円集落前面海域での砂採取に伴う補償問題等について
田中克哲 たなか・かつのり profile 

1955年生。78年水産庁入庁。82年水産庁沿岸課で漁業法や漁業権を担当。水産庁退職後、94年から漁村振興コンサルタント。また、「磯遊び研究会」の主催者として、子供たちや親子の海岸や磯の生物、自然と触れ合うための指導を通じた活動を行っている。共著:,『海の『守り人』論』(浜本幸生編著)著書:『最新・漁業権読本』(まな出版企画)


1―経緯と問題の所在

 鹿児島県奄美大島大和村戸円集落は、古くからその前面海域、特にイノーを集落民全体で使用してきている。例えば、3月と4月の節分の干潮時を開口日とし、集落民全員でイノーに生息するウニなどの水産動植物を徒歩で採取し、その他の期日は禁漁としていることなどがあげられる。
 漁業権についても、明治時代には各集落毎に設定されていたものと思われるが(これについてははっきりしないが、最低2つには分かれて漁業権が設定されていたということである)、戦後の漁協合併に伴い、現在の大和村漁協が設立され、これに伴って漁業権も一本化されており、漁業法第8条の書面同意制度が効力を発揮しないような措置となったまま現在に至っている。
 一方、昭和52年に戸円集落の吉川という者が戸円集落に対し、「年間500万円を集落に支払う、被害があったら即停止する」という条件で砂の採取を申し入れたが、結果的に海岸への被害や潜り漁への影響が懸念され実現しなかったが、翌年沖永良部在住の皆川氏が砂採取を申し込んだ際には、漁協が受け取る補償金の3割を地元の戸円集落に配分する口約束で戸円集落も同意した。
 その後、漁協は、組合の財政難等を理由に、一方的に徐々に配分額を減少させ、昭和55年からは2割、昭和63年には1割5分となり、平成11年には1割とするよう漁協側から提案され、これを戸円集落が不服とし、両者の話し合いがもたれたが、協議が整わなかったため、その後は平成十年分の分割払いが行われているのみとなり、ここ2・3ヶ月はそれもおこなわれなくなっている。なお、組合では、戸円集落への補償金の配分は寄付行為として位置付け、協議が整わなくても、組合の意思のみで一方的に配分について決定できると主張している。
また、砂の採取そのものについて、地元戸円集落民は、海浜の浸食によるイノーの魚介類の減少、集落民の安全の確保の観点からこれをやめるべきとの意見も多いが、地元の村長は、県の砂の採取に関する要綱に基づく砂採取の意見書にこのことを反映していない状態にある。
 また、漁協は、今年3月頃から最近にかけて、地元集落民がこれまで長い間伝統あるいは慣習として行ってきてた水産動植物の採取に関し、組合員以外が水産動植物全般の採捕を禁止する旨の告示を記載した立て看板を第十管区海上保安本部、鹿児島県警本部、鹿児島県、鹿児島県漁業組合連合会、鹿児島県密漁対策推進協議会の連名で漁協管内の各所に立てており、地元集落からは、個々の集落民の伝統を無視したものとして反発がおき、立て看板を撤去したり、落書きを書いたものがいて、警察が地元集落民に対し、違法な行動は起こさないよう注意し、その後は立て看板(写真参照)が立てられたまま、現在に至っている。
 しかしながら、水産動植物全般に亘って採捕を禁止することは、漁業権者の権利を逸脱しており、上記組織が連名を認めたとは到底考えられないことから、いくつかの組織に問い合わせたところ、第十管区海上保安本部ではそのような許可を行っていないと明言したため、その名義を無断使用していることが判明し、新聞に発表され(写真参照―新聞記事の内容)、その中で大和村漁協の組合長も無断使用について認める見解を示している。


 このような公的機関の名義を無断で使用して、立て看板をつくることは、密漁禁止を漁業関係者が熱心に行っている中で、漁業関係者の信用を失う重大な問題であり、今後絶対にこのようなことが起こらないように行政機関が強力な指導を行う必要があろう。さらに、このような立て看板を作成した者は刑法上の「公文書偽造罪」に問われる可能性も高い。

 

 

2―地元集落民がイノーの水産動植物を伝統的に採捕してきているが、非組合員である集落民に対し、大和村漁協の漁業権の侵害罪が成立するのか?

(田中見解)
 これまで、長い間伝統的に、しかも口開日を決めるなど資源管理を配慮して、秩序だって地元集落民がイノーにおいて水産動植物を採捕してきた伝統は尊重されるべきであり、これまで長い間漁協も異を唱えていなかったものである。
 したがって、その行為が仮に大和村漁協の漁業権侵害に該当する場合であったとしても、地元集落民と協議し、その同意のないかぎりは、大和村漁協は従来通りこれを受認すべきというものと考えられる。
 なお、漁協があくまで地元集落民の水産動植物採捕を漁業権侵害として告訴するという場合は、漁業法第14条第11項に基づき、海区漁業調整委員会に対し、関係地区内に住所を有する員外者の保護のための委員会指示を出すことを求める手段もある。
 また、このような状況の中で、大和村漁協が戸円地区集落民を漁業権侵害として告訴しても、検察庁では起訴しないと思われる。仮に起訴されても略式裁判にしない限り、有罪になるとは考えられない。

漁業法第14条第11項 漁業協同組合又は漁業協同組合連合会が第一種共同漁業又は第五種共同漁業を内容とする共同漁業権を取得した場合においては、海区漁業調整委員会は、その漁業協同組合又は漁業協同組合連合会と第11条〔注:免許の内容等の事前決定〕に規定する関係地区内に住所を有する漁民(漁業者又は漁業従事者たる個人をいう。以下同じ。)であってその組合員でないものとの関係において当該漁業権の行使を適切にするため、第67条第1項〔注:漁業調整委員会の指示〕の規定に従い、必要な指示をするものとする。


 ところで、漁業権を実質的に免許されるべき漁民集団の意思を関係地区の認定、書面同意等により反映しようとする漁業法の体系の趣旨から鑑みるとき、漁協合併に際しては、漁業権も一本化せず、それぞれの集落の地先毎に漁業権を残しておくべきであり、仮に当該地区においてもそのような措置がとられていれば、その管理に関し、地元集落と対立する構造は生まれなかったものと思われる。なお、今後このような問題が生じないようにするためには、知事が新たな漁場計画を樹立するにあたり、漁業権を旧来のように集落の地先毎に設定し、集落を関係地区として認定するようにすべきであろう。さらに、漁業権が一本化されてしまっていても、実態として従前通り、各集落毎に漁業の管理・利用が行われているのであれば、関係地区漁民の書面同意制度を類推適用して地元集落に住所を有する組合員の書面同意をとる必要があると解釈する方策も考えられよう。
 また、珊瑚礁地域に広範に見られる「地元集落民によるイノーの管理・利用の慣習」についても考慮する必要がある。このような干潮時に出現するイノーと呼ばれる陸地を地元集落民が入会権的に管理・利用する慣習(所有権ではない)は、水利権や温泉権と同じく、公序良俗に反しない慣習として法例第2条に基づき、権利として認められるべきものと考えられるし、員外者の保護のための海区漁業調整委員会の指示がされるべき事項と考えられる。

3―戸円集落に配分されていた漁業補償金の位置づけについて

(田中見解) 砂の採取に伴い漁協に一括して支払われている金銭については、損害賠償の法理に基づく補償金として位置付けられるのが適当と考えられるが、戸円集落地先海面において砂の採取が行われた場合、実質的な被害をうけるのは地元の戸円集落民であり、自らは漁業を行っていない漁協は何らの被害を受けることはないのが実情である。
 このようななかで、大和村漁協では、これまで戸円集落へ支払っていた金銭については寄付金であり、寄付を行うかどうかは漁協が単独で決定できるとしている。
 しかしながら、本件では長い間補償金の配分が行われてきており、何らかの合意=契約があったものと推定すべきである。
 すなわち、一定割合の配分が長い間為されて来たということは、それまで部落と漁協との間に何らかの交渉が行われ、それを承けて漁協が砂の採取の補償交渉をしたと推定するのが自然と考えられる。したがって、その割合を新たな合意を経ることなく勝手に削減することは許されない(推定された協定からの違反)と解するのが自然であろう。
 いずれにせよ、漁協が主張する寄付つまり贈与というのは、親子・夫婦のような血縁親族関係でもなければ何らかの実質的原因がなければ行なわれないのが経験的事実であり、まして相互に独立の団体関係における定期的贈与についてはなおさらそのように推定されるから、そういう積極的なものが認められない以上は、この二つの団体間での定期的金員の遣り取りは有因行為すなわち何らかの契約関係に基づくものと考えるのが合理的である。
 以上からすれば、漁協の取り分は不当利得となり、戸円部落は漁協の利得の返還を請求できるものと考えられる。(民法703条・704条)。

(地元集落民が主張する砂採取の影響)

 

・濁りが多くなり、動物のエサとなる海藻が激減した。
・このためめか地元集落民全員で取っていたウニがほとんどいなくなっている。
・海藻を食べるイセエビの他、タコやコウイカも激減 ・砂浜の海底にすむ「アサヒガニ」も海岸浸食の影響か、激減 ・海岸の浸食が著しく、集落民の植えたアダンも倒れている。



4―大和村漁協の漁業補償金の受け取りと配分の手続きについて

(田中見解) 埋め立てに伴う漁業補償が行われる場合、漁協は、「埋め立て同意」の総会での特別議決(場合によっては、総会前に関係地区組合員の2/3以上の書面同意をとる。)を行うとともに、関係する組合員からの漁業補償交渉に関する委任を受けた後、漁業補償契約を関係する組合員全員の同意をもって締結し、補償金の配分に当たっても最低限総会の特別議決で決定する(場合によっては、総会前に関係地区組合員の2/3以上の書面同意をとる。)という手続きを必要とする。


〇 水産業協同組合法の解釈について 香川県経済労働部長に対する照会回答 〔昭和51.3.13,51−1002 漁政部長〕
 漁業協同組合が組合員の漁業に関する損害賠償の請求、受領及び配分を行うことは漁業協同組合という社会的公益的組織体の存立目的の範囲内の行為であり、漁業協同組合の行いうる業務に含まれると解する。
 また、この場合において、関係海面において漁業を行っている組合員からの委任行為が必要と解する。

〇〔昭和47年9月22日付け、47−290 漁政部長〕  なお、埋立事業等に伴う漁業補償契約の締結にあたっては、組合は関係する組合 員全員の同意をとって臨むようあわせて指導されたい。 

〇白木漁協最高裁判決(平成元年7月13日判決)  漁業権消滅の対価として支払われる補償金は、法人としての漁業協同組合に帰属 するというべきものであるが、現実に漁業を営むことができなくなることによって 損失を被る組合員に配分されるべきものであり、その方法について法律に明文の規 定はないが、・・右補償金の配分は、総会の特別議決によってこれを行うべきであ ると解するのが相当である。 


 砂の採取に関しても、漁協が同意をするに当たっては、総会の特別議決を必要とするものと解すべきであり、また、砂の採取に伴う補償交渉を行うに当たっては関係者からの委任をとったうえで行い、補償契約の締結に当たっては、関係者全員の同意を必要とすると考えられ、百歩譲っても組合の総会の特別議決が必要と考えられる。また、補償金の配分も最低限総会の特別議決で決定する(場合によっては、総会前に関係地区組合員の書面同意をとる。)という手続きを必要とすると解される。
 なお、白木漁協最高裁判決において漁業権は入会的権利ではなくなったと認定されていることは、漁業権の研究者から多くの批判をあびており、漁業権が入会的権利であるという前提に立てば、補償金契約の締結・補償金の配分についても関係する者全員の同意を必要とすることとなる。
 ところで、大和村漁協の業務報告書から判断して、砂採取の同意については、総会の通常議決はされているものの、補償契約の締結、補償金の配分については、総会にかけられていないように見受けられる。もしこれが事実であれば、漁業外収入として補償金の全額を漁協の収入としてしまっていることは、手続き上問題である。

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【海砂採取と漁業権―関連リンク】

中国新聞「追跡・海砂採取」

中国新聞「リレーシンポ 瀬戸内海を語る」


 

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