まな出版企画のHomepageへようこそ


MANABOOK NEWS LETTER


MANABOOK(まなの本)の刊行予定や、発行本の雑誌・新聞等で紹介された文章の転載、あるいは編集子による編集ノートを整理したものです。海の話・漁業権と海の利用についてのまなの本について感心を持たれたかたや、本の内容の詳細を知りたいかたは、お読みください。


第1号(2000年1月)|第2号(2000年5月)第3号(2001年5月)    MANABOOKTOP▲

◎第4号・2002年9月

特集ー木幡孜著[漁業崩壊] 国産魚を切り捨てる飽食日本

2001年12月にまな出版企画より刊行された「漁業崩壊」の主な紹介記事・書評および論文等への引用紹介文を原則的に全文掲載し、あるいはホームページに掲載されている場合は掲載ページへのリンクを貼ることを了承いただいた上リンクさせています。


目 次

「漁業崩壊 国産魚を切り捨てる飽食日本」を読んで

野村 稔(元東京水産大学学長)

ぶっくレビュー(農林中金総合研究所「調査と情報」2002年8月)

出村雅晴氏


「漁業崩壊 国産魚を切り捨てる飽食日本」木幡孜著を読んで

野村 稔(元東京水産大学学長)

 

§1 強烈なタイトルの意味するところ

図らずもショッキングな題名の著書に巡り会った。本書の出版は冒頭で述べられているように、さるフォーラムにおける消費者委員の意外な発言が契機になったようである。すなわち、著者は大きな誤解を含む発言内容そのものではなく、発言者の認識が日本漁業に対する世論を代表しているかも知れないことを恐れたのである。

本書は二部で構成されており、第1部では日本の漁業問題が論じられ、第2部では全国17の活性化事例が紹介されている。強烈な題名と副題は本書を一読すれば、第1部の諸問題を端的に表現していることが理解できる。私は内水面養殖業の研究者であるが、本書で提示される多数の図表による日本漁業の現状分析と特定された不況要因に随所で同感させられた。

一方、第2部は一般には伝わり難い生産現場における漁業者の生きざまの紹介であり、著者の思い入れも「強かな漁業者の知恵」にあるように思われる。これらの事例によって、「生き残るための生産者の自助努力」や「水域環境の常時監視者」という漁業の新たな社会的役割が理解できるだろう。専門家のみならず、一般の人にも是非とも読んで欲しい内容である。したがって、これを表現する副題がほしかった。

 §2 第1部―統計から導き出される通説への反論

 第1部は図表がふんだんに使われているので、専門書の印象を持たれるかもしれない。だが、中身は日常生活に深く係わる食の問題が中心テーマになっている。その中で、著者は、

「日本漁業は十分自給できる水産物を現在も生産しつづけている」

「それにもかかわらず国産生鮮魚介類市場のシェア(自給率)は10%を割ろうとしている」

「際限もなく増え続ける高級品イメージの輸入水産物が国産魚を駆逐しつづけている」

「このため産地価格の崩壊は前世紀末から極限状態に達している」

「現状を放置すれば日本の漁業は間違いなく崩壊する」

「国民としてこれでよいのか」

 と絶叫している。飽食のなかで安穏に暮らす国民に、極めて重大な問題を提起しているといえよう。

多数の人々に読んでもらいたい内容である。そのためにも著者の次の仕事として、第1部の内容を多くの人々に読まれる表現でまとめることを希望する。

論旨は通説に反する結論で溢れている。全ての論拠は統計的事実で語られており、これが本書の際立った特色をなしている。したがって本書によって、読者は著者の論説を鵜呑みにする必要など全くない。それぞれが自らの判断で、現代の水産食料問題を考えることができるだろう。

私自身も統計数値が物語る日本の現状に愕然とさせられた。本書は専門的な解析技術を用いていない。大半が公開された国家機関による統計値の図解であり、それらを可能な限り遡って駆使している。そして、実に当たり前の結論が明快に導かれている。統計数値に縁の少ない私だが、日本の統計は世界のトップクラスと聞いている。このように、本書はこれらを存分に活用することの大切さも教えている。

第1部によって、水産食料問題の本質は理解できた。しかし、著者はここまで論じながら抽象的な原則論の提言にとどめ、具体的な実践論に言及していない。この点に物足りなさを感ずるが、そこまで要求するのは酷かもしれない。まず一人でも多くの国民が本書の情報によって、現実を知ることが必要であろう。

 §3 第2部―したたかな生産者の活性化への具体的事例

 第2部は構造不況を見事に乗り切る生産者の具体像であり、著者自身の重複取材によるルポルタージュである。したがって、取材地域と数に限りがある半面、内容の密度が高まっている。また事例は、海面漁業・浅海養殖業・内水面漁業・内水面養殖業・観光漁業・漁協婦人部活動・漁業者団体の活動など広範にわたっている。そして、それぞれのルポルタージュは「漁業存続の知恵を探る」という著者の視点で貫かれており、事例研究としての考察が加えられている。

一次産業復活方策の大きな柱の一つとして、農山漁村の活性化対策が叫ばれるようになって既に久しい。しかし、研究レベルとしてはいまだ模索段階にあり、緒に着いたばかりのように思われる。そのような中で、第1部の締めくくりとして著者自身の事例研究に基づく活性化の基本型が提示されている。これも注目されてよい成果である。

以上のように、第2部の内容はユニークである。おそらく、このような事例集は本書が初めてではあるまいか。とくに、内水面関連の事例が注目されたのは希なことであり、非常に有り難いと思っている。そして、「佐久鯉の行方」はまさにわが国の内水面養殖業の縮図であり、深く考えさせられる事例である。

〔『アクアネット』20026月号(湊文社)掲載〕

MANABOOKのご案内  NEWSLETTER  


HOME


send mail こちらへどうぞ

link free リンクをしていただく方ヘのお願い

copyright 2002,Minoru Nomura,

copyright 2002〜2010,manabooks-m.nakajima