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川崎大師「恵の本」

おかみさんの話芸に聞きほれてしまった


「恵の本」のハマグリ鍋(はまなべ)については、記事と、メモで書いた通りである。

 おかみさんの伊藤佳子さんが、取材で話してくれた店の歴史のこと、川アと江戸前のこと、呼びこみの掛け声の話、いずれも非常に貴重な内容を含んでおり、2年後に仲間の会合をこの店で開いたとき、昔の川崎のこと、多摩川をはさんでむこう岸の羽田までの渡し船のことなどを聞いて、あらためておかみの記憶力のよさと、人を引きつける話術に引きこまれてしまった。

 一度テープをもって飯を食いにいこうと思っている。こんなおかみさんの話の一端をよく表した文章のコピーを、取材時に頂いてきたので、紹介しておくことにする。


 

大師名物・はまなべ(蛤なべ)

 

伊藤佳子(「恵の本」九代目)

 

 「蛤(はま)なべについて書いて下さい」と依頼をうけたとき、「これは親から子へ口述として伝えられてきたものを、文章として残しておく良い機会である。」と思い安易にお受けいたしました。しかし、今となっては後悔の念にかられつつ書き始めております。

 ご存知のように「江戸前」とは広い意味で東京湾全体のことを指します。しかし正確には、東下りで京都より江戸へ入る前、つまり大森、羽田、大師が本当の意味での「江戸前」だったと聞いております。東京湾は多摩川、鶴見川などの一級河川から肥沃な真水が入り込み、塩分が薄くなり、また、湾の中なので、波が静かなことから甘味のある柔らかな魚介類が育ちました。これらを江戸前(地物)といってきたわけです。
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 江戸時代は、大師の浜で獲れた蛤(はまぐり)を味噌仕立てにした「蛤なべ」が名物で、門前町にはそれを出すお茶屋(料理屋)が軒を並べていました。日本橋を日の出とともにたち、六郷を渡し船で渡り大師詣でを済ませたあと、お茶屋に上り蛤なべで一杯やり、気がつくと日の暮れ方、急ぎ家路につく、当時これが日帰りのポピュラーなコースだったようです。
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 江戸時代の初期、我が家は桃と枇杷(びわ)を作り日本橋まで卸をしておりましたが、その頃よりお大師様へのお参りが大変多くなり、兼業で茶店のようなものを出したのが今の店の始まりです。それは今から330年ほど昔になります。

 明治の初めに三代前の祖父伊藤市兵衛がアメリカ人が持ってきた桃と、日本従来の桃とを接ぎ木(つぎき)して早生(わせ)の水蜜桃という新品種を世に送り出しました。その後大正末期に河川改修が行われるまで、この桃は長十郎梨とともに大師河原で栽培されて来ました。

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 ある日、市の商政課の方が来られて、
 「同じ場所で同じ職種を300年以上続けている店は市内では見当たりませんよ」と言われ、
 「これは潰すわけにはいかないかな」と、多少心を新たにして頑張っている次第です。

 赤い前掛けに赤だすきをつけて間口一杯に呼び込みをした当時を思う時、お芝居に出てくる情景がそのまま目に浮かびます。
 「寄ってらっしゃい」
 「召してらっしゃい」
 「内は静かでございます」
 昭和三十年代までは私も外で呼び込みをしておりました。
 行きのお客様に、
 「お帰りにお待ち申しております」
 と声をかけながら頭を下げ、にっこりとして相手の顔を見ると、必ず、
 「オッ!姉ちゃん」
 と戻ってきてくれる。
 「私は呼び込みの名人だった」と母は88才で亡くなるまで自負していました。
 最近、正月に私もこれをしてみましたところ、何事が始まったのかとおもしろがられて人だかりができてしまい、逆にお客様に店に入っていただくことができませんでした。やはり、古き良き時代だったのかもしれません。

 お客様がお入りになると下足番のおじさんが、中庭で良く熾(おこ)した炭を火鉢にいれ、客室に配ります。なべ台にも火が入り、なべには斜めに切った長ネギと剥いた蛤がはいり、汁は蛤を剥いたときに出た汁に味噌と酒と砂糖を入れ味付けしたものが蛤なべです。それぞれの店の味が多少あったようですが、むしろ地蛤のうまみで食す素朴で単純な物でした。

 取り留めもなく終わりますが、この地拾のうまさは天下一品でどこの蛤もかないません。
 今でも金沢八景の沖の小柴漁場で幾分獲れますが、一粒いくらの超高級品になってしまいました。
 一度是非ご賞味下さい。

 

●引用資料 不明


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