抄本文読み下し：[唐]魚：唐韻は、云う。｛音唐。漢語抄は云う。[唐]子。太古之（タコシ）。／魚名なり。

箋注原文テキスト：[唐]10画

抄本文関連條文：

〔注〕（21-1） 恐らく非：原本の記述とは非であろう。

（21-2）太古之：「たこし」：【類聚名義抄(観智院本)】�@（僧下四）［唐］｛音唐｝／―魚子｛タコシ｝�A（僧下六）鮝｛音朕、居媛反。フカ。鮝、音象。｝鰧｛月可在。音朕。ヲコジ。｝ ：真名真魚字典［唐］及び［鰧］参照。

（21-3） 唐韻の音を伝える「廣韻」（五巻張氏重刊宋本廣韻）（TDB）：下平聲巻第二（2-96）：十一○唐｛都郎切。四十一｝…[唐]｛魚名｝。

（21-4） 玉篇：大廣益会玉篇三十巻・張氏重刊宋本玉篇（TDB）：[唐]｛大當切。魚名。｝(21-5)[騰(馬→魚)]〔28〕を見よ。

抄本文読み下し：[椶−木]　字指は云う、[椶−木]の音は聡（ソウ）。伊之毛知（いしもち）。 ／其の頭中に石あり。故にまた石首魚と名づくなり。

箋注原文テキスト：（９画）

抄本文関連條文：

〔注〕

（22-1） 字指：【エキ齊「和名抄引書」】｛○｝字指’｛｝／[隋志]｛小｝字指二巻｛晋朝議大夫季彤撰｝……なお、隋書経籍志は、続けて「梁有單行字四卷、李彤撰、又字偶五卷。亡。」を記す。「季彤」 ：リトウ。

（22-2）文選江賦注：古書注参照：「文選」１２巻「江賦」：介鯨乘濤以出入、鮆順時而往還。注：爾雅曰、介、大也。字林曰、魚、出南海、頭中有石、一名石首。郭璞山海經注曰、鮆、狹薄而長、頭大者長尺餘、一名刀魚，常以三月八月出、故曰順時。

（22-3） 引字林：「字林」：呂忱（りょしん）編になる字書。280年ごろ成立。説文解字と同じ部首分類で約1万２８００字載せる。散佚して伝わらない。

抄本文読み下し：[椶−木]　字指は云う、[椶−木]の音は聡（ソウ）。伊之毛知（いしもち）。 ／其の頭中に石あり。故にまた石首魚と名づくなり。

箋注原文テキスト：（９画）

抄本文関連條文：

〔注〕（22-4）［首’］＝＠。

（22-5） 廣雅：釈魚：石首、[椶−木]也。 ／廣雅疏證：注22-2文選江賦注と同じ「字林」を引く。字林引用に続けて：今石首供食者有二種、小者名黄花魚、長尺許、大者名同羅魚、長二三尺、皆生海中、弱骨細鱗、首函二石、鱗黄如金、石白如玉也。

（22-6）『本草綱目』鱗部（目録第４４巻）[＊]）：[＊]魚｛食療｝（釈名）時珍曰、[＊]性啖魚、其目[目＋椶−木]視故謂之、[＊]異物志以為石首魚非也、食療作[宗]古無此字。

（22-7）志良久知（シラクチ）：『物類称呼』古書注参照：石首魚　いしもち○京江戸ともに○いしもちといふ。西国及四国にて○ぐちと云。駿河にて○しろぐちといふ。此魚かしらの中に石有。よつて名とす。又江戸にて　にべい しもち　と云有。別種なり。是にべといふ魚の小なるもの也。／[遂][夷]　にべ○此魚の小なる物を土佐にて○しらぶと云。大なる物を四国にて○ぬべといふ。又○そぢ共いふ。備前にて○そこにべと云。　にべ　とは魚の腹中に[票]膠_にべあるゆえに名とす。……なお、「[遂][夷]」（ちくい）は、「[逐][夷]」を正しい表記とすべし。この項さらに補注すべし。→〔51〕[免]をみよ。 又〔51〕[免]

参考字体

�@[椶(木→魚)]＝：（大廣益会玉篇三十巻・張氏重刊宋本玉篇（TDB）より）

�A[首’]＝＝＠。

抄本文読み下し：梳齒魚　弁色立成 は云う。梳齒魚（そしぎょ）｛東人は、阿波我良（あわがら）と云う。｝

箋注原文テキスト（梳齒魚＝その他１１画）

抄本文関連條文：

○字形用例：�@疏（齒魚）：抄本文は木ヘン。箋注原文は、足ヘン。�A筩＝トウ・ヨウ。竹のツツ。小さい口のある筒。�B簳＝音・カン、義は 「ヤガラ」「シノダケ・ヤダケ」。

〔注〕 （23-1）弁色立成：古書注参照。

（23-2）梳齒魚： 普通に訓めば「そしぎょ」あるいは「そしうお」。梳齒は、�@「くしけずる歯」とすれば、いわゆる「櫛」（くし）の歯をいい、「くしば」という櫛のひとつの種類をさすという。もうひとつの意味は、「歯を梳る」とすれば、仏教で僧侶が身に着けるべき十六物の第一番目にあげる「楊枝」（歯木）があり、「楊枝梳齒」という語もある。とすれば、楊（ヤナギ＝柳）から作られた「ヨウジの形をした」という意味にもとれるかもしれない。「 魏武四時食制」では、「疏歯」と書いたそうだから、そうとすれば、梳き歯の意味として、「梳き歯」（櫛型）のような歯を持つ魚、という意味にとれなくもない。

（23-3）阿波我良：あはがら。「アワガラ」＝�@穂をとった後の粟の茎（粟柄）（広辞苑）。つまり、ストロー状になった茎を、加工して座布団のような敷物を作る。貧しい身であった蘇民将来（そみんしょうらい）は、旅を続けていた素戔鳴尊（すさのうのみこと）を、あわがらを敷き、座ってもらい、粟ご飯を供して心を込めてもてなしたという。このことに喜んだ素戔鳴尊は、後日、蘇民将来に、茅輪によって悪病を退散させる秘法を授けたという、備後国風土記逸文を引用したとされる釈日本紀七の蘇民将来説話が伝わる。この話に出てくるのが「アワガラ」。6月末に各地の神社で行われる、夏越の祓え（なごしのはらえ）の茅の輪くぐり祭事として伝わる。�Aもうひとつが、aha（wa）garaのgaraに通じる語彙から、簳＝矢柄（やがら）を想起し、「ヤガラ」の仲間に該当する説を「嶧山君」が紹介している。

（23-4）太平御覧：古書名注参照：巻第九百四十鱗介部十二。

（23-5）魏武四時食制：古書名注参照。：猪魚：不詳。

（23-6）潘岳滄海賦：「潘岳」（ハンガク、247〜300）：「晉代の文人。字は安仁。中牟（チュウボウ、河南省）の人。美男として有名で、外出するとき、女が取り巻いてくだものを投げつけたという。」（【学研新漢和大字典】1058p）：隋書経籍志に「晋黄門郎潘岳集十巻」あり。

（23-7）嶧山君：錦小路嶧山（にしこうじ・えきざん）＝丹波頼理（たんば・よりただ）を見よ。

（23-8）魚品：この引用だけからは不詳だが、中国古書籍資料とすれば、明代の考証家、顧起元(1565-1628)の「魚品」か。国立国会図書館に「説郛／説郛續卷第41-46：元陶宗儀輯／明陶〓重輯」中に「卷第42：魚品1卷／明顧起元撰」あり。要確認。なお、「明史芸文志」に「顧起元文集三十巻、詩二十巻」あり。

（23-9）火＠觜：�@【本草綱目啓蒙】（平凡社東洋文庫、小野蘭山著「本草綱目啓蒙」３）（249p〜）[肖]魚　詳ならず。／タコト訓ズルハ非ナリ。タコハ章魚ナリ。又ヤガラと訓ズルモ非ナリ.ヤガラハ一名フエフキ魚｛筑前｝、ヤハヅ｛勢州津｝、イトヨリ｛長崎｝、コレ魚品ノ火＠嘴ナリ。西海ニ尤多シ。形長狭ニシテ円肥、海鰻[麗]ノ状ノゴトシ。大ナルモノハ長サ二三尺、色微赤ニシテ鱗ナク、細鱗文アリ。觜アラク長クシテ、身ノ半ニチカシ。吹火＠（ヒフキダケ）ノ形ノゴトシ。目大ニ口小ク、目口ノ間長筒ニシテ肉ナシ。ソノ大サ身トオナジ。尾ニ岐アリ、岐中ニ紅糸一条ヲ垂。ソノ肉色白ク味帯魚（タチウヲ）ニ類ス。腮下ノ鰭短小ナリ。尾ニチカクシテ両鰭アリ。上下ニヒレナシ。俗ニツ夕へテ反胃ヲ治スト云。マタ觜ヲフクミ、飲食ヲ其中ヨリ入ルトキハ、ヨク通ズト云。�A【水族志】（KTKDL）（畔田翠山著/田中芳男閲）(77p〜)（106）ヤガラ　一名フエフキウヲ｛笛吹魚ノ義、大和本草｝火＠觜／漁人曰、ヤガラ品類多シ。白ヤガラアリ。全身黄色也。黒ヤガラアリ。色黒シ。ネズミヤガラハ灰色。アヲヤガラハ青色也。常ニ多ハ赤色者ニシテ赤ヤガラ也。一種シマヤガラアリ。通雅曰、[幹]、俗所名火＠觜也。江東魚品曰、[幹]魚有り、身円、竹ノ如シ。頭尖リテ長サハ火觜ニ類ス。大和本草曰、笛吹魚、其形鰻[麗]ニ似テ円ク、長サハ一二尺、其ノ口数寸、口傍ハ鬣ノ如キ者あり。短シ身小ニシテ円シ。目大也。尾ノ末ノ岐ヨリ又絲筋ノ如キナル長キ小尾アリ。其ノ長キコト五六寸。本朝食鑑曰、……以下略。

(23-10)矢簳魚：真名真魚字典「矢幹魚」（その他５画）及び「梳齒魚」その他１１画を見よ。

抄本文読み下し：針魚　 七巻食経 は云う。針魚（シンギョ）｛波利乎（ハリヲ）。一に與路豆（ヨロヅ）と云う。｝／口長は四寸にして針の如し。故に以て之を名づく。

箋注原文テキスト（「針魚」＝その他１０画）：[箴]（15画）

抄本文関連條文：

〔注〕（24-1）七巻食經：シチカンショクケイ：古書注参照：著者・編選者・成立年代いずれも不詳。亡佚書。【エキ齊「和名抄引書」】には、この「七巻食經」をはじめ、食經を名に含む書として和妙類聚抄が引用した次の書名が整理される。

�@△神農食經｛冬瓜｝

�A○孟詵食經｛蕎麦、独子蒜、以下略｝：[新志]孟詵食療本草三

�B△四時食制經｛漿、白飲｝：[隋志]｛醤｝四時御食經一巻　[旧志]｛食｝四時食法一巻｛趙氏撰｝[新志]四時御食經：顔氏家訓引｛書証篇｝

�C○崔禹錫食經｛署預粥、黄菜、菌茸、中略、蓼○鵤、鴨、雲雀、中略、○糲米、栗、中略｝、○鯛、尨魚、[喿]、鯖、[侯][追]魚、[韶]陽魚、[生]魚、鱸、鯰、［魚＋頤−頁］、[庸]、[罔’]魚、鮎、以下貝類、製品など略：[隋志]崔氏食經四巻　[旧志]｛食經｝食經九｛崔高撰｝[新志]崔浩食經八巻　 ［現在目］食經四｛崔禹錫撰｝

�D七巻食經｛清盲揚梅｝｛胡桃、中略、○針魚、鰕、鯉魚、鱒、以下略｝：［現在目］新撰食經七

�E食療經｛産婦　○陰核、中略、○鮪、蟹、沙嚢｝

�F○馬[王＋宛]食經｛略｝：隋志　食經三巻｛馬[王＋宛]撰｝　

【注】：無印ハ有ル印／○印ハ鳴キ印／△印ハ有無未定ノ印か……所蔵者「真道識」書き入れと思われる。第１丁「周易」の対向○空きページに書き入れ 。「新志」「旧志」「隋志」「現在目」については、「隋書」（ずいしょ）経籍志の項を参照。

（24-2）本草和名：古書注参照：【本草和名（寛政刊・古典全集本）】針魚　｛口長四寸如針故以名之、出七巻食經。｝　和名与呂’都　一名波利乎。……呂’＝[口/口]。

（24-3）山海経：古書注参照：『山海経』「東山經」：【山海経箋疏】（郭璞伝・郝懿行箋疏。還読樓校刊本）（WULDB）：山海経第四：東山經：前略……又南三百里、曰[木旬]状之山｛懿行案略｝、其上多金玉、其下多青碧石。有獸焉、其状如犬、六足、…中略…[枳（木→氵]水出焉｛音枳。懿行案、玉篇云[枳（木→氵]水名｝而北流注于湖水。其中多箴魚、其状如儵｛懿行案、儵即鯈字｝、其喙如箴｛出東海。今江東水中亦有之｡ 　懿行案、今登萊海中有箴、梁魚碧色而長、其骨亦碧、其喙如箴、以此得名。太平御覧九百三十九巻引南楚記云、箴魚口四寸。｝、食之無疫疾。……○萊海：萊＝ライ：１字としては「雑草の一、アカザ」「藜」と同。地名としては、「古代の国の名。山東省黄県あたりにあった。」【学研新漢和大字典】となる。とすれば「萊海」は、ライカイで、山東半島周辺域〜青島の黄海に面した海、ということだろうか。○箴魚：シンギョ。箴（はり）のようにとがった喙を持つ魚。

（24-3-その２）参考：箴：「シン」音の検討：【廣韻】（五巻・張氏重刊宋本廣韻TDB）：下平聲巻第２：｛七林｝侵第二十一｛独用｝：二十一○侵｛七林切。七｝…浸…○尋｛徐林切。十六｝…[覃]｛魚名。口有腹下。又音淫。｝…○林｛力尋切。｝…○斟｛職深切。九｝針｛針線｝鍼｛上同。説文曰所以縫也。｝…箴…鱵〔[箴]〕｛魚名｝……侵韻のグループの中に、次項に載る「[覃]」魚を含むのも、抄本文の掲載順番と関わりがあるかもしれないと、参考に記しておく。

（24-4）参考：針魚：箴魚：[箴]をサヨリとし、サンマの方言をサヨリとする、同名異種（形態類似）の検討については、真名真魚字典「秋刀魚：秋（その他９画）」に記す。

儵||鯈

抄本文読み下し：針魚　 七巻食経 は云う。針魚（シンギョ）｛波利乎（ハリヲ）。一に與路豆（ヨロヅ）と云う。｝／口長は四寸にして針の如し。故に以て之を名づく。

箋注原文テキスト（[覃]１２画）：

抄本文関連條文：〔14〕 鮫（注（14-5））参照。〔42〕韶陽魚。 [32]鯆魚。

字形参照

〔注〕（25-0）２０巻本・那波本諸本に載る字体変化解説は[覃]（12画）に一括記す。

（25-1）文字集略：古書注参照：前記「龍」條 、注（1-1）に記す。

（25-2）音尋：【廣韻】（五巻・張氏重刊宋本廣韻TDB）：下平聲巻第２：｛七林｝侵第二十一｛独用｝：二十一○侵｛七林切。七｝…浸…○尋｛徐林切。十六｝…[覃]｛魚名。口有腹下。又音淫。｝…○林｛力尋切。｝…○斟｛職深切。九｝針｛針線｝鍼｛上同。説文曰所以縫也。｝…箴…鱵〔[箴]〕｛魚名｝……前掲注（24-3-その２）に見るように、浸韻に含む。

（25-3）新撰字鏡：古書注参照：[覃]・[其]・[午]：【新撰字鏡(天治本)】魚部第八十七 ：�@（521頁5-1）[覃]｛徐林反、口在腹下｝／�A（519頁2-3）［共］｛記冢反、［是］也、魚子｝／（524頁3-6）［午］｛衣无｝／（523頁1-1）[其]｛其之反、平。｝A：【享和本 】「冢」→「家’」、「衣比」が加わる。B：【群書類従本】「冢」→「家」、「衣比」。

　　�B[午]：頭注：（三）无―比。享和本、群書類従本とも「衣比」と訓ませる。�C[其]：頭注：（一）[其]―[某]・平（偏平魚　衣比）。享和本は、「[某’]｛其之反、偏平魚衣比｝」と記す。群書類従本は「[某’]。｛其之反。偏平。魚衣比。｝」と記す。詳細には、真名真魚字典[覃]（12画）を参照されたい。

（25-4）齋明紀「鮐」：日本書紀巻第二十六齋明天皇四年条。岩波文庫版「日本書紀」（四）。「出雲の国言うさく。北海の浜に、魚死にて積めリ。厚さ三尺許。其の大きさ鮐（ふく）の如くにして、雀の喙、針の鱗あり。……中略。雀魚と曰うといへり……以下略」。同書注：［台］は河豚。妙義抄にもフクの訓がある。ただし、書紀の古訓では、エヒとある。エヒはカレヒの類。エヒは恐らく誤解にもとづく訓であろう。中略「雀魚」イシフグ、スズメフグの類（346〜347頁）。伴信友校 「日本書紀」（明治１６年刊、国会図書館電子LB公開画像有）では、「其大如_レ［台］（ルビ：エヒ）」と訓みを与える。 真名真魚字典［台］参照。

【新撰字鏡】（群書類従本）（WULDB）

抄本文読み下し：針魚　 七巻食経 は云う。針魚（シンギョ）｛波利乎（ハリヲ）。一に與路豆（ヨロヅ）と云う。｝／口長は四寸にして針の如し。故に以て之を名づく。

箋注原文テキスト（[覃]１２画）：

抄本文関連條文：〔14〕 鮫（注（14-5））参照。〔42〕韶陽魚。 [32]鯆魚。

〔注〕（25-5）下総本：下総本系写本（WDB）：[覃]魚　文字集略云―｛上徐林弋林ニ反。和名衣比｝似[亶]青長骨鼻者也。：徐林→jo-rin、弋林→yoku-rin。

（25-6） 本草和名：古書注参照：【本草和名(寛政版)】鱓魚甲{音徒河反}、今、鼉甲、黿肉{已上二種出陶景注}、和名古女、一名、衣比。〔頭注〕按。衣ハ醫心方江ニ作ル。（原文は鼉黿の黽→龜）……読み下すと、「鱓魚甲（ダギョコウ）。音はto-kaの反切タ（ダ）。今、鼉甲、黿肉の２種については、陶弘景「神農本草経」注に出ている。和名は古女（コメ）。一名、衣比（ エヒ・エイ）。」のようになろう。○真名真魚字典：鱓＝[單]（１２画）参照。○真名真魚字典：鼉（ダ）（その他２５画）参照。

（25-7） 韶陽魚：【本草和名(寛政刊・古典全集本)】韶陽魚　一名[納]{奴答反}、一名［番］{［番］是[昆]之名、朝出求食、夕還入母腹中者曰［番］、音閉晏反。}、[甫]魚{夫禹反、出崔禹。}、和名古女。……[番]については本稿〔14〕 鮫（〔注〕（14-5）参照。本稿〔42〕韶陽魚参照。 鯆魚については[32]鯆魚参照。

抄本文読み下し：針魚　 七巻食経 は云う。針魚（シンギョ）｛波利乎（ハリヲ）。一に與路豆（ヨロヅ）と云う。｝／口長は四寸にして針の如し。故に以て之を名づく。

箋注原文テキスト（[覃]１２画）：

抄本文関連條文：〔14〕 鮫（注（14-5））参照。〔42〕韶陽魚。 [32]鯆魚。

〔注〕（25-8）陶隠居 ：陶弘景「神農本草経集注」。

（25-8）（その２）（a）證類本草（ 政和本草：WULDB）第二十一巻蟲魚中品56種：「陶隠居云」等を引く。：[它]｛音駝｝魚甲…中略…陶隠居云、[它]、即今鼉甲也。用之當炙皮、可以冒’(＝曰／見)鼓。…中略…臣禹錫等謹按蜀本図経云、生湖畔、土窟中、形似守宮、而大長丈餘、背尾、倶有鱗甲、今江南諸州皆有之。…中略…【陳蔵器】｛按[它]魚 合作’鼉字。本経作[它]魚、之別名。已出本経。今以鼉為[它]、非也。宜改’為鼉字。肉至美’。食之。主悪瘡、腹内癥瘕、甲炙浸酒服之。口内涎毒。長一丈者能吐気、成霧致雨。力至猛、能攻階江岸。性嗜睡。但目閉形如龍大。能者自噛其尾。極難死。声甚畏、人於穴中掘之、百人掘亦須百人奔、一人掘亦須一人牽。不然。終不可出。梁周與��常食其肉。後為鼉所賈。便為悪瘡。此物？強。不可食。既是龍類。宜去其魚。｝

（25-8） （その３）(b)《図経》：「図経本草」「本草図経」。：北宋の嘉祐六年（1061）に大常博士の蘇頌が完成し、翌嘉祐 ７年に刊行された薬図と解説からなる全20巻の勅撰本草書。本書そのものは現伝していないが、そのほぼ全書は 「証類本草」に転録されたので、現行の「政和証類」や「大観証類」からその内容が知られる。（真柳誠「『図経本草』所引の「張仲景医書」について」より）

（25-9） 俗称鼉龍：本草綱目（国会図書館蔵本KTDB）鼉龍｛本経中品｝〈釈名〉[它]魚｛本経｝上 〔→土〕龍｛(蔵器曰)本経[它]魚合改作鼉。々〔ヒ≒々＝鼉〕形如龍、声甚可畏。長一丈者能吐気成〔雲〕云致雨、既是龍類、宜去其魚。（時珍曰）鼉字象其頭、腹、足、尾之形、故名。博物志謂之土龍。鮀乃魚名、非此物也。今依陳氏改正之。｝ ／〈集解〉｛（別録曰）鮀魚甲生南海池澤、取無時。 〔陶〕弘景曰 、即鼉甲也。皮可冒鼓。性至難死。沸湯沃口、入腹良久乃剥之。（蔵器曰）鼉性嗜睡、恒閉目。力至猛、能攻江岸。人于〔於〕穴中掘之、百人掘、須百人牽之。一人掘、亦一人牽之。不然、終不可出。(〔蘇〕頌曰) 今江湖極多。形似守宮、鯪鯉[輩(非→北’)]而長一二丈、背尾倶有鱗甲。夜則鳴吼、舟人畏之。（時珍曰）鼉穴極深、漁人以篾纜繫餌探之、候其呑鉤、徐ヒ〔々〕引出。性能��飛、不能上騰。其声如鼓、夜則鳴應更、謂之鼉鼓、亦曰鼉更、俚人听〔＝聴〕之以占雨。其枕瑩淨、勝於魚枕。生卵甚多至百、亦自食之。南人珍其肉、以為嫁娶之敬。陸佃云、鼉身具十二生肖肉、惟蛇肉在尾最毒也。｝／鼉甲：(修治)酥炙、或酒炙用。／(気味)酸、微温、有毒。｛（権曰）甘、平、有小毒。（日華曰）無毒。蜀漆為之使。畏芫花、甘遂、狗膽。｝ (主治)心腹癥瘕、伏堅積聚、寒熱、女子小腹陰中相引痛、崩中下血五色、及瘡疥死肌｛本経｝。五邪涕泣時驚、腰中重痛、小兒気癃眥潰｛別録｝。小腹気痛及驚恐｛孟詵｝。 除血積、婦人帶下、百邪魍魎｛甄權｝。療牙齒疳宣露｛日華｝。殺蟲、治瘰癧瘻瘡、風頑瘙疥惡瘡、炙燒、酒浸服之、功同鼈甲｛藏器｝。治陰瘧｛時珍｝。／〈発明〉略／〈附方〉略／脂　略／肝　略。

(25-9-その２)鼉龍……ダリュウ。「ワニの一種。性質はおとなしい。ヨウスコウワニ。」（【学研新漢和大字典】）

(25-9-その３)鼉鼓……ダコ。「�@鼉の皮をはった太鼓。�A太鼓の音。▽鼉の鳴き声に似ているという。｣（【学研新漢和大字典】）

抄本文読み下し：針魚　 七巻食経 は云う。針魚（シンギョ）｛波利乎（ハリヲ）。一に與路豆（ヨロヅ）と云う。｝／口長は四寸にして針の如し。故に以て之を名づく。

箋注原文テキスト（[覃]１２画）：

抄本文関連條文：〔14〕 鮫（注（14-5））参照。〔42〕韶陽魚。 [32]鯆魚。

〔注〕（25-10） 韶陽魚：本稿その３、箋注〔42〕韶陽魚をみよ。

（25-11） 鮪魚之一名：〔11〕鮪

（25-12）〔注〕（25-5）参照。（25-13）山海経注：「山海経」郭璞注：東次三經：是山也、廣員百里。其上有水出焉、名曰碧陽、其中多[亶]鮪｛鮪、即[覃]也。似[亶]而長鼻、體無鱗甲、別名[亘][＠]、一名[黄]也。｝真名真魚字典６画「鮪」参照。

（25-13） 毛詩正義：〔11〕鮪の注11-14に同じ引用あり。：ＴＤＢ「毛詩注疏二十巻」孔頴達疏（「毛詩正義」）第三巻之ニ碩人篇（273〜279：278）：「河水洋洋、北流活活、施罛濊濊、[亶]鮪發發、葭菼＠＠、庶姜孽孽、庶士有朅。」【箋】略。【疏】｛〈伝〉罛魚罟、至送女者○正義曰。 前略…陸璣云、[亶]鮪出江海、三月中従河下頭来上、[亶]身形似龍、鋭頭、口在頷下、背上腹下皆有甲、縦廣四五尺、今於盟津東石磧上釣取之、大者千餘斤、可蒸為[確（石→月）]、又可為鮓、魚子可為醤、鮪、魚形似[亶]而青黒、頭小而尖、似鐡兜鍪、口亦在頷下、其甲可以摩薑、大者不過七八尺、益州人謂之[亶]鮪、大者為王鮪、小者為[尗]鮪、一名[各]、肉色白、味不如[亶]也。……以下略。｝

 （25-14）訓_レ鮪為_二之比_一（鮪の訓みを「之比」（シヒ）とし）：シヒ・シビの訓みについては、〔11〕鮪及び〔14〕鮫の注14-13において検討しているので参照されたい。

＝＠

抄本文読み下し：[亶]魚　文字集略は云う。[亶]｛ 音は天。牟奈岐。｝／黄色にして鋭頭、口は頷下に在るなり。 ／本草は云う。[旦]魚、｛上の音は善、｝／一名鰌[旦]、｛上の音は秋、｝一名鯆[比]、｛甫[田比]二音、 ｝／一名[央][軋（車→魚）]｛鴦軋二音｝／尓’雅注は云う。[單]魚は蛇に似る、｛今案うに、[單]は即ち［旦］字なり、｝。

箋注原文テキスト：[亶]１３画。

抄本文関連條文：

〔注〕（26-1）このセクションは、本文８５行を費やし、龍魚体中もっとも長い箋注となっている。それだけ、［亶］をめぐり、[單][善][旦]鰻（[麗][蠡]）鰌（［習］）[夫][央][軋(車→魚)][覃]など、大魚および蛇形あるいは長吻形（からさらに変じて鉤や針状突起をもって刺す）水棲動物の多様な漢字表記に変異し、マグロ（シビ）、コイ、エイ、ウナギ、ウツボ、ドジョウ、ギギなどの和名呼称とその漢字表記の複雑・混乱・錯綜した用字例が古代から現在まで繰り返されてきたということの整理に費やしたということであろう。そのこんがらがった綸糸を解れさそうとしたのがこのセクションと見ることもできる。それでも、８５行ですべてが解決されたのかといえばどうだろうか。さらに不可解さがあとに残る。それだけ、漢字文化圏に浸透してきた漢字表記の同音異義・同訓異義字体や、類似姿態による同字形漢字表記の共有などの多様な広がりとして現代に伝わってきたことは、よく言えば、想像力をたくましくして架空生物呼称へと広がりを見せた融通無碍さをもつということだし、悪く言えば 、生物や物体の１対１に同定する科学性に欠けるという漢字という表意文字の欠陥を示す好例ということにもなろう。

（26-2）牟奈岐：万葉集、嗤咲痩人歌万葉集巻16巻、3853、3854「大伴宿禰家持、吉田連石麻呂の痩せたるを嗤咲ふ歌二首」（テキストは、岩波文庫版・佐々木信綱編『新訂 新訓 万葉集』下巻。当２種は180頁）の次の歌を指す。「痩せたる人を嗤咲（わら）ふ歌二首」／（3853）「石麻呂（いわまろ）に吾物申（われものまを）す夏痩（やせ）に良しといふ物ぞ鰻（むなぎ）漁（と）り食（め）せ｛めせの反なり｝」／（3854）「痩（や）す痩（や）すも生（い）けらばあらむをはたやはた鰻（むなぎ）を漁（と）ると川に流るな」／「右は、吉田連老あり。字を石麻呂といふ。所謂仁敬の子なり。その老、人となり身体いたく痩せたり。多く喫（わら）ひ飲めども形飢饉ゑたるが似し。これによりて大伴宿禰家持、いささかこの歌を作りて戯れ咲ふことをしき。」この巻は巻頭から「由縁ある、並に雑歌」とあり、「嗤ふ」「嗤咲ふ」「咲ふ」（いずれも「ワラ」ふ）「戯れ咲ふ」テーマの歌を載せている。これらの歌は「戯咲歌」（ぎしょうか）と呼ばれ、万葉集の中でも、滑稽・諧謔の俳諧歌のジャンルを載せ、古代歌謡集としての特色を持たせているばかりか、後世、とくに近世の狂歌、俳諧に強い影響を与えた。「牟奈伎」の訓みは「ムナキ」「ムナギ」。

（26-3）「新撰字鏡」 の引用は、「享和本」あるいは「群書類従本」によって引用され、[旦][夫]は、それらの原本である「天治本」の[宜][未]を書き誤りとして[旦][夫]としている。 ［夫］は、元の字形は「央」から書写・読解のうえで同義のまま異体したものだろう。真名真魚字典[央]、[軋(車→魚)]参照。

（26-4）本草和名：真名真魚字典［旦］参照。

（26-5）文字集略：前記「龍」條に記す。 （１-6）【類聚名義抄(観智院本)】［亶］の訓みは濁点記号がつき「ムナギ」とあり、「ムナキ」の音にチェック記号（俗称記号か）がつけられているためムナギと読むのを正としたのだろう。【伊呂波字類抄】（10巻本）は、［亶］一字をイロハ順の「ム：ムナキ」「ウ：ウナキ」に分けて載せる。【字鏡集】（寛元本）は[且]（センとあるので[旦]か？）にムナキと訓みを与え、他の[央]、[單]、[夬]、[未]、[齊]、鯔、[留]、[廛]、[麗]に「ウナキ」のみの訓みを与える（鰻に訓みなし）。【節用集】（易林本）は、「ウナギ」（泥鰌、[亶]、鰻[麗]）のみ。【書言字考節用集】（享保２年版：増補合類大節用集）「ウナギ」（鰻[麗]、［亶］）。【多識編】（羅山自筆稿）は、ウナキ（鰻[麗]、海鰻[麗]、[單]）。【倭玉篇】（篇目次第）は「ウナキ」（鯔、[廛]、[麗]）「アカウナキ」（[昜]）、【倭玉篇】（夢海本）は、「ウナギ」（[麗]、鰻、鰍）、「ウナキ」（[旦]、[單]）、「アカウナギ」（[昜]）、【倭玉篇】（慶長15年版）では、「ウナキ」（鰻）、「ウナギ」（［亶］、鰍、鰡、[且]、[單]、[旦]、鰌）。【下学集】（元和三年板）は、「ウナギ」で、鰌の一字のみ（鰻[麗]の訓みは「ハジカミイヲ」）。 これらの整理から、現代、ウナギを「鰻」と書くようになったのは何時ごろからか、おおよその目安は立ちそうである。

〔注〕（26-6）爾雅注疏十一巻（TDB）巻第十釋魚第十六。［亶］〈註＝郭璞注〉［亶］大魚似[覃]而短鼻、口在頷下、体有邪行甲、無鱗肉黄、大者長二三丈、今江東呼為黄魚。｛○［亶］張連切｝。

（26-7）「邪行甲」：「体有_二邪行甲_一、無_レ鱗」を直訳すれば、「邪行している甲羅をつけている」。「体にはぎざぎざでとがった甲羅が有る」というような意味だろう。「標柱訂正康煕字典」（渡辺温）は、「口ハ頷ノ下ニ在リ。体ニ邪メニ行ナル甲有リ。鱗無シ。」と読み下す。ただ、諸橋大辞典［亶］字義（二）用例に「説文通訓定聲」の同文に返点をつけて、「体有_二邪行_一、甲無_レ鱗」を示す。これをもってすれば「体はくねくねとした動きで進み、甲の部分に鱗は無い」という意味になるが、 エキ齊箋注で示した前者の読みを取りたい。

（26-8）山海経、第二、西山經、西次四經の「渭水出焉、而東流注于河。其中多[蚤]魚、其状如[亶]魚、動則其邑有大兵。濫水出于其西、西流注于漢水。多[如／魚][比]之魚、其状如覆銚、鳥首而魚翼魚尾、音如磬石之聲、是生珠玉」――山海経・第二の章「西山経」の第四の巻。中略。渭水が流れ出で、東流し河注ぐ。其の中に[蚤]魚が多くいる。其の姿は[亶]魚のごとし。この魚が動きだすと則ち其のムラ（邑：地方・国）には戦（いくさ：大兵）がおこる。濫水（かんすい）が西より流れ出で、西流し漢水に注ぐ。[如／魚][比]の魚が多くいる。其の姿は覆した（さかさにした）銚子のようであり、鳥の首に魚の翼と魚の尾をもち、磬石（ケイセキ）を叩きならした音のような聲をしている。是の魚が珠玉を生む。――郭璞注：[亶]魚、大魚也。口在頷下、体有連甲也。或作[古]鯉。 ：懿行注：懿行案、[亶]見爾雅郭注、詳之鮎鯉、亦見爾雅然非一魚、注蓋本作[古]魚。……余談：MANA：この 郭璞による[古]鯉の注記の部分は、箋注では省かれているのは、至極妥当なことであろう。山海経においては、「[亶]」の字義解釈のなかで「鮎鯉」を書いている記事を、書き誤りか読み誤り（か趣向？）によって「[古]鯉」としるした。また、このことによって、［亶］を「鯉：コイ」に姿を似せた魚として引用されることで、誤りのもと ともなった記述である。

（26-9）「毛詩・碩人」：国風、衛の国の歌に載る ）（せきじん＝すぐれた御方）の詩 ：（前略）河水洋洋、北流活活、施罛濊濊、［亶］鮪発発、葭［芯（心→炎）］掲’掲’（後略）。［亶］鮪発発：てんいはつはつたり。（26-10） 毛詩正義：孔穎達「毛詩註疏」、古注という。陸[機（木→王）]［梳(木→足)］→陸璣疏：陸[機（木→王）]著「毛詩草木鳥獣魚疏」。 〔25〕 [覃]＝注25-13、〔11〕鮪に同じ引用あり。

〔注〕（26-11） 毛詩正義、陸[機（木→王）]を引く「背上腹下皆有甲、縦廣四五尺、…中略…大者千餘斤、」〔25〕 [覃]＝注25-13、〔11〕鮪に同じ引用あり。「縦廣」は「体長」でよいのか要確認。○千斤：周代換算1斤２５６グラムとすれば２５６キロ。唐代以降換算600グラムとすれば600キロ（【学研新漢和大字典】）。（26-12）書証篇引魏武四時食制：顔氏家訓「書証篇」（中華文化網諸子百家より）：後漢書云：「鸛雀銜三鱔魚。」多假借為鱣鮪之鱣；俗之學士，因謂之為鱣魚。案：魏武四時食制：「鱣魚大如五斗奩，長一丈。」郭璞注爾雅：「鱣長二三丈。」安有鸛雀能勝一者，況三乎？鱣又純灰色，無文也。鱔魚長者不過三尺，大者不過三指，黄地�K文；故都講云：「蛇鱔，卿大夫服之象也。」續漢書及搜神記亦説此事，皆作「鱔」字。孫卿云：「魚鱉鰍鱣。」及韓非、説苑皆曰：「鱣似蛇，蠶似 蠋。」並作「鱣」字。假「鱣」為「鱔」，其來久矣。 （26-13）四時食制：「四時食制経」（しじしょくせいけい・しいじしょくせいけい）医学書（医方類）。亡佚書。成立年代不詳。エキ齊「和名抄引書」：四時食制経｛漿　白飲｝／[隋志]｛医｝四時御食経一巻、[旧志]｛食｝四時食法一巻｛趙氏撰｝、[新志]四時御食経一巻／顔氏家訓引｛書証篇｝〔頭注〕△／〔書き込み〕御覧引目魏武四時食制。〔「魏武」は「魏武帝」＝魏の曹操（155〜220年）。本書成立年代の参考。〕（26-14）匳＝奩＝レン。５斗の大きさのものが入る箱あるいは器という意味だろうか。（26-15）三行甲：「三列に盛り上がった甲」というような意味か。（26-16）陳蔵器：引用参考書注「本草拾遺」。 （26-16-2）證類本草（政和本草：WDB）巻第二十巻蟲魚部上品50種のうち「二十三種陳蔵器餘」から「[亶]魚」：（26-17）羅願：らがん。引用参考書注「爾雅翼」。（26-18）輭：［車＋而／大］＝軟の異体字。（26-19）詩経碩人篇にいう［亶］鮪（てんい）：（４）から（11）までの注を総記すれば、このセクションまでが同一種の魚の特徴としている。［亶］をコイ（鯉）、鮪をシビ（マグロの異称）と訓みを与える解釈は、吉川幸次郎（「詩経国風」上、岩波・中国詩人選集）の訳注にあるごとく、近年まで普通に採られてきた。それというのも、詩経最古の解釈書「毛伝」に「［亶］鯉也」とされ、また「説文解字」も同様に「鯉」としたことから、混乱（誤解釈）の流れが現代まで襲ったということであろう。三国時代の陸璣により［亶］鮪（てんい）について、諸橋大漢和が、詩の用例を示し「［亶］はカジキ、鮪は［亶］に似て小さいもの」とし、【漢語林】も「カジキとシビ」としているごとくである。２００５年増補改定された【学研新漢和大字典】は、近年の研究の成果を取り入れ、［亶］も鮪も「チョウザメ」の仲間と書いている。［亶］の意味（一）「海・川にすむ魚の一種。チョウザメ。大きいものは６メートル以上になる。背は黄褐色で、かたくとがったうろこがある。黄魚。」（二）「タウナギ。同義：[單]・[善]」ＭＡＮＡもこの解釈を採る。【学研新漢和】改定を担当した、加納喜光氏の中国博物学史研究の成果を詩経解釈に取り入れ、中国の動植物語彙の字体、字義解釈がわかりやすく解説された『漢字の博物誌』を参照されたい。（26-20）（13）の 「爾雅翼」引用「以作鮓、而骨可啖」の「鮓」：鮓は「すし」。中国における「すし」の食品としての語彙があらわれるのは、せいぜい紀元後１〜２世紀ごろとされ、それまでの古代中国に、「鮨」という文字はあっても、肉の醢（しおから）に対応させた魚のシオカラをさしていたという（篠田統『すしの本』154ページ）。鮨（６画）参照。 ここで、爾雅翼が記す（南宋：１１５２年）ころの中国では、魚のスシが盛んに作られ食されていることが知られ（篠田『すしの本』172ページ）、「作鮓」の「鮓」は、黄魚（チョウザメ）の「スシ」をさしている ということについて、おって記したい。

〔注〕（26-21）北山経郭注：山海経（北山経）郭璞注：[單]魚似［虫＋也］：[單]魚似蛇。 「［虫＋也］」は「（１）蛇の俗字」「（２）蛇に同じ。」（諸橋大漢和虫部三画10-32820）：エキ齊が箋注に使用したのは「山海経十八巻、明嘉靖刊本」（経籍訪古志、巻第五「小説」に「求古楼蔵」とあり）か？郝懿行「山海経箋疏」（WLDB）は「蛇」。原本に「虫＋也」とあったか、エキ齊原稿のままなのか、森立之刊本校訂作業中の置き換えか不明。山海経箋疏（WLDB）（第２冊）山海経第三、北山経「又北二百五十里、曰求如之山、其上多銅、其下多玉、無草木。滑水出焉、而西流注于諸[囟＋比]之水。其中多滑魚、其状如[單]赤背｛[單]魚似蛇音善｝、其音如梧、食之已疣。其中多水馬、其状如馬、文臂牛尾、其音如呼。」

（26-22）玄應音義（げんのうおんぎ）：参考古書注「一切経音義」（いっさいきょうおんぎ） 。「訓纂」を引いた原文未確認。

（26-23）「訓纂」 ：漢代楊雄撰になる字書「訓纂篇」（亡佚書）をさすのだろう。古書名注「訓纂篇」「蒼頡篇」を見よ。

（26-24）【証類本草】（政和本草：WDB）巻第二十蟲魚部上品總五十種のうち（8-51／142）[單]｛音善｝魚　味甘大温無毒…中略…。臣禹錫等謹按蜀本図経云、似鰻[麗]魚而細長 、亦似蛇而無鱗、有青黄二色、生水岸泥窟中、所在皆有之、｝…中略…顔氏家訓云。後漢書、鸛雀銜三鱔魚。音善。多假借、作鱣。魏武四時食制、鱓鱣魚大如五斗、躯長一丈、即[亶]魚也。若如此長大、鸛雀不能勝、一説三頭乎。是[單]魚[＠6]乎。今宜作[單]字。……以下略。

（26-25）掌禹錫（しょううしゃく）：992〜1068年、字は唐卿、北宋の科学者。 「地理新書」ほか本草書として、蘇頌、張洞等共修訂「開寶本草」(1057年成立)、編撰「嘉祐補注神農本草」20卷（1060年成立。「嘉祐本草」と略称される)。

（26-26）《図経》：注（25-8b）参照。

（26-27）顔氏家訓巻第六書証：「後漢書云、鸛雀銜三[單]魚、多仮借為[亶]に之[亶]、孫卿云、魚鼈鰌[亶]、及韓非説苑皆曰、[亶]似蛇蠶似[虫＋蜀]、並作[亶]字、仮［亶］為[單]、其来久。」：前掲注（26-12）に記す。

（26-28） 【後漢書、楊震伝】（古書注）（WLDB）「後漢書五十四」「楊震列伝第四十四」後有冠雀銜三鱣魚、飛集講堂前｛冠音貫、即鸛雀也。鱣音善。韓子云。鱣似蛇。臣賢案、續漢及謝承書、鱣字、 皆作[單]、然則鱣[單]、古字通也。鱣魚、長者不過三尺、黄地�K文、故都講云、蛇[亶]、卿大夫之服象也。 郭璞云。鱣魚長二三丈。音知然反。安有鸛雀、能勝二三丈乎此為鱣明矣。｝、都講取魚進曰、蛇鱣者卿大夫服之象也。

 （26-29）つまり、[亶]と[單]とは「セン」あるいは「ゼン」という上聲「銑」（あるいは「獮」）に属する音韻で通じているということである。

〔注〕（26-30）文字集略：〔１〕―注（１）記す。（26-31）杜甫詩： 唐の大暦２年（767）作。秋日夔府詠_レ懐寄_二鄭監李賓客_一、百韵詩： 「秋日夔府 （しゅうじつきふ）の懐を詠し、鄭監（ていかん）審、李賓客（りひんかく）の芳に寄せ（奉）る百韵」の詩：敕（ちゅう）に廚（ちょく）する惟（た）だ一味（み）、飽（ほう）を求（もと）む或（あるい）は三［亶］（さんてん）。（26-32）押韻：[亶]：「先」平聲（廣韻下平聲：「仙」同用）：張連切：テン）。……つまり、「三[亶]魚」の場合は、注26-29にみたように、[亶]は、上聲の「銑」→セン・ゼンだが、杜甫詩においては、「先」平聲のテンの音韻を使っているという用例が確かにあるにはある、という意味であろう。しかし、「ムナキ」という細長似蛇形魚を言う場合には、上聲の「セン」が正しく、「テン」と読むのは誤りであるということ。詩経にいう「［亶］鮪發發」（テンイハツハツ）の場合に、[亶]は「大魚」の「黄魚」なのであって、ムナキをいう場合は「黄魚」は誤りであるということを、エキ齊はいっているのである。「エキ斎按う、[單]は、鰻[麗]に似るといえども、」以降は、「細長似蛇形魚」の中国における[單]を表す種（かたち）と、日本でいう[單]を表す種（かたち）との正しい比較を試みているセクションである。（26-33）本草図経：注（25-8b）参照。（26-34）後漢書注： 【後漢書楊震伝】李賢注（臣賢案）：注（26-28）参照。（27）小野蘭山：「本草綱目啓蒙」巻之四十鱗之四[單]魚。東洋文庫540（平凡社） 『本草綱目啓蒙３』233ページ。

〔注〕（26-35）千金翼方：原典テキスト未調査：ネットサイト「漢方のページ」に「千金翼方」あり、「千金翼方」（卷第四‧本草下、虫魚部、七十一味論一首）に「鱔魚：味甘，大温，無毒。主補中，益血，療沈唇。五月五日取頭骨燒之。止痢。」載せる。（26-36）証類本草：前掲中（26-24） 。【證類本草】（政和本草：WDB）巻第二十蟲魚部上品總五十種のうち（8-51／142）[單]｛音善｝魚　味甘大温無毒。主補中、益血治瀋｛音審｝脣、五月五日取頭骨燒之、止痢。陶隠居云、[單]、是荇芩根化作之、又云、是人髪所化、今其腹中自有子、不必盡是變化也。性熱、作臛食之亦補。而時行病起、食之多複、又喜令人霍亂。凡此水族魚鰕之類甚多、其有名者、已注在前條、雖皆可食、而甚損人、故不入藥用。又有食之反能致病者、今條注如後説、凡魚頭有白色如連珠至脊上者、腹中無膽者、頭中無鰓者、並殺人。魚汁不可合鸕[＠2]肉食之。[＠3]魚不可合猴、雉肉食之。鰌｛音秋｝[單]不可合白犬血食之。鯉魚子不可合豬肝食之，鯽魚亦爾。青魚不可合生胡荽及生葵並麥醬食之。鰕無鬚及腹下通黒、及煮之反白、皆不可食。生[＠4]〔魮？〕不可合雞肉食之、亦損人。又有鯆、音脯、魮音枇、亦益人、尾有毒、療齒痛。又有[央]、烏卯切、[軋(車→魚)]、乙八切、魚、至能醒酒。[侯]、音侯、鮧魚有毒、不可食。／唐本注云別録云、乾[單]頭、主消渇…中略…、今按陳蔵器本草云、[單]魚、主湿痺氣…中略…腹中冷氣腸鳴也、臣禹錫等謹按蜀本図経云、似鰻[麗]魚而細長 、亦似蛇而無鱗、有青黄二色、生水岸泥窟中、所在皆有之、｝以下略。（26-37）前掲注（26-4）参照。（26-38）山海経北山経：北次二經：又北三百八十里、曰湖灌之山、其陽多玉、其陰多碧、多馬。湖灌之水出焉、而東流注于海、其中多[旦]｛亦[單]魚字。　懿行案。李善注王褒四子講徳論引郭氏此注曰、[單]魚似蛇、時闡切、疑即、今本注下脱文也。大戴礼記勧学篇云、[虫＋也]、[旦]之穴[旦]即[單]字也。玉篇云、[旦]魚似蛇同[單]。集韵云、[旦]上演切、音善。｝／有木焉、其葉如柳而赤理。

〔注〕（26-39）前掲注26-36参照。【證類本草】（政和本草：WDB）巻第二十蟲魚部上品總五十種のうち（8-51／142）[單]、…中略…凡此水族魚鰕之類甚多、…中略…又有食之反能致病者、今條注如後説、…中略…鰌｛音秋｝[單]不可合白犬血食之。鯉魚子不可合豬肝食之，鯽魚亦爾。……又有鯆、音脯、魮音枇、亦益人、尾有毒、療齒痛。又有[央]、烏卯切、[軋(車→魚)]、乙八切、魚、至能醒酒。[侯]、音侯、鮧魚有毒、不可食。

〔注〕（26-40） 本条の[單]魚：注26-36、注26-39で載せた「巻第二十蟲魚部上品總五十種のうち（8-51／142）[單]」のこと。（26-41） 鰌：泥鰌：ドジョウ：「壒嚢鈔」（あいのうしょう）に載る土長：KLDB：第１巻第５９「魚ノ一コント云ハ何ノ字ソ。」中、魚５２名称（計７３字）が６行にわたり載る。鰌はないが、２行第３字と４字に「鯲トチヤウ　土長同」。真名真魚字典：鰌（９画）参照。（26-42） 陳蔵器本草：本草拾遺：「[共]魚」「鰍魚」の出典が不明（要確認）。鼠尾魚、地青魚、鯆[比]魚、邵陽魚云々：【本草綱目】（国会図書館蔵本KTDB）（第24冊）第44巻、鱗部ニ（鱗之四）無鱗魚二十八種・付録九種：62・63（111）海鷂魚｛拾遺｝（釈名）邵陽魚｛食鑑作少陽｝、荷魚｛韻作[可]｝、[賁]魚｛音忿｝、鯆［比］魚｛音鋪[田+比]｝、蕃蹹魚｛番沓｝、石蠣、｛(時珍曰)海鷂象形少陽、荷並言形色也、餘義莫詳｝／（集解）｛（蔵器曰）生東海、形似鷂有肉翅、能飛上石頭、歯如石版、尾有大毒、逢物以尾撥而食之、其尾刺人、甚者至死、候人尿處釘之、令人陰腫痛、抜去乃愈、海人被刺毒者、以魚扈竹及海獺皮解之、又有鼠尾魚、地青魚、並生南海、總有肉翅、刺在尾中、食肉去刺。（時珍曰）海中頗多、江湖亦時有之。状如盤及荷葉、大者圍七、八尺。無足無鱗、背青腹白。口在腹下、目在額上、尾長有節、螫人甚毒。皮色肉味、倶同鮎魚。肉内皆骨、節節聯比、脆軟可食、呉人腊之。魏武食制云。蕃蹹魚、大者如箕、尾長数尺、是矣。嶺表録異、云。雞子魚、嘴形如鷂、肉翅無鱗、色類鮎魚、尾尖而長、有風涛即乗風飛於海上。此亦海鷂之類也。／肉（気味）甘、咸鹹平、無毒。｛（時珍曰）有小毒。｝（主治）不益人｛弘景。｝男子白濁膏淋、玉茎澁痛｛寗源｝／歯無毒。（主治）瘴瘧、焼�K研末、酒服二銭匕｛蔵器｝／尾有毒。（主治）歯痛｛陶弘景｝。

〔注〕真名真魚字典[鰌]（９画）参照。

（26-43） 【爾雅】（「爾雅注疏十一巻」東京大学東洋文化研究所倉石文庫蔵：ＴＤＢ）【爾雅】（「爾雅注疏十一巻」ＴＤＢ）巻第十釈魚第十六：[習]鰌【郭璞註】今泥鰌｛○[習]音習、鰌音秋。｝【邢[日/丙]疏】｛[習]一名鰌、即今泥鰌也。穴於泥中因以名云。｝……郭璞：カクハク。邢[日/丙]：邢昺　： ケイヘイ（932〜1010）。宋代の学者。字は叔明。「考経」「論語」「爾雅」等のテキストを校訂し、その注を作った（【学研新漢和大字典】）。「穴於泥中」は、「（水底の）泥中の穴にいる」。

（26-44）釈文引字林：「釈文」は、 陸徳明「経典釈文」であろう。原典未見。

（26-45）【本草綱目】（国会図書館蔵本KTDB）（第24冊）第44巻、鱗部ニ（鱗之四）無鱗魚二十八種・付録九種：鰌魚｛音酋○綱目。｝／（釈名）泥鰌｛俗名｝、[習]魚｛爾雅○（時珍曰）按陸佃云、鰌性、酋健、好動、善優、故名。小者[奧]魚。孫炎云、[習]者尋習、其泥也。｝／（集解）｛海鰌生海中極大、江鰌生江中長七八寸、泥鰌生湖池最小長三四寸、沈於泥中、状微似[單]而小、鋭首肉身��黒色、無鱗、以涎自染滑疾難握與他魚牝牡故荘子云、鰌與魚游生沙中者微有文乎。閩広人[割（害→蠡）]去背骨作臛食其美、相感志云澄心煮鰌其妙。｝以下略。

（26-46）郝曰：エキ齊は、引用原典名を挙げていないが、「爾雅義疏」 であろう。郝懿行「爾雅義疏」は曰う。：【爾雅義疏】（芸文印書館本）釋魚第十六：（四丁表・1184〜四丁裏・1185）［習］鰌｛今泥鰌｝説文、［習］鰌、互訓。釋文、引字林云、鰌似鱓短小也。…中略…今按、泥鰌鋭頭無鱗、身青黄、以涎自潤滑不可握、出水能鳴性至難死、大者能攻堤岸。

（26-47）王念孫曰： エキ齊は引用原典名を挙げていないが、「広雅疏証」からの引用であろう。：【広雅疏証】（光緒五年淮南書局重刊本）（巻第十下）釋魚：［羞］[幼]［奥］鰌也：前略、鰌亦短小乃称也。考工記、廬人、酋矛、常有四尺、鄭注、訓酋為短。云、酋之言逎也。聲義正相合也。荘子云々…以下略。……王念孫の引用および周禮考工記考工記廬人の引用は、「酋」（シュウ・ジュウ）は「短いこと」を意味する音義があることを解説している。つまり、王念孫の「鰌短小之称也」を説明して、周禮の鄭玄注で言う「酋」をもって、ここで「短而小」という鰌の字義に通じているというのである。 以下の注参照。

（26-48）考工記「廬人」：周禮冬官考工記「廬人」：周禮注疏四十二巻（福建刊十三経注疏TDB）：第四十一冬官考工（1460）：廬人為廬器、戈柲六尺有六寸、殳長尋有四尺、車戟常、酋矛常有四尺、夷矛三尋。」【（鄭玄）註】柲猶柄也。八尺曰尋。倍尋曰常。酋、夷、長短名。酋之言遒也。酋、近、夷、長矣。｛（陸徳明音義）○廬力呉反、下同、柲音柲、殳音殊、酋在由反、遒在由反、或子由反、沈慈有反。｝【（賈公彦）疏】｛【註】柲猶至長乎。○釈曰、凡此経所云柄之長短、皆通、刀為尺数而言八尺、曰尋倍尋、曰常皆約上文、車有六等之数、皆以四尺、為差而知之也。云酋夷為發聲、則無義例、至此而言長短名為義解之者、鄭意雖是發聲、夷為長、故開口引聲而言之、酋為短、故合口促聲而言之也。｝……以下略。真名真魚字典[鰌]（９画）用例１の「説文」「廣韻」の釈を参照されたい。

〔注〕真名真魚字典[軋(車→魚)]（１〜３画）黄顙魚（その他１９画）参照。（26-49） 食療本草、黄顙魚：【證類本草】（政和本草：WDB）巻第二十巻蟲魚部上品總五十種：（八種食療餘）黄頼魚。一名。醒酒、亦無鱗。不益人也。（26-50）【本草綱目】（国会図書館蔵本KTDB）（第24冊）第44巻、鱗部ニ（鱗之四）無鱗魚二十八種・付録九種：黄顙魚｛食療｝／（釈名）黄鱨魚｛古名｝黄頰魚｛詩註｝｛央軋｝黄｛（時珍曰）顙頰以形、鱨以味、以声也。今人析而呼為黄黄。陸璣作黄揚訛乎。｝／（集解）（時珍曰）黄鱨無鱗魚也。 身尾倶似小鮎無鱗、腹下黄、背上青黄、腮下有二横骨両鬚、有胃、羣游作声、如軋軋。性最難死。（26-51）王氏：王念孫：出典未確認：王（念孫）氏は「この魚は現在も棲息する魚で、１尺に盈たない。楊州の人はこれを「[央]斯魚」と言い、また順天の人はこれを「伽魚」と言う」といっている。 「楊州」は現代の揚子江河口に近い江蘇州「揚州市」周辺域（ウィキペディアWikipedia）。（26-52）和名加良加古： 真名真魚字典［罔］（８画）参照。カラカコ、カラカキが「声如軋軋」と、人力車や牛車の車のキシム（軋む）音からの擬音から発している。「斯」や「伽」の音を重ねて和名として引いてきたとしてもおかしくはない。

〔注〕（26-53） 【本草和名（寛政版）】[旦]｛仁諝音 、善。陶景注、是[芝（之→行）][芝（之→今）]相変化、作之、又、人髪所化也。｝鰌[旦]｛仁諝音、秋。｝鯆［比］魚｛仁諝、甫［田＋比二音。］｝［央］［軋（車→魚）］魚｛ 仁諝音、上、阿郎反、下、乙’八反。｝[侯][夷]魚｛楊玄操音義、侯夷二音已上四名出陶景注。｝和名牟奈岐。本草和名画像を真名真魚字典［旦］に載せているので参照されたい。（26-54）前掲注26-36参照。（26-55）[侯]［頤−頁］魚：〔40〕[侯]［頤−頁］魚。

○字形用例

Ａ

B

Ｃ

D

爾＝尓＝[企(止→小)]

Ａ：箋注倭名類聚抄（印刷局活字本）

Ｂ：倭名類聚鈔（那波本・古活字本）（ＷＤＢ10冊本）

Ｃ：和妙類聚抄（下総本写本）

Ｄ：エキ齊自筆「和名抄引書」

〔注〕（26-56） 尓’雅注：爾雅注：古書注参照。エキ齊自筆「和名抄引書」には、「爾雅」及び「爾雅」の注書に関して、�@爾雅｛霧／川…中略…○魚丁／蟲｝、�A爾雅注｛牽牛…中略…菌茸／鮨〈郭〉／醢〈郭〉…中略…○鮪〈郭略同〉／[亶]／貽貝／以下略｝、�B爾雅舎人注｛母｝、�C爾雅孫炎注｛祖母／私……以下略｝ 、�D爾雅郭璞注｛霰…中略…○魚丁　……以下略｝、�E爾雅李巡注｛洲　垣墻｝をのせ、和名抄本文から題目を抜き出している。「爾雅注」は、エキ齊が「旧注」とするように、郭璞注以前の亡失した古注をさしていると思われる。〔11〕鮪で、エキ齊が「爾雅注」についてすでに検討しているように、「郭璞注」の記載も同一題字に対して異なっているという。「和名抄引書」の「爾雅注云」を載せる「鮪」は割注して「郭（璞）略同」と書いているが、これは、「爾雅注」とかく「古注」のなかにも、今本としての郭璞注と「ほぼ同じ記述」であるということを確認しての記載なのであろう。また、「新美篇・輯佚資料」には、「第四爾雅類」では「爾雅注」に対し「某氏撰」と書いている。　（26-57）韓非子：�@第８巻説林下第二十三：利之所在皆為賁諸：[亶]似蛇、蚕似［虫＋蜀］。人見蛇則驚駭、見［虫＋蜀］則毛起、漁者持[亶]、婦人拾蚕。利之所在、皆為賁諸。／�A第９巻内儲説上七術第三十：[亶]似蛇、蚕似［虫＋蜀］：人見蛇則驚駭、見［虫＋蜀］則毛起。然而婦人拾蚕、漁者握[亶]。利之所在、則忘其所悪、皆為孟賁。……「説林下」「内儲税上」いずれも、 現在の主な日本の辞書には「ウナギ（原文：[亶]）は蛇に似て、カイコ（原文：蚕＝蠶）はイモムシに似る。その形は悪むべきであるけれども、利があるから人がそれをとる」 （諸橋大辞典）ことの格言となってつたわる。

箋注原文テキスト：真名真魚字典 ：［鰕］（９画）〔注〕（27-1）七巻食經：〔24〕針魚注（24-1）参照。（27-2） 真名真魚字典［鰕］（９画）、[分](４画)参照。（27-3） 輔仁：本草和名：寛政刊古典全集本：鰕｛出七巻食経｝一名［分］｛出兼名苑｝和名衣比。（27-4）新撰字鏡：天治本：巻九魚部第八十七：�@[分’][分]｛孚粉反。小蝦。衣比。｝�A鰕｛胡加反。大魚。｝（27-5） 「説文」「説文解字」：【説文解字】（「説文解字十五巻」東京大学東洋文化研究所倉石文庫蔵：ＴＤＢ）�@（魚87：7624）[鰕]（篆）：鰕魚也。｛段注：三字句、各本作［分］也。今正鰕者今之蝦字。古謂之鰕魚。�A同（魚88：7625）［高］大鰕則今之蝦也。（27-6）海老：延喜式巻二十四「主計寮」：凡中男一人輸作物。…中略…小凝菜。雜海菜各八斤。滑海藻十二斤。海藻根四斤。海老一升。（27-7）大中臣能宣：おおなかとみのよしのぶ（921〜991）：平安時代中期歌人。三十六歌仙の一人。（27-8）宇美乃於岐奈：うみのおきな：「新続古今集」（しんしょくこきんしゅう）：永享11年（1439）成立：同集巻十九（雑下：02076）能宣：よのひとは−うみのおきなと−いふめれと−またはたちにも−たらすそありける：同歌は「能宣集」（花山院献上本）にものる。（日文研ＤＢより）「続詞花集」未確認。

〔注〕（27-9）医心方巻30：鰕：七巻経云。味甘、平。食之无損益。不可合梅李生菜、皆令人病。養生要集云。蝦、无鬚、又亦腹下痛黒、食之煞人。又云。蝦煮当赤、而反白者、勿食之。腹中生虫。和名、衣比。……つまり、「医心方」は、現在伝わらない「七巻食経」「鰕」からの引用をするに際して、源順が「無毒者也」とかいた箇所を「食之无損益」と書いたということをいっているのである。（27-10） 爾雅、爾雅郭注：そのとおり。ただ、【爾雅】（「爾雅注疏十一巻」東京大学東洋文化研究所倉石文庫蔵：ＴＤＢ）によれば、「長二三尺」は、原文「長二三丈」。（27-11）爾雅翼：蝦：蝦多鬚、善游而好躍。…中略…閩中五色蝦、長尺餘具五色、梅蝦梅雨時有之、蘆蝦青色、相傳蘆葦所變、白蝦青蝦各以其色、泥蝦相傳稻花變成、多在田泥中、一名苗蝦、…以下略。

〔注〕（28-0）参考書体

箋注原文テキスト

（[騰(馬→魚)]10画）

収’→廾＊6

＊7

＊4’

（楷書）

＊5

（原文TXT）

＊4”

｢説文解字｣

ＴＤＢ

＊8

学研新漢和大字典

〔注〕読み下し：鰧　唐韻は「鰧（魚名）」と云う。鰧、直念反。朕と同じ。漢語抄に「乎古之」と云う。（鰧は）魚名、鰕に似て赤文。（28-1）唐韵：古書名注「唐韻」（とういん）を見よ。 「唐韻云」→〔注〕28-6の廣韻Bを見よ。直稔反：反切表示は唐韻＝切韻は「反」、廣韻は直稔切と「切」を使う。（12-2）漢語抄：古書名注「揚氏漢語抄」（ようしかんごしょう）を見よ。（28-3） 【新撰字鏡(天治本)】［工］{子紅反。似[敞／魚]。（乎）己自}……[敞／魚]に似て、和名はオコジ。[敞／魚]は、 【新撰字鏡（天治本）】において、明らかに音符「敞」（ショウ）を書き、鼈 の項に「補滅反」つまり「ヘツ」を書いている。敞は、敝が正しく、鼈は「ベツ・カワカメ・スッポンの一種」となる。この場合、そのままの字義と読んでよいか？。 ショウと音読して、鮫（サメ）や干し魚を意味する同音ショウ：[養(良→魚)]、[券(刀→魚)]との連想からオコゼの訓みが導かれたという可能性について検討を要すると思われる。（28-4）オコセ：乎古世：タコシ→オコジの呼称が、いつ頃からオコセ（オコゼ）として使われるようになったかは不詳。だが、室町末に成立したとされる印度本系「節用集」（京大DB橋本経亮旧蔵本）に「オコゼ」と訓ませ、また、江戸時代中期に成立した「書言字考節用集」（享保２年版：増補合類大節用集）には、右ルビ「オコジ」、左ルビ「オコゼ」と併記されている点などを参考に示しておきたい。（28-5）[騰(馬→魚)]（10画）、［唐］（10画）参照。

〔注〕（28-6） 【廣韻】（五巻・張氏重刊宋本廣韻TDB）A:下平聲巻三―登十七：＊１｛魚名蒼身赤尾｝B:上聲巻第三―寝第四十七：朕｛我也。秦始皇二十六年始為天子之称。直稔切六。｝[舟＋炎]｛古文｝鰧｛魚名。似鰕赤文。出廣雅。｝螣｛螣蛇｝以下略。……直稔切の次の「六」は「直稔切と同じ音を持つ字は次の６字」を示す。（28-6）＊４を従える：[騰（馬→魚）]の字形には＊４を 音府（ヨウ）として含む。→トウ。（28-7）＊５：【説文解字】(｢説文解字十五巻｣東大東文研倉石文庫蔵：ＴＤＢ)：＊4”：我也、闕。【段注】前略……云从舟＊7声者、人部[朕(月→イ)]字亦云＊7聲。今説文雖無＊7字、然論例當有之。凡勝騰滕螣黱皆以朕為声。…中略…今音直禁切。→チン。（28-8）の形声：�@収’→廾（にじゅうあし）の象形は、両手をそろえて物をささげるさまを表している 。�A「舟＋両手で物を持ち上げる姿」で、舟を上に持ち上げる浮力のこと。上にあらわれ出る意を含む。転じて、尊大な気持ちで自分を持ち上げて称する自称詞となった。（【学研新漢和大字典】830ｐ） （28-9）嶧山君：錦小路嶧山（にしきこうじえきざん）：本草家・医師であった錦小路（丹波）頼理（よりただ）の号。『本草薬名備考和訓鈔』（文化４・１８０７年刊）他あり。以下エキ齊は「嶧山君曰」として多くの引用をしている。なお、森鴎外「帝室博物館書目解題」（昭和48年岩波書店版「森鴎外全集」第二十巻所収）と併記され「帝室博物館蔵書人名抄」（同全集619ページ）に、「薬名備考」をあげ、「丹波頼理、号嶧山、正三位修理大夫、〈文化丙寅｛三年｝冬上月〉序／山澄静安、紀府侍医、名延年、〈天保二年辛卯春三月〉跋／―以下略」とある。〔９〕鮝魚も参照。（28-10） 雑字簿：訳官雑字簿（国会図書館蔵）か？。ただし、国会図書館蔵本では、「虎魚」の項なし。魚虎に「沙魚（サメ）」の次に挙げられ「同上」と記す。また、オコゼには「[鰧（月→舟）]」を記す。また、国書総目録「さつし」（713ｐ）に「雑字簿」がのり「別書名：海産物名字」「著者：山本錫夫」「弘化四年（１８４２）」が載るが未見。 （28-11） 【水族志】（167）ヲコゼ｛雑字簿曰虎魚「ヲコゼ」｝ツチヲコゼ｛紀州日高郡網代浦｝虎魚。／続脩台湾府志曰、虎魚状似虎頭巨口無鱗、長サ尺ニ盈タズ、肉嫩クシテ美シ。以下略。（該当セクション全文）

読み下し：[喿]　崔禹食經は 云う。[喿]、蘇遭反、騒と同。阿知。／味甘、温。毒なし。貌は[椶(木→魚)]に似て、尾に白刺、相次（あいつらな）る者なり。箋注原文テキスト真名真魚字典[鰺]（12画）参照。〔注〕（29-1）�@【新撰字鏡（天治本）】魚部第八十七（518p5行-1）＊5｛�纖ｧ反。［生］。阿知。｝�A【新撰字鏡（享和本）】（群書類従本も同じ）＊4｛�縺f（乘？）勞反。［生］阿地。｝……「同訓」＝「阿知」は天治本。（29-2） 天平九年官符見類聚符宣抄：東京大学史料編纂所DBより：新訂増補国史大系（類聚符宣抄巻三）27巻90頁：天平９年（737）６月２６日記事：＃２５０太政官符〔頭書〕「臥皰瘡疫之日治身及禁食物等事」 太政官符、東海、東山、北陸、山陰、山陽、南海等道諸国司、合臥疫之日治身及禁食物等事漆条、一凡是疫病名赤班瘡。…中略…一病癒之後。…中略…廿日已後。若欲喫魚完〔宍？〕。先能煎炙。然後可食。…中略…乾鰒堅魚等之類。煎否皆食。〈乾脯亦好。〉但鯖及阿遅等魚者。

参考字体：[椶(木→魚)]＝＠�@：異種交雑した多用な名称を持つが、一般的な訳語としては、中国名「石首魚」、日本名（和魚名）は「イシモチ」としておく。魚名考証は、箋注倭名類聚抄においては、頭首（題）字なく、関連する字として、〔51〕[免]（ニベ）、〔53〕[頤−頁]（イシブシ）がある。[椶(木→魚)]（９画）で整理しているので参照されたい。

�A類聚名義抄：観智院本より

�B干禄字書：文化十四年刊書林須原屋茂兵衛他梓（版）

�C寧波府志：巻12物産（鱗之属）

読み下し：[喿]　崔禹食經は 云う。[喿]、蘇遭反、騒と同。阿知。／味甘、温。毒なし。貌は[椶(木→魚)]に似て、尾白刺、相次（あいつらな）る者なり。箋注原文テキスト真名真魚字典[鰺]（12画）参照。〔注〕（29-3）[椶(木→魚)]：和魚名「イシモチ」としておく。上記参照。（29-4） 類聚名義抄：観智院本：画像�A参照。（29-5） 干禄字書：画像�B参照。（29-6） 本草和名（寛政刊・古典全集本）：字体＊4：｛貌似＠’。｝＠｛子公反。頭中有石。｝一名石首魚｛出崔禹。｝和名、阿知。（29-7） 【廣韻】（五巻・張氏重刊宋本廣韻TDB）下平聲第二（85）○騷｛愁也。蘇遭切。十三。｝…中略…繰｛上同俗、又作縿。縿本音衫。｝…中略…［蚤］｛魚名｝…中略…[喿]｛[星]臭｝以下略。（29-8） 医心方：【醫心方（安政版）】巻３０：鰺：崔禹云。味甘、温、无毒。主下利、明目、安心神。貌神似�E、而皮中有白垢 、尾白、刺（イラヽ）連 々逆々者也。頭（中）有石。江南人呼曰石首魚者也 。是（レ）｛和名 阿知｝。……「貌神似�E」は、おそらく「神」は二字前の「神」の重字で、「�E」は[椶(木→魚)]を指すとすれば、鈔本文の「貌似[椶(木→魚)]」を正として読むべきであろう。（29-9）嶧山君 ： 錦小路嶧山（ニシキコウジエキザン）をみよ。（29-10） 寧波府志：中国、明の時代の張時徹ら複数人の撰になる浙江省寧波府の地方志。４２巻。第12巻物産篇の「鱗之属」「介之属」に海産品の記事が載る。テキストは、「早稲田大学古典籍データベース（WLDB）：寧波府志：張時徹纂修、周希哲訂正、嘉靖39[1560]序、16冊（序題:重修寧波府志）」（29-10）青筴魚：WLDB第12巻物産「鱗之属」に「青筴魚」としては載っていない。同属中の「竹筴魚」がその魚に該当しそうだ。（29-11）【説文】(「説文解字十五巻」TDB)＊1（篆）[生]臭也。从魚喿聲。｛[禾]遭切。二部｝周禮曰膳膏臊。｛按此六字當作讀若周禮曰膳膏臊八字、蓋臊从肉、見肉部。云豕膏臭也。與先鄭説同、然則、許所據周禮不作膳膏[喿]、[喿]與[生]同義。｝（29-12）ＭＡＮＡ：狩谷エキ齊の考証の通りだと思う。鰺＝鯵の字体は、国字として、日本で作られた文字ということがいわれるが、「作られた」というよりは、＊1の作りを毛筆により書写する際に記された崩し字＊2のツクリの字形が、やがて古字書や公式文書にも楷書化された 異体字形として「ソウ」の訓みを与えて記され、やがて、＊2の字形あるいは＊3の字形が、ツクリを「參」「参」に変えて、訓みも「ソウ」から「サン」へと変えていったものと整理されよう。それなら、「鰺」はいつごろから「サン」という音をもつ、「アジ」の訓みの字体として認知されたのだろうか。検証 の必要があるだろう。

読み下し：[��]　崔禹食經は、「[��]、音、��（セイ）」と云う。阿乎佐波（アオサバ）。真名真魚字典：[鯖][��]（８画）。〔注〕（30-0）この項から三魚名（〔30〕＝アオサバ、〔31〕カセサバ、〔32〕ナワサバ）の箋注は、サバとフカとサメの語源考証について記される。〔14〕 鮫（サメ）や〔11〕鮪（マグロ＝イ＝大魚）や〔26〕鱣魚（テン：チョウザメ）、〔25〕鱏魚（ジン：エイ＝韶陽魚）などとも絡まりながら、これまで、ほとんど考証されてこなかった魚名考証の複雑な奥深い世界が展開される。〔30-1〕本草和名：【本草和名（寛政刊・古典全集本）】鯖｛組経反。出崔禹。｝和名佐波。（30-2） 新撰字鏡：享和本・群書類従本：魚部第七十一：[昔]{倉客反。加是佐波}（群書類従本：是→豆。）／[恵][都]{上佐波。下奈万豆。／[D]｛左波｝／[也]{波江。又、左波。}：D＝衝（重→山／魚）：天治本では、「皆同訓」ではなく、[恵]＝サバ、［衝（重→山／魚）］＝サバ、[也]＝[地]＝ハエ・サメ。【類聚名義抄(観智院本)】とあわせて事態と訓みの用例は[鯖][��]（８画）参照。（30-3） 天平九年官府：（29-2）に載せる。ただし、「鯖」をのせているだけで、「サバ」という訓みはない。

〔注〕（30-4）医心方 ：【醫心方（安政版）】（「醫心方　食養篇」巻末影印）巻３０：鯖：崔禹云。味鹹、大温、无毒。主血利、補中、安腎気。貇似鰱小、口尖（スルト）、背蒼（アヲシ）。可為鮓食、補中。南人多喫鯖 、益面色、癲〈疒⊂主〉人食鯖臛難差。｛和名、佐波。｝（30-5）「医心方引亦同」は「者也」が入っている文と同じ、とする のではない。「背蒼」で止まる鈔の「食經」からの引用文と同じという意味である。（30-6）鯖未詳：�@青魚。詳ナラズ。―中略―本邦ニテサバノコトヲ青魚或ハ鯖’ト書ス。故ニ『和名抄』ニ鯖’ヲアヲサバト訓ズ。然レドモ是ニアラズ。サバハ清俗青花魚トイフ。―以下略。（『本草綱目啓蒙』）。�A青花魚〈『訳伝雑字簿』〉。サバ。釈名。（略）―以下略―」（『海魚考』）（『本朝食鑑』東洋文庫版･島田訳注４より「鯖」の項、注四 ：91ページ）より。（30-7）嶧山君：錦小路嶧山：丹波頼理。（30-8）雑字簿：「訳官雑字簿」を見よ。 （30-9）青花魚：国会図書館蔵「訳官雑字簿」に「青花魚」は載っていない。鰧注（28-10）虎魚のように、やはり別書か。本草薬名鑑と題した【掌中名物筌】（福井春水著・天保四年刊）に「サ（魚）＝サバ＝青花魚｛清俗｝あり。

読み下し：[番]　唐韵は、[番]、音番、と云う。漢語抄は、加勢佐波と云う。箋注原文テキスト：真名真魚字典[番]（１２画）、[��]（８画）、[昔]（８画）、［内］（４画）参照。〔注〕 （31-1）�@【廣韻】（五巻・張氏重刊宋本廣韻TDB）上平聲巻第一（５９コマ）二十二○元｛愚袁切。二十二。｝○煩｛附袁切。三十八。｝番｛翻盤潘三音書亦音波。｝…中略…○蕃｛甫煩切。六。｝…中略…[番]｛魚有横骨在鼻前如斤斧。｝：61コマ。�A【玉篇】（大廣益会玉篇三十巻・張氏重刊宋本玉篇）（TDB）巻第二十四。魚部三百九十七。（39丁裏10行）[番]｛甫煩切。又音煩。魚名。｝（31-2）「韻鏡」五音の「唇音」のうち「重唇音」（両唇音：上下の唇を使って調音：発音する音）が「幇母：p」、「滂母：p‘」、「並母：b」、「明母：m」であり、「軽唇音」（「唇歯音」：上歯と下唇を使って調音：発音する音）が「非母：ｆ」、「敷母：ｆ‘」、「奉母：v」、「微母：⒨」である。（「音韻学入門−中古音篇−富山大学人文学部中国言語文化演習テキスト1998」15ｐ）（31-3）つまり、[番]＝蕃＝甫煩切：平聲・元→韻鏡・転二十二合：清＝軽唇音・非母（つまり一例音「ハン」）となる。それに対し、番＝煩：附袁切：平聲・元→韻鏡・転二十二合：濁＝軽唇音・奉母（つまり一例音「バン」）となる。エキ齊は「音番」は、「音蕃」の写し誤りではないのか、と箋注しているのである。

（31-4）本草和名：韶陽魚、一名[納]{奴答反}。一名[番]{[番]是[昆]之名。朝出求食夕還入母腹中者曰[番]、音閉晏]}、[甫]魚{夫禹反、出崔禹}。和名古女。（31-5）�@【新撰字鏡(天治本)】巻九魚部第八十七　[昔]{倉各反。加世佐波。}　[番]{加■■波}……頭注：加是佐波。／�A【新撰字鏡(享和本・群書類従本)】魚部第七十一　[昔]{倉客反。加是佐波}（群書類従本：是は豆）　[番]{加是佐波}（群書類従本：同「加是佐波」）　（31-6） 【新撰字鏡(天治本)】巻九魚部第八十七（522）　［内］{奴盍反。加世魚。}：ダウ（ナウ）反＝ドウ・ノウ。カセウオ。「世」は、頭注に「西」とある。「享和本」「群書類従本」は「加西魚」とあり、あとは同じ。（31-7） ［内］：〔廣雅、釋魚〕［内］、鯢也。〔集韻〕［内］、魚名、鯢也、似鮎四足、聲如嬰兒、郭璞説、或作[榻(木→魚)]。（31-8） 鐘木鯊；「シュモクサメ」のことだが、棭斎は出典を示しておらず不詳。：今俗にという、「俗称」として読むが、神田玄泉「日東魚譜」（国会図書館蔵本：５冊：写本）魚譜巻之五「異魚之類纂」中に「鐘木鮠」が載る。鐘木鮠｛同前〔和品〕｝釈名志茂久佐女シモクサメ｛通称｝或、鹿背沙面カセサメト名ク。此レ乃チ鮠魚之一種。形チ鐘木及鹿背狭’乃形チニ似タリ。故名之、沙皮ヲ去リ煮食ス。／笄鮠｛同前｝釈名鴨掌鮠イテウサメ｛同上｝此ノ鮠魚形、婦女ノ頭ノ髪ニ挿ス所ノ鴨掌葉笄（こうがい）ニ似タリ。故ニ之ニ名づく。食シテ前ノ如シ。並ニ鮠魚ノ丁種ニシテ可食者ト雖モ、亦、形チ異ナルヲ以テ、此ニ分テ出ス者ナリ。（31-9）○【物類称呼】（岩波文庫版）（49p）鮫魚　さめ○播州にて○のそといふ　越前にて○つの字と云　その故は　此魚捕とらへて磯いそへ上れば假名かなの　つ　の字の形に似たりとて　越前の方言につの字となづくと也　大和にては○ふかと云　さめと鱣魚ふかとは大イ　に同しくしてすこしく異こと也　ふかの類多し　皆さめの類なり　或は白ぶか　うばぶか　かせぶか　鰐わにぶか　もだま、　さゞいわり等、皆さめの類なり　四国及九州に　さめ　沼の称なし　すべて　ふか　と呼　よぶもの也　又江戸にて一種○ぼうざめと云有　下野国宇都宮うつのみや辺にては○さがぼうとよぶもの也　江戸にて云○ほしざめを　西海にて○のうそうと云　江戸にて○しゆもくざめと云を　西国にて○念沸坊といふ　是土佐の国にて云○かせぶかなり、又土州にて一種○なでぶかといふ有　船端に人立時は　必尾をもてなて落すと也。（31-10） 絡絲之裃に似て：ラクシノカミシモ：いわゆる「裃：カミシモ」の形を表わしているものとしてよいのか？よくわからない：要確認。（31-11）閩書南産志：びんしょ・なんざんし：雙髻鯊：（双髻鯊）：要原典チェック。〔参考〕フリー百科事典『ウィキペディア（Wikipedia）』：シュモクザメ（撞木鮫、英名：Hammerhead shark、ハンマーヘッド・シャーク）とは、メジロザメ目シュモクザメ科Sphyrnidae に属するサメの総称。（31-12）寧波府志：ねいはふし：【寧波府志】（張時徹・纂修。周希哲・訂正。嘉靖39[1560]序）（WLDB）：了髻鯊：鯊魚｛皮上有沙、故名有、白蒲鯊、黄頭鯊、白眼鯊、白蕩鯊、青頬鯊、班鯊、牛皮鯊、狗鯊、鹿文鯊、[夷]鯊、[歮]鯊、燕尾鯊、虎鯊、犂到鯊、香鯊、熨斗鯊、丫髻鯊、剣鯊、刺鯊、鋸鯊、其類甚多｝……箋注版「了」（リョウ）は「丫」（ア・エ）：�@先端がふたまたの髪をしたもの。�A少女の髪型の名。前髪を二つに分け、角型に結ったもの。あげまき。総角。【学研新漢和大字典】が正しい表記だろう。なお「髻」は「もとどり」「たぶさ」（ケイ・ケツ）で、髪を頭上でぐるっとたばねたところ。【学研新漢和大字典】（2027p）

読み下し：魚に鼻前ニ在る横骨有り。斤斧の如きものなり。箋注原文テキスト：[番]（１２画）。〔注〕 （31-13）広韻：前掲注（31-1）参照。

（31-14）薜翊異物志（せつ くいぶつし）：「中華文化網」「歴史伝記」：華陽國志校補圖注（晉・常璩撰、任乃強校注。上海・古籍出版社、第一版）卷四・南中志：附二・蜀枸醬入番禺考（一）：……前略……自後漢、三國至晉宋約四百年中、志南方異物、見於經籍所引者、尚有楊孚《異物志》（漢和帝時人）、…中略…、萬震 《南州異物志》、朱應《扶南異物志》、譙周《異物志》、薛珝《異物志》、薛瑩《荊揚巴南異物志》、續咸《異物志》、＊恭《交州記》一作＊羲仲《交州記》、劉欣期《交州記》、王隱《交廣記》、裴淵《廣州記》、顧微《廣州記》等書、以下略。……薜翊の読みは「 せつく」。

（31-15）「新美篇・輯佚資料」（KJTakedaDB）：史部：異物志：後漢・楊孚撰：鐇[昔]也此類有横骨在鼻前状如斧江東呼斧斤爲錯故謂之鐇[昔]也此類有廿種各異名如鋸錯等齒利如裾即名鋸[番]也／玄應音義二引薛州異物志。慧琳音義二十六引異物志云。鐇[昔]魚鼻上有一横骨利如刀斧江東呼闊刃斧爲[番]故謂之鐇[昔]此類争有二十種各異自有別名齒利如錯鼻骨如[昔]……古書注「異物志」参照。原典テキスト要確認。

（31-16）斧斤：ふきん：斧（おの）と斤（まさかり）。

（31-17）なお、廣本「斤の上に竹字」は、「笄」（こうがい）をイメージして原文をなおしたものか。前掲注（31-8）参照。

（31-18）呉都賦注：呉都賦劉逵注：〔呉都賦本文〕於是乎長鯨呑航、脩鯢吐浪。躍龍騰蛇、鮫鯔琵琶。王鮪鯸鮐、[印]龜[番][昔]。烏賊擁劔、[勾／黽][辟／黽]鯖鰐。涵泳乎其中。〔劉逵注〕[番][昔]有横骨在鼻前、如斤斧形、東人謂斧斤之斤為[番]、故謂之[番][昔]。魚二十餘種、此其尤異者。此魚所撃、無不中断也。有出入[昔]子、朝出求食、暮還入母腹中、皆出臨海。烏賊魚以下略。

（31-19）暮還入母腹中、」皆出臨海、：森立之（編者）による刷本の挿入と思われる「」」の位置は、前注（31-18）により不適切であろう。

〔注〕（31-20）御覧：【エキ齊「和名抄引書」】（63表）御覧｛目録｝｛[番]魚／水滴噐｝／[隋志]｛雑｝聖寿堂御覧三百六十巻／[旧志]｛類字｝修文殿御覧｛三百六十巻｝／[新志]｛類書｝祖孝徴等、修文殿御覧三百六十巻／［現在］〔頭注〕○。（31-21）太平御覧鱗介部十二：未見。要確認。（31-22）臨海水土記：要確認。（31-23）太平御覧鱗介部十：[番]魚｛音藩｝／南越記曰。[番]魚、鼻有横骨如轓、海中波浪為之湧、海船逢之必断。……国会図書館蔵本「太平御覽1000卷目録15卷（宋李炳奉等敕撰：歙鮑崇城刊：嘉慶23序）YD1-293(マイクロフィルム)請求記号：ぬ-3 」では、「鐇」は「轓」とする。異本を要検討。（31-24）新婦魚：【類聚名義抄（観智院本）】 僧下一　新婦魚｛[番]｝／僧下三　[番]｛音番。カセサハ。カセ。サハ。｝（31-25）弁色立成：古書注参照。

読み下し：鯆魚　唐韵は、 鯆、音甫、と云う。弁色立成は、奈波佐波と云う。箋注原文テキスト：真名真魚字典 ：鯆（７画）。〔注〕（31-1）【本草和名（寛政刊・古典全集本）】：前掲（25-6） 韶陽魚に載せる。[甫]魚{夫禹反、出崔禹。}、和名古女。（31-2）小野蘭山曰：【本草綱目啓蒙】（東洋文庫４冊）（3-236）（巻之四十、鱗之四、無鱗魚）　鮠魚　モダマ　モダモ｛加州｝　ノウソウブカ｛備前｝〔一名〕白戟魚｛時珍食物本草｝　民魚｛東医宝鑑｝　白頬｛揚州府志｝　白[吉]｛大倉州志｝　白河豚｛寧波府志｝　槐子魚｛盛京通志｝　濶口魚｛本経逢原｝　[后]｛正字通｝　[回]｛同上鮠ノ俗字｝／モダマハ[沙]魚（フカ）ノ族ニシテ海産ナリ。カタチ鮧魚（ナマズ）ニ似テ、大ナリ。皮ニ細沙アリ。灰色マタ白星アルモノアリ。長サ三四尺、大ナル者ハ丈余ニイタル。コレヲ、イナギト云。肉色白ク、肝ニ油アリ。乾カスモノヲ、ノウサバト云。本経逢原ニ、鮠生海中、与石首同類、以之剖腹曝乾、亦与石首作鮝無異、以其頷下有骨撑開、故有濶之称、能開胃進食、下膀胱水気、病人食之、無発毒之慮、食品中之有益者也ト云。正字通ニ、鮠似鮎而大、白色、背有肉鬐、秦人謂其発癩、呼[頼]魚、鮎鮠[蒦]、皆無鱗魚、[蒦]、蓋鮠之大者、家語大［是］魚即[蒦]也ト云。（31-3）嶧山君：錦小路嶧山：丹波頼理（たんば・よりただ）（31-4）ナハサバ：ＭＡＮＡメモ「ノウサバについて」

読み下し：大魚の名なり。〔注〕（31-5）廣韻：【廣韻】（五巻・張氏重刊宋本廣韻TDB）「廣韻」上聲巻三。九○麌｛牡鹿…中略…虞矩切三｝…中略…○甫｛前略…方矩切十九｝脯／斧／…中略…鯆｛大魚｝以下略。（31-6）【玉篇】（大廣益会玉篇三十巻・張氏重刊宋本玉篇）（TDB）（3-6）鯆｛夫禹切。大魚也。｝（31-7）廣韻：上平聲巻第一。十一○模｛莫胡切。十二｝…中略…○逋｛博孤切十三。｝…中略…鯆｛鯆[孚]。魚名。亦作[布]。｝（31-8）顧野王撰「玉篇」：大廣益会玉篇三十巻・張氏重刊宋本玉篇（TDB）魚部第三百九十七：[甫／寸]｛一名江豚、欲風則踊。 ｝／[孚]｛[甫／寸][孚]也.｝。〔７〕[孚][布]参照。 （31-9）弁色立成：古書注参照。

読み下し：[夸]　唐韵云う。[夸]、音枯。漢語抄は世比と云う。今案うに、婢妾の訛せしもの、妾婢と謂う。箋注原文テキスト：真名真魚字典 ：[夸]（６画）。〔注〕(33-1)�@【新撰字鏡（天治本）】魚部第八十七（521）[良]｛魚當反。魚［月＋二／日］。世比。｝……《頭注》魚當―魯當。［月＋二／日］＝脂。享和本・群書類従版も同一表記。[良]（７画）参照。(33-2)「この物」とは[良]を指すとしてよいのか。

〔注〕(33-3)廣韻：【廣韻】（五巻・張氏重刊宋本廣韻TDB）�@去聲第四：十○遇（記載無し）：十一○暮｛莫故切｝…○捕｛簿故切。十三｝[夸]｛魚名｝�A上平聲第一：十○虞｛遇倶切｝（記載無し）：十一○模｛莫胡切｝…○枯｛苦胡切。十｝[夸]｛婢妾、魚名｝(33-4)【玉篇】（大廣益会玉篇三十巻・張氏重刊宋本玉篇）（TDB）［矞］｛古八切。爾雅曰、［矞］[夸][厥][帚]、小魚也。似鮒子而黒。｝[夸]｛蒲故切。[厥][帚]也。｝[帚]｛之酉切。[厥][帚]也。｝(33-5)爾雅：【爾雅】（「爾雅注疏十一巻」東京大学東洋文化研究所倉石文庫蔵：ＴＤＢ）［矞］[夸][厥][帚]【郭璞註】小魚也。似鮒子而黒、俗呼為魚婢。江東呼為妾魚｛○［矞］音聿、[夸]音歩、[厥]音厥、[帚]章酉切。｝【邢疏】郭云、小魚也、似鮒子而黒。廣雅云、鮒[責]也、此魚似其小者、故云、鮒子而黒色為異也。江東呼為妾魚。説文云、[妾]魚也。楽浪潘国是也。(33-6)段玉裁：説文解字段注：【説文】（「説文解字十五巻」TDB）：[厥]　[厥]魚也【段注】｛篇韵皆曰、大口細鱗有斑文、即今人所食之[厥]魚也。而釋魚［矞］[夸][厥][帚]、郭云小魚也、似鮒子而�K、俗呼為魚婢、江東呼為妾魚、羅端良以今之彭皮當之。玉裁謂、[帚]音同婦、［矞］[厥]音近[夸][帚]音近、[厥]婦即今俗謂之鬼婆子是也。非別有細魚。[帚]音章酉反非。｝从魚厥聲【段注】居衛切。十五部。……「羅端良」は「爾雅翼」の著編者「羅願」のこと。「彭皮」がつまり、「旁皮」のことであろう。

読み下し：鰯　揚氏漢語抄は云う。鰯、伊和之。今案うに、本文未詳。箋注原文テキスト：真名真魚字典 ：鰯（１０画）。［是］（９画）。〔注〕（34-1）楊氏漢語抄：古書名注参照。 なお、那波本には「楊氏」なく「漢語抄」のみの記載。（34-2） 主計式：延喜式：古書名注参照。：延喜式巻第5・神祇5・斎宮寮(109)：鰯魚汁一斗五升。膓漬鰒。若狭国｛烏賊三百斤。小鰯■／巻24・主計寮：凡中男一人輸作物。…中略…鹿鮨。猪鮨。鮭脊膓各一斤八両。鯖。醤小鰯。阿米魚各六斤。｛周防国小鰯七斤｝大鰯鮨十五斤。…中略…備中国…中略…中男作物…中略…大鰯。比志古鰯。安芸国…中略…中男作物…中略…比志古鰯。…中略…周防国…中略…中男作物…中略…鯖。比志古鰯。…中略…紀伊国…中略…中男作物…中略…大鰯…中略…讃岐国…中略…中男作物…中略…大鰯。（34-3） 諸文献中：つまり、「中国の諸文献」という意味。（34-4） 皇国の製字：わが国で作られた「漢字」と言う意味で、現在の辞書では「国字」（「和字」あるいは「倭字」）と呼ぶ。新井白石「同文通考」巻之四「○凡例」に「○我朝ニ用フル所ノ漢字_○字體自正キト_○訓義相同シトハ論スルニ及ハス_○其餘国字国訓借用誤用訛字省字等_○今コヽニ収メ載ス_○／○国字トイフハ_○本朝ニテ造レル異朝ノ字書ニ見ヘヌヲイフ_○故ニ其訓ノミアリテ_○其音ナシ_○／○国訓トイフハ_○漢字ノ中本朝ニテ用ヒキタル義訓_○彼国ノ字書ニ見ヘシ所ニ異ナルアリ_○今コレヲ定メテ_○国訓トハ云フ也／借用…以下略」と載せる。同書は、杉本つとむ編「異体字研究資料集成」（1973、雄山閣）第１巻の影印より。また、同集成第１巻の編者による「編集の辞―はしがきにかえて」及び「��異体字�≠ﾆは何か―その性格と史的考察」を参考されたい。「同文通考」巻之四「今定為国字」とした８０字中、魚へん字は２４字句（２５字）が載る。【国字（魚へん）】鰚（ハラカ）、魸（ナマズ）、鰯（イハシ）、[軰]（ハユ）、[異]（ハエ）、若（並同）、鱈（タラ）、鯲（ドヂヤウ）、鯐（スバシリ）、�D（ボラ）、[尓]（イサザ）、鮗（コノシロ）、鯎（ウグイ）、鱇（カウ、鮟鱇）、鯑（カズノコ、鰊鯑）、鮩（アミ）、鯤（ギギ）、[恵]（アヲサバ）、[愛][郷]（アイキヤウ）、鯒（コチ。マ→ク）、鮲（マテ、コチ）、鱪（シイラ）、魞（エソ）、鯏（アサリ）、（34-5）新撰字鏡：【新撰字鏡（享和本）】魚部第七十一：[庶’]{伊和志｝。同天治本では、訓みは「伊波■（志）」（■は虫食い判読不可。推測「志」）。（34-6）閩中海錯疏：ビンチュウカイサクソ：古書注参照：巻中「馬鮫、嘉酥魚、鰛」：鰛、似馬鮫而小、有鱗大者僅三四寸、（34-7）

読み下し：鯔　 孫愐切韻云云う。鯔、側持の反。魚名なり。箋注原文テキスト：真名真魚字典 ：鯔（８画）。〔注〕(35-1)孫愐切韻：そんめんせついん：古書注「 切韻」参照：(35-2)�@廣韻：【廣韻】（五巻・張氏重刊宋本廣韻TDB）上平聲巻１、七○之｛止而切｝…中略…○葘｛側持切、又音裁。十五。｝…中略…鯔’｛魚名｝�A【玉篇】（大廣益会玉篇三十巻・張氏重刊宋本玉篇）（TDB）鯔’｛壮其切。魚名。｝……なお大辞典引用「集韻」は「平聲[支]：壮持切。」

読み下し：遊仙窟は云う。東海鯔[條]。鯔は奈與之と読む。音は緇シ。條読は飲食部に見ゆ。

箋注原文テキスト：真名真魚字典 ：鯔（８画）。

〔注〕(35-3)遊仙窟：古書注参照。(35-2)東海鯔條：「少時シバラクシテ、桂心ハ酒物サカヅキト サカナヲ將下來モテキタリ。東海ノ鯔ナヨシノ條スハヤリ｛字指ニ曰ク。鯔魚ハ北海ニ出ヅ。鯢ニ似タリ。土俗名ヅケテ両ト曰フ。其ノ胘（ゲン：？卵巣？）を創（キ）リ[耑]トナシ、啖ハウベシ。音仕飢ノ反。……不詳部分多し。要確認｝、西山ノ鳳オオトリノ脯ホジシ、鹿尾カノオ鹿舌カノシタ、乾魚ホシタルウオ灸魚アブリタルウオ、雁醢カリノヒシオ荇葅、鶉ウズラノ[月韯]アツモノ桂糝カツラノコナカキ、熊掌クマノタナゴコロ免髀ウサギノモモ、雉臎キジノアブラ犲唇オオカミノクチビル。百味五辛。談之不能盡コレヲカラルトモツクセズ、説之不能窮コレヲトクトモキハムルコトアタワズ。十娘ジュウジョウ曰ク「少府ショウフ亦應太飢。」喚桂心盛飯。下官曰「向來眼飽、不覚身飢。……」(35-3)條読：巻四、飲食部第十一、魚鳥類五十七：魚條　遊仙窟云、東海鯔條、｛魚條読須波夜利、本朝式云楚割、原書同、按條小枝也、魚條者、割魚肉乾之、其條如條枝、故謂之條、蓋転注也、……以下略｝(35-4)開寳本草：【本草綱目】〔国会図書館蔵本ＫＴＤＢ〕〔第２４冊〕第４４巻、鱗部ニ〔鱗之三〕魚類三十一種：鯔魚｛宋海寳｝（35-5）神代紀： 【日本書紀】巻第２、神代下、第１０段（岩波文庫版（一）174ｐ）：一書に曰はく、門の前に一の好井しみず有り。…彦火火出見尊（ひこほほでみのみこと）、跳りて其の樹に昇りて立ちたまふ。時に、海神わたつみの女むすめ豊玉姫、…中略…時 に海神わたつみ、便すなわち憐めぐしとおもふ心 を起して、尽ことごとくに鰭はたの広ひろもの鰭の狭さものを召 して問はす。皆みな曰まうさく、「知 らず。但ただ赤女あかめのみ口の疾うれへ有 りて来まうこず」とまうす。亦云 はく、口女くちめ、口の疾有 りという。即ち急すみやかに召 し至して、其の口を探れば、失へる針鉤ち立たちどころに得つ。是 に、海神わたつみ制やめて曰 はく、「儞おれ口女 、今より以往ゆくさき、。 呑つり餌くふことを得 じ。又天孫あめみまの饌たてまつりものに預 けじ」といふ。即ち口女の魚いをを以 て御おほみものに進たてまつらざる所以ゆゑは、。此これ其 の縁ことのもとなり。…中略…一書に曰ク、…中略…（190ｐ）海神、赤女あかめ・口女くちめを召して問ふ。時に口女、口より鉤ちを出いだして奉たてまつる。赤女は即ち赤鯛あかたひ也。口女は即ち鯔魚なよしなり。

箋注原文テキスト：真名真魚字典 ：鯔（８画）。

〔注〕(35-6)霊異記訓釈：「日本霊異記」訓釋本。 棭斎には、「狩谷棭斎『日本霊異記攷証』（日本古典全集）」がある。「日本霊異記」下巻「禅師将に魚を食せんとして、化して法華経に作り、俗人の誹謗を覆せし縁起第六」。生臭坊主の言い訳の妙がおもしろい説話。(35-7)安東郡専當沙汰文：「名吉十五隻」（15匹）等記事。元徳元年（1329）十一月注之とある鎌倉時代文書。【群書類従】２８雑部「安東郡専当沙汰文」 及び【古事類苑】動物部十七魚中、1399ｐに載る。また、東京大学史料編纂所ＤＢ「鎌倉遺文 フルテキストデータ」で検索ができる。

読み下し：[馬]　唐韻は云う。[馬]。 音は馬。弁色立成に都久良と云う。魚名なり。箋注原文テキスト：真名真魚字典 ：[馬]（１０画）〔注〕

読み下し：鱧魚　本草は云う。［蠡］魚、上の音は禮。和名波无。 ／味甘、寒。毒無き者なり。陶隠居注に云う。［蠡］は、今、鱧の字に作るなり。箋注原文テキスト：真名真魚字典 ：[魚＋豊]鱧（１３画）。〔注〕（37-1）新撰字鏡：【新撰字鏡（享和本）】魚部第八十七（517p）　鱧　{礼音。[果]。太比。}／次小学篇　[長]｛波无｝（37-2）三代実録同訓：京都大学附属図書館所蔵[平松文庫]『三代実録』[v.09,18/51]： 廿五日壬寅。制。…中略…又諸國工匠役夫。米塩之外。加給醴魚和布等。（37-3）波毛：ハモ：�@【下学集（元和三年板）】巻上・気形門第八（28ウ―２）：鱧ハモ。�A【本草綱目啓蒙】（東洋文庫４冊）（3-236）（巻之四十、鱗之四、無鱗魚）鱧魚　前略　鱧魚ヲ、ハモト訓ズルハ非ナリ。ハモハ海鰻[麗]ナリ。又ヤツメウナギト訓ズルモ非ナリ。ヤツメウナギハ漢名詳ナラズ。／鰻[麗]魚…略。／海鰻[麗]　ハム｛古名播州｝。ハモ｛海鰻ノ唐音ナリトモ大和本草ニイヘリ｝。ガハサヨリ…中略…ハモハ、摂州大坂、住吉、泉州堺、岸和田、紀州、播州、丹後、但州等ヨリ多クイダス。江戸ニハナシ。稀ニ小ナルモノアリ。形ハ鰻[麗]ニ似テ、大ナリ。觜尖ナガクシテ歯多シ。……以下略。�B【東雅】（新井白石全集第四巻復刻。名著普及会発行）（３６３p）鱧ハム　倭名鈔に本草注を引て。［蠡］はハム。…中略…ウナギとは。其鰻[麗]に似たる也。今俗にハモといふものは。これにあらず。即海鰻也。ハモとは漢音をもて其字を呼びし也。／舜水の朱氏。ハモは海鰻也。海鰻[麗]とも狗鰻ともいふといひし也。……以下略。

読み下し：鱧魚　本草は云う。［蠡］魚、上の音は禮。和名波无。 ／味甘、寒。毒無き者なり。陶隠居注に云う。［蠡］は、今、鱧の字に作るなり。箋注原文テキスト：真名真魚字典 ：[魚＋豊]鱧（１３画）。〔注〕（37-4）「倭名類聚抄」下総本系写本（WDB）：[蠡]魚　本草云蠡魚｛上力兮反、[蠡]音上同、亦作鱧’、和名波无。｝味甘'寒無毒者也、陶隠居注云、蠡今'作鱧字也。（37-5）見説文：【説文】（「説文解字十五巻」TDB）（21-7558）（魚部）[蠡]：鮦也。｛正與鮦篆轉注。本艸作蠡魚、省作[彖／虫]。陶貞白云今皆作鱧字。按此名之所以不正也。｝从魚蠡聲｛蠡’作蠡、少一畫者誤、今盧啓切。古音在十六部。與豐聲。在十五部不同。｝（37-6）千金翼方：巻４虫魚部（「漢方のページ」より：原典未確認）：蠡魚：味甘寒、無毒。主濕痺、面目浮腫、下大水、療五痔、有瘡者不可食、令人瘢白。一名銅魚。生九江池澤、取無時。 （37-7）證類本草上品：【證類本草】（政和本草：WDB）巻第二十巻蟲魚部上品：蠡｛音禮｝魚味甘寒無毒主濕痺面目浮腫下大水療五痔有瘡者不可食令人瘢｛音盤｝白一名鮦｛音銅｝魚生九江池澤取無時｛陶隠居云今皆作鱧字、舊言是公蠣蛇所變、然亦有相生者、至難死。猶有蛇性合小豆白[灸(久→者)]、以療腫滿甚效。（37-8）本草和名：【本草和名（寛政刊・古典全集本）】蠡魚｛陶景注云。今作鱧字。｝一名調魚｛楊玄操。音重。｝一名鮪｛大者也。古今注｝和名、波牟。（37-9）醫心方：【醫心方】（安政版）巻第三十：第卅。五宍部第三：[彖／虫]魚ハム：[彖／虫]魚　本草云。味甘、寒。无毒。主濕痺、面目浮腫、下大水、五痔。有瘡者不可食、令[癘(萬→盤)]白（カサノアト）。一名鮦魚。陶景注云。今作鱧字。舊言、是公蠣虵所變。崔禹云。補中明目。食鱧肝而勿飲水、生虵子故也｛今案、損害物。和名、波牟。｝……安政版は「蠡」ではなく、「[彖／虫]」。（37-10）爾雅：【爾雅】（「爾雅注疏十一巻」東京大学東洋文化研究所倉石文庫蔵：ＴＤＢ）（37-11）爾雅に「蠡」字無く、「釈文」は、陸徳明「釈文」か。内容未見。

読み下し：鱧魚　本草は云う。［蠡］魚、上の音は禮。和名波无。 ／味甘、寒。毒無き者なり。陶隠居注に云う。［蠡］は、今、鱧の字に作るなり。箋注原文テキスト：真名真魚字典 ：[魚＋豊]鱧（１３画）。〔注〕（37-12） 集韻：【集韻】（WDB：ホ04 00019:光緒2[1876]川東官舎,[重慶]:棟亭本の重刻）巻之五上聲上：薺第十一：○禮礼礼’｛○里弟切。二十八。｝ABC｛説文蟲齧木中也。或省。以下略｝（37-13） 「者也」の二字無し：前掲注37-6、7参照。（37-14） 【玉篇】（大廣益会玉篇三十巻・張氏重刊宋本玉篇）（TDB）［蠡］｛力啓切。[同]也。｝鱧｛同上。｝（37-15） 説文、［蠡］[同]也：前傾注37-5参照（37-16）〔59〕鮠参照。（37-17）諧聲：字の一部の音を借りて字を作る。

参考：集韻：上からABC

読み下し：鱧魚　本草は云う。［蠡］魚、上の音は禮。和名波无。 ／味甘、寒。毒無き者なり。陶隠居注に云う。［蠡］は、今、鱧の字に作るなり。箋注原文テキスト：真名真魚字典 ：[魚＋豊]鱧（１３画）。〔注〕（37-18） 證類本草：陶を引いて＝「證類本草」蠡魚條の「陶隠居云」を引用して：前掲注37-7参照。（37-19） 公蠣虵：こうれいだ：公蠣蛇に同じ。：【本草綱目】（国会図書館蔵本KTDB）（第24冊）第44巻、鱗部ニ（鱗之ニ）蛇類一十七種：水蛇｛綱目｝／(釈名)公蠣蛇／(集解)｛（時珍曰）水蛇、所在有之生水中、大如鱓黄黒色有纈紋、囓人、不甚毒。陶弘景言、公蠣蛇、能化鱧者即此也。水中又有一種、泥蛇黒色穴居成群、囓人有毒、與水蛇不同。張文仲備急方言、山中一種蛇與公蠣相似、亦不囓人也。｝ ／肉（氣味）甘鹹寒、無毒。（主治）消渇煩熱毒痢｛時珍｝以下略。 （37-20） 相生：そうしょう：五行説で互いに他のものを生じさせる関係。木は火を、火は土を、土は金を、金は水を、水は木を生ずること。公蠣虵変じて蠡魚になるという相生の関係をいう。（37-21） 埤雅：【埤雅】（WDB：２０巻：４冊）第１冊（第１巻）鱧：今玄鱧是也。諸魚中唯此魚膽甘可食。有舌鱗細有花文、一名文魚。與蛇通氣、其首戴星、夜則北嚮。蓋北方之魚也。以下略。（37-21-2） 玄鱧：ゲンレイ：玄は黒、または、北方を意味する。（37-22）李時珍曰：【本草綱目】（国会図書館蔵本KTDB）（第24冊）第44巻、鱗部ニ：鱗之四｛無鱗魚二十八種付録九種｝鱧魚｛本經上品｝…中略…(集解)…中略…時珍曰。形長體圓、頭尾相等、細鱗玄色、有斑點花文、頗類蝮蛇、有舌有齒、有肚、背腹有鬣連尾、尾無岐、形状可憎氣息�C悪食、品所卑、……以下略。（37-23）郝懿行（かくいこう）「爾雅義疏」（じがぎそ）：此申釋鱧大小之異名也、大者名鰹、小者名[兌]、然則中者名鱧、郭引時語者、以［麗］［即］鱧。（37-24）文化元年：1804年：清国船来航の記録は出典不詳。

参考字形

画像

読み下し：[制]　四聲字苑は云う。［祭］、子例の反。字は亦[制]に作る。和名は古乃之侶（このしろ）。魚名は[脊]に似て、薄く細鱗なり。 箋注原文テキスト：真名真魚字典 ：[制]（8画）。[祭]（11画）。 参照：〔47〕[時]。

〔注〕（38-1）集韻：【集韻】（WDB：ホ04 00019:光緒2[1876]川東官舎,[重慶]:棟亭本の重刻）巻之七（第7冊59）去聲上：十三祭｛子例切。…中略…十三｝[祭][制／魚]｛魚名或は[制／魚]に作る。｝

（38-2） 閩中海錯疏：古書注参照。

（38-3）新撰字鏡：�@【新撰字鏡(天治本)】巻九魚部第八十七　 （522-7）[各]｛盧各反。(己)乃志呂。｝／（524小学篇）[制][制/魚]［祭］｛己乃志呂｝／鮗｛上同｝�A【新撰字鏡（享和本）】魚部七十一（832上）［祭］[制][戈][制/魚]鮗[歳’]｛六字巳’乃志呂｝…群書類従本もほぼ同じ表記。

（38-4） 孝徳紀人名、訓注：『日本書紀』 巻第二十五「孝徳天皇」：大化二年三月条：塩屋（連）[制]魚｛[制]魚、此云、挙能之盧。｝：なお、〔25〕[覃]の注（25-3）[台]（えい）を載せた日本書紀齋明紀に「塩屋連[制]魚」（しおやのむらじこのしろ）をのせ、[制]魚を「このしろ」と訓みを与えている。また、同記載前に「物部朴井連鮪」（もののべのえいのむらじしび）（粛清される有馬皇子の居る家を兵で取り囲む件）の人名を載せる。

（38-4-2）魚名を冠した、或は含む古代史文献に登場する人名（しび、このしろ、ふな等）については、ブログ版MANAしんぶんに整理して載せておいた。

（38-5）参考として、[祭]を、サンマと訓む事例を、秋刀魚（その他９画）に記した。

抄本文読み下し：[反]魚　唐韻に云う。[反]、｛扶板の反。上聲の重、又、輕音。漢語抄 は云う。波利末知（はりまち）。｝ 魚名なり。

箋注原文テキスト：[反]（４画）。

〔注〕（39-1）唐韻：古書名注参照。：【廣韻】（五巻・張氏重刊宋本廣韻TDB）：上聲巻第三：｛山板｝潸第二十五 ：○阪｛扶板切。又音返。三。｝…[反]｛魚名｝：【玉篇】（大廣益会玉篇三十巻・張氏重刊宋本玉篇）（TDB）[反]｛音販。魚名。｝

（39-2）[反]：扶板反：（フハンのハン）反切の検討：�@【廣韻】（五巻・張氏重刊宋本廣韻TDB）上聲巻第三：｛山板｝潸第二十五｛産同用｝：二十五○潸｛數板切。又音柵。一｝○�v｛戸板切。七｝[完]｛魚名。又胡本切｝…〔８小韻〕○阪｛[扶板切。又音返。三｝[反]｛魚名｝

　　�A【集韻】（WDB棟亭本の重刻本）巻之五上聲上： 潸第二十五｛數版切。與産通。｝／産第二十六｛所簡切｝：二十五○潸｛數版切。｝○睅�v｛戸版切。｝[完]｛説文、魚名｝…[反]｛魚名｝〔A〕

　　�B反切上音「扶」：〖虞〗平聲：上平聲巻第一：｛遇倶｝虞第十｛模同用｝：十○虞｛遇倶切。二十｝…〔17小韻〕○扶｛防無切。二十六｝〔X〕／〔22小韻〕跗｛甫無切｝扶〔Y〕

　　�C【韻鏡】（三十六字母）：〔A〕二等。重唇音並母／〔X〕：三等。輕脣音奉母。〔Y〕三等。輕脣音非母。�D現代北京音ピンイン：扶〈fú〉：[反]＝魬〈fǎn〉

（39-2その２）：上聲之重、又、輕音。：「上聲之重」：抄本文で、主題字[反]の音の特徴性格を、四声（平聲、上聲、去聲、入聲）および、声母（反切２字の第一番目の字が持つ声音）と韻母（反切２字の第二番目の字の韻母）と声調によって、清濁、軽重で表わしている。「古代漢音における四聲の軽重について」（朝山信彌著。1941年「国語・国文」誌掲載論文）は、和名抄２０巻本において、「上聲之重」４１個、「その他一般に四聲の軽重を註するもの総計五十数個が存する」として、源順が抄本文において注している四聲の軽重に関する記述の意味について論述している。龍魚類・龍魚体については、このうち、「上聲の重」として、[反]・[果]（鯉に含む）・[完]・鰾の４字があげられる。朝山論文（1941）に、源順撰とされる「 作文大体」という言語論を記した書から引用をして、

「輕重」の問題は、更に我我にとって難解であるだけに興味深いものがある。如上の記述〔中島：源順「文章大体」引用〕から、細註を他にして、「輕重」に關する事項を抄出すれば、
　　(イ) 略頌曰平上去入者依下字輕重清濁者依上字
　　(ロ) 平聲之輕東重者同入聲之輕者徳重者獨
　　(ハ) 上聲之重渉去聲々々之輕渉於上聲遞難分別故也
の三項となる。この中(ロ)によれば、平入聲における「輕重」は「東」「同」、「徳」「獨」であり、即ち切韻の頭音における清濁の對立に基づくものと考へられ、又(イ)によれば、それは反切の上字、即ち音節構成における頭音的要素によって決定される性質と考へられるが、又一方古代漢音においては、上述の如く直接にはその切韻における頭音の「清」「濁」の差異を保存して居たとは考へられないのであり、更に(ハ)によれば、細註における「重音」「輕音」の用語と共に、「輕重」が四聲における下位的区分としての一種の音調論的性質たるを思はせるものがあるから、この二種の想像から綜合すれば、これは恐らく古代における頭音の清濁から起原的には招來された、近代支那語の陰陽聲の如き一種の音調論的概念であったと推定する事が、少くともこの資料の關する限り、他のいかなる想像よりも更に自然であると言ふ事が出來る。」

　　　と整理している。というような内容を記すとのみ註し、前掲注（39-2）に該当字の「広韻」及び「韻鏡」韻図の整理するにとどめる。訳注者の理解の度を越すテーマであり、後日ページを改めて、問題点の所在だけ、別記して整理したい。

（39-2その３）：扶：奉母脣音竝母之輕：「奉母の脣音、並母の軽」に属す：「反切上字、扶」は、「輕脣音奉母」および「輕脣音非母」に属す、とすべきか。また、[反]は、「重唇音並母」であるから、これらを整理して云わんとしていることか。後日検討を要す。こうした、その時代における著者たちの字音の整理（前掲引用文に、「一種の音調論的概念」と記しているその内容）の理解については、朝山論文において、源順に対する「和名類聚抄の著者における四聲の知識が必ずしも常に確実なものでなかった事…以下略」や、エキ齊に対しての「又箋註本によれば〈把〉は〈去聲之重〉とあり、〈普屬滂母唇音敷母之重別作駕作輕恐並非是〉と論断して居るが、尚諸本〈輕〉とあるに従ふべきであると思はれる。」とする指摘にもかかわり、更なる検討が必要ということであろう。

(39-3)嶧山氏：錦小路嶧山参照。

(39-4）雑字簿：古書注解説「訳官雑字簿」を見よ。

（39-5）海［連’］：カイレン：［連’］（１１画）を見よ。

読み下し：[侯]［頤−頁］魚　 崔禹錫食經は云う。[侯]［頤−頁］、侯怡二音。布久。一に云う、布久倍（ふくべ）。之を犯さんとすると、則ち怒る。怒ると則ち腹膨れ、水上に浮き出ずる者なり。 箋注原文テキスト：真名真魚字典 ：[侯]（９画）［頤−頁］（ ６画）。〔注〕（40-1）下総本：下総本系写本/WDB：[侯]［イ］魚　崔禹食経云、――〔[侯][イ]〕｛上胡溝反食肝殺人也下亦之切和名布久一云布久閉｝犯レ之則怒々則腹脹浮出水上者。（40-2）本草和名：【本草和名（寛政刊・古典全集本）】（下巻）[侯]　｛胡溝反、犯即怒々則腹’痮浮出水上、出崔禹｝和名布久。……腹’＝略字（40-3）脹：【類聚名義抄(観智院本)】ハラフクル【学研新漢和大字典】（839p）（40-4）匏を、ヒサゴ、フクベと訓む考証について。とくに、植物の名称としてのフクベの訓みは、いつごろまでたどれるのか、きちんと資料をつかんでおかないと、匏→フクベ→フクル→フク→フグのかかわりについて正確な考証ができないだろう。要検討事項。（40-5）俗譌呼布具：譌＝訛：俗になまって「フグ」と呼ぶようになった。（40-6）布具：【物類称呼】（岩波文庫版）（50p）河[豚(月→魚)]　ふぐ○京江戸ともに。ふぐとよぶ　西國及び四國にて。ふくとうと云　又江戸にて異名を。てつほうと云　其故はあたると急（たちまち）死すと云意也　又しほ（ヲ）さいと云有　小（すこ）しきなる物なり　肥前の唐津にて。ちんぶくとうと云是也　又まふぐといふ魚は　冬の内賞翫（しやうくわん）す。とらふぐと云は春夏ともに喰ふ也。

読み下し：[侯]［頤−頁］魚　 崔禹錫食經は云う。[侯]［頤−頁］、侯怡二音。布久。一に云う、布久倍（ふくべ）。之を犯さんとすると、則ち怒る。怒ると則ち腹膨れ、水上に浮き出ずる者なり。 箋注原文テキスト：真名真魚字典 ：[侯]（９画）［頤−頁］（ ６画）。〔注〕（40-7）前掲注40-2を見よ。（40-8）�@廣雅：釋魚：[侯][イ]、[可]也。�A王引之廣雅疏證曰：[規]即鮭之俗體。鶘夷即鯸[イ]之轉聲。今人謂河豚者是也。河豚善怒、故謂之鮭、又謂之[可]。鮭之言、恚、[可]之言訶。又〔廣雅〕云。鯸[イ]、[可]也。食其肝、殺人。（40-9）説文：【説文】（「説文解字十五巻」TDB）【説文】（「説文解字十五巻」TDB）�@（73）[台]　海魚也｛各本也作名。今依史記正義、漢書注、文選七命注、正[台]亦名侯[台]、即今之河豚也。呉都賦王鮪侯[台]、以王侯相儷、改作[侯]者非。貨殖傳[台]鮆千斤、[台]状如科斗、背上青黒有黄文、詩黄髪台背、毛曰、台背大老也、箋云、台之言[台]也、夫老則背有[台]文、是謂台為[台]、之叚借字。今爾雅作[台]背。｝从魚台聲｛徒哀切。一部。｝／�A（95）[侯]　魚名。从魚侯聲。｛乎鉤切。按呉都賦、[侯][台]當是本作矦[台]、故與王鮪相儷、廣雅[侯][イ]即矦[台]之俗字也。叚令許録[侯]字則當廁於[台]篆之上。（40-10）證類本草：【證類本草】（政和本草：WDB）巻第二十巻蟲魚部：上品：八種食糧餘：[侯][夷]魚　有毒不可食之。其肝毒煞人。縁腹中無膽、頭中無鰓〔？〕、故知害人、若中此毒及鱸魚毒者、便銼蘆根煮汁飲、解之。又、此魚行水之次、或自觸著物、即自怒氣脹、浮於水上、為鴉所食。【孫真人食忌｛[侯][[夷]]魚、勿食肝殺人。｝（40-11）劉逵呉都賦注：「是に於てか長鯨船を呑み、脩鯢浪（しゅうげいなみ）を吐く、躍龍騰蛇（やくりょうとうだ）、鮫鯔琵琶（こうしびわ）、王鮪[侯][台]（おういこうたい）、[印]龜[番][昔]（いんきはんさく）、烏賊擁劔（うぞくようけん）、[黿勾／黽][辟／黽]鯖鰐（こうへきせいがく）ありて、其の中に涵泳す。」以下略の一説に対する「[侯]」の注：「鯸鮐魚（こういぎょ：ふぐ）の状は科斗（かと）の如し。大は尺餘、腹下は白く，背上は青�Kく、黄文あり。性は有毒、小と雖も、獺や大魚は敢えて之を餤せず。これを蒸煮にし餤らわば肥めて美し。豫章人珍之。（40-12）新撰字鏡：［頤−頁］（ ６画）を見よ。（40-13）龍龕手鑑：［頤−頁］（ ６画）の参考画像を見よ。