（３）現代語訳「箋注倭名類聚抄」第八巻その３

：[椶-木]（９画）

[養（良→魚）]（８画）

抄本文読み下し：[免]（めん）　唐韻（とういん）に云う。[免]、音免。弁色立成に云う。免、邇倍（にべ）。一に云う、久知（くち：ぐち）。／魚名なり。

箋注原文テキスト：真名真魚字典：[免]（７画）。[椶-木]（９画）。

〔注〕（51-1）唐韻：古書名注。

（51-2）弁色立成：古書名注参照。

（51-3）新撰字鏡：古書名注：【新撰字鏡（享和本）】魚部七十一[椶(木→魚)]｛子紅反。石首魚也。尓戸。｝エキ齊は、「享和本」、或は「群書類従」巻第四百九十七を引用。なお、両書の原本【新撰字鏡（天治本）】魚部第八十七（518）[免]｛靡巻反。＠。｝〔＠は魚偏に旁を[白／几]とするが、おそらく[椶(木→魚)]を写しているのだろう。〕／[椶’(木→魚)]｛子江反。尓戸。｝〔頭注＝編注：[椶(木→魚)]’―[椶(木→魚)]・江―紅・（石首魚也）〕

（51-4）①[免]：参考：【伊呂波字類抄】(日本古典全集本)[免]（二）動物：[免]｛ニヘ。一名クチ。音免。｝／（イ）動物：[椶(木→魚)]｛イシモチ。音聡。頭中有石故名之。｝石首魚｛同。｝

テキスト・現代語訳・注　by　ＭＡＮＡ：なかじま・みつる

〔41〕　鰻[麗]魚　本草云、鰻[麗]魚、｛蠻縲二音、波之加美伊乎、｝｛○「千金翼方」、「證類本草」中品に之を載せる。二書ともに魚字あり。「本草和名」にも魚字有り。此の原本に「魚」が誤脱しているため伊勢廣本に従い、魚字を入れて改めた。伊勢廣本は、「鰻」は、［鰻（又→方）］に作る。「龍龕手鑑」は、鰻を鰻（又→方）に作る。下総本「和名」二字有り。」

　　　　　　　　「證類本草」は陶隠居を引用し、「樹木によじのぼり（縁_レ木）藤花を食す。形は［單］に似る。又、鰌がいて、これも似ているが体長が短い」と書く。又、唐本注を引き、「鯢魚は、四脚あり、よく樹木によじのぼる」という。さらに、陶氏は、「鰻［麗］は、便ち、是れ謬りの證なり」といっている。エキ齊按う。陶氏が説くところの鰻［麗］魚は、［亶］に似るといい、また、別に鰌がいて鰻[麗]に似ているが体長は短いとするものは、即ち、今いうところのウナキ（宇奈岐）のことであろう。そして、能く木によじのぼり、藤花を食うものというのは、鰻［麗］ではない。故に（唐本：新修本草を注記した）蘇敬が云う、鯢魚は四脚有り故に能く樹によじのぼるとあり、陶氏の説になる鰻［麗］は木によじのぼる、というのは誤りである。「本草和名」に云う、ハジカミイオ（波之加美以乎）のことである。前記本草及び注が説くように、和名は、陶が説く「縁_レ樹」、蘇が説く「有_二四脚_一」により、ハジカミイオ（波之加美以乎）としたのである。

　　　　　　　　ハジカミイオ（波之加美以乎）は、今、俗に山椒魚と呼ぶ。大きさは五、六寸。鰌に似て四脚有り。長い尾をもち、木によじのぼるものが、即ち是である。「物理小識」に載る閩地方の高山源の黒魚もまた是である。深根輔仁は、是を以て、本草鰻［麗］魚と訓み誤ったものであり、源君も是を踏襲したのであって、鰻［麗］ではなく、鯢魚のことである。鯢魚は一種有り、鮎（ナマズ）に似て四脚を持ち、長さが二、三尺、子どものの如き声をする。但し、体はずんぐりむっくりで、脚は短く、木には登らず、今俗に呼ぶ山椒魚、あるいは半割（ハンザキ）と呼ぶ。「文徳実録」（モントクジツロク＝日本文徳天皇実録）、「日本紀略」に、「之椒魚」といい、即ち、「知古」（チコ）または、「波之加美以乎」（ハジカミイオ）と呼ぶとある。この上文が載っている、山海経、及び、本草の［夷］魚の項についての陶による注記、人魚とは、蘇敬が載せたところのものにはあらず。陳蔵器がいうように、鯢魚は、能く樹木に上り、声は小児啼く如くである、とあるものは、誤りて、二魚を混同し、一つのモノとしたのである。｝

〔注〕（41-7）ハジカミイオ（波之加美以乎）、山椒魚：【本草綱目啓蒙】（平凡社東洋文庫、小野蘭山著「本草綱目啓蒙」３）　鯢魚｛正字通｝娃娃魚｛説嵩｝　雌鯨（メクジラ）モマ鯢トイフ。同名ナリ。鯢魚ハ渓澗中ニ生ズ。…中略…故ニ、サンシヤウウヲト名ク。…中略…海鰻[麗]ノゴトシ。小ナルモノハ八九寸、大ナルモノハ三四尺ニイタル。城州丹波、但州、西北州ニ多シ。江戸ニハマレナリ。コノ魚ハ只水中ニ住ノミナラズ、陸ニ上リテ亦ヨク歩ス。…中略…ハンザキノ俗称アリ。…中略…別ニ一種箱根ノ、サンシヤウウヲアリ。物理小識ニ、游子六曰、閩高山源有_二黒魚_一如_二指大_一其鱗即皮四足、可_三調_レ粥治_二小児疳ト云、コレナリ。コノ魚ハ相州箱根湖中ニ生ズ。又アカハラト名ク。越後高田ニテ、セングハンムシト呼。小虫ナリ。以下略……真名真魚字典：鯢（８画）に記す。（41-8）物理小織：前記中41-8の後段に引用するものを参照されたい。原本未見。：著者「方以智(1611～1671) :字は密之、号は曼公。安徽省桐城の人。はじめ復社に参加して、楊廷枢・陳子龍らと交友した。崇禎十三年(1640)、進士に及第した。翰林院編修となる。…中略…天文・地理・礼楽・律数・音韻・文学・書画・医薬など、博識で多くの分野に通じた。懐疑主義的な思想立場をとった。四公子のひとり。『物理小識』、『通雅』。」（中国史人物事典サイトより）（41-9）日本紀略：文徳天皇実録：〔６〕鯨鯢｜〔10〕人魚の項及び注10-13、14、15を参照されたい。

〔42〕韶陽魚　崔禹食經云、韶陽魚、｛古米、｝｛○下総本は、「古」の下に「万」字がついている。これは、「伊呂波字類抄」と合っている。「類聚名義抄」は「古女」と「古万女」の二つの名を竝載している。然るに、此の「古米」の名は、「本草和名」の訓する所による。則ち、「万」字の有る訓みは是を非とする。下総本は「和名」二字がついている。／

読み下し：邵陽魚　崔禹食経云う。邵陽魚、古米（コメ）。箋注本文テキスト：真名真魚字典：韶陽魚（その他14画）。[覃]（12画）。｜箋注倭名類聚抄前掲事項：〔25〕鱏魚。〔26〕鱣魚。〔注〕（42-1）崔禹食經：：古書注参照。（42-2）下総本：下総本系写本/WDB：昭陽魚　雀禹食經云―｛和名古万米｝味甘小冷皃似鼈無甲口在腹下者也。（42-3）伊呂波字類抄：【伊呂波字類抄】（十巻本・日本古典全集第三期）：第七（ケフコエテ）古（コ）動物：韶陽魚｛コマメ。似鱉而無甲口在腹下者也。｝、[單]｛コメ｝魚甲｛音｝、今甲、鼉甲、黿肉｛已上二種也（出）陶景注。已上コメ又名エヒ。｝／江（エ）動物： [覃’]魚｛エヒ｝（42-4）類聚名義抄：【類聚名義抄(観智院本)】僧下：百十三魚：韶陽魚｛コマ或は夲コメ。コマメ。｝／ [覃’] [覃]｛俗正、音尋、一音[遥(シンニョウ→サンズイ)]、エヒ。｝：[覃]（１２画）参照。（42-5）本草和名：【本草和名（寛政刊・古典全集本）】①[單]魚甲　{音徒河反}、今、［單’／黽］甲、［元／黽］肉｛已上二種出陶景注。｝、和名古女。一名、衣比。〔頭注〕按。衣、醫心方、作江。②韶陽魚　一名[納]｛奴荅反｝、一名［番］{［番］是[昆]之名、朝出求食、夕還入母腹中者曰［番］、音閉晏反。}、[甫]魚{夫禹反、出崔禹.}、和名古女。

　　　　　　　「本草和名」が引用する「崔禹食經」は、「韶陽魚一名[納]」と云う。その形状については載せていない。エキ齊按う。「説文」の[納]は、「魚似_レ鼈、無_レ甲有_レ尾、無_レ足、口在_二腹下_一」と云う。「崔禹食經」の説は、蓋し之に依っている。エキ齊按う。「古米」即ち「衣比」のことである。輔仁は、（「和名本草」において）「本草」の「鱓魚甲」を挙げて、「和名古米一名衣比」と云う。又、「崔氏食經」の「韶陽魚」を挙げて「和名古女」と云う。蓋し、輔仁は、二つの魚（名称の由来）をよく考証し定義していない（不能審定）。それぞれに「古女」の訓みを与えたのには、以って疑問とするものである。而して「古米」或いは「衣比」と呼ぶのだろう。つまり、「鱓魚甲」の條に、「和名古女一名衣比」と呼んでいる。「衣比」の名を既に「鱓魚甲」の條に挙げているのに、「韶陽魚」の條では、ただ「古女」とのみ訓みを与え、二つの名とせず一名を挙げたのである。

　　　　　　　　なお（「本草和名」の記述中、同様の「不能審定」の例として付加するならば）、輔仁は、（草の仲間の項目で）「菴蘆子」「茵陳蒿」「馬[草（早→先）]蒿」についても、よく考証し定義しないままに、「比岐與毛岐」としている。「菴蘆子」の條で、「和名比岐與毛岐一名波々古」と云い、「茵陳蒿」の條では、ただ（下單）「比岐與毛岐」と云い、「波々古」の名を載せていない。「馬[草（早→先）]蒿」の條では、「和名波々古久佐」を云い、「比岐與毛岐」の名は載せていない。｝

〔注〕（42-10）本草和名に載せる「菴蘆子」「茵陳蒿」「馬[草(早→先)]蒿」：箋注倭名類聚抄においては、巻十草木部草類、四十八丁表裏「菴蘆子」、同四十九丁表「馬先蒿」、同五十六丁裏「茵陳蒿」において「本草和名」及び「倭名類聚抄」の引用、考証に当たっての問題点を指摘している。（42-11）菴蘆子：本草云、菴蘆子、｛上音淹、波々古、｝｛○千金翼方證類本草上品蘆作[欄(東→呂)]、本草和名與本書同、下総本有和名二字、」本草和名云、菴蘆子、和名比岐與毛岐、一名波々古、馬先蒿、和名波々古久佐、茵蔯蒿、和名比岐與毛岐、蓋輔仁不能詳定三草皆同訓、源君菴蘆子訓波々古、馬先蒿茵蔯蒿、竝訓比岐與毛岐、蓋以釋薬性云茵蔯蒿一名馬先也、然波々古即比岐與毛岐之一名、則源君分訓波々古比岐與毛岐非是、又本草菴蘆子馬先蒿茵蔯蒿各自為條、則三草其実不同、以馬先蒿茵蔯蒿、同為比岐與毛岐、又非也、」按…以下略。｝（42-12）馬先蒿：陶隠居曰、馬先蒿。一名爛石草、｛比岐與毛岐、｝｛○證類本草中品引同、下総本有和名二字、」本草和名云、和名波々古久佐、…以下略｝（42-13）茵陳蒿：釋薬性云、茵陳蒿、｛比岐與毛岐、｝｛○本草和名云、茵陳蒿一名馬先、出釋薬性、千金翼方證類本草中品有茵陳蒿、是輔仁依本草載茵陳蒿、依釋薬性載馬先之名也、此蓋源君誤引、…以下略｝

　味甘小冷、貌似鱉而無甲、口在腹下者也、｛○下総本の「韶」は皆「昭」に作る。伊勢廣本の標目は「韶」に作り、正文には「昭」と作っている。エキ齊按う。「本草和名」が引き、「韶」と作る。則ち、「昭」と作るは非であろう。／エキ齊按う。「證類本草」が載せる「陳蔵器餘」は、「海鷂魚、似_レ鷂有_二肉翅_一、能飛上_二石頭_一、一名石蠣、一名邵陽魚、生_二東海_一」と云う。又、「邵陽魚、尾刺_レ人者、有_二大毒_一、三刺、中_レ之者死、二刺者困、一刺者可_二以整_一、候_二人溺處_一釘_レ之、令_二人陰螫腫痛_一、抜去即癒、総有_二肉翅_一、尾長二尺、刺在_二尾中_一、逢_レ物以_レ尾撥_レ之食_二其肉_一而去_二其刺_一」と云う。是れが「衣比」にあたるとしてよいであろう。｝

〔43〕　[生]魚　崔禹食經云、[生]、｛折靑反、佐介、今案俗用鮭字、非也、鮭音圭、[侯][イ]魚一名也、｝｛○折靑の反。「本草和名」の記述と合う。佐介（サケ）は、「本草和名」の編者・深根輔仁の記述によっている。エキ斎按う。「新撰字鏡」は「鮭、古携の反、平、佐介」と云う。又、「延喜式」に記す「鮭」は「佐介」のことである（以鮭為佐介）。つまり、抄の記す「俗に用ゆる鮭字」は是（の式文）によっている。

読み下し：[生]魚　崔禹食経は云う。[生]、折靑の反。佐介。今案うに俗に鮭字を用ゆるは非なり。鮭は音圭、[侯][イ]魚の一名なり。

箋注原文テキスト：真名真魚字典：[生]（５画）。鮭（６画）。[侯]［イ］魚（９画）。鱒（12画）。

〔注〕（43-1）箋注前・後掲載〔40〕[侯][頤－頁］魚、〔50〕鱒参照。

（43-1-その２）崔禹食經：古書注参照。

（43-2）本草和名：【本草和名（寛政刊・古典全集本）】[生]｛＠青反｝一名年魚｛春生而年中死故以名之｝一名自死魚｛出崔禹｝和名佐介。……右画像：＠：〔頭注〕按順抄＠作折＝＠はヘンが「？」でツクリが「夘」のような字体で不明。和名抄10巻本、箋注倭名類聚抄では「[生]：折靑反」とする。

（43-3）新撰字鏡：①【新撰字鏡（天治本）】魚部第八十七　＊｛生音。魚自死也。｝②【新撰字鏡（享和本）】魚部七十一：鮭｛古携反。〖平〗佐介。｝（群書類従本も同じ。）……「平」は、「平聲」：【廣韻】（五巻・張氏重刊宋本廣韻TDB）：（48）：巻１上平聲：十ニ○齊｛徂奚切。九。｝…中略…○圭｛古攜切。十五。｝…中略…鮭｛魚名。音奎。｝

（43-4）延喜式：以鮭為佐介：【箋注倭名類聚抄】巻四飲食部魚鳥類：氷頭｛背腸附｝　本朝式云、年魚氷頭背腸、｛年魚者鮭魚也、氷頭者比豆也、背腸者美奈和太也、或説云、謂背為皆訛也、｝｛○延喜式生計寮内膳司式竝云、鮭氷頭背腸、宮内省式亦云、氷頭背腸、按延喜式中皆以鮭為佐介、以年魚為阿由、則此所引非延喜式、或是弘仁貞観式也、」下総本鮭作[生]、依龍魚部注所載、此作[生]似是、」背腸今俗呼世和多、｝……つまり、この「以鮭為佐介」とするセンテンスは、「延喜式」中多く記載された「鮭」の記述の引用ではなく、エキ齊の整理した注である。真名真魚字典鮭（６画）参照。

　　　　　　　「山海経」「北山経」は「敦薨之水、其中多赤鮭」とあり、「郭璞注」は、「今名[侯][台]為鮭魚、音圭」と云う。王充「論衡」「言毒篇」は、「毒螫渥者、在魚則為鮭與[多]、[叔]、故人食鮭肝而死」と云う。「本草拾遺」は、「[規]魚肝及子有大毒、一名鶘夷魚、」と云う。王念孫（「広雅疏証」）は、「[規]即鮭之俗體、鶘夷即鯸[イ]之轉聲、今人謂之河豚者是也、河豚善怒、故謂之鮭、廣雅謂之[可]、鮭之言恚、[可]之言訶、」と曰う。また、続けて、「廣雅」釋詁に「恚、怒也」と云い、この様を「本草拾遺」は、「以物觸之即嗔腹如氣毬、亦名嗔魚、腹白、背有赤道、如印魚、目得合、與諸魚不同」と云っている。エキ斎按う。谷川（士清）氏は（「和訓栞」で）「此魚肉易裂因名佐介」といっている。｝

箋注原文テキスト：真名真魚字典：[生]（５画）。鮭（６画）。[侯]［イ］魚（９画）。

〔注〕（43-5）山海経：【山海経箋疏】（ＷＬＤＢ）（第２冊94-7～8）第三北山經：又北三百二十里、曰敦薨之山｛略｝、其上多椶[木＋丹]、其下多[艸／此]草。敦薨之水出焉、而西流注于[溶(容→幼)]澤｛略｝。出于昆侖之東北隅、實惟河原｛略｝。其中多赤鮭｛【郭璞注】今名[侯][台]爲鮭魚。音圭。【疏】懿行案。玉篇云。鮭魚名[侯][台]、作[侯][イ]、云[侯][イ][可]也。<[可]戸多切>、食其肝殺人。劉逵注呉都賦云。鯸鮐魚状如[蝌]斗、大者尺餘、腹下白、背上青黑、有黄文。性有毒、雖小獺及大魚、不敢餤之。蒸煮餤之肥美、豫章人珍之。其形状也。一名河豚、又名[規]。[規]即鮭。

（43-6）王充論衡言毒篇：王充「論衡校釋」巻第二十三「言毒篇」：「中華文化網／諸子百家より」http://ef.cdpa.nsysu.edu.tw/ccw/01/lh0.htm：【論衡本文】《天下萬物，含太陽氣而生者，皆有毒螫。毒螫渥者、在蟲則為蝮、蛇、蜂、蠆、在草則為巴豆、冶葛、在魚則為鮭與[多]、[叔]、故人食鮭肝而死、為[多]、[叔]螫有毒。魚與鳥同類、故鳥蜚魚亦蜚、鳥卵魚亦卵、蝮、蛇、蜂、蠆皆卵、同性類也。》

（43-7）本草拾遺：唐の本草家、陳蔵器（ちんぞうき）が、陶弘景「神農本草（経）」を補って編んだもので、７３９年ごろ成立とされる。

（43-7-②）【證類本草】（政和本草：WDB）（8-55）巻第二十巻蟲魚部：上品：八種食糧餘：[侯][夷]魚　有毒不可食之。其肝毒煞人。縁腹中無膽、頭中無顋〔鰓〕、故知害人、若中此毒及鱸魚毒者、便剉〔銼〕蘆根煮汁飲、解之。又、此魚行水之次、或自觸著物、即自怒氣脹、浮於水上、為鴉所食。【孫真人食忌｛[侯][[夷]]魚、勿食肝殺人。｝

　　○【同】（8-58）巻第二十巻蟲魚部：上品：二十三種陳蔵器餘：[規]魚肝及子：有大毒、入口爛舌、入腹爛腸。肉小毒。人亦食之、煮之不可近鐺、當以物懸之。一名鶘夷魚。以物觸之即嗔、腹如氣毬、亦名嗔魚。腹白、背有赤道、如印魚、目得合、與諸魚不同。江海中並有之、海中者大毒、江中者次之、人欲收其肝、子毒人、則當反被其噬、為此人皆不録。唯有橄’欖木及魚茗木解之、次用蘆根、烏蓲草根汁解之、此物毒疾、非藥所及。橄欖、魚茗已出木部。：一つ目の「橄’欖」は、ＷＤＢ原文では「[億(意→敢)]欖」と記す。：（43-8-③）参照するとわかるように、「本草拾遺」を読むときは、上記「証類本草」系テキストを使うべきで、「本草綱目」では、一部に脚色して引用されていることに注意すべし。当然、エキ齊も、そうした使い分けをして、次〔注〕王念孫の「広雅疏証」を読み、引用している。

（43-8-①）「王念孫曰」の検討：箋注文「山海経、」から「與諸魚不同」までは、②の王念孫「広雅疏証」よりの該当引用文をもとに、エキ齊により文意を咀嚼して構成しなおしている箇所である。

（43-8-②）【広雅疏証】（光緒五年淮南書局重刊本）（巻第十下）釋魚：[侯][イ][可]也：[イ]、一作[台]。北山經、敦薨之水、其中多赤鮭、郭璞注云、今名[侯][台]爲鮭魚、音圭。呉都賦、王鮪[侯][台]、劉逵注云、鯸鮐魚状如[蝌]斗、大者尺餘、腹下白、背上青黑、有黄文、性有毒、雖小獺及大魚、不敢餤之。蒸煮餤之肥美、豫章人珍之。論衡言毒篇云、毒螫渥者、在魚則為鮭與[多]、[叔]、故人食鮭肝而死、本草拾遺云、[規]魚肝及子有大毒、一名鶘夷魚、以物觸之、即嗔腹如氣毬、亦名嗔魚、腹白、背有赤道、如印魚、目得合、與諸魚不同、[規]即鮭之俗體、鶘夷即[侯][イ]之転声、今人謂之河豚者是也。河豚善怒、故謂之鮭又謂之[可]鮭之言恚、[可]之言訶、釋詁云、恚、[可]、怒也。[可]、曹憲音河、各本脱去[可]字、音内河字遂誤入正文句末、又脱也字與下文、[氐’][亢][唐]［乇］也、混為一條、案諸書無以[侯][イ]為［乇］者［乇］為黄頰魚、非[侯][イ]也。玉篇…以下略。

（43-8-③）【本草綱目】（国会図書館蔵本KTDB）（第24冊）第44巻、鱗部ニ（鱗之四）無鱗魚二十八種：〔14〕河豚｛宋開寳｝　（校正）｛併入食療[侯][夷]魚。拾遺[規]魚。｝

(釋名) [侯][夷]｛一作[侯][台]｝[胡][夷]｛日華｝[規]魚｛一作鮭｝嗔魚｛拾遺｝吹肚魚｛俗｝気包魚｛（時珍曰）豚言其味美也。侯夷状其形醜也。[規]謂其體圓也。吹肚氣包象其嗔脹也。（北山經云）此由緒名[市]魚、音沛｝

(集解)｛（志曰）河豚江淮河海皆有之。（藏器曰）腹白背有赤道、如印目能開闔、觸物即嗔怒、腹脹如氣毬浮起。故人以物撩而取之。（時珍曰）今呉越最多、状如蝌斗、大者尺餘、背色青白有黄縷、又无鱗无腮无膽、腹下白而不光率、以三頭相従為一部彼人春月甚珍貴之尢重、其腹腴呼為西施乳。嚴有翼藝苑雌黄云。河豚水族之奇味世傳其殺人。余守丹陽、宣城、見土人戸戸食之。但用菘菜、蔞蒿、荻芽三物煮之、亦未見死者。南人言魚之、无鱗无腮无胆有声、目能眨者、皆有毒。河豚略此数者、故人畏之。然、有二種、其色淡黒有文點者斑魚毒最甚、或云。三月后則為斑魚不可食也。又案。雷公炮炙論云。鮭魚插樹立便乾枯狗膽塗之、復當榮盛。陶覽云。河豚魚雖小而獺及大魚不敢啖之、則不惟毒人又能毒物也。王充論衡云。萬物含太陽火氣而生者皆有毒、在魚則鮭與[多][叔]、故鮭肝死人、[多][叔]螫人。｝…以下略。

（43-8）谷川士清（たにがわことすが）：【倭訓栞】：[生]字をよむは和名抄に食経を引り。又俗用鮭字非也といへり。或ハ年魚とも書せり、過臘魚也といへり。朝鮮ハ[連]魚といふ。東医宝鑑に委し裂の義、その肉片々裂やすしといへり。○からざけハ徒然草に見えたり。東大寺の…以下略。

：[生]

―

：[侯]

：[イ]

：[規]

：[可]

　　　　其子似苺、｛音茂、苺子即是覆盆也、見唐韵、｝｛○「唐韻」からの引用は、「廣韻」と同じ記述なのであろう。｝

　　　　赤光、一名年魚、春生年中死、故名之、｛○「本草和名」の引用は、「生」の下に「而」字がつき、「故」の下には「以」の字がついている。「医心方」も同じ引用をしている。エキ齊按う。「説文」は、「[生]、魚臭也」と云う。この引用は、諸書皆同じである。どれも魚名を指していないが、「佐介」一種のみが、[生]の氣が、諸魚とは同じではなく、魚名をさしている。故に又の名を「臭魚」という。「本草和名」が「崔氏食経」を引用して（「自死魚」と記述して）いるが、是は、「[生]魚」という名前を得た由来を書いていることを知るべきであろう。「東医宝鑑」は、「松魚」を此魚に充てている。｝

読み下し：[生]魚　崔禹食経は云う。[生]、折靑の反。佐介。今案うに俗に鮭字を用ゆるは非なり。鮭は音圭、[侯][頤－頁]魚の一名なり。／其の子は苺に似る。音は茂。苺子即ち是れ覆盆なり。唐韵に見ゆ。／赤光。一名年魚。春生れ、年中に死す。故に之を名づける。箋注原文テキスト：真名真魚字典：[生]（５画）。鮭（６画）。〔注〕（43-9）【廣韻】（五巻・張氏重刊宋本廣韻TDB）：去聲巻四：十八○隊｛羣隊、徒対切、十二｝…○妹｛姉妹、莫佩切、十一｝莓｛莓子、木名、似葚。又莫杯切。｝

（43-10）覆盆也：箋注９巻果瓜の「覆盆子」（八十丁表～八十一丁裏）参照。

（43-10）本草和名：前掲注（43-2）参照。

（43-11）醫心方：[生]｛折靑反｝、崔禹云、味鹹、大温、無毒、主止下利益気力、其子似苺ハヽコ赤光、一名年魚、春生而年中死ス、故名之、癒イヤス風痺為験｛和名佐介｝

（43-12）以得[生]魚之名を知るべし、とあるフレーズは、「本草和名」には、右図像のように、崔禹錫食經を引用していながら「臭魚」と書かず「自／死」魚と読める記述を、さして、エキ齊が単純なる写し間違いではなく、死してまた生きるという鮭の生命力を書いているように思えるのだが、そうだろうか、要検討。

〔44〕　鯉魚　七巻食経云、鯉魚、｛上音里、和名古比。｝｛○エキ齊按う。下総本には「和名」二字がついている。_」古比（こひ）は、深根輔仁『本草和名』による。『日本書紀』「景行紀」、『新撰字鏡』、「霊異記」は、ともに同じ訓みに載せる。_」エキ齊按う。「北戸録」は、陳思王を引用して「五尺の鯉も一寸の鯉も、形は大小でも鱗の数は同じである」と云う。また、「酉陽雑俎」は、「鯉の背中の鱗はひとすじに連なり、一つ一つの鱗には小さく黒い点があり、そして大小あわせると三十六鱗になる」と云う。「爾雅翼」は「是脇正中一道爾、非レ脊也」と云う。｝

読み下し：鯉魚　七巻食経は云う。鯉魚、上音里。和名古比。

箋注原文テキスト：真名真魚字典：鯉（７画）。

〔注〕（44-1）本草和名：【本草和名（寛政刊・古典全集本）】：鯉魚｛揚玄操音里、崔禹音閭持反、為魚之主、｝一名[后]｛胡闘反、野王云、是鯉魚也、｝一名[果]｛下允’説文反云鯉｝一名[度]｛音度、大鯉、已上三名、出七巻食経｝［虔］｛渠連反、相似｝[薄]｛音扶各反、似鯉而一目、已上二種出崔禹｝一名赤驥｛赤鯉｝一名青馬｛青鯉｝一名玄駒｛黒鯉｝一名白驥｛白鯉｝一名黄雉｛黄鯉、已上五名出古今注｝一名[赤＋頁]尾、一名渕｛出兼名苑｝一名［亶］｛大者出古今注｝一名水民｛出黒子五行記｝和名古比。……[果]の注文には、編者による〔頭注〕がついていて、「按下允’説文反云据医心食制下瓦反説文云之誤／按博雅大[單]謂之［虔］又史相如伝注［虔］似[單]此恐錯出／按白驥古今注作白騏雉作■騅」と云う。つまり、「一名[果]｛下瓦反、説文云鯉｝」と読む。

（44-2）景行紀：日本書紀巻七、四年春二月の條（岩波文庫版62ページ。）「鯉魚（こひ）を池に浮（はな）ちて云々」「其の鯉魚（こひ）の遊ぶを見むと云々」。

（44-3）新撰字鏡：【新撰字鏡(天治本)】巻九魚部第八十七（521-6）　鯉｛良士反、上古比｝：享和本・群書類従本も同。古比の上につく「上」は四声の「上聲」。

【本草和名（古典全集本）】（44-B）

【倭名類聚鈔】（那波道圓本）

（44-A）

（44-4）霊異記：岩波日本古典文学大系「日本霊異記」僧景戒著（校訂：遠藤嘉基・春日和男）：日本國現報善惡靈異記下卷（357～358p）：沙彌（さみ）の乞食（こちじき）を撃ちて、現に惡死の報を得る縁：第十五：…前略…其（そ）の日の夕に、鯉（コヒ）を煮（に）て寒（こよ）し凝（ここ）らし、明くる日の辰（たつ）の時に起きて、朝床（あさどこ）に居て、彼（そ）の鯉を口に含（ふふ）み、酒を取りて飮ま將（む）とし、口より黒き血を返吐（は）きて、傾（かたぶ）き臥し、幻の如く氣（いき）を絶ち、寐（ぬ）るが如く命終はりぬ。…以下略。

（44-5）北戸録：唐末期の博物的な詩文集。段公路撰。三巻。新唐書芸文志では「段公路北戸雑録三巻文昌孫」と載る。巻１：○紅蟹殻：……前略……大小殻上多作十二點深燕支色，亦如鯉之三十六鱗耳、陳思王云、五尺之鯉、一寸之鯉、但大小殊而鱗之數等、…以下略。（原典未確認）：陳思王（ちんしおう）。中国三国時代魏の曹操の第三子、曹殖（そうち：192～232）、字は子建。「魏陳思王曹植集三十巻」（隋書経籍志）、「陳思王集ニ十巻」（新唐書芸文志）。現代には「曹子建集 10巻」（『国立国会図書館漢籍目録』）として伝わる。

（44-6）酉陽雑俎（ゆうようざつそ）：古書注：巻十七（「東洋文庫」「酉陽雑俎」全五巻のうち第三冊、今村与志雄訳注）鱗介篇魚介類、653（176ｐ）「鯉（り）」：背の鱗（うろこ）が一筋。鱗ごとに小さな黒点がある。大小すべて三十六鱗。本朝の律では、鯉魚を取ったとき、すぐに放すべきだと定められ、食べることは禁止されている。赤[軍]（こん）公と呼ぶ。売った者は、杖（むち）六十の刑に処せられる。鯉は李（り）であるという趣旨による。

（44-7）爾雅翼：鯉：鯉者魚之主、形既可愛、又能神變、乃至飛越江湖。孟春之月、應陽而動、上負冰、獺于是時取而四面陳之、謂之祭魚。故淮南子時則訓、孟春之月、魚上負冰獺祭魚、許慎皆曰鯉也。今人但謂之赤鯉。…中略…故魚麗美萬物盛多終之以鯉盛之極也。必言尺者蓋古者之制、淮南子曰、魚不長尺不得取彘不期年不得食也。唐用魚符、蓋取象于鯉至武后革李氏則代之以龜。古云、鯉脊中鱗一道、毎鱗有小黑點文大小皆三十六鱗、按是正中一道爾非脊也。（國立故宮博物院・東呉大學開設サイト「數位古今圖書集成資料：鯉「爾雅翼」）

（44-8）脇正中：非脊也：「脊」ではなく「脇正中」（両側の真ん中）が正しい解釈ということだろう。

　　野王案、［后］、｛胡闘反｝｛○エキ齊按う。伊勢本、下総本では、「案」の下に「曰」の字がある。｝

　　説文云、［果］、｛胡瓦反、上声之重、｝廣雅云、［度］、｛音度、｝皆鯉魚也、｛○「醫心方」は「七巻食経云〈鯉魚平、補レ中、又［后］胡闘反、野王云、是鯉魚也、又［果］下瓦反、説文云、鯉也。［度］音度、廣雅云大鯉也〉」と云う。「本草和名」の引用もほぼ同じである。これら三つの名前（［后］、［果］、［度］）は「七巻食経」に出る、と書いている。則ち、「野王」（「玉篇」）「説文」「廣雅」の知識を、皆「食経」にしたがって、これを引用したということなのである。

読み下し：鯉魚　七巻食経は云う。鯉魚、上音里。和名古比。／野王案ずるに、[后]、胡闘反。／説文云う。[果]、胡瓦反。上聲の重。廣雅は云う。[度]、音度。皆、鯉魚なり。

箋注原文テキスト：真名真魚字典：鯉（７画）。

〔注〕（44-9）野王：顧野王。玉篇撰者。隋書経籍志「玉篇三十一巻陳左衞将軍顧野王撰」。：【玉篇】（大廣益会玉篇三十巻・張氏重刊宋本玉篇）（TDB）：[后]｛胡闘切。魚。｝：「凡３２１字」の後ろから１９番目。参考：真名真魚字典：[后]（６画）。

（44-10）説文：【説文解字】（「説文解字十五巻」ＴＤＢ）：（40-7577）[果]：鱧也｛廣韻曰、[果]似鮎、與説文合。｝从魚果聲｛胡瓦切。十七部｝：参考：真名真魚字典：[果]（８画）

（44-10-2）[果]、胡瓦反：【廣韻】（五巻・張氏重刊宋本廣韻TDB）：巻第三上聲：三十五○馬｛莫下切。七｝…○踝｛胡瓦切。十一｝[果]｛魚似鮎也｝

（44-11）上聲之重：前掲〔39〕[反]魚、注（39-2-その２）を見よ。前記注（44-10-2）に見るとおり、四声の「上聲」に属し、反切上字の濁音（胡＝廣韻：平聲第十〖虞〗（詩韻）＝第十一〖模〗（廣韻））の特徴を、「上聲の重」として源順が示したものであろう。「古代漢音における四聲の輕重について」朝山信彌(1945)による「上聲之重」の解釈が示されている。「上聲之重」を記した龍魚部中の字は、〔39〕[反]魚、[果](〔44〕鯉魚に含む)、〔49〕[完]及び〔69〕［票］の４字。前記朝山（1945）には、和名抄20巻本には、「総計五十数個が存する」とある。

（44-12）廣雅云：十巻本、二十巻本、下総本など「各本」が「爾雅云」と書く。爾雅には該当文なく、次の箋注本文でエキ齊が「後人伝写之誤」として「廣雅云」に改めた。

（44-13）[度]下記箋注の考証のとおり、［虔］字を読み誤った字体。[度]は、【標註訂正康煕字典】にも【諸橋大漢和】にも当然載っていない。

（44-14）【醫心方（安政版）】（叢書日本漢方の古典１「醫心方　食養篇」巻末影印）巻３０：鯉　【醫心方（安政版）】（叢書日本漢方の古典１「醫心方　食養篇」巻末影印）巻３０：醫心方巻第卅。五宍部第三。鯉。：鯉魚。本草云。肉、味、甘。主欬逆上気、黄疸、止渇。生煮。主水腫、脚満、下気。胆、味苦、寒、无毒。…中略…肉、…中略…従従脊当中、数至尾、无大小、皆有三十六鱗。七巻経云。鯉魚、平、補中。又[后]｛胡闘反。野王云、是鯉魚也｝。又[果]{下瓦反。説文、鯉也}。又[度]｛音度、広雅云、大鯉也｝。崔禹云。鯉、温、无毒。主脚気、忤疾、益気力。孟詵云。天行病(後)不可食。再發即死。又砂石中（アル）者、毒多（ク）在（リ）。…後略。｛和名、己比。｝

（44-15）本草和名引：前掲注（44-1）参照。

【本草和名（古典全集本）】（44-Bつづき）

　　　　各本とも、「廣雅」という字を「爾雅」に作っているのは、後世の伝写の誤りであろう。源君の旧を非して、今、「醫心方」に従って（「廣雅云」に）改めた。「廣雅」釋魚は、「［后］、［果］也、大［果］は之を［虔］と謂う。」と云う。曹憲は音を虔とした。「廣韻」（下平聲巻二）第二仙（韻）は亦た「［虔］」を収める。則ち、[度]は音度。当に、［虔］は音虔に作る。然り、「本草和名」は亦た引用して[度]に作る。別に、崔禹を引用して［虔］字を出す。則ち、輔仁は、「七巻食経」を所見したとき已に誤って[度]に作ってしまった。源君は之を踏襲したのである。故に、「医心方」は、又た、[度]に作った。後に誤って伝わったものでも写本の誤りでもないのである。

読み下し：鯉魚　七巻食経は云う。鯉魚、上音里。和名古比。／野王案ずるに、[后]、胡闘反。／説文云う。[果]、胡瓦反。上聲の重。廣雅は云う。[度]、音度。皆、鯉魚なり。箋注原文テキスト：真名真魚字典：鯉（７画）。〔注〕（44-16）廣雅釋魚：【広雅疏証】（光緒五年〈1879〉淮南書局重刊本）[后][果]也。大[果]謂之[虔]｛小雅魚麗、傳、鱧[同]也。正義云、本或作鱧[果]。説文云、[果]鱧也。鱧[蒦]也。廣韻云、[果]魚似鮎也。拠此則[果]即爾雅之[蒦]、衆經音義巻第十一引孫炎注所云、似鮎而大者也、大[果]謂之[虔]、又即爾雅之[丕]大[蒦]矣。漢書司馬相如傳、［禺］[容][虔]［乇］、郭璞注云、[虔]以[單]、史記集解引漢書音義云、[虔]以[果]而大、拠此則[果]為[單]魚、[虔]為鰻[麗]魚、[虔]以[果]而大、故云、大[果]謂之[虔]、名医別録陶注所云、鰻[麗]魚形似[單]者也。未知孰是｝……①「衆經音義巻第十一引孫炎注」＝玄応一切經音義に同文含む。〔59〕鮠：注（59-14）参照。②「未知孰是」〔54〕鯰にもでる：「（いまだ）いずれが正しいのかをしらず。」（44-17）曹憲音：「広雅音」撰者。隋秘書学士。生没年不詳。「文選音義」「廣雅（博雅）音」「爾雅音義」など記す。（唐代人物知識ベース：京大人文研参照）（44-18）廣韻ニ仙：「廣韻」下平聲巻第二：【廣韻】（五巻・張氏重刊宋本廣韻TDB）下平聲巻第二：二○仙｛相然切。十二｝…○乾｛渠焉切。音千。九｝虔｛略｝…［虔］｛魚名｝（44-19）[度]：中国の辞書にも、日本の漢和辞書にも載っていない。本草和名、倭名類聚鈔、醫心方の三書に、広雅釋魚からの引用として「鯉魚」の項目に「[后][果]也。大[果]謂之[虔]」を載せる。ここから、エキ齊の考証によってつまり、本草和名が、［虔］を[度]に写し間違えたことによって、後に成立する二書が誤写を踏襲し、後の写本に「[度]」と［虔］とを明別することなく伝わってしまったという結論を出した。この事実関係の整理から、三書成立の特定や、倭名類聚鈔の１０巻本、２０巻本諸本の伝写の解明に役立てようとしたセクションであると考えられよう。さらなる検証の必要があろう。（44-20）参考に三書が成立した年代は、①本草和名：918（延喜18）年。この頃成立。深根輔仁編著。／②倭名類聚鈔：934（承平４）年。この頃成立。源順編撰。／③医心方：984（永観２）年。この頃成立。丹波康頼撰、となる。魚字尽考関連年表及び書名注各項目を参照。

0608

[后]

【醫心方（安政版）】（叢書日本漢方の古典１「醫心方　食養篇」巻末影印）巻３０「鯉魚」

0837

1041

1410

鱧

鮠

　　　　又たエキ齊按う。今本の「玉篇」は「[后]胡闘切、魚也、」と云う。「鯉」とは訓んではいない。「説文」は「[果]、鱧也、」と云う。又た、「鱧、[蒦]也」と云う。又た、「[蒦]、魚名、」と云う。「廣韻」は、「[果]、魚似鮎也、」と云う。「爾雅」郭注は、「[蒦]似鮎而大、白色、」と云う。即ち「四聲字苑」に載る「鮠魚」は、後に俗に「回魚」と呼ぶ者である。果、蒦、回、危は皆一聲の転である。則ち、[后]を知ることは、亦た鮠魚を知ることである。「廣雅」[果]をもって[后]と訓じた。「史記」「司馬相如伝」「集解」は、「漢書音義」を引いて「［虔］似[果]而大、」と云う。「廣雅」が云う「大[果]謂之［虔］」と合う。是れは「鮠魚」の大者である。則ち、[后]、[果]、［虔］は皆、「鮠魚」の別名であり、並びに一聲の転であり、鯉魚ではないのである。疑うらくは、古本玉篇の[后]字の注に、「廣雅」によるとして、「之れ[果]魚なり」といっている。「食経」（の編著者）が見た「玉篇」（の[后]魚）を誤って是を鯉魚に読んだのである。故に、其の鯉魚の條は、「玉篇」を引いて[后]字を載せ、既に以って[后]を鯉とし、[后]は即ち[果]とした。故に「説文」を引いて、[果]字は鯉魚とし、鯉の大なる者が［虔］となったのである。故に又た「廣雅」を引いて［虔］字は大鯉としたのである。「本草和名」は其の誤を承け、源君も又た踏襲して之を引用したのである。

　　　　　又た、エキ齊按う。「太平御覧」は「廣志」を引用して、「[蒦]魚似鮎大口」と云う。「（詩経）周頌」「絲衣」篇について「釈文」は「何承天」を引いて「魚之大口者名〈口/大〉、胡化反、」と云う。王念孫は次のように曰っている。「大口故名[蒦]、〈口/大〉其字当作[蒦]、音義皆協、承天不達字体、乃臆撰〈口/大〉字、従口下大、斯為妄矣、」／下総本は、標目に「魚」字なし。廣本も同じ。

箋注原文テキスト：真名真魚字典：鯉（７画）。

〔注〕（44-13）今本玉篇：前掲注（44-9）をみよ。

（44-14）説文[果]字：前掲注（44-10）を見よ。

（44-15）鱧：【説文】（「説文解字十五巻」TDB）①（39-7576）（魚部）鱧：[蒦]也。｛釋魚毛傳鱧鯇爲一。許鱧[蒦]為一。各有所受之也。｝从魚豐聲｛盧啓切。十五部｝②（37-7574）[蒦]：[蒦]魚也｛郭注釋魚曰、[蒦]佀鮎而大白色。按今江中多有之、俗譌爲回魚聲之誤耳。…以下略｝从魚蒦聲。｛胡化切。古音在五部。｝

（44-16）廣韻[果]：【廣韻】（五巻・張氏重刊宋本廣韻TDB）：巻第三上聲：三十五○馬｛莫下切。七｝…○踝｛胡瓦切。十一｝[果]｛魚似鮎也｝

（44-17）爾雅郭注[蒦]：【爾雅】（「爾雅注疏十一巻」東京大学東洋文化研究所倉石文庫蔵：ＴＤＢ）釈魚第十六：[丕]大[蒦]小者[兆]【註】[蒦]似鮎而大白色｛○[丕]音皮、[蒦]音畫、[兆]音兆。｝【疏】｛[蒦]魚名、似鮎而大白色。[蒦]之大者別名[丕]。小者別名[兆]也。｝

（44-18）四聲字苑：古書注を見よ。

（44-19）鮠魚は俗に言う回魚：①前掲注（44-15）]参照。②鮠（６画）【本草綱目】（KTDB）（第24冊）第44巻、鱗部ニ（鱗之四）無鱗魚二十八種・附録九種：〔9〕（24-54～55）鮠魚｛音桅○拾遺｝／（釋名）[回] 魚｛音回｝[蒦]魚｛化獲二音｝[果]魚｛化上声｝[頼]魚｛癩○（時珍曰）北人呼[蒦]、南人呼鮠、並與鮰音相近、邇來通稱鮰魚而[蒦]鮠之名不彰矣。[果]又[蒦]音之轉也。秦人謂。其發癩呼為[頼]魚。餘見鮎魚。｝

（44-20）一声の転：広韻において同類の声母（反切上字：子音）をまとめたグループ（転）に属する、というような訳でよいだろうか。前掲注（44-10）「四声の軽重」を含めて、まだ中国語古音・中古音の音韻の仕組みが理解できていないため化訳としておこう。ただし、倭名類聚鈔における源順の音韻論をエキ齊が「箋注倭名類聚抄」において和名に充当させる同音・同義漢字の整理のために研究し、独自の見解を披露していることの意義に眼を向けることは箋注倭名類聚抄を理解するために非常に重要なテーマであることは確かなことである。

（44-21）史記集解：裴駰（はいいん）集解：徐広曰。［禺］音娯皮有文出楽浪、［虔］音虔、［乇］音詫、多口魚。駰案。郭璞曰。[庸]似［連］而黒。漢書音義曰。［虔］似鯉而大也。

（44-22）太平御覧：第九百三十七鱗介部九：「鮎」に続く項：[蒦]魚：廣志曰、[蒦]｛音画｝、魚似鮎大口。

（44-23）廣志：「隋書経籍誌」「廣志二巻郭義恭（カクギキョウ）撰」：【エキ齊「和名抄引書」】６２丁裏。エキ齊による雑書の記載あり。

（44-24）周頌絲衣：詩経（毛詩）周頌篇絲衣：「毛詩注疏」二十巻中第十九巻之四に載る。「絲衣」は祭式に使う衣装。九句中後半４句は「兕觥其レ觩タリ。旨酒アリテ柔ナルヲ思フ。不呉不敖。胡考之休ナリ。」：「不呉不敖。」は、「フゴフホウ」で、「カマビスシカラズ、オゴラズ」と訓む。【傳】は、「呉は譁なり」、譁は「かまびすし」い。つまり「大口」あるいは、牡蠣に見るように「大言」である。

（44-24-2）不呉不敖。【陸徳明音義】○呉旧如字。説文作〈口/大〉、〈口/大〉大言也。何承天云、〈口/大〉字誤、當作呉、従口下大、故魚之大口者名〈口/大〉、胡化[反]。此音恐驚俗也。音詁、敖、五誥反。本又作傲。注同譁、音花讙、火官反、又火元反。慢亡諫反。【孔頴達疏】傳、呉譁考成。○正義曰。人自娯楽必讙譁為声、故以娯、為譁也。定本娯作呉、考成釈詁文。…以下略。

（44-24-3）何承天（かしょうてん）：（370～447）中国南北朝期の思想家、数学者、天文学者。（ウィキペディアより）。わが国暦法にも取り入れられた元嘉暦を編纂。「魚之大口」云々が何の書からの引用かは不詳。

：呉’：〈口/大〉

〔45〕　鮒　本草云、鯽魚、｛上音即｝。一名鮒魚、｛上音付、布奈、｝｛○下総本は、「和名」二字がある。_」布奈（フナ）は、輔仁「本草和名」による。「万葉集」「新撰字鏡」は同じ訓みを与えている。「證類本草」は「蜀本注」を引用して、「形亦似鯉、色黒而體促、肝大而脊隆、所在池澤皆有之、」と云う。同じく「図經」を引用して、「有大者至重二三斤、」と云う。舊本は、「鮒」の下に「魚」字はない。今、下総本に従い改めた。「千金翼方」「證類本草」上品、及び「本草和名」とも同字である。｝

読み下し：鮒　本草は云う。[即]魚、上音即。一名鮒魚、上音付。布奈.／四聲字苑は云う。[脊]、鯽、[責]。音積。今案ずるに、三字通用。／鮒なり。

箋注本文テキスト：鮒（５画）

〔注〕（45-1）下総本（写本WLDB、「松井本」赤字）：鮒　本草云[即]魚｛上音即｝一名鮒魚｛上音付、和名布奈｝四聲字苑云[脊][即][責]｛三字並千亦反、今案通用、｝

（45-2）本草和名：【本草和名（寛政刊・古典全集本）】[即]魚｛仁諝音義作[責]、音責。｝一名鮒魚。一名[呑’]｛音子赤反。出崔禹。｝和名布奈。〔頭注：多紀元簡〕按[呑’]當作[脊]々玉篇子亦反鮒魚。

（45-3）万葉集：【万葉集】（岩波文庫本新訂・新訓。佐々木信綱篇）①上巻：巻４：高安王、裹める鮒を娘子に贈れる歌一首：（625）沖方行き邊に行き今や妹がためわがすなどれる藻臥束鮒（オキヘユキ/ヘニイキ/イマヤ/イモガタメ/ワガスナドレル/モブシ/ツカブナ）②下巻：第十六巻：（18）香、塔、厠、屎、鮒、奴を詠める歌（3828）香塗れる塔にな寄りそ川隅の屎鮒喫める痛き女奴（コウヌレル/タフニナ/ヨリソ/カハクマノ/クソブナ/ハメル/イタキ/メヤツコ）

（45-4）新撰字鏡： ①【新撰字鏡（天治本）】　魚部第八十七：（518-2）魴[旁]｛同方。音不奈。又、堅魚。但赤尾魚。｝／（522-1）鮒｛府’遇反。去。｝／（523-2）[賊][即]｛不奈｝／[魚＋升]｛不奈古。｝／（524小学篇）鮃｛布奈｝、[等’]｛上同｝。②【新撰字鏡（群書類従本）】　魚部七十一　魴[魚＋旁]｛同。方音。赤尾魚。不奈又、堅魚｝／[升]｛不奈古。｝／鮃｛布奈。[等’]同｝。……「享和本」：[升]→[井]　。字形用例鮒（５画）参照。

（45-5）證類本草：（上品総50種のうち）／一種唐本先附｛注云唐附｝題名：鯽魚：主諸瘡、…中略…一名鮒｛音父｝魚合蓴作羹、主胃弱、不下食、鱠、主久赤白痢。｛唐本先附｝｛臣禹錫等謹按蜀本云。鯽魚、味甘、温。止下痢、多食亦不宜人。又、注云。形亦似鯉、色黑而體促、肚大而脊隆。所在池澤皆有之。孟詵云。…中略…／圖經曰。｛鯽魚。本經。不載所出州土、今所在池澤皆有之。似鯉魚、色黑而體促。肚大而脊隆。亦有大者至重二三斤。性温、無毒。諸魚中最可食。…以下略。

（45-6）孫思邈「千金翼方」巻四：蟲魚：鯽魚：主諸瘡、燒以醬汁和塗之、或取豬脂煎用。…中略…目翳。一名鮒魚。…以下略。

　　　　四聲字苑云。[脊]、鯽、[責]｛音積、今案三字通用、｝｛○「説文」は、「[脊]、魚名、」と云う。「玉篇」は、「[脊]子亦切、[責]鯽並同上、」と云う。エキ齊按うに、鯽[責]は、並れも後人による諧聲字である。「説文」の「［烏］[則]或作[即’]」と、「爾雅」の「貝小者[責]」の字は、もともと別字である。王念孫は、「易経」を引用し「井九二、谷射鮒、」と曰う。また、続けて「劉逵呉都賦注」を引用して、「鄭注は、所生無大魚、但多鮒魚、言微小也、と云う。」と曰う。｝

　　　　鮒也、｛○エキ齊按う。「楚辞」は「大招」と云う。王逸’の「注」は、「[責]、鮒也、」と云う。「廣雅」釋魚、「玉篇」とも同じである。｝

読み下し：鮒　本草は云う。[即]魚、上音即。一名鮒魚、上音付。布奈.／四聲字苑は云う。[脊]、[即’]、[責]。音積。今案ずるに、三字通用。／鮒なり。箋注本文テキスト：鮒（５画）

〔注〕（45-7）四聲字苑：古書注参照。

（45-8）説文：【説文】（「説文解字十五巻」TDB）①(32-7569)鮒：鮒魚也。｛鮒見易禮、鄭、易曰鮒魚微小、虞翻曰鮒小鮮也。王逸注大招及廣雅皆云、[脊]鮒也。｝从魚付聲。｛符遇切。古音在四部。｝②(34-7571)[脊]：[脊]魚也。｛今人所常食也。｝从魚脊’聲。｛資昔切。十六部。按或作[責]、責聲。亦十六部也。或作鯽、非是。

（45-9）【玉篇】（大廣益会玉篇三十巻・張氏重刊宋本玉篇）（TDB）①鮒｛扶句切。[責]魚。｝②（2-9）[脊]｛子亦切。鮒也｝[責][即]｛並同上｝

（45-10）説文［烏］：(72-7609)鰂:烏鰂魚也。｛四字句。烏俗本作鰞今正。陶貞白云、是[暴+鳥]烏所化、其口腹猶相似、腹中有墨、能吸波[浪(良→巽)]墨、令水溷黑自衛。劉淵林云、腹中有藥、謂其背骨、今名海鰾鮹是也。｝从魚則聲。｛昨則切。一部。呉都賦作賊、他書作[賊]。｝{鯽之篆體}或从即。｛此乃俗鰂字以即’聲。古音在十二部也。今人用爲[脊]魚字。

（45-11）爾雅、貝小物[責]：①【爾雅】（「爾雅注疏十一巻」ＴＤＢ）巻第十：釈魚第十六：貝…中略…小者[責]【註】今細貝、亦有紫色者出日南○[責]音積。②【爾雅義疏】（郝懿行撰。芸文印書館2巻本）（下之四「釋魚」）爾雅・郭璞注「貝…以下略」（①を郝懿行が注して）：郝注：説文貝、海介蟲也。古者貨貝して宝龜、周而有泉、到秦廃貝、行泉。鄭注士喪禮云、貝、水物、古者以為貨、江水出焉。類聚引詩義疏云、貝[辟/黽]龜属、詩錫我百朋箋古者貨貝五貝為朋、李時珍云、今貝、獨雲南用之、呼為海[貝＋巴]〔＝虫巴〕、以一為荘、四荘為手、四手為苗、五苗為索。

（45-12）王念孫曰：王念孫著編『広雅疏証』（古書注参照。）に曰う。：【広雅疏証】（光緒五年淮南書局重刊本）（巻第十下）釋魚：[責’]鮒也。：井九二、井谷射鮒。劉逵、呉都賦注引鄭注曰、所生無大魚、但多鮒魚耳、言微小也。楚辞大招、煎[責]臛雀、王逸注云、[責]鮒也、[責]之言[草朿]也。方言云、[草朿]小也。爾雅云、貝大者[亢]、小者[責]、又云、[虫囷]大而険、[虫責]小而橢、[虫責][責]同義、小貝謂之[責]。猶小魚謂之[責]也。今[責]魚形似小鯉、色黑而體促、腹大而脊高、所在有之、説文作[脊]字。

（45-13）井九二、井谷射鮒。：岩波文庫版「易経（下）」「せい・きゅうじ、せい・こく・ふなにそそぐ。」と訓む。この井（せい）は、邑（ゆう）には無くてはならない必需のもので、満々とたたえ、こんこんと湧き出る水をたたえてこその井であり、「もしそれを汲もうとするものがそれを誤まって、たとえばつるべがほとんど水が届きそうなのに、つるべなわをいっぱいにのばしきらぬとか、つるべをこわしてしまうようなことでは、せっかくの井戸の効用も発揮されず、凶である」ということから説いているセクションである。九二は、最下の陰の爻「初六」の次が「九二」（きゅうじ）で、水がかれて動物もすめない状態の次に、鮒（この場合は「フナ」ではなく「蝦蟇：ガマ」）がようやく棲めるような水しかない状態というような意味か。鮒と泥（凶）と水（吉）をリンクさせて考える自然観の一つの例として捉えておこう。

〔46〕　［蚤］　文字集略云、［蚤］｛音騒、漢語抄云美、｝｛○今俗に、美古比（ミコヒ）と呼ぶ。或は、譌なまって爾古比（ニコヒ）と呼ぶ。又、佐伊（サイ）と呼ぶ。｝

　　　　鯉属也、｛○『山海経』「西山経」に「鳥鼠同穴（ちょうそどうけつ）の山があって、渭水が流れ出て、東に流れて河に注ぐ。その中には［蚤］魚が多くいる。この魚が動（騒）き始めると、村には戦（大兵）が起きる。」とある。『玉篇』は、「［蚤］魚、[亶]に似ている」と載せる。顧氏のこの記述は『山海経』の［蚤］魚の記事に依っている。『説文』は「鯉、[亶]也」という。『爾雅』舎人注は、また、「鯉の一名は[亶]」といい、（この両説・注をもってすれば）『爾雅』にいう、鯉と[亶]は同一物である。これは、郭氏の説と同じではない。

　　　　　　　　「文字集略」の阮氏（阮考緒）は、この説（爾雅説）に从い、［蚤］は、その状は[亶]魚の如きであることから、（鈔本文）「鯉属である」と書いたのであろう。つまり、舎人は「[亶]すなわち鯉である」としているが、郭璞注では、「[亶]は黄魚となす」としたように、その説は一定していないのである。

読み下し：［蚤］　文字集略は云う。［蚤］。音騒。漢語抄は云う、美。／鯉属なり。〔注〕箋注本文テキスト　［蚤］（10画）。〔注〕（46-4）山海経西山經：【山海経】『山海経箋疏』(WLDB)(第1冊71)第二西山經（35丁表）又西二百二十里、曰鳥鼠同穴之山｛箋疏略｝、其上多白虎白玉｛箋疏略｝。渭水出焉、而東流注于河｛箋疏略｝。其中多[蚤]魚｛音騷。懿行案、［蚤］字見玉篇音義餘此同。｝、其状如[亶]魚｛[亶]魚、大魚也。口在頷下、體有連甲也。或作[占’]鯉。懿行案、[亶]見爾雅郭注詳之。鮎鯉亦見爾雅、然非一魚、注蓋本作鮎魚。｝、動則其邑有大兵｛或脱無從動則以下語者。懿行案、太平御覧九百三十九巻引此經図讃云、物以感応、亦不数動壮士挺劔気激江涌騒魚潜淵出則民悚。｝（46-5）玉篇：顧野王撰：【玉篇】（大廣益会玉篇三十巻・張氏重刊宋本玉篇）（TDB）魚部第三百九十七（2-10）［蚤］｛先刀切。魚似[亶]。｝（46-6）説文、爾雅：鯉（７画）参照。（46-7）その説は一定していない。：前の注記に載せた「説文解字」鯉条においては、段玉裁注で、大要次のように書いている。：説文解字：鯉は[亶]である。段注：これは、『爾雅』釈魚に見える。『毛伝』は、[亶]を注して鯉といっているが、鯉を注して[亶]とはいっていない。つまり、鯉は、俗に用いられているのであって、「注」をするまでもないのである。舎人（漢「犍爲舎人注」として爾雅注釈逸文として名が残る）は『爾雅』の注で「鯉の一名は[亶]」といい、『毛伝』は、「[亶]、鯉なり」といっている。『爾雅』の古説は、かくのごときである。そして、陸璣（陸機：三国時代呉の文学者：261-303）の説（「詩疏」「毛詩草木鳥獣虫魚疏」）より以降、[亶]の身形は龍に似て、鋭い頭、口は頷の下について、脊上腹下ともに甲があり云々大きさは千餘斤もあるという「大魚」を指すこととなって、郭璞（爾雅、山海経の注釈：276-324）は、爾雅の注において鯉と[亶]とを二物に分けたのである。[亶]は大魚であり、[覃]に似て、短い鼻に口は頷の下にあり、体には邪行甲（斜めにぎざぎざにつながった）を持ち、無鱗であり、肉は黄色、大きさは長さにして二、三丈、云々の黄魚であって、[亶]は、断じて鯉ではない。(46-7-2）最後のフレーズは、「則[亶]絶非鯉矣」であり、『説文』において、完全否定説が披露されたということになります。ところが、詩経を現代に伝える注釈や、日本における教科書的な記述においても、「[亶]鯉也」説は、そのまま、ほとんど無批判に踏襲されてきています。

　　　　　　　　又、『山海経』がいう、「この魚が騒ぎだすと村に戦が起きる」この魚とは、俗に「美古比（ミゴイ）」といわれている魚ではないことは明らかである。『文字集略』によれば、この魚は鯉属であるといい、源君は「美」（ミ）と訓んだが、これは誤り（非）であろう。

　　　　　　　　　『開宝本草』には、「白魚、大きさは六、七尺あり、白い頭をもたげるようにして、江湖に生息する」とある。また、李時珍は、『本草綱目』において「[白]は、形は、狭まったような腹部をして鱗は細かく、頭と尾が上を向いていて、肉中には細かな骨（刺）があり、武王の乗る舟に白魚踊り入る」と云う。この魚を、［蚤］にあてるべきだろう。｝　

読み下し：［蚤］　文字集略は云う。［蚤］。音騒。漢語抄は云う、美。〔注〕箋注本文テキスト　［蚤］（10画）。（46-8）「美」：なぜ「美：ビ：ミ」一字なのか。要検討。「大魚」は「シミ」「シビ」と読めることは、〔11〕鮪｜〔14〕鮫においてエキ齊箋注によって説かれている。関係がありやなしか？（46-8-2）冒頭の箋注の検討に戻ってみたとき、下総本との比較による検討は参考になるかもしれないと、静嘉堂文庫蔵の「松井本」（為替博士より京本に極めて近いエキ齊箋注後に発見された１０巻本）の赤字（下総本との比較）をみると、○音騒＜先刀反魚似[亶]＞漢語抄云美、となっている。これも検討材料の一つになりそうだ。（46-4）開寳本草：證類本草】（政和本草：WDB）巻第二十一蟲魚部：蟲魚中品総五十六種　（うち）七種今附｛皆医家嘗用有效注云今附｝〔今附１〕8-89：白魚：味甘、平、無毒。主胃氣、開胃下食、去水氣、令人肥健。大者六七尺、色白頭昂、生江湖中。｛今附　臣禹錫等謹按孟詵云、白魚、主肝家不足氣、不堪多食、泥人心。雖不發病、終養[匿/虫]、所食。新者好、久食令人心腹諸病。可煮炙、於葱、醋中一、兩沸食。猶少、調五臟氣、理經脈。日華子云、助血脈＊補肝明目。患瘡癤人不可食、甚發膿、炙瘡不發、作膾食之良。｝（46-5）【本草綱目】（国会図書館蔵本KTDB）（第24冊）第44巻、鱗之三（魚類三十一種）〔９〕白魚｛宋開寳｝／（釈名）[喬]魚｛音喬。去聲。（時珍曰）白亦作鮊。白者色也。鱎者頭尾向上也。｝／（集解）｛（劉翰曰）生江湖中、色白頭昂、大者長六七尺。（時珍曰）鮊、形窄腹扁、鱗細、頭尾倶向上、肉中有細刺。武王白魚入舟即此。｝（46-6）武王白魚：史記周本紀：【史記】百三十巻（ＴＴＤＢ）周本紀第４：武王渡河、中流、白魚躍入王舟中｛馬融曰、魚者介鱗之物兵象也、白者殷家之正色、言以殷之兵衆與周之象也。｝、武王俯取以祭。……『尚書中候』と云う書には「長三尺」とある。

〔47〕　［時］　唐韵云、［時］、{音時、漢語抄云波曾、}｛○今俗に波須（ハス）と呼ぶ。小野氏は、「雑字簿の金鎗魚が即ち是れなり、」と曰う。｝

　　　　　魚名也、似_レ魴肥美、江東四月有_レ之、｛○（この、魚名也から有之までは、）『廣韻』と同じである。エキ斎按う。『爾雅』は「［咎］當［互］」と云う。同郭注は、「海魚なり。［扁］に似て大鱗、肥美にして、多［更］なり。今、江東にては、其の最大長三尺の者を、呼びて_、當［互］と為す。」と云う。邵晉涵は、（『爾雅正義』釋魚において）「郭氏の説く所の如き形状なり。即ち、後世に謂うところの［時］魚なり。今、［時］魚は［方］に似て、長にして、色白く、味は腴にして、肉には細き刺（ホネ）多し。」と曰う。小野氏は、「［時］魚の俗名は比良（ヒラ）。一名、比良鰶（ヒラコノシロ）。安芸にては之れを比良古（ヒラゴ）と謂う。大坂にては之れを黄豆奈之（キヅナシ）と謂う。」と曰う。｝

読み下し：　[時]　唐韵は云う。[時]。音は時。漢語抄は云う。波曽。／魚名なり。[方]に似て肥にして美。江東に、四月之れ有り。箋注原文テキスト：真名真魚字典：[時]（10画）。〔注〕（47-1）唐韵：唐韻（とういん）：古書注参照。（47-2）漢語抄：古書注参照。（47-3）波曾:ハス。波須（ハス）：【本草綱目啓蒙】（東洋文庫４冊）（3-200）（巻之四十、鱗之三、魚類）[時]魚：ヒラ　ヒラコノシロ　ウミヒラメ｛芸州｝　ヒラゴ｛備前、子｝　キヅナシ｛大坂、同上｝　一名[咎]｛爾雅｝　当[互]｛説文｝　時充｛水族加恩簿｝　珍曹必用郎中｛同上｝　箭魚｛典籍便覧｝　詶[制]魚｛閩書｝　惜鱗魚｛余姚県志｝　青鱗｛福州府志｝　三[犂（牛→魚）]之魚｛彙苑詳註｝　三[犂（牛→魚）]（広東新語）　[犂（牛→魚）]（正字通）　[利／魚]　[犛（牛→魚）]　[犛（牛→魚）]’　[來]　[黎]　鮊｛共ニ同上｝／海産ナリ。形鰶魚（コノシロ）ニ似テ大。渾身白色ニシテ、鱗ハ梅花弁ノゴトシ。唐山ニテハ婦女ノ花鈿トスト云。腹下ノ鱗三角ニシテ鰶魚ノゴトシ。大ナルモノハ長サ二三尺、身ハ扁薄ニシテ肉細刺多シ。腹中ノ刺ハ箭鏃（ヤジリ）ノ状アリ。故に箭魚ト名ク。（47-4）雑字簿：古書注参照：金鎗魚：小野蘭山前掲注（啓蒙）[時]項目中に、この記載なく、また、小野蘭山写本の『雑字簿』には「金鎗魚」の記載なし。不詳。要確認。但し、「金鎗魚」は、〔11〕鮪の項注（11-17）参照。（47-5）[方]：真名真魚字典：[方]（４画）参照。（47-6）広韻：【廣韻】（五巻・張氏重刊宋本廣韻TDB）：（1-32）：上平聲巻第一：｛章移｝支第五｛脂之同用｝：五○支｛章移切。二十九｝略／六○脂｛旨夷切。十｝中略…／七○之｛止而切。四｝略○時｛市之切。七｝[時]｛魚名。似[方]肥美。江東四月有之。｝（47-7）爾雅：郭注：【爾雅】（「爾雅注疏十一巻」東京大学東洋文化研究所倉石文庫蔵：ＴＤＢ）：[咎]當［互］【註】海魚也、似［扁］而大鱗肥美多［更］、今江東呼其最大長三尺者為當［互］｛○[咎]倶救切、［互］音胡。｝【疏】｛[咎]一名當［互］、海魚也。注云、似［扁］而大鱗者案［扁］似［方］大腹細而長、今[咎]魚似之、但鱗大耳云肥美以下者以時験而知也。｝（47-8）邵晉涵：（1743～1796年）『爾雅正義』二十巻。釋魚の巻。未見、要確認。（47-9）和名「コノシロ」は、〔38〕[制]の箋注記事あり。

〔48〕　鱸　崔禹食經云、鱸、｛音盧、須々岐、｝｛○下総本には、「和名」二字がついている。_」須々岐は、輔仁『本草和名』に依っている。『新撰字鏡』も同じ訓みを与えている。『古事記』訓注も、また、鱸を訓みて「須受岐」と云う。又、『出雲風土記』『万葉集』にも見える。｝

　　　　　貌似_レ鯉而、鰓大開者也、｛○『医心方』の引用には、「大開者也」の四字が脱けている。｝

　　　　　四聲字苑云、似_レ[厥]而大、青色、｛○下総本には、（青色の）下に「也」字がついている。『本草綱目』も同じである。｝

読み下し：　鱸　崔禹食経は云う。鱸。音は盧。須々岐。／貌は鯉に似て、鰓は大きく開く者なりり。／四聲字苑は云う。[厥]に似て大きく青色たり。

箋注原文テキスト：真名真魚字典：鱸（16画）。

〔注〕（48-1）崔禹食經：：古書注参照。

（48-2）輔仁本草和名：深根輔仁著【本草和名（寛政刊・古典全集本）】：古書注参照：（下）（[追]／鯛／鱸／鯖／鰺／[生]／鱒魚…）鱸｛落胡反｝俗名鱸鮭｛出崔禹｝和名須々岐。

（48-3）新撰字鏡：①【新撰字鏡（享和本）】古書注参照：魚部七十一：鱸｛落胡反。須々岐。｝〔々→ゝ（繰り返し記号草書ひらがな）〕：（群書類従本）魚部七十一：鱸｛落胡反。須々支。｝②【新撰字鏡（天治本）】魚部第八十七：（520-6）鱸｛落胡反。須受支’。｝

（48-4）古事記訓注：【古事記】（岩波日本古典文学大系『古事記祝詞』古事記：倉野憲司校注）原文テキスト：（大国主神の国譲り）（124p）口大之尾翼鱸、｛訓鱸云須受岐｝：口大（くちおほ）の尾翼鱸（をはたすずき）、｛鱸を訓みてスズキ〔須受岐〕と云ふ。｝：エキ齊は、中国古典籍および、邦書の語彙に関わる記述のなかで、音韻あるいは、和名成立が漢名の語彙とのかかわりを持つ呼称について、相互に、食い違いや、現代につながる論争が、比較的ない項目には、すらりと、簡潔に記している傾向がみられる。たとえば、本項の「鱸」「スズキ」は、中国においては、たしかに「松江の鱸魚」論争が、日本にも飛び火をして、スズキと四腮魚、およびハゼやカジカの魚たち、とりわけアユカケとの関わりなどが問題となるが、エキ齊にとっては、スズキと鱸は、それほど混乱しないで成立しているという見方をしているのか、国内におけるスズキという古代史における魚名の使われ方には、それほど関心をよせていない。本居宣長の【古事記伝】（岩波文庫本）の解釈の引用に、それが表れているような気がする。前後詳細及び、「古事記伝」該当箇所（古書注参照）の宣長「伝」は、鱸（16画）に載せた。

（48-5）出雲風土記：「島根郡」「秋鹿郡」「神門郡」に「須受枳」（スズキ）を載せる。【風土記】（岩波日本古典文学体系『風土記』秋本吉郎校注）：①嶋根郡：凡南入海所在雑物、入鹿、和爾、鯔、須受枳、近志呂、慎仁、白魚、海鼠、[高]鰕、海松等之類、至多、不可尽名、／②秋鹿郡：春則在、鯔魚、須受枳、鎮仁、[高]鰕等、大小雑魚、秋則在、白鵠、鴻雁、鳬、鴨等鳥／③神門郡：神門水海、郡家正西四里五十歩、周三十五里七十四歩、裏則有鯔魚、鎮仁、須受枳、鮒、玄蛎也。

（48-6）万葉集：古書注参照：①252（WLDB-3-17a／67）：荒栲’藤江之浦爾鈴寸鉤白水郎跡香将見旅去吾乎。①-２岩波文庫本：巻三「雑歌」：「柿本朝臣人麻呂の羇旅（たび）の歌八種」二五二：あらたへの藤江の浦にすずき釣る白水郎（あま）とか見らむ旅行く吾を／一本に云はく、白たへの藤江の浦にいざりする。
②2744（WLDB-11-39a／51）：鈴寸取海部之燭火外谷不見人故戀比日。②-２岩波文庫本：巻十一「物に寄せて思いを陳ぶ二百八十二首」二七四四：すずき取る海人（あま）のともし火よそにだに見ぬ人ゆゑに戀ふるこのころ。

【新撰字鏡（群書類従本）】(WLDB)

（48-7）【醫心方（安政版）】（叢書日本漢方の古典１「醫心方　食養篇」巻末影印）巻３０：鱸。崔禹云。味鹹、大温、无毒。主風痺、瘀[疾(矢→至)]、面疱。貇、似鯉而鰓大。補中、安五蔵。可為臛膾。食経云。鱸魚為羹食、不利人。又云、鱸肝不可食之、煞人。又云、治鱸魚中毒方、搗絞蘆根汁、飲之良。和名、須ゝ支。……原典未確認のため要確認。

（48-8）四聲字苑：古書注参照。

（48-9）本草綱目同：古書注参照。【本草綱目】（国会図書館蔵本KTDB）（第24冊）第44巻、鱗部ニ（鱗之三）魚類三十一種：〔18〕鱸魚｛宋嘉定｝／（釋名）四腮魚｛（時珍曰）黑色曰盧、此魚白質黑章、故名、松人名四鰓魚。｝／（集解）｛（時珍曰）鱸出呉中松江、尤盛、四五月方出、長僅數寸、状微似鱖、而色白、有黑點、巨口細鱗、有四鰓。…以下略。……上記用例に見る如く、「同」は「似[厥]」を指す。「国訳」参照テキストも、「似[厥]」だろう。該当箇所は「形状は[厥]（けい）に徴し似てゐるが、色は白くして黒点があり、…以下略」とする。

〔49〕　[完]　尓’雅集注云、[完]、｛胡本反、上聲之重、亦作_レ[軍]、阿米。｝｛○下総本は「和名」二字がついている。」阿米魚（あめのうお）は、『延喜式』「主計寮」、「内膳司」、「宮内省」式に見える。谷川氏は、「是魚雨日多獲之、故名」と曰う。郝懿行（『爾雅義疏』釋魚）は、「[軍][完]聲同、一読聲転、蓋古今字也、」と曰う。｝

読み下し：　[完]　尓’雅集注（じがしっちゅう）は云う。[完]（こん）。胡本の反にして上聲の重なり。亦た[軍]（こん）に作る。阿米（アメ）。／鱒に似る者なり。／楊氏漢語抄は云う。水鮭。一に江鮭と云う。今案ずるに、本文は詳ならず。

箋注原文テキスト：真名真魚字典：[完]（７画）（[軍]（９画）も[完]に載せた）。

箋注関係条目：〔43〕[生]魚。〔50〕鱒。

：[完]

〔注〕（49-1）尓’雅集注云：古書注参照。「尓’雅」の書体検討は、〔26〕[亶]注（26-56）に載せる。

（49-2）[完]、胡本反：[完]の四声・反切の検討：【廣韻】（五巻・張氏重刊宋本廣韻TDB）：①上聲巻第三：二十五○潸｛數板切。又音柵。一｝○睆｛戸板切。七｝[完]｛魚名。又胡本切｝②上聲巻第三：阮第二十｛混很同用｝：二十○阮｛虞遠切。三｝…二十一○混｛古本切。十六｝[軍]｛魚名｝…○鱒｛説文曰。赤目魚也。。才本切。一｝○[骸〈亥→系〉]｛古本切。十二｝袞…鯀｛説文曰魚也。亦作[玄]｝〔阮韻に[完]は載らない〕③上聲巻第三：旱第二十三｛緩同用｝二十三○旱｛胡笴切｝…二十四○緩｛胡管切。十四｝[爰]…○管｛古滿切。一｝〔旱韻に[完]は載らない〕④去聲巻第四：翰韻に[完]は載らない。：参考：胡：廣韻：上平聲巻第一：｛遇倶｝虞第十｛模同用｝：十○虞｛遇倶切。二十｝…十一○模｛莫胡切。十二｝…○胡｛戸呉切。三十｝

（49-3）上聲之重：じょうしょうのじゅう：前掲〔39〕[反]魚、注（39-2-その２）を見よ。

（49-4）阿米魚：アメノウオ：延喜式：《主計寮上》：①（600p）鮭二斤八両。内子鮭一隻。鮭二隻。…中略…阿米魚各六斤。②（608p）中男作物。…中略…阿米魚鮨。煮塩年魚。《宮内省》：諸国所進御贄（753p）近江。…中略…氷魚。鮒。鱒。阿米魚。《内膳式》：年料（876p）近江国。煮塩年魚二石。鮒。鱒。阿米魚。氷魚。

（49-5）谷川氏：谷川士清（たにがわことすが：１７０９－１７７６）：谷川士清著『倭訓栞』：古書注参照。（上111p）○倭名鈔に[完]をよめり。雨ふる時に多く得る物といへり。今あめのうをと呼り。或は嘉魚なりといへり。湖水に多し。：原文は假名交じり文。エキ齊により、箋注の漢文体に略記された。

（49-6）郝懿行：かくいこう：書名は記されないが、「爾雅義疏」（じがぎそ）であろう。古書名注参照：【爾雅義疏】（芸文印書館本）釋魚第十六：[完]｛今[軍]魚似鱒而大｝／説文[完]魚、不言其状。郭云。今[軍]魚者、[軍][完]聲同、一読聲転、蓋古今字也。陳蔵器云、[完]似鯉、生江湖。李時珍云、有青[完]白[完]、白者味勝、…以下略。：引用部現代語訳は、「[軍]と[完]の声音は同じであり、聲（コン）と読む本の韻で通じ字義を同じくする。ただし、[軍]が古く[完]が新しい字である」となろう。

　　　　　似_レ鱒者也、｛○『爾雅』釈魚は、「[完]」を載せ、「郭璞注」は「今[軍]魚は鱒に似て大」と云う。『説文』は、「[完]、魚名」と云う。エキ斎按う。『證類本草』は、「陳蔵器（餘）」を引用し、「[完]魚は、鯉に似て、江湖間に生ず。」と云う。『本草綱目』は、「集解」「時珍曰」として、（[完]は、）「其の形、長身圓、肉厚くして鬆たり。状は青魚の類である。」と云う。また、「釈名」「時珍曰」として「俗名は草魚、其れ草を食するに因るなり。江閩では、魚を畜する者あり、草を以ってこれを飼う。」と云う。（『爾雅注疏』釋魚は、[完]の条、邢[日/丙]【疏】ケイヘイソとして）「舎人云、鱧一名[完]」と云う。孫炎は（『毛詩注疏』魚麗編の引用文において）、「鱧[完]一魚」と云う。鱧は、『詩経』「魚麗」篇の詩に見える。「毛傳」は、（鱧は）「[同]也」と云う。『説文』は[蠡]に作る。下文に本條（[蠡]）あり。郭氏は、各（それぞれ）一魚となし、鱧をもって[同]となし、「[完]は鱒と似るものとなす」としたのである。則ち、此に引くところの抄文は郭璞の説である。｝

読み下し：　[完]　尓’雅集注は云う。[完]。胡本反にして上聲の重。亦[軍]に作る。阿米（アメ）。／鱒に似る者なり。／楊氏漢語抄は云う。水鮭。一に江鮭と云う。今案ずるに、本文は詳ならず。

箋注原文テキスト：真名真魚字典：[完]（７画）。鱧（13画）。

箋注関係条目：〔43〕[生]魚。〔50〕鱒。

〔注〕（49-7）爾雅釈魚：古書注参照。郭注：郭璞注。

（49-8）【爾雅】（「爾雅注疏十一巻」ＴＤＢ）：[完]：【（郭璞）註】今[軍]魚似鱒而大。｛○[完]、華板切。｝【（邢[日/丙]）疏】（けいへいそ）｛舎人云、鱧一名[完]。郭氏、所不取也。｝

（49-9）説文：古書注参照：①【説文解字】（徐鉉校訂「大徐本」汲古閣本）（WLDB）：[完]：魚名。从魚完聲。戸版切。②（「説文解字注十五巻」TDB）：[完]（篆）：[完]：魚也。｛釈魚鱧[完]也。毛伝同。許、於鱧下云、[蒦]也。不云[完]也。故[完]篆割文異處。蓋其所傳不同。[完][軍]古今字。今人云[軍]子、読如混。多食之。｝从魚完聲｛戸版切。旧音也。十四部。又、胡本切。今音也。音転而形改、為[軍]矣。｝

（49-10）証類本草：古書注参照：【證類本草】（政和本草：WDB）巻第二十巻蟲魚部：陳蔵器餘二十三種：（8-58）[完]魚　無毒。…中略…鯇｛音患｝似鯉、生江湖間。…以下略｝

（49-11）本草綱目：古書注参照：【本草綱目】（国会図書館蔵本KTDB）（第24冊）第44巻、鱗部ニ（鱗之三）魚類三十一種〔5〕[完]魚｛音患○拾遺｝／釈名[爰]魚｛音緩｝草魚。｛時珍曰鯇、又音混。郭璞作[軍]、其性舒緩、故曰鯇、曰鰀、俗名草魚、因其食草也。江閩畜魚者以草飼之焉。｝／集解｛藏器曰鯇、生江湖中似鯉。時珍曰郭璞云、[軍]子似鱒而大、是矣、其形長身圓、肉厚而鬆状、類青魚。有青鯇、白鯇、二色。白者味勝、商人多[邑]之。｝…以下略。

（49-12）舎人云：【爾雅】（「爾雅注疏十一巻」ＴＤＢ）釈魚：[完]：前掲注（49-8）に載せる。

（49-13）孫炎云：「孫炎」（そんえん）は、隋書経籍志「尓雅七巻｛孫炎注｝」、新唐書芸文志「爾雅孫炎注六巻」などに見えるが、散逸し、現在に伝わらず、伝記は不詳、爾雅注疏、毛詩注疏などに、「孫炎曰」として引用される。：【毛詩注疏】（汲古閣刊『十三經注疏』TTＤＢ）巻第九：魚麗于羀魴鱧。｛【毛傅】鱧[同]也。（陸徳明音義略）｝君子有酒多且旨。｛【鄭玄箋】云酒多而此魚又美也。｝｛【孔頴達疏】傅、鱧[同]。○正義曰…中略…｝魚麗于羀鰋鯉。｛【毛傅】鰋鮎也。○【陸徳明音義】略｝君子有酒旨且有。｛【鄭玄箋】云酒美而此魚又有。｝｛【孔頴達疏】傳鰋鮎。○正義曰。釈魚有鰋鮎。郭璞曰。鰋今鰋額白魚也。鮎別名［是］。孫炎以為鰋鮎一魚、鱧[完]一魚。郭璞以為鰋鮎鱧[同]四者各一魚。傳文質略未知従誰。｝…以下略。次注ともに鱧（13画）参照。

（49-14）説文作[蠡]：【説文】（「説文解字十五巻」TDB）（21-7558）（魚部）[蠡]：鮦也。｛正與鮦篆轉注。本艸作蠡魚、…以下略｝

　　　　　楊氏漢語抄云、水[生]、｛一云江[生]、今案本文未詳、｝｛○下総本は、二つの[生]字は、いずれも「鮭」に作る。伊勢廣本も同じである。」　エキ斎按う。近江では、俗に、[完]を謂い、「衣左介となす」なり。即ち「江鮭」なり。｝

抄本文読み下し：　[完]　尓’雅集注は云う。[完]。胡本反にして上聲の重。亦[軍]に作る。阿米（アメ）。／鱒に似る者なり。／楊氏漢語抄は云う。水鮭。一に江鮭と云う。今案ずるに、本文は詳ならず。

箋注原文テキスト：真名真魚字典：[完]（７画）。鱧（13画）。[生]（５画）。鮭（６画）。

箋注関係条目：〔43〕[生]魚。〔50〕鱒。

〔注〕（49-15）楊氏漢語抄：古書注参照。

（49-16）近江、衣左介云々：出典不詳：江州（ごうしゅう）＝近江（おうみ）①前掲注（49-3）延喜式にのる近江のアメウオ。②【本草綱目啓蒙】（東洋文庫４冊）（3-200）（巻之四十、鱗之三、魚類）[完]魚：アメノウヲ　アメ　ミヅサケ｛和名鈔｝　ヱザケ｛同上江州｝〔一名〕草唶魚｛盛京通志｝　白鯖魚｛嶠南雑記｝　江州サツ川ニテ、八月ヨリ十月ニイタルマデ雨後ニトル。形状は松魚（サケ）オヨビ鱒魚ニ似テ、背上尾ニ近クシテ黒甲アリ。鱗細ナラズ。大ナルモノハ長サ二尺ニ至ル。ソノ肉色白シ。又色淡紅ナルモノアリ。鮓トナスモノ、寒中トイヘドモ歯冷ナラズ。其子大サ梧桐（アヲギリ）ノゴトク、色黄赤ニシテ、透明ナリ。人コレヲ賞ス。

（49-17）江鮭：

〔50〕　鱒　七巻食経云、鱒｛慈損反、字亦作［巽］、｝｛○下総本は、（「慈損反」の三字は、）「音撰」に作る。伊勢廣本も同じである。」エキ斎按う。『廣韻』は「鱒、才本の反切」と云い、「鱒」字は、（上聲）二十一混韻にあり、（韻鏡三十六字母における）従母に属す。慈損（を反切とし）二十一混にある字は、精母に属す。（［巽］を配する）「撰」は、（上聲）二十八獮（セン）にあり、（韻鏡三十六字母における）牀母（ショウボ）に属す。（慈損の反切、［巽］の）いずれも、『廣韻』（鱒）に合っていない。｝

抄本文読み下し：　鱒　七巻食経は云う。鱒。慈損の反。字亦［巽］に作る。／一名赤目魚。万須。／兼名苑は云う。一名［必］。音は必。[軍]に似て、赤目の者なり。

箋注原文テキスト：真名真魚字典：鱒（12画）：[完]（７画）。鱧（13画）。[生]（５画）。鮭（６画）。

箋注関係条目：〔43〕[生]魚。〔49〕[完]。〔50〕鱒。

〔注〕（50-1）本條は鱒字を音韻学において中古音の解明に当てようとしているものといえそうだが、難解であり、記載字句の読み方を示すのみで、抄本文にたいするエキ齊箋注が意味するもの、評価についてまでは、訳注者が触れる知識を持たない。

（50-2）七巻食経：食経：古書注参照。

（50-3）「鱒、慈損反」の検討（１）：①【説文解字】（徐鉉校訂「大徐本」汲古閣本）（WLDB）：鱒：赤目魚。从魚尊聲。慈損切。／②【説文】（「説文解字注十五巻」經韵樓蔵版）（WLDB）鱒：赤目魚也。｛見豳風。釋魚曰鮅鱒、毛傳曰、鱒大魚也。陸璣、郭樸皆云、鱒似[軍]赤眼。｝从魚尊聲｛慈損切。十三部。｝。③【玉篇】（大廣益会玉篇三十巻・張氏重刊宋本玉篇）（TDB）（2行目）：鱒｛慈損切。赤目魚。｝

（50-3-その２）「鱒、慈損反」の検討（２）：〔49〕[完]注（49-2）再掲：【廣韻】（五巻・張氏重刊宋本廣韻TDB）：①上聲巻第三：阮第二十｛混很同用｝：二十○阮｛虞遠切。三｝…二十一○混｛古本切。十六｝[軍]｛魚名｝…○鱒｛説文曰。赤目魚也。。才本切。一｝②去聲巻第四：｛魚怨｝願第二十五｛慁恨同用｝：二十五○願｛魚怨切。四｝…二十六○慁｛胡困切。四｝…○巽｛蘇困切。六｝…○鐏｛徂悶切。五｝鱒｛魚名。又魚入泥。｝：「広韻」鱒の反切に「慈損」は見えない。

（50-3-その３）広韻、上聲に含む「慈損切」は、見ないが、次〔注〕以降に見る、【韻鏡】混韻、鱒を含む歯音、1等清に、第６小韻[割（害→尊）]：「噂」に「茲損切」が載る。

（50-4）在二十一混属従母：『韻鏡』「韻図」の「四十三転」図および「三十六字母」の配置を示している。①「二十一混」は、鱒の反切検討（２）でしめした、四聲「上聲」の２１番目の「混」（古本切：コン）韻に存する第９番目の小韻が「鱒（才本切）」である、を示す。②「属従母」は、「従母に属する」であり、「従母」（じゅうぼ）とは、何か。『韻鏡』の韻図（４３転と呼ばれる４３枚の図）に示された、反切上字の声母（略記すれば、鱒であればソン・ゾンのソ・ゾ）を、「韻母と声調」の特長によって、３６の字母を各韻図一枚ごとに、升目に配置して、一字一字の音をあらわしている。その字母のうち「従」によって示された配当された升目の「場」を「従母」とした。それでは、どのような配当関係にあるのかというと、４３枚の転図のうち、「外転第十八合」（詳細は別に広韻、韻鏡の読み方を記す。第１８番目の転図である）に含む、上聲、第二十一混韻（一等横列）のうち、「歯頭音：濁（縦列）」が「従」の字母の場所であり、この「従母」に属する字のグループのうち一つが「鱒（才本切）」（たまたまだが、このグループは鱒という字１字）である。現在の声母の呼び方では、上聲「鱒（才本切）」は「18転・１等合口・歯頭音・濁・従母」に属するということになる。エキ齊は、この三十六字母の配当関係を「在二十一混属従母」と書いた。いちおう、このように読むということを示すために、めんどうなようでも、前掲注（50-3）（その１～３）を前提に整理して示してみた。

（50-5）慈損在二十一混属精母：前掲注（50-3-その３）に見たように、抄本文の「慈損」の反切の該当字として、「広韻」「集韻」に鱒はない。そして、鱒が属する上聲第二十一混韻のグループに含まれる、第６小韻[割（害→尊）]の反切は、「茲損」である。「茲」は、反切上字「慈」（平聲之韻第二十小韻）の５字に含む。エキ齊は、この[割（害→尊）]の韻図の位置を「慈損在二十一混属精母」として示したのである。つまり、「18転・一等合口・歯頭音：清」であり、鱒と同じ１等列、右横に一字おいた二つ目の位置にある。ただし、「広韻」においては「鱒」字に「慈（茲）損」は「不韻合」としたのである。

（50-6）撰在二十八獮（セン）属牀（ショウ）母：次に、エキ齊は、鱒「亦作［巽］」と抄本文にある「［巽］」を検討する。［巽］字の変わりに「獮韻第35小韻　撰」を代表字として検討をした結果が「撰在二十八獮（セン）属牀（ショウ）母」であり、前掲注と同様に示せば、①［巽］：【廣韻】（五巻）上聲巻第三：｛息淺｝第二十八：二十八○獮｛息淺切。十三｝…○撰｛士免切。五｝［巽］｛魚名｝②「外轉第22／24合口・三等・歯頭音・濁・牀（ショウ）母」となる。：前掲注（50-5）と同様、広韻においては「鱒」字と「［巽］」は「不韻合」としたのである。

　　　　一名赤目魚、｛万須、｝｛○『本草和名』同字句を引く。エキ斎按う。『説文』は、「鱒、赤目魚」と云う。『食經』は蓋し此れを本（もと）としているのだろう。（倭名類聚抄）各本は、いずれも「目」字が脱けている。『類聚名義抄』『伊呂波字類抄』も同じである。今『本草和名』により（「目」字を）増した。下総本には、「和名」二字がついている。「万須」と読んだのは、輔仁（『本草和名』の「末須」）によるものであろう。また、『新撰字鏡』も同じ訓みを与えている。｝

箋注原文テキスト：真名真魚字典：鱒（12画）：[完]（７画）。鱧（13画）。[生]（５画）。鮭（６画）。

箋注関係条目：〔43〕[生]魚。〔49〕[完]。〔50〕鱒。

〔注〕（50-5）本草和名引：古書注参照：【本草和名（寛政版）】鱒魚｛［組（糸→金）］巻反。｝一名赤目魚、赤目鱒｛出七巻食経。｝一名［必］｛音必。出兼名苑。｝和名、末須。

（50-6）説文：古書注参照：①【説文解字】（徐鉉校訂「大徐本」汲古閣本）（WLDB）：鱒：赤目魚。从魚尊聲。慈損切。②【説文】（「説文解字注十五巻」經韵樓蔵版）（WLDB）鱒：赤目魚也。｛見豳風。釋魚曰鮅鱒、毛傳曰、鱒大魚也。陸璣、郭樸皆云、鱒似[軍]赤眼。｝从魚尊聲｛慈損切。十三部｝。

（50-7）各本脱目字：①２０巻本：（那波道圓本）：巻第十九：鱒：七巻食経云、鱒｛慈損反。｝一名赤魚｛和名、萬須。｝②１０巻本（下総本：ＷＬＤＢ写本参照）七巻食経云、鱒｛音撰。今按作［巽］、一名赤魚、和名万須｝兼名苑…以下略。③１０巻本（松井本：『古辞書叢刊　和妙類聚抄十巻本』静嘉堂文庫蔵版）：鱒：七巻食経云、鱒｛慈損反。｝一名赤魚｛万須。｝…以下略。

（50-8）類聚名義抄：古書注参照：【類聚名義抄(観智院本)】（僧下七）（6～7）鱒｛⊥巽。マス。／ウルハシ。メアカシ。ナヽコ。｝［巽］｛亦｝

（50-9）伊呂波字類抄：古書注参照：【伊呂波字類抄】（十巻本・日本古典全集第三期）（六―末）（動物）鱒｛マス。亦乍［巽］｝　赤魚　［必］　鱒魚　赤鼻　赤目魚　赤目鱒｛出七巻食経。已上マス。｝

（50-10）新撰字鏡同訓：古書注参照：【新撰字鏡(享和本)】（群書類従本も同）巻九魚部第八十七（521-6）　鱒｛徂夲反。上。万須。｝……「上」は上聲。

　　　　兼名苑云、一名［必］｛音必、｝似［軍］而赤目者也、｛○エキ斎按う。『爾雅』「［必］鱒」を載せる。「郭注」は「似[軍]子赤眼」と云う。『毛詩』（もうし）「国風」（こくふう）「九罭」（きゅういき）篇に、「毛伝」は、「鱒大魚也」と云う。『兼名苑』の注は、蓋し、此を本（もと）としている。『爾雅翼』は、「鱒魚、目中赤色一道横貫瞳、今俗人謂此赤眼鱒、食螺蚌、多祗獨行、亦有兩三頭同行者、極難執、見網輒遁、」と云う。また、『本草綱目』は、「李時珍曰」として、「鱒魚處々有之、状似[軍]而小、身圓而長、鱗細于[軍]、青質、」と云う。『本草和名』の引用には、「似[軍]」以下の七字がない。疑うらくは、是れは、『兼名苑』の注文なのだろうか。｝

箋注原文テキスト：真名真魚字典：鱒（12画）：[完]（７画）。鱧（13画）。[生]（５画）。鮭（６画）。

箋注関係条目：〔43〕[生]魚。〔49〕[完]。〔50〕鱒。

〔注〕（50-11）兼名苑：古書注参照。

（50-12）①【爾雅】（「爾雅注疏十一巻」ＴＤＢ）［必］鱒【註】似[軍]子赤眼｛○［必］音必、才損切｝。【疏】｛［必］一名鱒、詩云。九罭之魚鱒魴。陸機云。鱒於[軍]赤目是也。｝

（50-13）【爾雅翼】（古今圖書集成：故宮博物院典藏雍正四年銅字活版本テキストDB参照）鱒魚、目中赤色一道橫貫瞳、魚之美者、今俗人謂之赤眼鱒、其音乃如蹲踞之蹲、食螺蚌、多祗獨行、亦有兩三頭同行者、極難執、見網輒遁、詩、稱九罭之魚鱒魴鱒、既如此魴、則説苑所謂若存、若亡、若食、若不食者也、周公有聖德、遭時之未信退避于東、有難進易退之操、故以鱒魴言之。

（50-14）本草綱目：古書注参照：【本草綱目】（国会図書館蔵本KTDB）（第24冊）第44巻、鱗部ニ（鱗之三）魚類三十一種〔４〕鱒魚｛綱目｝：（釋名）［必］魚｛必｝。赤眼魚。｛（時珍曰）説文云、鱒鮅赤目魚也。孫炎云、鱒好獨行尊而必者故字從尊從必。｝／（集解）（時珍曰）處處有之、状似[軍]而小、赤脈貫瞳、身圓而長、鱗細于[軍]、青質赤章、好食螺蚌、善于遁網。

（50-15）疑是兼名苑注文：兼名苑の注文には、なかったのではないのか、という疑問を書いている。

〔51〕[免]　唐韻云、[免]、｛音免、弁色立成云、[免]邇倍、一云久知、｝｛○『新撰字鏡』は、

を爾戸（ニベ）と訓む。｝

　　魚名也、｛○『廣韻』も同じ（く「魚名」という）。『説文』は「[免]、[免]魚也」という。『玉篇』は「[免]、魚名」という。（唐韻編者）孫(愐)氏は、蓋し之に依ったのだろう。『説文』段玉裁注は、「隋の煬帝は四方に貢ものを責_（もと）めた。豊富な海産物（海錯幾盡）の貢物のなかでも、[免]魚は一番人気とされた。今の江浙人が食する、海産物である〈黄花魚〉は、之の魚を乾し、〈白鯗〉と為したものが、即ち此の[免]である。一名〈石首魚〉という。首中に二つの石を含み持つ。」と曰う。『文選』「江賦」注に。『字林』を引き、「

魚、（南海に出ず）頭中に石有り、一名石首」という。然り、則ち、此の魚は、又の名は

である。段氏の説によると、「[免]魚即ち

魚」である。源君は、（

と[免]の）二條に分けたが、これは、非とするものだろう。但し、久知（くち：ぐち）には_、白（くち）と黒（くち）の二種がある。白のほうは、大きさが一尺に満たず、これを「白久知（しろくち）」と謂う。又、「以之毛知（いしもち）」と呼ぶ。黒のほうは、大きさ四、五尺になり、これを「邇倍（ニベ）」と呼ぶ。漢名では、これらを分別していない。

文読み下し：[免]（めん）　唐韻（とういん）に云う。[免]、音免。弁色立成に云う。免、邇倍（にべ）。一に云う、久知（くち：ぐち）。／魚名なり。

箋注原文テキスト：真名真魚字典：[免]（７画）。[椶-木]（９画）。

〔注〕（51-5）廣韻：古書名注：廣韻五巻・張氏重刊宋本廣韻（TDB）上聲巻第三、二十七○銑｛蘇典切｝→二十八○獮｛息淺切｝…○免｛亡辯切。八｝[免]｛魚名｝

（51-6）説文：【説文】(｢説文解字十五巻｣TDB)（60-7597）：[免]：[免]魚也。{段注隋煬責二貢四方、海錯幾盡、首曰[免]魚、今江浙人所食、海中黄花魚、乾之為白鯗、即此魚也、一名石首魚、首中有二石、出薉邪頭国者、蓋許根據所見載籍言之、江賦[椶－木]鮆順時而往還、注云、字林曰、[椶－木]魚出南海、頭中有石、一名石首。然則此魚又名[椶－木]、南海又有之、｝出薉邪頭国｛段注薉邪頭国、穢貊也｝从魚免聲｛亡辨切。古音在十三部。｝

（51-7）【玉篇】（大廣益会玉篇三十巻・張氏重刊宋本玉篇）（TDB）（2-02）[免]｛眉辯切。魚名。｝

（51-8）孫氏：唐韻撰者、孫愐（そんめん）。古書名注。

（51-9）段玉裁曰：説文段玉裁注。いわゆる「段注」のこと。前掲注（51-6）を見よ。

（51-10）海錯幾盡：「海錯」（かいさく）は種類が多く豊な海産物【学研新漢和大字典】。「海物惟錯類」「鱗介之品、山海錯雑」と、明の堵本畯「閩中海錯疏」序で書く。

（51-11）①黄花魚（こうかぎょ。くわうかぎょ）：②白鯗（はくしょう。はくしやう。）：[免]＝石首魚の干魚。イシモチ・ニベの類の加工製品については、[免]（７画）において、『清国水産弁解』（山本由方著。1886年）引用テキストを参照されたい。

（51-12）【本草綱目】（国会図書館蔵本KTDB）（第24冊）第44巻、鱗部ニ（鱗之三）魚類三十一種〔12〕（24-44-39）石首魚｛宋海寳｝／（釈名）石頭魚｛嶺表録｝[免]魚｛音免○拾遺録｝江魚｛浙志｝黄花魚｛臨海志｝乾物名鮝魚｛音想亦作[養]○（時珍曰）鮝、能養人人恒想之、故字從養。羅願云、諸魚薨乾皆為鮝。其美不及石首、故獨得專稱以白者為佳、故呼白鮝、若露風則変紅色失味也。｝／（集解）｛（志曰）石首魚、出水能鳴夜視有光、頭中有石、如碁子。一種野鴨頭中有石、云是此魚、所化。（時珍曰）生東南海中其形如白魚、扁身弱骨細鱗黄色、如金首、有白石二枚、瑩潔如玉、至秋化為冠鳧、即野鴨有冠者也。腹中白鰾可作膠。臨海異物志云。小者名[鰌(魚→足)]水、其次名春來、田九成遊覧志云、毎歳四月来自海洋、綿亘数里、其声如雷、海人以竹筒探水底聞其声、乃下網截流取之、溌以淡水、皆圉ヒ〔々の略？要確認〕無力初、水来者甚隹二水三水来者、魚漸小而味漸滅失。｝／（付録）墨頭魚｛（時珍曰）四川嘉州出之、状類[軍]子長者及尺其頭黑如墨、頭上有白子二枚、又名北斗魚、常以二三月出漁人以火夜照乂〔？要確認〕之。｝／肉（気味）甘、平、無毒。（主治）合蓴菜作羹開胃益気｛海寳｝／鮝（主治）炙食能消瓜成水、治暴下痢、及卒腹不消｛海寳｝。消宿食主中悪鮮者不及｛張鼎｝／（発明）…以下略。注：①「圉ヒ」のヒは？＝何度か記事中に出てくる。いわゆる踊り字（繰り返し記号）で、「々」と同じだろう。②「乂」ガイ＝刈と同じだろう。

（51-13）文選江賦注：江賦（こうのふ）は、郭璞(276～324。景純。）の長江を主題とした賦であり、李善の注に、揚子江の「川瀆之美」を、東晋の隆盛を背景に歌ったもの。古書注参照。「魚則江豚徒昆海[犭奇]、叔鮪王鱣。云々」と、長江に、魚や奇怪な姿顔立ちをした水生動物たちが波に乗って輝くように躍動する様子を歌い、その最後に、次の詩句が載る。「介鯨乘濤以出入、[椶－木]鮆順時而往還。」李善注は、「爾雅曰、介、大也。字林曰、[椶－木]魚、出南海、頭中有石、一名石首。郭璞山海經注曰、鮆、狹薄而長、頭大者長尺餘、一名刀魚、常以三月八月出、故曰順時。」と云う。

（51-14）段氏の説：前掲注（51-6）。

（51-15）二條：この[免]の條と、〔22〕[椶－木]の條。

（51-16）白と黑：【本草綱目啓蒙】（東洋文庫４冊）（3-211）（巻之四十、鱗之三、魚類）[椶－木]魚　詳ナラズ。／石首魚：ニベ　ソコニベ｛雲州、備前｝〔一名〕元鎮｛水族加恩簿｝　新美舎人｛同上｝　黄魚｛事物異名｝　王魚｛同上｝　黄爪｛閩書｝　金鱗魚｛同上｝　[皇]魚｛典籍便覧｝　菩薩魚｛雨航雑録｝　免魚｛通雅｝　[免]｛正字通｝　[敏/魚]｛同上同字｝／海産ナリ。形状ハ略鯉魚ニ類シテ、狭長シ。鰭ナガク、鱗細ク、頭短ク小ニシテ、尾ニ岐ナシ。肉脆ク脂少シ。小ニシテ二三寸ナルヲ、イシモチ｛同名アリ｝ト云、味美ナリ。又ウバグチ｛筑前｝、シログチ｛駿河｝ト云。コレ[鰌(魚→足)]水ナリ。一名梅首｛雨航雑録｝梅童｛同上｝梅魚｛大倉州志｝黄梅魚｛福州府志｝大頭魚｛同上｝ソノ長サ七八寸ナルモノハ、味イシモチニツグ。コレヲ、クチト云、グチ｛筑紫、予州｝又オキアヂ｛雲州｝ト云。春中多ク貨。是、春来ナリ。一名[某]魚｛雨航雑録｝鰌魚｛同上｝[毎]｛通雅｝黄花魚　黄霊魚　小石首魚｛共ニ同上｝　ソノ大ナルモノヲ、ニべト云。一名ヌベ｛四国｝ソヂ｛同上｝ソコニベ｛備前｝長三尺バカリ。大和本草ニハ四五尺、六七尺ト云。…以下略

　　　　　又、エキ齊按う。『開寳本草』は、「石首魚は、頭中に石あり。それは碁子のごとし。乾して之れを食すことから、名を鮝となす。初めて水より出るとよく鳴く。夜に観ると光あり。」と云う。『爾雅翼』は「臨海異物志」を引き、「小さいものは、名を〈[鰌（魚→足）]水〉、其より大きくなったものの名は〈春來〉」という。（『本草綱目』は、）「李時珍曰」として「石首魚は、拾遺録に[免]魚、臨海志に黄花魚と載り、東南海中に生ず。其の形は白魚のようであり、扁（ひらた）い身をしていて骨は弱い。細（こまか）な鱗は、黄色く、金（こがね）のような輝きを放つ。首のあたりに白石が（対になって）二枚あり、瑩潔（えいけつ）にして玉のごとし。腹中の白鰾（うきぶくろ）から膠（にかわ）を作る。」という。小野（蘭山）氏は（『本草綱目啓蒙』において）、「二、三寸の大きさのもは、以之毛知（いしもち）と名づく。是れ、[鰌（魚→足）]水なり。七、八寸、久知と名づく。是れ春來なり。大は、邇倍となづく、長さは三尺ばかり、」という。

箋注原文テキスト：真名真魚字典：[免]（７画）。[椶-木]（９画）。

〔注〕（51-17）開寳本草：古書注参照：「本草綱目」石首魚｛宋海寶｝からの引用である。前掲注（51-12）参照。

（51-18）小野氏曰：古書注参照：【本草綱目啓蒙】（東洋文庫４冊）（3-211）（巻之四十、鱗之三、魚類）[椶－木]魚　詳ナラズ。／石首魚：ニベ　ソコニベ｛雲州、備前｝〔一名〕元鎮｛水族加恩簿｝　新美舎人｛同上｝　黄魚｛事物異名｝　王魚｛同上｝　黄爪｛閩書｝　金鱗魚｛同上｝　[皇]魚｛典籍便覧｝　菩薩魚｛雨航雑録｝　免魚｛通雅｝　[免]｛正字通｝　[敏/魚]｛同上同字｝／海産ナリ。形状ハ略鯽魚（フナ）ニ類シテ、狭長シ。鰭ナガク、鱗細ク、頭短ク小ニシテ、尾ニ岐ナシ。肉脆ク脂少シ。小ニシテ二三寸ナルヲ、イシモチ｛同名アリ｝ト云、味美ナリ。又ウバグチ｛筑前｝、シログチ｛駿河｝ト云。コレ[鰌(魚→足)]水ナリ。一名梅首｛雨航雑録｝梅童｛同上｝梅魚｛大倉州志｝黄梅魚｛福州府志｝大頭魚｛同上｝、其ノ長サ七八寸ナルモノハ、味イシモチニ次グ。コレヲ、クチト云、グチ｛筑紫、予州｝又オキアヂ｛雲州｝ト云。春中多ク貨〔ウ〕ル。是、春来ナリ。一名[某]魚｛雨航雑録｝鰌魚｛同上｝[毎]｛通雅｝黄花魚　黄霊魚　小石首魚｛共ニ同上｝　其ノ大ナルモノヲ、ニべト云。一名ヌベ｛四国｝ソヂ｛同上｝ソコニベ｛備前｝長三尺バカリ。大和本草ニハ四五尺、六七尺ト云。カ夕チ方頭魚（アマダイ）ニ似テ、長シ。背ハ紅ト淡黑トノ斑点アリテ、腹ハ黄色ナリ。イシモチ及クチノ淡黄白色ナルニ異ナリ。ニベハ六月ニ食フ。味佳ナリ。全文は、[免]（７画）参照されたい

〔52〕　鯰　　崔禹食經云、鯰、｛奴霑反、奈末豆、漢語抄用_二［訴（言→魚）］字_一、所_レ出未_レ詳、｝｛○下総本には、「和名」二字がある。」『集韻』の「鮎一音女廉反」は、、抄本文に云う「奴霑反」と、字は異なるが音は同じである。［斥］字は、伊勢廣本に同じ。『伊呂波字類抄』は［片’］に作り、下総本では［行］に作る。『新撰字鏡』『類聚名義抄』も同じく［行］に作る。那波道圓本は、［片］に作る。恐らくいずれも訛字であろう。奈萬豆（ナマズ）は、深根輔仁の『本草和名』を典拠とし、『新撰字鏡』も同じ訓みを与えている。｝

抄本文読み下し：　鯰　崔禹食経は云う。鯰。奴霑反。奈末豆。漢語抄は、［斥］字を用ゆ。所出未詳。

箋注原文テキスト：真名真魚字典：鯰（８画）。参考：[夷]（６画）。

箋注関連條目：〔57〕鮎。〔58〕[是]。

〔注〕（52-1）崔禹食経：古書注参照。

（52-1-その２）漢語抄：古書注参照。

（52-2）「奴霑反」の検討①：集韻：古書注参照：【集韻】（WDB：光緒2[1876]棟亭本の重刻）第４冊：平聲巻４：盬第二十四｛余廉切。與沾厳通｝沾第二十五｛他兼切｝：二十四○盬[鹵/皿][土(鹵/皿)]｛余廉切。｝…○霑｛知廉切。文四｝…○黏粘溓｛尼占切。…文九。｝鮎｛魚名｝／二十五○沾｛他兼切。文十一｝添…○鮎｛奴兼切。魚名。説文[日/女]也。文三。｝：「集韻」に「鮎一音女廉反」はない。また、「一音」を省いた「女廉反」（女廉切）の反切表記もない。但し、「尼」は平聲「脂韻」第11小韻「女夷切」であり、また「占」は、「霑」とともに「盬韻」に含まれる。その２「広韻」の例を見よう。

（52-2-その２）「奴霑反」の検討②：【廣韻】（五巻・張氏重刊宋本廣韻TDB）下平聲巻第二：｛余廉｝盬第二十四｛添同用｝／｛他兼｝添第二十五：二十四○盬｛余廉切。十五｝塩｛俗｝…○詹〔セン〕｛職廉切。六｝占…○黏｛黏麹。女廉切。三｝粘｛俗｝…○霑｛張兼切。三｝沾｛他兼切。｝／二十五○添｛他兼切。四｝沾…○[髟/兼]〔レン〕｛勒兼切。六｝○兼〔ケン〕｛古甜切。七｝…○鮎｛魚名。奴兼切。三｝：つまり、「集韻、」は「広韻、」とすべきであり、自筆稿の誤まりか、活字版制作段階の誤まりか、要確認。いずれにしても、広韻を基本準拠としている反切記載にあって、あえて集韻に求めた理由があるのなら、それも要確認事項とする。

（52-2-その３）「奴霑反」の検討③：参考に、「念」を広韻に引く：【廣韻】（TDB）去聲巻第四：｛以贍｝豔第五十五｛[木忝]釅同用｝：五十五○豔｛以贍切｝艶｛俗｝…盬｛以盬醃也。本音平聲。｝…○占｛章豔｝／五十六○[木忝]｛他念切。｝…○念｛奴店切｝

（52-3）伊呂波字類抄：以下（７）まで鯰（８画）に字形画像を載せる。古書注参照。

（52-4）類聚名義抄：鯰（８画）。

（52-5）那波本：鯰（８画）【倭名類聚鈔】（那波道圓本）：右画像○＝[片]大きな画像にリンク。

（52-6）恐並訛：おそらく、何れの字体も、書写に際して略記・誤記等によって異体字化した字体であろう。「譌」＝「訛」だが、箋注においては、象形、会意、形声など六書造字法（あるいは、それに準じた造字法）によらず、誤写、省略、かって読み等によって生れるナマリ字体という意味をもって使っている。

（52-7）輔仁：深根輔仁「本草和名」：①【本草和名（寛政版）】鯰｛奴沾反。貌’似［追］而、大頭出崔禹。｝和名、奈末都。②同：［夷］魚｛仁諝音、帝。｝、一名［是］魚｛音題。｝、一名鮎魚｛仁諝音、奴兼反。已上二名出陶景注。｝、一名黄頬、一名［弟］｛音啼。已上二名出兼名苑。｝、［護（言→魚）］魚｛仁諝音、胡麦反。｝、［化］魚｛仁諝音、五廻反。｝、又、有人魚膏、名人膏｛秦始皇帝冢中用之、已上三種出陶景注。｝、一名［帝］｛達鶏反。｝、鮎｛崔禹云、春生夏長秋衰冬死。｝、一名［要］｛已上二名出兼名苑。｝。和名、阿由。〔頭注〕按本草鮠五回反。此［魚＋化］乃鮠乃訛。：鯰（８画）。[夷]（６画）。に画像テキスト全文載せる。

（52-8）新撰字鏡：古書注参照：①【新撰字鏡(天治本)】魚部第八十七：小学篇（５２４―４）[都]{奈万豆}／鯰{奈万豆}／[行]｛上同。｝②同（享和本）鯰{奈万豆。[行]上同。｝③同（群書類従本）鯰｛奈万豆。｝[片]｛上同。｝

（52-9）前注を整理してみると、①→②→③という書写の順を想定することができる。参考に、さらに推測してみると、①の[都]の「都」は、本草和名に見える「奈末都」の「都」をとり、訓みを「奈末豆」にしたものか。次セクション以降を参照されたい。

【類聚名義抄(観智院本)】

【伊呂波字類抄】（十巻本・日本古典全集第三期）

【倭名類聚鈔】（那波道圓本）

【本草和名（寛政刊・古典全集本）】[夷]魚條一部画像

　　　貌似［頤－頁］而大頭者也、｛○『本草和名』の引用には「者也」の二字は無い。エキ齊按う。鯰の字は、（漢籍）諸書には載っていない。『爾雅』「郭注」は、「鮎別名［是］。江東通呼鮎為［夷］」と云う。『詩経』魚麗篇「毛傳」は、「［匽］鮎也」と云う。『説文』は、「［日/女］、鮎也」「［匽］、［日/女］或从匽」、「鮎、［日/女］也」と云う。『證類本草』は、［夷］魚の條で、「陶隠居云」を引いて、「此是［是］也、即是鮎魚」という。また、同じく「唐本注」（蘇敬）を引いて、「［夷］魚一名鮎魚」と云う。また、同じく「本草図経」（「図經曰」）は、「［夷］魚、今、江浙’多有之、大首方口、背青黒無鱗、多涎」と云う。この魚は、［日/女］という名であり、又の名を鮎、又の名を［夷］、又の名を［是］であることがわかる。『爾雅翼』は、「［夷］魚」、偃額、両目上陳、頭大、尾小、身滑、無鱗。謂之鮎魚、言其黏滑也」と云う。「醫家千字文注」は、郭知玄を引用して「青く黄色で、鱗はなく、大きな口で尾は薄べったい」と云う。孫愐（唐韻）は「無鱗而滑、然則以偃額名［匽］、以黏滑名鮎、（無鱗にして滑るような肌合いで、偃額を以て［匽］と名づけられ、黏滑であることをもって鮎と名づけられた）」と云う。

読み下し：　鯰　崔禹食経は云う。鯰。奴霑反。奈末豆。漢語抄は、［斥］字を用ゆ。所出未詳。／貌（かおかたち）は、［イ］魚に似て、大頭ある者なり。

箋注原文テキスト：真名真魚字典：鯰（８画）。鮎（５画）。参考：[夷]（６画）。

箋注関連條目：〔57〕鮎。〔58〕[是]。

[夷]｜

[是]｜

[弟]｜

[妟]｜

[匽]｜

〔注〕（54-10）本草和名：前掲注（52-6）の①参照。

（52-11）鯰：いわゆる国字である。

（52-12）爾雅郭注云：古書注爾雅参照。：【爾雅】（「爾雅注疏十一巻」ＴＤＢ）：鮎【註】別名［是］。江東通呼鮎為[夷]。【疏】｛郭氏云。別名［是］。江東通呼鮎為[夷]。案、此経鯉[亶][匽]鮎、舍人曰。鯉一名[亶]。孫炎曰。[匽]一名鮎。則是舍人以鯉[亶]為一魚。孫炎以[匽]鮎為一魚。郭氏以為四魚者。如陸璣之言、又以時語験之、則鯉鮪[亶]鮎、皆異魚也。故郭氏云。先儒及毛詩訓傳、皆謂此魚有両名、今此魚種類、形状有殊、無縁強合之為一物、是郭氏所以異也。｝

（52-13）説文：古書注参照：【説文】（「説文解字注十五巻」TDB）：①（50-7587）鮎：[妟]也。｛釋魚及魚麗傳曰。[匽]鮎也。孫炎云。[匽]一名鮎、郭別[匽]鮎為二非也。｝从魚占聲。｛奴兼切。七部。｝／②（51-7588）[妟]：鮀也。｛謂之[妟]者以其偃額也。偃者仰也。玉裁按。鮀也。乃鮎也。之誤妄所改也。｝从魚妟聲。｛於幰切。十四部。｝/（51-7588-2）[匽：篆體] 或从匽。｛今經典皆如此作。｝／③―A（大徐本：右画像）[弟]（篆）｛大鮎也。从魚弟聲。杜兮切｝／③-B【説文】（「説文解字注」經韵樓蔵版）（WLDB）（52-7589）[弟]：大鮎也。从魚弟聲。｛此字詩爾雅釋文廣韵作[夷]。从夷。文選蜀都賦及玉篇作[弟]。未知孰是、以夷弟、篆體易譌也。山海經傳曰。今亦呼鮎為[帝]。字林曰。青州人呼鮎[是]。郭注爾雅曰。鮎別名、[是]江東通呼鮎為[夷]。蓋[弟][是][帝]三形一字同。大兮反而[夷]則別一字別一音、不當合而一之。杜兮切。十五部。｝

（52-14）證類本草：古書注参照：【證類本草】（政和本草：WDB）巻第二十巻蟲魚部（上品）：[夷]｛音夷又音題｝魚　味甘、無毒。主百病。｛陶隱居云。此是[是]（音題）也。…中略…唐本注《＝蘇敬》云。[夷]魚、一名鮎魚、一名[是]魚。主水浮腫、利小便也。…中略…／圖經曰｛[夷]（音夷又音題）魚、舊不著所出州土。今江浙多有之、大首方、口、背青黑、無鱗、多涎。…以下略。……全文は鯰（８画）。

（52-15）爾雅翼：古書注参照：テキストは「（古今圖書集成：故宮博物院典藏雍正四年銅字活版本テキストDB）より」「後日原本要確認」：【爾雅翼】（釈魚）：[夷]魚、偃額、両目上棟、頭大、尾小、身滑、無鱗。謂之鮎魚、言其黏滑也。一名[是]魚。此魚及鰌[單]之類皆謂之無鱗魚。食之蓋不益人。孟子称、縁木求魚不得魚。今鮧魚善登竹、以口銜葉、而躍於竹上、大抵能登高。其有水堰處、輙自下騰上、愈高遠而未止。諺曰、鮎魚上竹、謂是故也。或曰、口腹倶大者名[蒦]背青口小者名鮎、口小背黄腹白者名鮠、一名河[犭屯]、今有黄顙魚與[夷]相類、但[夷]白而彼黄爾。

（52-16）医家千字文注：惟宗時俊著。永仁４年（1296）成立。『続群書類従』３１に載るので要確認。未見。

（52-17）孫愐：「唐韻」編撰者：「無鱗而滑、云々」出典不詳。要検討。

【説文解字】（徐鉉校訂「大徐本」汲古閣本）（WLDB）

[頤-頁]：[イ]：

　後に俗に、諧聲の造字法によって「鯰」という字を作ったのであろう。なお、この魚の黏滑は、「鼻洟」に似ている故に［夷］と名づけた。また後に俗に、「題」の「声」をあらわす「声符」「是」に省き、魚ヘンの［是］字を作ったのである。「鮎」は「奴兼」の反切、一音に「女廉」の反切であり、これは「黏（ネン）」（の反切表示）と同じであり、「職廉」の反切を音としない。［夷］、［是］はいずれも、「杜奚」の反切であり、これは「題」と同じであるが、「以脂」の反切を音としない。以上の記述から証されたというべきであろう。今本の『説文』に云う「从弟」（の字）は恐らく誤りであろう。

　　　　　　　　また、エキ齊按う。『食経』にいう「貌似

者」、つまり、下の條（鯰の次に載る「

」條）で、「伊之布之」（イシブシ）と訓むものは、「［侯］

（コウイ）ではない。伊勢廣本は、

は［追］に作る。『本草和名』も同じ。｝

箋注原文テキスト：真名真魚字典：鯰（８画）。鮎（５画）。参考：[夷]（６画）。[イ]（６画）。

箋注関連條目：〔57〕鮎。〔58〕[是]。

：［頤－頁］

（52-18）「以脂」「杜奚」反切の検討：①[夷]（0631）：【廣韻】（五巻・張氏重刊宋本廣韻TDB）（一）イ：上平聲巻第一：五○支｛章移切。｝／六○脂｛旨夷切。｝……○姨｛以脂切。二十六｝…夷…[夷]｛鱁鮧塩蔵魚腸、又魚名也。｝

　　　②テイ・ダイ：上平聲第一：十二○齋｛徂奚切｝…○嗁｛杜奚切。六十｝啼[口弟] ｛並上同｝…題…[帝]｛魚四足者｝…[弟]｛大鱧｝…[夷]｛鮎也｝[是]｛上同｝…○奚｛古雞切｝

　　　③シ・ジ：集韻：（WDB）平聲一：五○支｛章移切｝六○脂｛蒸夷切｝…○茨｛才資切。二十八｝…[夷]｛魚名。鮎也。広東語。｝

（52-18-その２）[弟]（7画）の検討：①テイ・ダイ：【廣韻】（五巻・張氏重刊宋本廣韻TDB）上平聲巻第一：十二○齋｛徂奚切｝…○嗁｛杜奚切。六十｝啼涕……[帝]｛魚四足者｝…[弟]｛大鱧｝…[夷]｛鮎也｝[是]｛上同｝…○奚｛古雞切｝

　　　②テイ・ダイ：集韻（WDB）：巻之七去聲上：十二○霽｛子計切｝…○帝｛都計切。二十三｝…○弟第｛大計切。五十｝[弟][是]｛魚名。鮎也。或从是。｝

（52-19）今本説文「从弟」が「恐らく誤り」であるとする理由：【R1】「説文解字」（大徐本）に「[弟]（篆）｛大鮎也。从魚弟聲。杜兮切｝」とある（前掲注52-13③A）が、段〔注〕において、大徐本を踏襲しながら、前掲注同③Bに「詩爾雅釋文廣韵作[夷]。从夷。文選蜀都賦及玉篇作[弟]。未知孰是、以夷弟、篆體易譌也。」と「いまだ孰（いず）れが是なるやを知らず」と篆体の表記に疑問を呈している注を書いていること。／【R2】「広韻」をみたときに、前掲注52-17②にあるように、同じ韻に属しているが、「[弟]｛大鱧｝」と、「[弟]：大鮎」とは異なる「鱧」を書いていること。／【R3】段注も説文の古い注文をかたるときに参照にしている『古今韻會挙要』の巻之四（平聲）八｛齋独用｝に「○題｛田黎切（ダイ）｝」韻を挙げ、「[弟]」を題字にあげず、「[夷]｛（説文）大鮎。本作[弟]、从魚弟声、今文作[夷]。爾雅翼《[夷]魚偃額、両目上棟、頭大、尾小、身滑、無鱗。謂之鮎魚、言其黏滑》。集韻或作[是]。｝と[夷]により語っていること。／【R4】エキ齊と学問上の親交が深く、縁戚関係をも結んでいた伊沢蘭軒（安永６・1777～文政１２・1829年）が著した「蘭軒遺稿」（森立之篇）に、本條の箋注に重なる、鮎、［是］、[弟]、黏の音と字義の関わりについて、「[夷]魚」の考察があり、次のように言う。

　　◎「而テ［是］ハ[夷]ト同ジ音タリ。源順和名鈔、崔禹錫食経ヲ引キ、鯰音奴霑ノ反、即チ是ノ者ナリ。蓋シ鯰鮎ヲ同音トスルハ、［是］ヲ[夷]トスルナリ。又、蘭軒按フニ、五経文字ニ、目ヨリ自（イヅ）ルヲ涕ト曰ヒ、鼻ヨリ自（イヅ）ルヲ洟と曰フ。今人、多ク涕ヲ以テ鼻洟トスルハ誤リナリ。然則（スナワ）チ、夷弟ヲ通用スルハ、元唐人ノ譌謬ニゾクス。但シ、易釈文、名夷于左股ヲイウニ、子夏（伝）ノ夷ハ涕ニ作リ、京（房）ハ［目＋夷］ニ作ル。渙（アキラカ）ニ夷ノ所思ニ匪（アラ）ズ、筍夷ハ弟ニ作ル。唐以前モ亦タ互（ミダ）レ誤レリ。蓋シ夷弟ノ篆体已ニ近似シ、隷ノ変ジ転訛スルノミ。」（訳注者により読み下す）この考証をエキ齊も見ていた可能性があり、これらにより、[弟]についてのみ、一言疑問を呈したのではないのか。

（52-21）[侯][イ]：いわゆる和名フグのこと。次項〔53〕[侯][頤－頁］魚参照。

〔53〕［頤－頁］〔：

〕崔禹錫食經云、

｛音夷、伊之布之、｝｛○下総本に和名二字あり。「伊之布之」は『空物語物語』「国譲」の中巻、『源氏物語』「常夏」にその用例が見える。嶧山（錦小路）君は、伊之夫之とは、『福州府志』に載る「石伏魚」のことであるという。エキ齊按うに、伊之布之は、今の俗称であり、又の呼称を「呉利」（ゴリ）という。又、敦賀では「杜父魚」を伊之毘之（イシビシ）あるいは伊之毘須（イシビス）と呼ぶ。伊之布之は、この転譌（転訛：音の変化による訛字）である。これによって（要之）石伏と杜父は、（字義において）それほど遠いものではないのだが、その互いの名が混乱することとなった。『本草和名』に、「和名　知々加布利（チチカフリ）」を載せる。今本は、『本草和名』の衍字を含んだ「知々加々加布利（チチカカフリ）」に作る。今、『伊呂波字類抄』が引くところによる。｝、

抄本文読み下し：[イ]　崔禹錫食経は云う。[イ]、音夷。伊之布之。

箋注原文テキスト：真名真魚字典：［頤－頁］（６画）。

〔注〕（53-1）伊之布之：空物語國讓中巻：宇津保物語國譲中：岩波日本古典文学大系（202頁5行）：大將、銀の篝四、脚付けさせて、鑄物師ども召して作らせ給ヒて、〈とビ上る〉魚ども〈取ら〉せつ。鮎一篭、鮠〈一篭〉、石斑魚[いしふし]、小鮒[こふな]入れさせ、荒卷など添へさせて、藤壷の若宮の御許に、手づかラ、往來月日書きて、せむ立てて、御名し給へり。……要確認。

（53-2）源氏物語二十六常夏：したしき殿上人あまたさぶらひて、にし川よりたてまつれるあゆ、ちかき川のいしぶしやうのもの、おまへにててうじまいらす。云々（53-3）嶧山君：丹波頼理（たんば・よりただ）を見よ。

（53-4）福州府志、石伏魚：「福州府志」未見、要確認。

（53-5）伊之布之：イシフシの用例：①【物類称呼】（岩波文庫版）：杜父魚：真名真魚字典[イ]：②【古今要覧稿】いしふし。（53-6）本草和名：和名知々加布利：［追］｛音翼之反、性状沈’在石間、｝又有[庸]｛与恭反、相似有黒点、｝［国（玉→メ）］魚｛莫往反、相似而頬首劔鈎｝[覃]’｛性状沈吹沙、鼻長七八寸、餘林反、出崔禹｝和名知々加々布利。

（53-6）【伊呂波字類抄】（十巻本・日本古典全集第三期）［追］｛性状沈在石間者也、イシフシ。｝／[庸]｛チチカフリ｝〔左ルビ〕ヨウ。／[椶(木→魚)]｛同｝〔左ルビ〕ソウ。……［頤－頁］（６画）に記す。下注（53-7）本草和名参照。

：[イ]

：[追]

　　性伏沈在_二石間_一者也、｛○伊勢本、伊勢廣本は、［イ］を[追]に作る。『本草和名』及び『河海抄』がこのフレーズと同じ箇所の引用をしている。『本草和名』は「者也」の二字がない。エキ斎按う。『閩中海錯疏』に、「石を抱く。山の渓にすみ、背は偃（伏せる）にして、腹部は平ら、大きいものでも拇指（おやゆび）大で、常に（水中では）石の上に貼りついている。川辺に住む地の人々（土人）は干魚（[月＋昔]）にする。又の名を石伏、渓下に伏す」と載る。崔氏の言う

は、蓋し是の仲間（類）のことであろう、｝。

読み下し：[イ]　崔禹錫食経は云う。[イ]、音夷。伊之布之。／性、伏沈、石間ニ在る者なり。

箋注原文テキスト：真名真魚字典：［頤－頁］（６画）。

〔注〕（53-7） [追]：［頤－頁］（６画）に用例を記す。

（53-8）本草和名：【本草和名（寛政刊・古典全集本）】［追］＝[a]｛音翼之反、性伏沈’在石間、｝又有[庸]＝[ｂ]｛与恭反、相似有黒点、｝［囗⊂メ）］＝[ｃ]魚｛莫往反、相似而頬首劔鈎｝[覃]’｛性状沈吹沙、鼻長七八寸、餘林反、出崔禹｝和名知々加々布利。

（53-9）河海抄：源氏物語２６「常夏」の注釈を載せる巻第十一、冒頭に載せる。ＷＬＤＢ「河海抄」には「いしふし」「石臥　小魚　[亞]　和名　[追]｛同｝」とある。

（53-10）閩中海錯疏：びんちゅうかいさくそ：巻中鱗部下：抱石　石伏／抱石、出於山渓背偃而腹平、大如拇指、常貼於石上、土人取以為腊、／石伏、伏於渓下。

（53-11）和名抄中、〔53〕［頤－頁］、〔54〕[庸]、〔55〕［罔］は、現在の魚類では、ハゼの仲間、カジカの仲間、ギギの仲間におおよそ該当し、『本草綱目』においては、第４４巻鱗之三魚類三十一種のうち「鯊魚」「杜父魚」「石斑魚」、鱗之四無鱗魚二十八種のうち「黄頰魚」と一致するものと、一部含まれる。

「本草和名」より関連字形を載せる。上から[a][ｂ][ｃ][ｄ]

〔54〕　[庸]　崔禹食経云、[庸]｛音容、知々加布里、｝｛○下総本には「和名」二字がついている。」陳蔵器（「本草拾遺」）は、「杜父魚溪澗の下に生ずる。背に刺あり、大きな頭に闊い口、長さは二、三寸で、黒い色の斑文を持ち、吹砂（魚）のような姿をして体長は短い。」と云う。崔氏が言うところの[庸]は、けだし、是を指しているのであろう。

読み下し：　[庸]　崔禹食経は云う。[庸]。音は容。知々加布利。／［イ］魚に似て黒点有り。箋注原文テキスト：真名真魚字典：[庸]（11画）。［頤－頁］：[イ]（６画）。

〔注〕（54-1）崔禹食経：古書注参照。

（54-2）陳蔵器：①【本草綱目】（国会図書館蔵本KTDB）（第24冊）第44巻、鱗部ニ（鱗之三）魚類三十一種〔23〕：杜父魚｛拾遺｝（釋名）杜父魚｛綱目｝黄[幼]魚｛音公｝舩矴魚｛綱目｝伏念魚｛臨海志（時珍曰）杜父當作渡父溪澗小魚渡父所食也見人則以喙挿入泥中如舩矴也｝（集解）｛（蔵器曰）杜父魚生溪澗中長二三寸状如吹沙而短其尾岐大頭闊口其色黄黒有斑脊背上有鬐刺螫人｝（気味）甘温無毒。（主治）小兒差頽用此魚擘開口咬之七下即消｛蔵器曰差頽陰核大小也｝。②【證類本草】（政和本草：WDB）巻第二十巻蟲魚部上品五十種（二十三種陳蔵器餘）〔６〕：杜父魚｛主小兒差頽、差頽核大小也。取魚擘開口咬之七下。生溪澗下、背有刺、大頭闊口、長二三寸、色黒斑如吹砂而短也。｝

（54-2）吹沙：【本草綱目】（KTDB）（第24冊）第44巻、鱗部ニ（鱗之三）魚類三十一種〔22〕：鯊魚｛綱目｝（釈名）[它]魚｛爾雅｝吹沙｛郭璞｝沙溝魚｛俗名｝沙鰛｛音間（時珍曰）此非海中沙魚乃南方溪澗中小魚也。居沙溝中吹沙而游[口＋匝]沙而食。[它]者肉多、形圓陀陀然也。｝（集解）｛（時珍曰）鯊魚大者長四五寸、其頭尾一般大頭状似鱒體圓、似鱓厚肉重唇細鱗、黄白色有黒斑點文、背有鬐刺甚硬、其尾不岐小時即有子、味頗美、俗呼為阿浪魚。｝

（54-3）[庸]：次節注（54-6）（54-7）（54-8）を参照すること。

：[庸]

　　　　　　　　今俗に「加自加」（カジカ）と呼ぶ。京では俗に「伊之毛知」（イシモチ）と呼ぶ。近江、彦根では、これを「知々无古」（チチムコ）と謂う。石部の駅では「知无古」（ちむこ）あるいは「登知无古」（とちむこ）と曰う。阿波では、「知々古宇」と曰う。一種よく似ていて、小さく、背は黒い色で、腹は油の色をして鱗のない者は、杜父魚の淡黄黒色で黒斑あり細鱗のものとは異なる。京で、俗に「不具利久良比」（フグリクラヒ）、近江石部では「知々无加夫利」（チチカフリ）又は「登知无加夫利」（トチンカフリ）と謂う。是は、「知知加不利」（チチカフリ）の音が転譌（てんか）したものである。江戸で俗に「太菩波世」（ダボハゼ）と呼ぶものは、また是のなかま（類）である。又、エキ齊按う。『史記』「司馬相如伝」には、［禺］[庸]［虔］［乇］が載る。『史記集解』は、「郭璞曰」として、「[庸]似［連］而黒」と書いている。是れは、陳蔵器（本草拾遺）、李時珍（本草綱目）等が載せている「[庸]魚」が即ち是であり、崔氏が挙げたところのものとは同じではない。つまり、同名異物である。『本草和名』は、「[庸]」は。

の條に載るが、別の和名は載せていない。｝

読み下し：　[庸]　崔禹食経は云う。[庸]。音は容。知々加布利。／［イ］魚に似て黒点有り。箋注原文テキスト：真名真魚字典：[庸]（11画）。［頤－頁］：[イ]（６画）。〔注〕（54-4）加自加：［頤－頁］：[イ]（６画）の【物類称呼】、【本草綱目啓蒙】を参照。（54-5）史記司馬相如伝（しき・しばそうじょでん）：史記集解（しきしっかい）：郭璞曰（かくはくいわく）：史記１１７巻、司馬相如列伝第五十七に載る。（54-6）［禺］[庸]［虔］［乇］（ぐう・よう・けん・たく）（「ぐう」は「ぎょう」と訓む注釈書もあり、どちらがよいか要検討）：裴駰（はいいん）集解：徐広曰。［禺］音娯皮有文出楽浪、［虔］音虔、［乇］音詫、多口魚。駰案。郭璞曰。[庸]似［連］而黒。漢書音義曰。［虔］似鯉而大也。……この４字で魚の何たるかを訳すべきではなく、前後の「蛟龍赤螭[亘][瞢]蟖離」（こうりゅう・せきち・こうぼう・しり）及び「禺禺[虚][内]」（ぐうぐう・きょ・どう）「揵擢尾[手へん＋展]鱗奮翼潜處于云々」をセットで、河水中にいきる生物たちが躍動する世界をとらえ、それぞれの姿を浮べ適訳を考えるべき。要検討。司馬相如「上林賦」（じょうりんのふ）に掲出する龍魚たちをほぼそのまま引用している。（54-7）陳蔵器：【證類本草】（政和本草：WDB）巻第二十一蟲魚中品：二十一種陳蔵器餘：〔12〕鱅魚（8-91）：[庸]魚　鮑魚注陶云。魚是臭者、按。[庸]魚、嶺南人作鮑魚、劉元紹云。其臭如屍、正與陶云相。背、海人食之、所謂海上有逐臭之夫也。其魚以格額、目旁有骨、名乙、禮云。魚去乙、鄭云。東海[容]魚也。秖〔＝只〕食之、別無功用也。（54-8）李時珍：【本草綱目】（国会図書館蔵本KTDB）（第24冊）第44巻、鱗部ニ（鱗之三）魚類三十一種〔3〕[庸]魚：[庸]魚｛音庸○拾遺｝（釈名）［羞］魚｛音秋。山海経。（時珍曰）此魚中之下品。蓋魚之庸常以洪膳食是、故[庸]曰[羞]。鄭玄作溶魚。｝集解蔵器曰陶注鮑魚云、今以[庸]魚長尺許者完作淡乾魚都無臭気。其魚目旁有骨名乙。禮記云。食魚去乙是矣。然劉元紹言。海上[庸]魚、其臭如尸、海人食之、當別一種也。時珍曰。處處江湖有之。状似鰱而色黒、其頭最大有至四五十斤者、味亞于鰱鰱之美在腹、鱅之美在頭、或以[與]［連］為一物、誤矣。首之大小色之黒白、大不相伴。山海経云。［羞］魚似鯉大。首食之、已疣是也。｝肉気味甘音無毒。｛蔵器曰秖可洪食別無功用。｝主治暖胃益人｛汪頴｝食之已疣多食動風熱発瘡疥｛時珍｝（54-9）（54-10）本草和名：前掲［頤－頁］注（53-8）参照。

史記司馬相如列伝、裴駰集解（ＷＬＤＢ）

　　　　似［頤－頁］魚而有黒点、｛○廣本は、「点」の下に「也」字有り。下総本は、「者也」の二字有り。「本草和名」の［頤－頁］の條の下に引用して、「又有[庸]與恭反、相似有黒点」を作る。｝

〔55〕　［ヌ］魚　崔禹食經云、［ヌ］｛莫往反、與＠同、加良加古、｝｛○「莫往反」は、『本草和名』と同じである。下総本には「和名」の二字がついている。_」『新撰字鏡』は、「鯫」の訓みとして「加良加伎」を載せている。エキ齊按う。今俗に「疑々」と呼び、或いは「疑々宇」というものであろう。丹波では、俗に今なお「加良加伎」と呼ぶ。「加伎」「加呉」の一つにつながった声の転から呼んだのであろう。鉤（カギ）を謂う。またいわゆる、頬（ほほ）部の著らかな鉤（かぎ）がその由来である。『本草和名』は、［ヌ］は[イ]の條にあり、別の和名を与えていない。｝

読み下し：[ヌ]魚　崔禹食経に云う。[ヌ]、莫往（ぼおう）の反、＠と同。加良加古（からかこ）　箋注原文テキスト：真名真魚字典［罔］（８画）：参考：[庸]（11画）。［頤－頁］：[イ]（６画）。及び字形の用例は[顙]（その他19画）に記す。　。

〔注〕（55-1）本草和名：前掲注（53-8）参照。

（55-2）新撰字鏡【新撰字鏡（天治本）】巻九魚部第八十七（521-8行）[取]★{士垢反。上。一曰、人姓。漠有◆。加良カ支。}……★頭注→「○八＝漢有[取]（生）加良加支」とある。「上」は「上聲」。カラカキ→ギギ及びトゲを持ち、触ると刺されるアユカケなどに通じる。天治本「漠」は、エキ齊の見た享和本（群書類従本）において、「漢」と読んで、「[取]{士垢反。一曰、人姓。漢有[取]生。加良加支。}」としている。［取］（８画）は「小さな魚」という程度の意味。……【廣韻】（五巻・張氏重刊宋本廣韻TDB）：上聲巻第三：四十四○有｛云久切。九｝／○[取]｛魚名一曰姓漢有[取]生又淺[取]小人。仕垢切。又七溝切。一｝から引用したものであることがわかる。「漢有」の「漢」は「漢書」のこと。

（55-3）【物類称呼】（岩波文庫版）　黄顙魚　ぎゞ○備前にて○ぎゞ　東国にて○ぎゞう　北国にて○あいかけ　加賀にて○ざす　奥州及越後にて○はちうを　越前にて○あかにこ　出羽にて○がばち　上総にて○川ばち　伊勢にて○ども　　土佐にて○ぐゞといふ　此魚背[せ]の上に刺[はり]有て人を螫す、ごき＼／と鳴く、人これを捕ふ時ははなだかなしむ声を出す、今按に　享保十三年戊申ノ秋　東国所々洪水せしころより此魚うせたり、しかふして後鯰[なまず]と云魚東国に生ず　うたがふらくはぎゞ鯰に変したる物歟。

：［ヌ］

：［罔］

：[イ]＝［頤－頁］

：＠

　　　似［イ］魚而頬着鉤者也、｛○『本草和名』は、[イ]の條を引いて、「［ヌ］魚、相似而頬著劔鉤」に作る。此に引用している「劔」字は衍字である。_」エキ斎按う。諸書をしらべても、［罔］及び［ヌ］の字は載せていない。按うに、『毛詩』（小雅「魚麗」篇）「魚麗于羀鱨鯊」（魚が羀あみに麗かかる、[嘗]しょうと鯊さと。）の一章句を注解し、『毛詩正義』は、陸璣「疏」を引いて、「[嘗]一名黄頰魚、是也、似燕頭魚、身形厚而長大、頰骨正黄、魚之大而有力解飛者、」と云い、また、「釈文」を引いて「今江東呼黄鱨魚、尾微黄、大者長尺七八寸許、」と云う。また、『本草綱目』に載せる「食療本草」は、「黄顙魚」の一名を「[央][軋(車→魚)]、無鱗、」と云い、「李時珍曰」として「身尾倶似小鮎、腹下黄、背上青黄、腮下有二横骨両鬚、有胃、羣游作声、如軋々。性最難死、」と云っている。小野氏（小野蘭山）は、「是を加良加伎に当てるべし」と曰っている。

〔56〕　[厥]魚　唐韵云、[厥]｛居衞反、漢語抄云、阿散知、｝｛○嶧山君（錦小路）は、「阿散知は未詳。花鏡、闘魚は俗に阿散知と呼ぶ。」と云う。恐らく、同名異物であろう。｝　

　　　　魚名、大口細鱗、有_二斑文_一者也、｛○『廣韻』には「者也」の二字はない。「中海経」〔ママ：『山海経』「中山経」〕の郭の注は、「[厥]魚、大口大目、細鱗有_二斑彩_一、」と云う。『玉篇』は、「[厥]魚、大口細鱗斑彩」と云う。『唐韻』孫愐はこれに依ったものであろう。『開宝本草』は、「背有_二黒点_一、味尤重、生_二江渓間_一、」と云う。『爾雅翼』は、「簪鬣皆圓、黄質黒章、皮厚而肉緊、特異_二常魚_一、夏月盛熱時、好蔵_二石罅（セキカ＝岩の割れ目）中_一、人即而取_レ之、又其斑文尤鮮明者雄也、稍晦昧者雌也、漁者以_レ索貫_二一雄_一、置_二之谿畔_一、羣雄来齧、曳_レ之不_レ捨、掣而取_レ之、常得_二十数尾_一。」と云う。『本草綱目』「李時珍曰」は「[厥]魚生_二江湖中_一、扁形闊腹、背有_二簪鬣_一刺人、肉中無_二細刺_一、」と云う。｝

抄本文読み下し：厥]魚　唐韻は云う。[厥]、居衛の反。漢語抄は云う。阿散知。／魚名。大口にして細鱗。斑文あるものなり。

箋注原文テキスト：真名真魚字典：[厥]（12画）。

〔注〕（53-5）広韻：古書注参照：【廣韻】（五巻・張氏重刊宋本廣韻TDB）：[厥]：【廣韻】（五巻・張氏重刊宋本廣韻TDB）去聲巻第四：｛子計｝霽第十二｛祭同用｝：十二○霽｛子計切。八｝…十二○祭｛子例切。七｝…[祭]｛魚名。｝…○歳｛相鋭切。四｝…○劌｛居衞切。六｝[厥]｛魚名。大口細鱗、有斑文。一曰婢魚也。｝…○制｛征例切。十八｝…[制/魚]｛魚名。可為醤｝

（53-6）中海經→中山經：『山海経』「中山経」：古書注参照：【山海経箋疏】（郭璞伝／郝懿行箋疏。還読樓校刊本）（WULDB）：山海経第五中山経：中次七経。苦山之首曰休與之山……又東七十里、曰半石之山、……合水出于其陰而北流注于洛｛懿行案水経云洛水…以下略｝多鰧魚｛〔郭璞注〕音騰。　懿行案。玉篇云。鰧魚似[市]蒼文赤尾。郭氏江賦作[滕(月→魚)]、李善注、引此注云、[滕(月→魚)]音滕。｝状如[厥]、居逵、｛[厥]魚、大口、大目、細鱗、有班彩。逵、水中之穴道交通者。[厥]音[劌]。｛懿行案。爾雅云。[厥][帚]、注云、小魚也。似鮒子而黒。初学記魚下引此經云。[厥]魚大口而細鱗有斑彩、蓋引郭注誤作経文也。如[厥]、玉篇作似[市]｝蒼文赤尾、食者不癰、可以爲瘻｛〔郭璞注〕瘻、癰屬也。中多有蟲。淮南子曰、[奚隹]頭已瘻。音漏。　懿行案。説文云、…以下略｝。

（53-7）玉篇：古書注参照：【玉篇】（三十巻）（TDB）魚部第三百九十七｛凡三百二十一字｝：（3-1）[厥]｛居月切。魚大口細鱗斑彩。｝

（53-8）開寳本草：古書注参照：【證類本草】（政和本草：WDB）巻第二十一巻蟲魚總五十六種（七種今附）：[厥]｛居衞切｝魚　味甘、平、無毒。主腹內惡血、益氣力、令人肥健、去腹內小虫。背有黑點、味尤重。昔仙人劉憑、常食石桂魚。今此魚猶有桂名、恐是此也。生江溪間。｛今附。臣禹錫等謹按、日華子云。微毒。益氣、治腸風瀉血。又名、[厥]豚、水豚。｝……「開寳本草」原文テキストてもとになく、【證類本草】（政和本草：WDB）に含む該当引用句を例示した。

（53-9）爾雅翼：古書注参照：（古今圖書集成：故宮博物院典藏雍正四年銅字活版本テキストDBより。後日原本にて要確認。）鱖魚：巨口而細鱗、鬐鬣皆圓、黄質黑章、皮厚而肉緊、特異常魚、夏月盛熱時、好藏石罅中、人即而取之、又其斑文尤鮮明者雄也、稍晦昧者雌也、漁者以索貫一雄、置之谿畔、群雌來齧、曳之不捨、掣而取之、常得十數尾。説者以為昔仙人劉憑常食石桂魚、今此魚猶有鱖名。恐即是也。能食小魚、今人以為凡牛羊之屬、有肚故能嚼魚、無肚不嚼、鱖獨有肚、能嚼。山海經曰、鱖大口而細鱗有斑彩。……雄を囮にして十数尾を取るオトリ漁は、なかなか的確な表現が使われおもしろい漁法だ。

（53-10）本草綱目：古書注参照：【本草綱目】（国会図書館蔵本KTDB）（第24冊）第44巻、鱗部ニ（鱗之三）魚類三十一種〔21〕[厥]魚｛居衞切○海寶｝：釋名：…中略…／集解：（時珍曰）鱖生湖中、扁形闊腹大口細鱗、有黑斑采斑、色明者爲雄、稍晦者爲雌、背有鬐鬣刺人、厚皮緊肉、肉中無細刺有肝能嚼又啖小魚、夏月居石穴、冬月偎泥、深魚之沈下者也。小者味佳、至三五斤者不美。…以下略。

（53-11）

字体参考

：[厥]

〔57〕　鮎　本草云、［夷］魚、｛上音夷、｝｛○伊勢廣本は、音を啼に作る。『證類本草』は、「音夷、又音題」と云う。然るに、『廣韻』は「[夷]は鮎なり。杜奚の反切である。」という。また、「[夷]は、[逐][夷]（ちくい）、塩蔵の魚の腸（はらわた）（＝しおから）のことである。以脂の反切である。」と云う。二字の音義は同じではない。『説文』は、「[弟]は大鮎のことである」と云う。[逐][夷]は、もと、逐夷に作る。故に音は夷である。その字の本は同じではない。此でいう「音を啼に作」り「是」となす。「本草和名」は、「仁諝音は帝」と云っている。然るに、啼、題ともに杜奚の反切であり、平声十二齋にあり、定母に属す。帝は、去声十二霽にあり、端母に属し、その音は同じものではない。すなわち、帝は、ここにいう啼字が壊れた字形であろう。｝

抄本文読み下し：鮎　本草にいう。[夷]魚。上の音は夷。

箋注原文テキスト：鮎（5角）。参考：[夷]（６画）。鯰（８画）。［是］（９画）。

〔注〕（57-1）證類本草：前掲注（52-14）に載せる。

（57-2）廣韻：前掲注（52-17）に「廣韻のナマズ字体反切の検討」を載せる。

（57-3）説文：鯰（８画）に載せる。

（57-4）[逐][夷]：①【本草綱目】（KTDB）第44巻、鱗部ニ（鱗之四）無鱗魚二十八種・附録九種：付録〔２〕[逐][夷]｛拾遺｝／（釈名）[票]｛匹水切｝作膠名[票]膠。｛（蔵器曰）鱁[夷]音逐題乃魚白也。（時珍曰）鱁[夷]音逐夷、其音題者鮎魚也。②前掲注（52-17）（B）廣韻：[夷]｛鱁鮧塩蔵魚腸、又魚名也。｝＝孫愐唐韻の記述と同という。

（57-5）本草和名：①【本草和名（寛政版）】［夷］魚｛仁諝音、帝。｝、一名［是］魚｛音題。｝、一名鮎魚｛仁諝音、奴兼反。已上二名出陶景注。｝、一名黄頬、一名［弟］｛音啼。已上二名出兼名苑。｝、［護（言→魚）］魚｛仁諝音、胡麦反。｝、［化］魚｛仁諝音、五廻反。｝、又、有人魚膏、名人膏｛秦始皇帝冢中用之、已上三種出陶景注。｝、一名［帝］｛達鶏反。｝、鮎｛崔禹云、春生夏長秋衰冬死。｝、一名［要］｛已上二名出兼名苑。｝。和名、阿由。〔頭注〕按本草鮠五回反。此［魚＋化］乃鮠乃訛。②〔注〕（52-6）再掲：鯰｛奴沾反。貌’似［追］而、大頭出崔禹。｝和名、奈末都。……「仁諝音」とは「仁諝本草音義」をいう。

（57-6）啼題：平聲十二齋：注（52-17）（B）再掲：上平聲第一：十二○齋｛徂奚切｝…○嗁｛杜奚切。六十｝啼涕｛並上同｝…題……[帝]｛魚四足者｝…[弟]｛大鱧｝…[夷]｛鮎也｝[是]｛上同｝……○奚｛古雞切｝。前掲注（A）（B）ともに参照。

（57-7）定母に属す：反切下字「奚」を持つ韻母を同じくもち、「韻鏡」三十六字母の「舌音」（舌頭音〝端タン・透トウ・定テイ・泥デイ〟＆舌上音〝知チ・徹テツ・澄チョウ・娘ジョウ〟）のうち舌頭音・定母[d]に属す。

（57-8）帝：去聲十二霽：注（52-17）（C）再掲：十二○霽｛子計切｝…○帝｛都計切。二十三｝…○弟第｛大計切。五十｝[弟][是]｛魚名。鮎也。或从是。｝：舌頭音・端母[t]に属す。

　　　　蘇敬注云、一名鮎魚｛上奴兼反、阿由。漢語抄云銀口魚、又云細鱗魚。｝｛○「證類本草」上品が同文を引用する。「奴兼反」は、集韻の一音と合うものである。下総本には「和名」二字、及び「楊氏」二字あり。廣本も同じ。」エキ齊按う。「［夷］魚一名鮎魚」は、すなわち上文に載る「鯰」なり。源君（源順）は、鯰を「奈万豆」（ナマヅ）と訓みを与え、［夷］と鮎を別かち、「阿由」（アユ）としたことは誤りであろう。

　　　　　　　エキ齊按う。わが国（皇国）では従来から、鮎の字を「阿由」と訓んでいた。「日本書紀」神功皇后紀に次の文が載る。「仲哀天皇九年夏四月、北方の肥前の国松浦県（マツウラノアガタ）に到り、玉島という里の小川のほとりで食事をされた。ここで、皇后は、針を勾（まげ）て鈎（つりばり）を作り、飯粒をつけて餌にして、裳の糸を抜き取り釣り糸にして、川の中の石の上に登り、つりばりを投げいれ、ここに祈った。そしてこうおっしゃられた。『わたし（朕）は、西方の財を求めんと欲しております。もし事が達成されるのならば、川の魚よ、つりばりを飲んでおくれ。』そして、竿を挙げると細鱗魚がかかっていた。」この文は、皇后が、将に韓国を征たんとしているとき、鈎を投げ入れ、その勝敗を卜わんとしたものである。［麋（米→弭）］坂王（かごさかのみこ）と忍熊王（おしくまのみこ）の二王が、神意をうかがう祈りをささげ狩りをする（「日本書紀」巻第九・神功皇后紀）義も同じである。

　　　　　　　　谷川氏が曰うには「年魚を、後の人が鮎の字を用いるようになったのは、この日本書紀の故事によっている」とある。占うことから占魚というのであり、年魚のことを鮎の字に使うようになったのである。この字は、わが国（皇国）で作られた会意字である。［夷］と鮎の字の作字の原（もと）となるところは異なっているのであって、深根輔仁が「本草和名」で、鮎の字体がたまたま同じであったがために、「本草［夷］魚一名鮎魚為阿由」として、アユの訓みを与え、源君は、その誤りを踏襲した記述なのである。またエキ齊按う。「日本書紀」神功皇后紀は、細鱗魚を用い、これは「漢語抄」の記事と合致する。細鱗魚は、「雁蕩山志」に見える。銀口魚は聞かず。｝

読み下し：鮎　本草にいう。[夷]魚。上の音は夷。／蘇敬注は云う。一名鮎魚。上、奴兼の反。阿由なり。漢語抄に云う。銀口魚なり。又云う。細鱗魚なり。　箋注原文テキスト：鮎（5角）。参考：[夷]（６画）。鯰（８画）。［是］（９画）。〔注〕（57-9）。「按皇国従来鮎字訓阿由」＝「則年魚之鮎字、皇国所製会意字」：鮎は、すでに「鮎」「[夷]」「[是]」「[弟]」「[帝]」の検討により、国字ではなく、また、「鯰」字が、中国にはない国字としてあることの検討などから、わが国で「アユ」と呼んでいた魚の会意字として、中国発生の字体と同じではあるが、独自に魚へんに占を従えて作られた字体であることを強調したセクションであろう。新井白石「東雅」「同文通考」との相違の検討をすると面白そうである。（57-10）日本書紀仲哀天皇九年：鮎（５角）参照。（57-11）谷川氏：谷川士清（たにがわことすが）「倭訓栞」（成美堂刊本）：年魚をいふ。日本紀に細鱗魚ともみえたり。愛すへき魚なれは名つくるにや。尾張愛智郡相模愛甲郡なとみなあゆをよめり。南産志にいふ。渓鰛也といへり。○年魚の泥鰌に化せしを親しく見しひとあり。俗に鮎をよむは和名鈔に本けり。鮎はなまづなれとも、神功皇后の年魚をもて占をしたまうによれるなりといへり。○いまた長ぜざる時に網を張ってひしゃくも…以下略。76～77ページ。（57-12）細鱗魚：雁蕩山志（がんとうさんし）：『広雁蕩山志』１２巻物産魚に「香魚」載る。：香魚　〔朱志〕亦名細鱗魚。不腥而鱗極細、生雁山溪澗中與潮水相通處春初時生月長一寸、九月以後可盈一尺、…以下略。（57-13）漢語抄に云う「銀口魚」：【類聚名義抄(観智院本)】僧下一に「年魚」「銀口魚」「細鱗魚」がいずれもアユとして載る（鮎（5角）参照）。形態的に多用されて不思議ではないが、中国文献の引用例は数が少ない。

　　　　崔禹食經云、貌似鱒而小、有白皮、無鱗。春生夏長秋衰冬死、故名年魚也、｛○「醫心方」が引用して云うには、「鮎魚、貌似鱒而小、色白、皮中有白垢、大者一二尺、小者七八寸、無鱗、春生夏長秋衰冬死、」とある。この引用では、「有白皮」を誤って脱落させたのだろう。エキ齊按う。「食経」が説く所では、「本草」の鮎魚とはほど遠く、阿由の形状とはほぼ似て、春に生まれ冬死ぬとあるのもまた同じだが、ただ無鱗の点は合わず。けだし、この魚の鱗は細き故に、無鱗というのであろうか。しかるに、「醫心方」では「鮎魚」の字は、まさに、この引用部分に従い「年魚」に作っている。またさらに、「本草和名」の［夷］魚の條では、鮎を題字にし、続けて（割注して）「崔禹云、春生夏長秋衰冬死」を引いている。深根輔仁が、「食経」の引用した箇所は、「醫心方」が引用したところと同じである。疑うらくは、年と鮎は聲が近いことから、是を誤ったのだろう。エキ齊按う。「古事記」、「日本書紀」、「令式」、「大神宮儀式帳」、「万葉集」では、みな「年魚」を用いている。｝

〔58〕　［是］魚　　鯷魚　陶隠居曰、［夷］魚、今之鯷也、｛○「證類本草」上品の［夷］魚の條を引いて云う。「此是鯷也。」この箇所を引用したのだろう。下総本は、鯷の下に「魚」字あり。廣本も同じ、_」　エキ齊按う。「本草和名」の［夷］魚の条に、「一名鯷魚」を載せ「出陶景注」と云う。深根輔仁が見た「本草注」に「魚」字があったことからのものだろう。｝

　　　　四聲字苑云、鯷、｛音題。漢語抄云、比師古伊和之、｝｛○エキ齊按う。「主計式」に、「比志古鰯」有り。けだし、鰛魚の仲間（属）であり、長さ三、四寸のものであろう。「本草和名」には、［是］は、[夷]魚の「一名」とするのみで、別に和名を与えていない。｝

　　　　小鮎魚、黒而少味也、｛○エキ齊按う。郭璞は「爾雅」を注して、「鮎、別名［是］、江東、鮎を通じ、[夷]とす」という。陶（隠居）も、また「[夷]魚は是れ［是］魚」という。すなわち、［是］を知り、[夷]の一名としたのである。王念孫は「［是］亦黏滑之称、［是］之言［米＋是］、釈詁曰、［米＋是］黏也、廣韻則以[夷]［是］為同字、依之、［是］従題省、後世諧聲[夷]字、猶鮎後或諧聲作鯰、然則［是］魚即鮎魚」と曰っている。「説文」は、[弟]大鮎也と云う。「四聲字苑」の「小鮎」の出典は不詳である。「小鮎魚」をもって［是］に注を与え、二物とするのは、是れ、非とするべきであろう。｝

〔59〕　鮠　　　四聲字苑云、鮠、｛五灰反、漢語抄云、波江、又、用［輩］字、所出未詳。｝｛○廣本「五」は「巨」に作る。エキ齊按う。「五灰」は、「廣韻」の反切の記述に合っている。「五」は疑母に属し、「巨」は羣母に属す。則ち、五に作るを勝るとする。今日、京都では、俗に波伊（ハイ）と呼び、江戸では、俗に波也（ハヤ）と呼ぶ。「本草和名」の鮠魚は、[夷]魚の條に載り、別の和名は与えていない。エキ齊按う。「漢語抄」は、鮎をもって阿由（アユ）として、鮠は、鮎に似て白色と云うをもって、故に、波江（ハエ）と訓ませる。しかるに、その実は、鮎は、鯰魚であって、「鯰に似て白色」とは、「弁色立成」に載る奈波佐波（ナハサバ）、俗に毛太万（モダマ）と呼ぶものをさすのであるから、波江ではない。

　　　　　　　「爾雅」は、「［囚］、黒［茲］」を載せ、、郭璞注は「即、白鯈魚のことであり、江東では[囚]と呼ぶ」と云う。「毛詩」潜篇に、[條][嘗][匽]鯉がのり、「毛伝」は、「[條]は白[條]也」と云う。羅願「爾雅翼」は、「その形は細長（繊長）く、白故曰白[條]、此魚好游従竄匿、明遂其性也、淮南子曰、不得其道、若視鯈魚、望之可見、即之不可得、此魚好游也、」と曰っている。「本草綱目」は、「[條]魚、生江湖中小魚也、長僅数寸、形狭而扁、状如柳葉、鱗細而整、潔白可愛、性好羣游、」と云う。是は、「波江」に充てるべきである。[輩]、疑うらくは、是れ皇国の諧聲字か。｝

読み下し：鮠　四聲字苑は云う。鮠。五灰の反。漢語抄は云う。波江。又、[輩]の字を用ゆ。初出は不詳。／魚は鮎に似て白色。　箋注原文テキスト：鮠（６画）。〔注〕（59-7）爾雅：【爾雅】(「爾雅注疏十一巻」ＴＤＢ)[囚]。黒[茲]。【註】即白鯈魚、江東呼為[囚]。｛○[囚]音囚。[茲]音茲。｝【疏】｛[囚]一名黑[茲]。郭云。即白鯈江東呼為[囚]者、以験而言之也。詩頌曰、鰷鱨鰋鯉、是也。｝（59-8）毛詩潜篇：詩経は「風」（ふう）「雅」（が）「頌」（しょう）の三つのジャンルに分けられ、その「頌」の冒頭部分が「周頌」（しゅうしょう）であり、２０巻中十九の三に「潜」が載る。国ごとに「周頌」「魯頌」「商頌」の三種あり。頌は、「祭礼のときの祖先の特をたたえる歌のこと」「一説に、容（容姿、振る舞い）に通じ、舞踊をともなった歌であるともいう。」（【学研新漢和大字典】）。「潜　季冬薦魚　春献鮪也」（小序）、以下潜詩六句「猗與漆沮　潜有多魚」（ああ、シツとショと。センにはタギョあり。）「有鱣有鮪　鰷鱨鰋鯉」（テンあり。イあり。ジョウ・ショウ・エン・リ。）「以享以祀　以介景福」（もってキョウし、もってシし。もってオオイなるフクをタスく。）「潜」の詩（うた）は、小序に「季冬に魚をすすむ、春鮪を献（ささげ）るなり」とあり、【鄭玄箋】は「冬魚の性定春鮪新来」（冬河水下でじっと潜んでいた鮪は春になると決まって河：黄河をさかのぼりやってくる）とされている鮪（チョウザメの一種）を、「薦献之者謂宗廟也」（王宮の祭殿にささげる）、そのときの「楽歌」であると書いている。【毛傅】は「潜糝也：潜（せん）は糝（さん）なり」とする。糝を漢和字書でひくと「かゆ」というコメへんの意味を示すが、ここでいう潜は意味が違う。【鄭玄箋】は、「糝」を「小爾雅云、魚之所息謂之槮、槮糝也。謂積柴水中、令魚依之、止息因而取之也。」と注しているように、水中に柴を積み上げて作った魚を取るための仕掛け、つまり漁具のことである。日本で柴を積む漁具といえば「柴漬け」があるが、チョウザメのような大型の魚を「止息」、つまり、じっとしてとどまるだけの装置であるためには、「積柴」というより、「柴」を一定のスペースが空くような組み立てた仕掛けが想定される。この仕掛けには、冬の間春の水のぬくもりを待ち望みながら、チョウザメ（鱣や鮪）のほかにも、[條]（ハヤ：鮠の仲間：）や[嘗]（ギギの仲間）や、[匽]（ナマズの仲間）と、鯉（コイ）などの大小の淡水魚がたくさん入っている。後段の２句は、鮪をはじめとする魚たちを享し（供えもてなす）、祭祀を執り行う。こうした一連の「薦献」の行いが介（助）して、大いなる（景）福をもたらすのである。なお、この小序の記述とほぼ同じ字句が「禮記月令」の「季冬之月」（是月也。命漁師始漁、天子親往、乃嘗魚。先薦寢廟。）と「季春之月」（焉、天子始乘舟、薦鮪于寢廟、乃為麥祈實。）に載る。（59-9）傳、[條]、白[條]也。：「傳」は「玄箋」（【鄭玄箋】）であろう。また、「白[條]」は、「毛詩注疏」ＴＤＢ（京大東方學デジタルライブラリー公開本も）「白[脩]」と記す。「鯈」が説文にも記された正字で、[條][攸]が俗と段注にあり、【諸橋大漢和】、【学研新漢和】も同である。[脩]はユウの音によってあてた字体か？ありそうでない字体のため念のため記す。また、「白[條]」は、「国訳本草綱目」において木村重氏が、日本にはいない銀白に光る鱗をもつフォンユーという淡水産雑魚であるとし、同書の補注で、上野益三氏は「カワイワシ：Hemiculter leucisculus、Basilewsky」と校定している。なお、学名・英名・中国語に対照させた魚種については「FishBase」から該当魚種のページ（Hemiculter leucisculus、Basilewsky）をリンクさせていただいた。（59-10）爾雅翼：【爾雅翼】（古今図書集成電子版）[條]：[條]白[條]也。其形纖長而白、故曰白鯈又曰白[條]。此魚好遊水上、故莊子觀於濠梁稱鯈魚出遊從容以為魚、樂明遂其性也。淮南子曰。不得其道若觀[條]魚望之可見即之不可得此魚好遊也。而詩潛有多魚有鱣有鮪[條][嘗][匽]鯉。潛者槮也。積柴水中令魚依之止息因而取之。爾雅曰。魚之所息謂之槮。蓋潛之詩為季冬及春、寒氣方盛故魚止槮中、因而薦之、非其出遊之時。今人謂[條]為參魚。參音近於槮、或以其伏槮中得名耶。去其腸作鮝、謂參魚鮝、又謂其魚為白鯈魚、山海經鯈魚食之已憂。（原典未見のため要確認）（59-11）[軰]：真名真魚字典[軰]（15画)。

　　　魚似鮎白色、｛○エキ齊按に、鮠は即ち[蒦]の俗字であろう。「爾雅」郭注は「[蒦]、似鮎而大、白色。」という。「四聲字苑」は、この郭注によっている。「玄應音義」は孫炎（曰）を引き、「似鮎而大、色白、」を載せている。是の引用は、郭氏の注が本ととなっている。「本草綱目」は、「李時珍曰」として、「鮠は江淮間に生す。無鱗魚、又、[尋]の属なり。頭尾身には鬐（ヒレ）が倶り、[尋]の状に似る。惟（こ）れ鼻は短小、口は亦た頷下にあり、骨は柔かからず脆からず、腹は鮎魚に似る。背には肉鬐があり、南人は鮠と呼び、北人は[蒦]と呼ぶ。並れも[囘]と音近し。邇来、通称[囘]魚とす。しこうして、[蒦]鮠の名は彰ならずや。「説文解字」段玉裁は、「[蒦]魚」の注で「今、江中に多く之れあり。俗に譌して「回魚」とす。聲、之れ誤りとするのみ。」と曰う。「本草綱目」陶弘景は、[夷]魚の注文のなかで[蒦]魚について、「亦相似、黄而美」という。[蒦]と鮠を分けてニ物とすることは、恐らく誤りであろう。廣本は、「白」の上に「而」字あり。下総本は、「色」の下に「也」字あり。｝

読み下し：鮠　四聲字苑は云う。鮠。五灰の反。漢語抄は云う。波江。又、[輩]の字を用ゆ。初出は不詳。／魚は鮎に似て白色。　箋注原文テキスト：鮠（６画）。参考：[蒦]（14画）〔注〕（59-12）郭注爾雅：【爾雅】（「爾雅注疏十一巻」ＴＤＢ）釈魚第十六：[丕]大[蒦]小者[兆]【註】[蒦]似鮎而大白色｛○[丕]音皮、[蒦]音畫、[兆]音兆。｝【疏】｛[蒦]魚名、似鮎而大白色。[蒦]之大者別名[丕]。小者別名[兆]也。｝（59-13）四聲字苑：前掲（59-1）で記す。（59-14）玄應音義：中華電子仏典協会（ＣＢＥＴＡ）サイト：【經文資訊】大正新脩大藏經：第五十四冊：No.2128《一切經音義》CBETA電子佛典：V1.91：普及版：# Taisho Tripitaka Vol. 54, No. 2128 一切經音義, CBETA Chinese Electronic Tripitaka V1.91, Normalized Version:T54n2128_p0675c18(00)║一切經音義卷第五十六／T54n2128_p0676c03(00)║第十三卷／T54n2128_p0676c04(00)║[蒦]魚(獲樺二音爾疋[不]大者[蒦]孫炎曰蠖似鮎而大色白也[不]音備飢反鮎奴兼反)。（原典未見のため要確認）（59-15）○【本草綱目】（国会図書館蔵本KTDB）（第24冊）第44巻、鱗部ニ（鱗之四）無鱗魚二十八種・附録九種：〔9〕（24-54～55）鮠魚｛音桅○拾遺｝／（釋名）[回] 魚｛音回｝[蒦]魚｛化獲二音｝[果]魚｛化上声｝[頼]魚｛癩○（時珍曰）北人呼[蒦]、南人呼鮠、並與鮰音相近、邇來通稱鮰魚而[蒦]鮠之名不彰矣。[果]又[蒦]音之轉也。秦人謂。其發癩呼為[頼]魚。餘見鮎魚。｝／（集解）｛（時珍曰）鮠生江淮間、無鱗魚、亦鱘属也。頭尾身鬐倶似鱘、状惟鼻短爾口亦在頷下、骨不柔脆腹似鮎魚、背有肉鬐。郭璞云、[蒦]魚似鮎而大白色者是矣。｝（59-16）段玉裁曰：【説文】（「説文解字十五巻」TDB）（37-7574）[蒦]：[蒦]魚也｛郭注釋魚曰、[蒦]佀鮎而大白色。按今江中多有之、俗譌爲回魚聲之誤耳。…以下略｝从魚蒦聲。｛胡化切。…以下略｝：参考：（38-7575）[丕]：[丕]大[蒦]也。其小者名[兆]。｛見釋魚。丕訓大、此會意兼形聲也。爾雅魴[丕]亦謂魴之大者爲[丕]。｝从魚丕聲｛敷悲切。古音在一部。｝（59-17）陶弘景鮧魚注文：本草綱目：圖經曰｛[夷]（音夷又音題）魚、…中略…陶隱居云。即[是]（音題）魚也。[是]即鮎（乃兼切）魚也。又有[蒦]（音護）魚、相似而大。鮠（五回切）魚亦相似、色黄而美。三種形性皆相類而小不同也。

〔60〕　[末]　玉篇云、[末]、｛音末、一音蔑、漢語抄云、加末豆賀、｝｛○今俗に或は加波幾須（カワギス）と呼ぶ。｝

　　　　小魚名也、｛○「玉篇」（原書）は、「海中魚似鮑也」に作る。引くところと同じではない。「爾雅」釈魚「鯊[它]」の項で、「郭注」は、「今吹沙、小魚。體は圓にして點文あり。」と云う。「毛詩」小雅魚麗篇に「魚麗于羀[嘗]鯊」を載せる。「毛詩正義」は「陸璣疏云」を引いて、「魚狭而小、常張口吹沙、故曰吹沙、」という。「後漢書」「馬融傳」の李賢注は「広志云」を引いて、「吹沙大如指、沙中行、」という。「太平御覧」は「臨海異物志云」を引いて、「吹沙長三寸、背上有刺、犯之螫人、｣という。「爾雅翼」は、「非特吹沙、亦止食細沙、共味甚美、今人呼為重唇、唇厚特甚、有若鼃黽故為名、今江南小渓中毎春鯊至甚多、土人珍之、夏則随水下、自是以後時亦有之、然亦罕矣、来春復来、」と云う。「本草綱目」は、「李時珍曰」として、「此れ海中の鯊魚に非ず。乃ち南方の溪澗中の小魚なり。沙溝中に居り、沙を吹きて游び、砂を吸（[口匝]）いて食す。大は長さ四、五寸、其の頭尾は一般に大きく、頭の状は鱒に似る。體は圓にして[單]に似て、厚き肉をおびた重なった唇、細い鱗は黄白色、黒斑の点文あり。背には鬐あり、その刺は甚しく硬し。其の尾は岐（ふたまた）ならず小さい。時にならば即ち子（卵）をもち、その味は頗る美（うま）い。俗に阿浪魚と呼ぶ。」という。是れを「加末豆賀」にあてるべきである。又、エキ齊按うに郝懿行は「爾雅義疏」で、この魚を、「今、花々公子と呼ぶものが是れなり。巨口にして細鱗、黄白雑文あり、又、黒点あり。背鬐は甚しく利（するど）く、故に〈皮匠刀子〉と呼ぶ。」と記している。｝

読み下し：[末]　玉篇は云う。[末]。音末。一音蔑。漢語抄は云う。加末豆賀。／小魚の名なり。　箋注原文テキスト：[魚＋末]（５画）。参考字形：鯊（7画）。〔注〕（60-1）【玉篇】（大廣益会玉篇三十巻・張氏重刊宋本玉篇）（TDB）(魚部第三百九十七）[末]｛莫括、莫結ニ切.海中魚似鮑也。｝（60-2）爾雅：【爾雅】（「爾雅注疏十一巻」ＴＤＢ）巻第十：釈魚第十六：鯊[它]【註】今吹沙小魚體圓而有黒点｛○[它]音陁。｝【疏】｛鯊一名[它]。詩小雅云、魚麗于羀[嘗]鯊、陸璣云。魚狭而小常。○張曰、吹沙故郭氏云、今吹沙小魚也。｝（60-3）毛詩魚麗篇：正義云々：「毛詩注疏二十巻」汲古閣刊：TTDB：東洋文化研究所漢籍善本全文映像資料庫）：（魚麗六章上三章章四句、下三章章二句：７２２コマ～）：魚麗于羀鱨鯊…中略…○正義曰。…中略…陸璣疏云。[嘗]一名黄頰魚是也。似燕頭角身…中略…、鯊[它]釋魚文。郭璞曰。今吹沙也。陸璣注云。魚狭而小常張口吹沙故曰吹沙。此寡婦苟而得[嘗]鯊、之大魚、是衆多也。…中略…｝：[嘗]（14画）に魚麗篇全文を載せているので参照されたい。（60-4）後漢書馬融傳：【後漢書】六十上、馬融傳第五十上：（WLDB：120巻16冊：第12冊-41／88）[方][與][覃][扁][匽]鱧[嘗][少]楽我純徳、騰踊相随、雖霊沼之白鳥、孟津之躍魚、方斯蔑矣。｛[與]音緒、似魴而弱鱗。[覃]音徐林反、口在頷下、大者長七八尺。[扁]音卑連反、魴之類也。[匽]音匽、今[匽]額白魚也。[嘗]音嘗、詩蟲魚疏曰、今黄頰魚也。[少]音沙、或作鯊。郭義恭廣志曰、吹沙魚大如指沙中行。詩大雅曰、王在靈沼、於牣魚躍。鄭玄注云、靈沼之水、魚盈満其中也、皆以跳躍。又曰、白鳥翯翯。翯肥澤也。翯音學。言並得其所也。尚書中候曰、武王度孟津、白魚躍入于王舟中也。……字義：於牣魚躍：[牛＋刃]：説文解字：満也。从牛刃聲。詩曰、於牣魚躍。而震切。英語：（fill,stuff;full）。（60-5）太平御覧：臨海異物志：未整理後述する。（60-6）爾雅翼：鯊魚狹而小、其味甚美、大者不過二斤、然不若小者之佳、毛氏解、魚麗于羀[嘗]鯊之義曰太平然後微物衆多則鯊是物之微者孔氏正義乃曰此寡婦笱而得[嘗]鯊之大魚是衆多也。蓋鯊雖小魚在笱中為大耳、今人呼為重脣厚特甚有若黽、故以為名今江南小谿中、毎春鯊至甚多、土人珍之夏、則隨水下自以後時亦有之、然亦罕矣春來復來、大抵正月輒至魚之最先至者次則鯉至次則[厥]至桃花水至而[厥]肥則三月矣、此魚生流水之中、非畜于人又其至而多以明萬物自然繁育亦其先至故[嘗]鯊魴鱧[匽]鯉或其序爾。（60-7）本草綱目：（国会図書館蔵本KTDB）（第24冊）第44巻：鱗之三｛魚類三十一種｝〔24-44-鱗3-23〕〔24-46／111〕〔22〕鯊魚｛綱目｝（釈名）[它]魚｛爾雅｝吹沙｛郭璞｝沙溝魚｛俗名｝沙鰛｛音間（時珍曰）此非海中沙魚乃南方溪澗中小魚也。居沙溝中吹沙而游[口＋匝]沙而食。[它]者肉多、形圓陀陀然也。｝／（集解）｛（時珍曰）鯊魚大者長四五寸、其頭尾一般大頭状似鱒體圓、似鱓厚肉重唇細鱗、黄白色有黒斑點文、背有鬐刺甚硬、其尾不岐小時即有子、味頗美、俗呼為阿浪魚。｝（60-8）郝懿行（かくいこう）：爾雅義疏（じがぎそ）：鯊[它]｛今吹沙小魚體圓而有點文｝｛詩魚麗、傳用爾雅釈文引舎人云、鯊石[它]也、正義引陸璣疏云、魚狭而小常張口吹沙、故曰吹沙。後漢書馬融伝注引廣志曰、吹沙大如指、沙中行。御覧引臨海異物志云、吹沙長三寸背上有刺犯之螫人。爾雅翼云、今人呼為重唇唇厚特甚。按鯊[它]疊韵、鯊亦作[少]。今呼花花公子是也。巨口細鱗黄白雑文亦有黒點、背鬐甚利故呼皮匠刀子。｝：「花花公子」：Pinyin：huāhuāgōngzi：要するにプレーボーイのことだが、郝の生きた清時代で使われていた[末]≒吹沙魚の俗名であろう。「皮匠刀子」直訳すれば「皮職人が使う刀状の道具」ということであろう。魚の俗名としては不詳。

〔61〕　[白]魚　文字集略云、鮊｛音白。漢語抄云、之侶乎。｝｛○今俗に、之呂宇乎（シロウオ）と呼ぶ。或は、之良宇乎（シラウオ）という。｝。

　　　　魚薄身、白色也、｛○エキ齊按う。「説文」は「鮊海魚也」、「廣雅」は「鮊[喬］也」というが、其の物は未詳である。「文字集略」の鮊は、これに相当し、又、白魚あり、形状は[蚤]の條に詳しい。又、シロオ（之呂乎）にあらず、「漢語抄」にシロオ（之侶乎）と為すのは誤りだろう。／又、エキ齊按う。「本草綱目」は、「鱠殘魚は蘇松や浙江に産出され、大きさは、長さ４、５寸、身は円く筋のようであり、潔白の色合いは銀の如くであり、鱗は無い。姿そのものが鱠（ナマス＝サシミ）にした魚のようである。目は両方に黒点のように付いている。産地の人々は、小さいもののほうをとくに重んじる。陽干しをし、乾かして各地に出荷するが、清明節の前の子を持ったものを食すれば甚だ美味であり、清明節後になると、産卵（子出而）して痩せてしまうので、酢にしたり乾したり（鮓腊）にして使うのみである。是をシロオ（之侶乎）に充てるべきである。}

〔62〕　[小]　考聲切韻云、[小]｛音小、今案俗云氷魚是也、初学記冬事対、雖_レ有_二氷魚霜鶴之文_一、而尋_二其義_一非也、｝○エキ斎按うに、初学記は三十巻、唐の除堅等が勅命によって撰した書である。／原書の冬部の（対句を集めた）事対に、「氷魚霜鶴」と載る。その注に、「易通卦験」の「大雪魚負_レ氷」を引用して、鄭注に、「魚負_レ氷」は、「上近_レ氷」なり、とある。故にここでいう「尋其義非也」の意味はよくわからない。「氷魚」は、宮内省大膳職、内膳司などの式中に見える。万葉集、新撰字鏡の[縄（糸→魚）]は、「比乎」（ヒオ）と訓む。嶧山君は、「氷魚は琵琶湖中に出るが、漢名は未詳」と曰う。｝

読み下し：[小]　考聲切韻は云う。[小]。音は小。今案ずるに俗に氷魚と云うは、是なり。初学記、冬事対に氷魚霜鶴の文有ると雖も、其の義を尋ぬるは非なり。／白小なり。魚名なり。[白]魚に似て長一、二寸の者なり。　箋注原文テキスト：[小]（３画）〔注〕（62-1）考聲切韻：古書注「切韻」参照。（62-2）初学記冬事対：唐時代の類書「初学記」の歳時「冬」の対句（ついく）を載せた「字対」。古書注参照。（62-3）氷魚霜鶴：鮑照（414年?〈義熙10〉～ 466年〈泰始2年〉）は中国・六朝時代の宋朝の詩人。上党（山東省）もしくは東海郡（現在の江蘇省漣水県または山東省郯城県）の出身。字は明遠。最終の職名から鮑参軍と呼ばれている。その詩に「氷」と「霜鶴」を歌った「冬至詩」がある。参考に記す。鮑照「冬至詩」：舟遷莊甚笑。水流孔急歎。景移風度改。日至晷回換。眇眇負霜鶴。皎皎帶雲鴈。長河結瓓玕。層冰如玉岸。哀哀古老容。慘顏愁歳晏。催促時節過。逼迫聚離散。美人還未央。鳴箏誰與彈。（62-4）易通卦験（えきつうかげん）：「新美篇・輯佚資料」（KJTakedaDB）第六：緯書類［イショルイ］易通卦験（後漢：鄭玄注）：大雪魚負冰雨雪。玉燭寳典巻第十一。殿本同。初學記三引大雪魚負氷。御覽廿六引大雪魚負水。鄭玄曰負冰上近氷也。同上。殿本氷也下有雨雪者明不復雨水八字。初學記三引魚負氷上近氷也。御覽廿六引魚上近氷也。……なお、「魚負氷」は、禮記月令の「東風、氷を解かし、蟄虫始めてうごく。魚、氷に上り、獺、魚を祭る」（新釈漢文大系第２７巻「礼記上」227ｐ：月令第六：東風解凍、蟄蟲始振、魚上冰、獺祭魚、鴻雁来。）の孟春の月、獺祭を歌った有名な文章に載る。「魚上冰」は、「淮南子」（巻五時則訓）に載り、また中国古代歳時を記した｢玉燭法典｣には「礼記月令」を引用して「魚上負氷」と記す。（62-5）宮内省大膳式、内膳式：延喜式：【延喜式】（国史大系）《31巻》宮内省：（１）諸国例貢御贄：①山城。／平栗子。／氷魚。鱸。…中略…②近江。／郁子。氷魚。鮒。／鱒。阿米魚。《39巻》内膳式：（１）年料：①山城国。／氷魚。／鱸魚。…中略…②江国。／煮塩年魚二石。鮒。／鱒。阿米魚。氷魚。（３）山城国。近江国氷魚網代各一処。其氷魚始九月迄十二月卅日貢之。（62-6）新撰字鏡：【新撰字鏡（享和本）】(群書類従本も同一表記)　[黽]{食陵反。比乎}。……エキ齊が箋注に使った新撰字鏡は、「享和本（群書類従本とほぼ同じ）」であるが、【新撰字鏡（天治本）】は「注記」には「上字」とあるのみ。[小]（３画）参照のこと。（62-7）万葉集「氷魚」：巻十六（岩波文庫版下巻178ｐ）（3839）：吾背子が犢鼻（たふさぎ）にする圓石（つぶれいし）の吉野の山に氷魚（ひを）ぞ懸有（さがれ）る｛懸有、反してさがれると云ふ｝／右の歌は、舍人親王（とねりのみこ）侍座に令（おほ）せて曰（のたまは）く、／もし由（よ）る所無き歌を作る人あらば、賜ふに錢帛を以ちてせむとのたまひき。時に、大舍人安倍朝臣（あべのあそみ）子祖父（こおぢ）すなはちこの歌を作りて獻上（たてまつ）りしかば、登時（すなはち）募（つの）れりし物錢二千文（にせにもに）を給ひき。（62-8）嶧山君：人名〔注〕参照。

　　　　白小、魚名也、似_二［白］魚_一長一二寸者也、｛○エキ齊按う。「白小」の名は、杜甫の詩に見える。「潜確類書」に、「麪條魚」を載せるが、即ち、この魚のことであろう。小野（蘭山）氏は、「筑前にて之を之呂伊乎と謂う。肥前にて之を之良伊乎と謂う。出雲にて之を伊佐々、又は伊佐々比乎と謂う。伊勢にて之を比與呉と謂う。又、之良比與呉と謂う。」という。エキ齊おもう（愚按）に、比與呉は、蓋し氷魚子の転譌であろう。小野氏は、又、「出雲にて鱠残魚と謂い、これを比乎としている。並に、與琵琶湖中の者は同名異物である、云々」といっている。｝

読み下し：[小]　考聲切韻は云う。[小]。音は小。今案ずるに俗に氷魚と云う、是なり。初学記冬事対に氷魚霜鶴之文有ると雖も、其の義を尋ねんとするにはあらず。／白は小にして魚名なり。[白]魚に似て長は一二寸の者なり。　箋注原文テキスト：[小]（３画）。参考：[白]（5画）。〔注〕（61-9）杜甫詩：「杜甫全詩集」第４（鈴木虎雄訳注。日本図書センター、昭和５３年）：「杜甫陵詩集」巻十九に「白小」（はくしょう）を載せる。大暦元年（766）虁州（きしゅう）における作。「白小」「白小羣分命／天然二寸魚／細微霑水族／風俗當園蔬／入肆銀花乱／傾筐雪片虚／生成猶拾卵／盡取義如何」自然に生れたわずか二寸ばかりの小魚を、市場では銀花のごとく珍重し取引きされるがために、生れた命をことごとく取り尽してしまうこととは、いったいどういう義があるのだろう、という大意である。（61-10）潜確類書：陳仁錫「潜確居類書」一百二十巻（明史芸文志）。明・崇禎三年刊が伝わるので、１６３０年前の成立。麪條魚の記事は、未見のため不詳。（要確認）（61-11）小野氏曰：小野蘭山の「本草綱目啓蒙」には、引用と同文の記述はないので、同書からの引用だとすれば、「鱗之三魚類」「鱠残魚」（東洋文庫「本草綱目啓蒙」３：224ｐ）からであろう。[小]（３画）に、「鱠残魚」のセクションを引用したので参照されたい。

〔63〕　細魚｛海糠附｝　漢語抄云、細魚、｛宇流理古、｝｛○小野氏は、「本草綱目啓蒙」で次のように曰っている。「越前足羽川に産する小魚は、状（すがた）は蝦虎魚に似て、大きさは一寸ばかりで、伊左々と呼ぶ。一名は、宇流理古という。」是は［矞］魚の一種であろう。｝

　　　海糠魚、｛阿美、今案未詳、｝｛○「新撰字鏡」は、[義]をあげ「同訓」とする。阿美は、「顕昭拾遺集注」に見える。今俗に猶お小蝦を阿美とよぶ、」エキ斎按う。「閩中海錯疏」に「塗苗」が載り、「海物異名記」を引いて「謂之醤蝦、細如針芒、海濱人醎以為醤」と云う。「広東新語」は、「醤蝦最小者銀蝦、状如繡針、以紵布為網、々大丈有二尺、以罾[周＋戈]繋之、口向上流、」と云う。」下総本禾上有所出二字、廣本有所出竝三字、｝