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食単随筆

草鞋雑記

 

味探検食単随筆 調味料論 その1

 

タレとツユとダシの

言葉について

―ブッカケと冷やし中華の起源雑考―

まえおき  そば切り(もりそば)には「そばツユ」。ソーメンにも「ツユ」。焼肉には「タレ」。冷やし中華には「タレ」。胡麻ダレなんかもある。食べる様式についてみても、「つゆ」には「つける」であり、漢字で書けば「付ける」だ。「タレ」には、おなじ「つける」という言葉があっても、主に「漬ける」という意味に使われ、タレの味をなじませたり調味用語として使われる。また、「タレ」には、「かける」あるいは「からませる」という言葉を続けて、食べる動作をさす場合よりも、むしろ麺なり素材を調味する過程の動作をさすことが一般的である。

僕は、関東に生まれそだったので、関西では異なるのかもしれないが、すくなくとも東京を中心とする関東エリアでは、このような使われかたをしている。

素材本体(麺や肉や野菜など)を、ツユあるいはタレにつけて食べる食べかたは、用語としては思いつかないので、仮に「つけ食」と名付けてみよう。そば切り、ざるうどんがあり、しゃぶしゃぶやすきやきや鍋料理も「つけ食」に入りそうだ。

「ツケ食」にたいする食べ方は、ツユあるいはタレを素材本体に「かけ」たり、「からます」ことで食べる食べ方である。これには、実にピタリとした言葉「ぶっかけ」がある。江戸の庶民たちが、「食堂」をはいった上がりかまちにヒョイとこしかけて、茹で上げたソバやウドンをドンブリにいれ、ツユにつけずに、ブッカケて食べる食べ方がはやったそうだ。

上がりかまちに腰掛けて、さっと景気よく食べる。街道スジの「ぶっかけそば」、今の「かけそば」となる言葉である。このそばは、看板通り生粉打ちの「生そば」だったろうと思われる。(写真原板は金掘「永坂更科」提供)〔『実用そば辞典』植原路郎著、東京文献センター、昭和44年刊〕より転載。

この考証=ゴタクはあとで述べるが、食べ方がメニューになって「ぶっかけ」(ソバあるいはウドン)と称したという。冷やし中華も、考えてみれば、「ぶっかけ」のバリエーションであり、食べ方としての「即席性」「簡便性」のともなうものとして生まれた。はやい話、手抜き料理なのだ。

じゃあ、いまはやりの「ツケ麺」のばあいは、あのツケジルは、「つゆ」とよぶのか「たれ」とよぶのか。そして、もうひとつ「ツユ」と「タレ」の中に入って「ダシ」のことを忘れてもらってこまるゼ、という声も聞こえてきそうだ。

と、こんな調子で、食文化のなかで、「つけ食」と「ぶっかけ食」についての雑多な、あんまり意味の感じられない考察をしてみようというのが、本ページであります。

タレとダシの語源  まず、タレの語源をさぐっていくと、味噌、醤油という発酵調味料とダシとのかかわりから生まれていることがおぼろげながらわかってくる。このあたりのところから、文献を渉猟してみたい。

古事類苑」飲食部四、料理下の「だし」(280頁)「生垂」(281頁)「煮貫」(同)をひこう。

 

○だし

〔倭訓栞 中編十三多〕だし 垂汁の義、又煮出の義、

〔屠龍工随筆〕鰹ぶしを味に用る事、いつよりありつるとも志らず、古へには沙汰もなきことなりけり、然而延喜式大膳式に、鰹の汁幾*[木ヘン+盃ツクリ=はい]と出文、宇治拾遺物語に、みせんといふもの見えたるは、文字いかに書ともしれざれども、事のさま、今いふ水出しの様におもはれたり、

〔一話一言 二十一〕煎汁

 薩摩より出る鰹煎汁を、外の國にては ニトリ ( ○○○ )といふ、薩摩にては セン ( ○○ ) といふ、和名抄に煎汁とあれば古語なりと、忍池子の話、{九月初三}

〔料理物語 なまだれだし〕だしは かつほのよきところをかきて、一升あらば水一升五合入、せんじあぢをすひ見候て、あまみよきほどにあげてよし、過候てもあしく候、二番もせんじつかひ候、精進のだしは  かんへう 昆布{やきても入}ほしたで、もちごめ、{ふくろに入に候}ほしかぶら、干大根、右之之内取合よし、

〔厨事類記〕寒汁實{○中略}

 或説云、寒汁ニ鯉味噌ヲ供ス、コヒノミヲヲロシテ、サラニモリテマイラス、 ダシ汁 ( ○○○ ){或説イロリニテアルベシ、或説ワタイリノシル云々、}にてアフベシ、

○生垂

〔料理物語 なまだれだし〕生垂(なまだれ)は 味噌一升に水三升入、もみたてふくろにてたれ申候也、

 垂味噌(たれみそ) みそ一升に水三升五合入、せんじ三升ほどになりたる時、ふくろに入たれ申候也、

○煮貫

〔料理物語 なまだれだし〕煮貫(にぬき) なまだれにかつほを入、せんじこしたるもの也、

〔料理物語 萬聞書〕煮貫は 味噌五合、水一升五合、かつほ二ふし入せんじ、ふくろに入たれ候、汲返し汲返三辺こしてよし、

 

また、このほかに、「本朝食鑑」(平凡社・東洋文庫、島田勇雄訳注)巻之二穀部之二 醸造類十五 味噌(第1冊95頁〜)には、「垂れ味噌」(たれみそ)が紹介されている。

 

○垂れ味噌

〔集解〕 あるいは水垂(みずたれ)ともいう。味噌水に研(と)ぎ、布袋に盛り、桶の上に置くと、水は垂れ下りて桶に溜まる。それで垂れ味噌というのである。物を煮る場合の汁とする。〔気味〕〔主治〕は味噌に同じい。

 

MANA・なかじま

2003年6月16日記

調味料論その2―ぼくのうちで日常使っている調味料について


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