味探検食単随筆 氷食論もしくは氷室論01


人間ふれあい歴史

by MANA-M,Nakajima


も く じ

01 まえおき  6月1日はなんの日? 氷の文化史ライブラリーについて

02 桑野貢三さんとの出会い

03 雑誌『自遊人』2003年9月号氷特集「氷のごちそう」

04雑誌『自遊人』03年9月号氷特集「夏の風物詩、氷旗に見る天然氷の歴史」

05ニチレイHP・人と氷のふれあい史「くらしの中の氷」その1・その2・その3・その4

氷の文化史ライブラリー

桑野貢三・氷室エッセイ集

桑野貢三編・浜 森十「氷のきらめき(抄)」

皆川重男編「氷業史資料文献目録」

池上佳芳里「北陸地方における雪室の分布とその盛衰」

野村恵智雄「信州の氷室」

田口哲也「心の奥を、突き動かすもの」

「氷の文化史」書評

竹井巖 「金沢の氷室と雪氷利用」New!!

川村和正 「都祁氷室に関する一考察」 New!!

 

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氷と人間のふれあいの歴史について

 

まえおき

 冷蔵庫でいつでも氷を使える時代に生きていると、氷のありがたみについて考えようなんていう人は、ほとんどいないだろう。家庭用電気冷蔵庫が普及するまでは、マルマル氷室とか××氷業という看板をつけた氷屋さんまで氷を、一貫め単位で買いに行ったものだ。ぼくの子供のころの夏の思いでのひとつに、買ってきた氷をアイスピックで割るのを待ちかまえていて、透き通った氷片をひとかけらもらい、口にほうばるのがなんとうれしかったことか。

 

   冷えわたる五臓六腑や氷水

 

という日野草城の句があるが、五臓六腑にしみわたる冷の感覚は、やはり氷でないと味わえない。おなじ冷たさでもアイスクリームでは、この感覚は味わえないのだと思う。

 「カキーン」とか「ガリガリクン」のようなキャッチコピーや、商品名にも、氷ならではの冷たさの独特の世界があるのである。

 ぼくが、脱サラして、フリーライター稼業をはじめて、はじめての仕事が、実はこの氷の世界を表現することだった。ニチレイアイスの社長をされていた田口哲也さんがニチレイの社内報で書いていた「氷を愛す・ICE」と題したエッセイを膨らませて1冊の本にしようという企画をたて、それが採用されることとなり、冷凍食品新聞社から田口哲也著『氷の文化史―人と氷のふれあいの歴史』として刊行された。

『氷の文化史―人と氷とのふれいあの歴史』の内容

 1年間をかけて田口さんからの聞き書きを整理し、また氷に関する古今東西の文献を集め、ダンボール箱数箱にもなる資料を駆使し、田口さんの文章に考証を加え、1冊の本の原稿にしあげる手助けをするのがぼくの役割であった。文献の読み込みと現地調査のなかで、古文献の原典に遡って記述のチェックをする楽しさと、手法を、この本の編集制作作業のなかで学ぶことができた。古代中国や韓国日本の食や水の管理制度や食文化の基礎文献にあたることができたことは、そのごの僕のフリーライター稼業のの方向を決定付けるほどだった。

 そして、田口さんの「氷の文化史」の著作の中では取り上げることのができなかったテーマがたくさんのこった。

6月1日はなんの日か?

 古代中国には、、国王の食や酒や水など身の回りのこといっさいを司る天官という国家制度の仕組みがあった。この仕組みのなかに、「蔵氷」と「賜氷」という、氷を冬作り、氷室に蓄えておき、夏に蔵から取りだし利用する凌人(りょうじん)という部署があったことがしられている。

 韓国を通じ日本に伝えられた賜氷の制度は、すでに奈良時代にはほぼ確立されていた。日本書紀の仁徳天皇62年、鷹狩りという準戦闘行為の最中に鬪鶏(つげ=現奈良市郊外の都祁村とされる)に居を構えていた氷室守りを発見し、従属させるという記述があり、長屋王廷跡から発掘された木簡から、都祁氷室と長屋王における氷の利用の実態が明らかにされている。日本の賜氷制度は、主水司(モヒトリノツカサ、モンドノツカサ)という宮内省直属の官職により執行されてきたが、鎌倉期前後から、いろいろな理由によって、蔵氷・賜氷の実態はほとんど無くなってしまう。

 室町期から江戸時代になると、この賜氷制度が、民間信仰と一体化して歳時として6月1日の「賜氷の節句」(しひょうのせっく)、あるいは「氷の朔日」(こおりのついたち)行事へと変質を遂げていく。

 この6月1日は、現代の年中行事としては、「気象記念日」、「電波の日」、「アユ漁解禁」、「衣替え」などのほか、一般的な辞書や年中行事を記した本にはほとんど記されていないが、製氷業者の全国団体が定めた「氷の日」となっている。

 ただし、現在の暦から約1ヵ月遅れに訪れる旧暦・太陰暦の世界を意識した、現代の日付で7月1日の年中行事では、海開き、山開きとなっている。

 江戸の年中行事をしるした「東都歳時記」には、6月1日(朔日)の条には、

 

朔日(ついたち) ○氷室御祝儀(賜氷の節句) 加州候御屋敷に氷室ありて、今日氷献上あり。町衆にても旧年寒氷をもって製したる餅を食してこれに比らふ。

 ○富士参り。前日(5月晦日みそか)より群集す(これ富士禅定ぜんじょうの心とぞ。駿河国富士山は、つねに雪ありて登ることを得ず。ゆゑに炎暑の時を待ちて登山す。これにならひに今日参詣するなり。)……以下略……

 

とある。

 現代、すでにほとんど失われてしまった6月1日という日に行われてきた古代日本からメンメンと続く蔵氷・賜氷制度の痕跡を探し歩いてみようというのが、MANAによる、本ページの設定意図である。

 断片的は、街道歩きの際に、氷に関連する史跡を訪ねたり、文献資料を集めてきたものが、けっこうたまった。「氷の文化史」のなかでの思い込みによる誤りや、あらたに発見したことがらもたくさん出てきた。具体的に、この蔵氷賜氷制度の歴史と、6月1日という日にこめられた意味の探求についての具体的なテーマをアトランダムに整理すると、おおよそ次のようなことがあげられる。

氷の文化史ライブラリーについて

○夏の文化史……四季のなかの「夏」の意味。人々が暮らしてきた普通の人々の歴史の中で「夏」はどのような位置を占めているのか。人々の夏の風俗再考。

○旧暦の世界と新暦の世界のギャップを氷の文化史や夏の意味を考えながら整理してみること。そして現代に生きるわれわれにとって旧暦世界の流れを暮らしの中に取り入れることによって、大気や水、生物の営みといった自然の流れを感知してみようという試みについて記してみたい。

○春夏秋冬という四季の再チェック。

○宮廷行事の「正月」に1日天皇への拝礼行事に続けて行われる諸司の奏があり、その一つにその年の氷のでき具合を奏し、1年の天候を占う「氷様」(ひのためし)という儀式があった。この朝廷への儀式は、日本独特のものとおもわれる。蔵氷賜氷の制度の骨格は中国を源流として朝鮮から伝わったものであるなかで、氷様の儀式はどんな意味をもっていたのかは、蔵氷賜氷制度との関連において、あるいは他の腹赤を奏する儀式などとともに、その詳細はあまり語られたことがない。「氷様」儀礼についても「冬」あるいは「正月」の季節のなかでとらえなおしてみたい。

○富士講、大山参りなど江戸の人々の信仰やレクリエーションについて……再考察と追体験期。味探検街道歩きシリーズと並行してすすめてみる。

○氷室の歴史再考……人々が氷を貯蔵するという営みを、古代蔵氷制度の歴史とは切り離して、冷気・寒気を閉じ込め利用する歴史として捉えなおしてみる。氷室から取り出したあとの氷の利用の歴史。氷室のハードウエアーとしての構造、設計技術について。

○明治維新のかき氷……明治維新直後から大正期にかけてのかき氷大ヒットにまつわる下世話ばなしを整理する。

○中川嘉兵衛論……人造氷開発の功労者中川嘉兵衛再考。

○氷の文化史ライブラリー……氷の文化史の著者田口哲也さんとよくはなしをするのだが、「氷の文化史」発刊が機になり、函館氷研究者や諏訪湖製氷業史研究者など各地の郷土史家や民俗研究者あるいは食文化のなかの氷について関心を寄せるひとがたくさんおられることがわかってきた。こうした人たちの発表してきた論文やレポート、エッセイはほとんどの人の目に触れることなく、各地の地方新聞や、自家出版、情報誌のなかにうずもれていることが多い。これらの文献を、執筆者達の合意の上で、WEB上で掲載していく試みをスタートさせたい。

○そのTOPに、桑野貢三さんのページを設けようと思う。桑野さんとは、千住に住む近代新聞の号外コレクターとして知られる皆川重男さん(残念にも過日亡くなられたという訃報の葉書きが親戚の方から送られてきた。墓に詣でたいと思いながら年月が経過してしまった。)が収集されていた氷業史資料に着目した同好の士として皆川氏のお宅を訪問したり、皆川重男著『氷業史資料文献目録』にかかれた諸文献についての情報交換などを通じてお付き合いすることになった。現在、氷業史についての研究者としては全国でも数少ないエキスパートの方である。

○すでに、桑野さんご本人の了解もいただいているので、氏がこれまでに、まとめて自家出版されてきた「冷凍機屋人生」「同(続)」「同(続々)」「同(続々々)」「同(続々々々5集)妻の介護記」の5冊の本のなかには、氏の冷凍機技術者としての業績から冷凍→冷蔵→製氷→冷凍冷蔵史についての数多くの論考、エッセイが納められている。このなかから、製氷と氷蔵、賜氷と氷の文化についてまとめた「氷室雑話」と題するエッセイを中心とする文章をライブラリーに収めネット公開したいと思う。これらの文章の初出誌は、日本冷凍協会「冷凍」である。

 

 以上、MANAによるテーマごとの本文記事にくわえ、前述した、皆川重男著『氷業史資料文献目録』のほか、手元には、著者の了解を得ている若手研究者の論文などもあり、逐一「氷の文化史ライブラリー」に加えていくつもりである。  (MANA)

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02 桑野貢三さんとの出会い

03 雑誌『自遊人』2003年9月号特集「氷のごちそう」

04雑誌『自遊人』03年9月号氷特集「夏の風物詩、氷旗に見る天然氷の歴史」

05ニチレイHP・人と氷のふれあい史「くらしの中の氷」その1・その2・その3・その4


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