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Photo Essay By Hiroaki Miyamoto

 

宮本宏明 写真館

早春の山稜

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私は横浜に住んでいるが、冬のよく晴れた日には近所の高台から富士山を望むことができる。そして、富士山の中腹から下を隠す様に丹沢山塊が連なっている。

表尾根から塔ノ岳、丹沢山を経て最高峰蛭ヶ岳までは、展望に恵まれた明るい山稜で、東丹沢と呼ばれる。一方、蛭ヶ岳から桧洞丸、大室山、加入道山方面の鬱蒼とした樹林に覆われた山稜は、西丹沢と呼ばれている。

山を始めた頃、丹沢をよく歩いた。日帰り圏にありながら登山コースは結構な標高差を持ち、夏の暑い日などは相当にしごかれた。その頃は展望が最大の楽しみであり、展望のない西丹沢はつまらない山だと感じていた。それでも、サルオガセが揺れ霧が漂う森の中で感じた不思議な霊気は今でも強く印象に残っている。

深緑の滝

私の山登りは、やがては写真撮影という目的を持つ様になった。やはり初めの頃は、山に登る誰もがやる様に、好天時の雄大な山岳景観ばかりを写していた。森林限界より上の世界でのみ山の美しさ、凄さを感じていた。樹林帯の登りは雄大な景観に出会うまでの単なる通過点に過ぎなかったので、ザックの重さに耐えながらただ黙々と歩くだけだった。丹沢は3000メートル級の山に登るためのトレーニングの場であり、被写体としては3000メートル級の山には及ばないと思っていた。

しかし、本格的に山岳写真に取り組み始めてしばらくするうちに、自分の山を見る目ががらりと変わったのを感じた。写真のモチーフをキョロキョロ探しながら歩くことが習慣となり、広大な風景の中から、あるいは雑然とした林の中から美しい部分が見えてくる様になった。展望のない樹林帯を歩きながら、絶妙な木々の配置や枝振りに美を発見したり、雨に濡れる下草に生命の営みを感じたり、霧に煙る森の幻想的な雰囲気に酔う。芽吹きから新緑の命あふれる季節、深緑の森、鮮やかに色づく秋、冬枯れの明るい林、どれもなんと美しい世界なのだろう。

苔むす倒木

巨木

西丹沢の森も、撮影ポイントを捜しながら樹木達と語らう様にゆっくり歩くことで、その美しさを感じ取れるようになってきた。そして、いつしか東丹沢よりも森と自然が豊かな西丹沢の方に魅力を感じる様になっていた。

近年、丹沢の自然が急速に傷ついてきている。果てしなく続けられる林道建設、押し寄せる登山者の群れに踏みつけられ広がってしまった登山道、その対策として造られた過剰に立派な木道で景観はぶち壊しだ。立ち入り禁止の無粋な黄色いロープ。酸性雨の影響か稜線のブナの木は黒く立ち枯れてしまい、過剰に増えた鹿の食害対策として張り巡らされた金網。やむを得ないこととはいえ、自然を守るためのものまでもがさらに自然景観を破壊しているという悪循環に、やりきれないものを感じる。

お気に入りのブナに会いにでかけても、知らぬ間にそこに人工物が造られてしまい、もはや写真にならないといったこともしばしばである。最近はそれが怖くて、少しばかり丹沢から足が遠のいてしまった感がある。

ここに紹介する作品は、これまでに撮りためた中から選んだお気に入りのカットである。中には、もう二度と撮れない場所も含まれている。大都市にほど近い場所に広がるこの自然が、これ以上傷つけられないことを願うばかりである。

Hiroaki Miyamoto

PhotoAlbum

プロフィール  HIROAKI MIYAMOTO
1960年東京都大田区生まれ。中学1年の夏に白馬岳に登ったことがきっかけで、山に夢中になる。大学時代はワンダーフォーゲル部、山岳部に所属。1983年頃より独学で山岳写真を始め、雑誌のコンテストやカレンダー等に作品を発表。1998年第36回岳人写真賞優秀賞受賞。南アルプスを中心に撮影を続け、2002年は写真集『日本10名山』(東京新聞出版局)で赤石岳の作品を発表、グループ展『日本10名山』『山・遙かなる想い』に出品。2003年カレンダー『美しき日本の山』(山と溪谷社)に作品が採用される。全日本山岳写真協会会員。山岳写真の会「稜」同人。

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