味探検 食単随筆 010831 漬物論 その(1)漬け物OR漬けもの

Notes ぬか味噌は幸せを呼ぶか?

―ついにヌカ味噌おじさんになってしまった―

 ぼくは、料理好きでいろいろなジャンルの料理にトライをしてきたが、どうしても苦手なものがあった。

 ヌカ味噌に手を突っ込めないのだ。ヌカ味噌だけは男がかき回すものではないとさえ思ってきた。もちろんヌカ漬には目がなく大好きだったから、笹塚のおいしそうな漬物屋さんを飲み屋で飲んだ帰り道に発見したときには、思わずその場で、そのヌカヅケの工場に入りこんで、漬物をひととおり買いこんで家に帰ってから、それをツマミにのみ直したほどだ。それ以来すっかりそこの漬物の味に惚れ込んでしまった。

 いっさいの合成保存料や化学調味料を使わず、ヌカも減農薬米から取れるものだけを使うなどの徹底ブリ。これは、女将さん本人が、アトピッ子だった経験から、日常の食素材の選別作業によって収得した、苦労の末の結晶という。

 ある日、この漬物屋の女将さんから、ぼくが記事で紹介をしたお礼(すみません、そんなこと要求したことなどないのですが、この場合は、丁重なお手紙が添えられてあってとってもうれしかった)といってヌカ床セットが、我が家に送られてきた。

 いま女房は仕事がとても忙しくて、我が家には久しくヌカ床は存在していなかった(結婚したてのころはたしかあったが、いつしかなくなった)。漬物用のほうろうの容器はいくらでもあったから、女房に頼んでヌカ床を仕込んでほしいと頼んだのだが、「あなたが日々かき回して管理してくれるならいいわヨ」といわれてしまった。ぼくの弱みを知ってのテイのいい拒絶であった。

 1週間ほど冷蔵庫で眠らせておいたのだが、けっこう大きな袋で野菜室の相当スペースを占領していたから、このまま放っておくわけにもいかず、しょうがない、エイやってみるかと、勇気をフルって、ヌカ床を仕込み、生涯はじめてヌカ味噌に手を突っ込むハメになってしまったのである。

 しかし、なんでも、1度やってしまうと、これまでのできなかったのはナンだったのかということがよくあることで、ヌカの香りがとてもよく、女将さんの丹精こめたヌカ床ということもあり、手がツルツルになる感触も、不思議だった。

 キャベツの葉っぱでステヅケをして、ナスを漬け込んでみた。その味のよさに、毎夕、今日は何を漬けようかと、ヌカ床をかき回しながら考え、朝食用の漬物を取り出してはまたかき回しと、今じゃあすっかりヌカ味噌おじさんになってしまった。

 もう料理の世界に怖いものなしである。

 最近、野菜というものなら一巡なんでも漬けこんでみて、ある発見をした。知っている人なら、当たり前のことで、たいしたことではないと思うが、浅ヅケのサラダへの応用である。

 玉ねぎを1枚1枚むいて漬けこんでみたら、これが漬物としてもうまいことがわかったが、2時間ほどの浅漬け状態で取り出して、スライスしてサラダにしてみたら、これがオリーブオイルやごま油と酢などと抜群の相性で、うまいのなんの。キュウリも1時間ぐらいの浅ヅケぐらいがちょうどいい。

 ドレッシングだけでなく、オニオンスライスにしてカツオブシをかけて食べてもいい。キュウリもこの浅ヅケでサラダに、味噌に付けてモロキュウにしても抜群のうまさだ。

 わがヌカ床は、最高に管理状態がよく、乳酸発酵のよき香りを発して、ヌカ味噌とのふれあいが、ぼくにいっときの心の解放と幸福感さえ感じさせる。もはや、ヌカ床のない暮らしなど考えられない、そんな存在になってしまった。ヌカ味噌の文化史ならぬ、おじさんのヌカ味噌論を書くべく資料回収を始めた。いつしか「ヌカ味噌おじさんになるの巻」の続編として公表する日がくるであろう。

 

 漬け物論 その2 本物の糠漬けとはどういうものか?

マルイ漬物の「手入れと保存法」より

 まず、MANAが実践している、はじめて習ったヌカヅケ法であるマルイ漬物の注意点を書き出しておこう。

 

<愛情という名の手塩とともに>

 毎日ぬか床の底のほうからかき混ぜて空気を入れることが大切です。
 手入れを怠ると酸っぱくなります。
 最初2、3回は野菜をそのまま漬けます。その後は野菜に塩少々をこすってつけます。

●水気が多くなったら――
 ぬか1/2カップに対して塩小さじ山1で足す。
●留守にするときは――
 残った漬物を丁寧に取り出し、ぬか床に空気が入らないように掌で表面を叩き密封して冷戦庫に入れる。夏場は冷蔵庫をうまく利用しましよう。気温が上がると早くつかるので、冷蔵庫で漬けると一定の時間で上手につかります。
●酸っぱくなったら――
 漬かっている野菜を全て取り出し、練り辛子(卵の殻)を加え、底まで手を入れて充分にかき混ぜ、二・三日休ませる。
●かびたら――
 かびは表面なので上3センチ位を掬い取って捨てる。床を他の器に移し容器を洗い乾かす。床を戻し(くず野菜は取り除く)三〜四日、朝晩に混ぜ、休ませる。
●ねかし方――
 漬けてある野菜を全て取り出す(昆布等)。ぬか1カップ塩大さじ1の割で耳たぶ位の堅さにする。表面を平らにしたぬか床の上に厚さlcm位塩を敷く。
 煮沸消毒したふきんを塩ぶたした上にピッタリしく。容器のふたをし、虫が入らないよう新聞紙をかぶせ縛り冷暗所に置く。
●容器は一番良いのは木の樽ですが、家にあるものを利用なさって下さい。
●虫よけのため、ふた付き容器に入れて陽のあたらない風通しの良い涼しい所がよいでしょう。
●原材料名 減農薬米米ぬか、天然塩、唐からし、洋からし、昆布、うめ●消費期限 この状態で冷蔵庫に入れを場合は約27月です。移しかえた時は上記の要領で手入れをすれば一生使えます。

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