列島雑魚譚


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zackology essay 04

 

 

囲炉裏でカジカを焼く。カジカの腹がぷっくりと膨らむと食べごろだ。

その3−新潟県浦佐

越後の山里で見つけた

「八つ目あります」

 新潟県の越後湯沢から苗場スキー場に行く途中に、二居という百軒に満たない小さな村がある。私が所属する高校山岳部のOB会で、10年以上も前に、この山の中に手作りの山小屋を建てることになったのがきっかけで、二居集落の人達とのお付き合いが始った。最近では、一六号国道沿いに町営温泉ができたこともあり、目の前に田代スキー場もあったりで、便利にはなったが、前ほど静かな山小屋あそびができなくなってしまったのが残念でしょうがない。
 仕事も忙しくなって、この数年は、足しげく通っていた二居山小屋とも、とんとごぶさたになっている。それでも、山小屋を建てるお手伝いをしてくれた地元の二級建築士、生方利春さんとは、今でも、雪の状態がどうの、今年はマイタケが大捕れしたとか、最近の若い後輩達は、地元の人に挨拶をしなくなっただのと、手紙や電話で、頻繁に連絡をとりあったりしている。利春さんや、オヤジさんの利直さんは、冬眠から覚めたばかりの熊撃ちに出かけるのが年中行事化しており、収穫品の熊肉やウサギ肉を分けてもらうのが楽しみで、5月の連休や6月には、山菜つみをかねて毎週のように二居に出かけたものである。

 ●浦佐のカジカ酒を知る

 その利春さん、魚沼漁協の組合員で、穴場の岩魚釣り場を教えてもらったりしていた私の釣りの師匠でもある。あるとき、生方家の水槽で飼っていたカジカを見つけたことから、カジカ談義がはじまった。話しているうちに、越後湯沢から下った浦佐では、3月3日に「裸押合い祭」という奇祭があり、街中でカジカ酒が振舞われるということを聞きつけた。ザッコロジスト、かつB級グルマンとしてのムシがうずきはじめたのはいうまでもない。祭当日は、混雑して雰囲気を味わうにはいいのだが、ゆっくりと話を聞くなら、日を改めるべしとの取材原則を採用して、浦佐に出かけたのが1996年3月9日のことだった。
 信濃川の支流、魚野川沿いの浦佐に、「浦佐やな」というヤナ場がある。ヤナといえばアユやウナギの季節、夏から秋にかけて賑わうが、じつは、シーズンオフこそ、川や地元の漁の話を聞く格好の場所なのである。利春さんから「浦佐やな」のことを聞いていたから、前もって「カジカ酒とカジカ料理に川漁の話を聞きたい」と連絡しておいたら、ご主人の磯部文雄さんが「それならカジカを用意しときましょう」とこころよくひき受けてくれた。
 小雪混じりの天候が、関越高速を降りて浦佐の町に着く頃には吹雪に変わっていた。浦佐やな場では、雪囲いに覆われて、うす暗い入り口のガラス戸に、「八つ目あります」と筆書きされた張り紙。出迎えてくれたご主人の磯部文雄さんに、挨拶もそこそこに、さっそく「八つ目ってあのヤツメウナギですか」と聞く。
 磯部さん「久し振りの入荷があったばかりですが、八つ目をよくご存知で。今年はよくとれる年でな、こいつも焼きましょう」。木枯らしが吹き始める十月過ぎ日本海から信濃川を溯ってくるというヤツメウナギ。本で読んだことがあるだけだから、こいつは初物尽くしのザコ体験が期待できそうだ。
「ところでご主人、そこにあるのはサケのようですが」と、天然冷蔵庫替わりの雪囲いの片隅に置かれた魚箱らしきものを、目ざとく発見し尋ねる。

 磯部さん「おお、サクラマスの塩付けを戻しておるところよ」という。浦佐の近くまでは、信濃川をへて、サクラマスが遡上してくるのだそうだ。吹雪の入り口前での立ち話からして、こんな調子だから、囲炉裏ばたに案内されてから、カジカ、ヤツメウナギ、サクラマス、カンバヤからヤマメ料理をいただきながらの、たっぷり4時間あまり川魚話しに聞きほれてしまった。浦佐やなのご主人磯部文雄さん、さっそくカジカを竹串に刺し塩を振りかけ焼いてくれた
(写真上)


カジカ釣りとハチノウオ

 囲炉裏ばたにどっかと座り込んだ山田順二さん。浦佐やな場の焼き方さんを30年以上もつとめる、浦佐きっての川漁の腕利きである。磯部さんから、「カジカを釣らせたら一番」と紹介される。

  (写真右−ヤツメウナギはこうやって竹串に刺してな。

  こいつがうまいのなんの
 山田さん「おれが子供ん時分には3月の学校の休みに入るとカジカ釣ったもんだ。モッコというんだが、石つんだ堤防だよ。モッコの石の間にいるカジカを釣るんさ。1メートルぐれえの竹でこさえるんさ。昔は、壊れたカラ傘の骨を使ったもんさ。こいつは細いからふたっつ継ぎ足してさ細い針金で結わえて、しかけは20センチぐれーのテグスの先に鉤くっ付けただけのやつでな、餌はザザムシが一番だったな。こいつをモッコの石の間に突っ立てて何本も置いて、順繰りに見ては戻り、見ては戻って気がつけば真っ暗になってたもんだ。150釣れたこともあったんさ。」


 「一人で何本ぐらいしかけるんですか」

 山田さん「おら一人で30から40本。鉤はそうさな9号くらい。ここのさきに、自分の目印を色のきれえなボロ布を破いてな、間違えないようにつけておくんさ。夕方になると、ヨイミズといってな川の水かさがまして水がにごるようになるまでいくらでも釣れたもんだ。」こういって、いろいろと私が根掘り葉掘りと聞いていたら、「何十年ぶりだがな、ひとつ仕掛け作ってみるから」と、たちどころに3本ほどカジカ釣り具を作って見せてくれた。
 山田さんは、「カジカつり」という仕掛けについて、春はカジカ用に、同じ仕掛けで夏休みにはミミズを餌に「ハチノウオ」を釣ったのだという。

 ハチノウオ。これもまた、私の大好きな魚で、和名ギギ。奇妙な魚で、本当に「ぎーぎー」といって鳴き、ナマズ科の仲間に特徴的なヒゲがトゲになって刺す。ギバチやらギギタ、ギギュウなど子供の遊び相手の魚には多くの地方名がついている。「ハチウオ釣には鉤は使わねえで、ミミズは真ん中からゆわくんさ。鉤つけたら飲み込んで胃袋までへえってくから、はずすとき刺されてひでえめあう」のだという。こういう、憎まれ魚がまたいいのである。
 魚野川の浦佐周辺でのカジカとり漁法には、子供の遊びとしての「釣り」やハコメガネで覗きながらヤスで突く「ヤスつき」のほか、漁協が発行する鑑札が必要になる「ノボリヅツ」(上り筒)漁や「イタコ」(板落とし)漁があるという。

 

 山田さん「これがヅツ。大小があってな、使い分けるんさ。最近はこれ作るのが面倒なのか、針金で編んだようなもんが時々流れてくるが、やっぱし竹で編まねばなあ。人によっちゃーハヤがへえる(入る)というもんもおるが、だいたいカジカとるのに、ハヤが入えるようなかけ方するのは素人だよ。」とはじめた「ノボリヅツ漁」の話し。「やっぱ魚の気持ちにならんば。それと欲かいちゃだめなんだよ」と、黒板を持ち出して絵入り、ヅツの作り方からカジカ売りの話し、サケ漁やアユ釣の話しと、いよいよ山田さんと磯部さんの囲炉裏談義に熱が帯びてきた。

 

ヤツメウナギの丸焼きを食らう

 囲炉裏で焼き上げたカジカ。腹がぷっくらとふくれて、大口あけて胸びれをピンと広げた格好のままコップに入れて、熱燗を注いだカジカ酒。何杯もお代わりしするうちに、囲炉裏の余熱でじっとリと脂がたれ落ち、八つ目がちょうど良い加減に焼きあがった。串に刺した姿はどうも蛇を連想させるのだが、ザッコロジストとしては、こんなことぐらいではひるむものではない。マムシもヤマカガシも食した経験があるのだから、八つ目は珍味などではなくまっとうな食い物なのだ。

 焼きあがった八つ目。「そのカシラが効くんですよ」と山田さん。何に効くのかは聞きそびれたが、頭からかぶりつく。滋養強壮のイメージと違って、思った以上に淡白な味だった。

 運転役のT氏には申し訳ないが、すっかり酔いしれてしまった。外にでると、猛吹雪となっていた。(初出=「月刊アクアネット」1999.4)

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