列島雑魚譚           


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zackology essay 08

 

 

壷でハゼを採る愉快な漁法

岡山県牛窓紀行

Photo by mana,東洋のエーゲ海?と呼ばれる牛窓港

 有明海そっくりの干潟漁が行われていた旧児島湾漁業のことを調べようと出張の帰りに、岡山に寄ったことがある。岡山県立図書館で漁業関連書を漁っていたら、地元の民俗研究者・湯浅照弘氏のコーナーができていて、以前読んだことがある『児島湾の漁民文化』など氏の著作のほか、貴重な手書きの調査報告や児島湾の漁師からの聞き書き集が揃えてあった。

 その中に「岡山県旧児島湾漁人問答集」という老漁師からの聞き書き集があって、おもわずひき込まれてしまった。

 あまりにおもしろかったので、帰ってから、その感想と残部があれば購入したい旨の手紙を氏に送った。一週間ほどしたら、丁重なご返事とともに、同問答集と、その原文である3冊のガリ版印刷物が送られてきた。その一冊は、「写真集岡山県児島湾の漁具」という、氏が撮った漁具の写真に手書きの解説をした、まさに手作り写真集だった。昭和44年12月作成とある。

 その中に、木箱の「ハゼ壷」の写真があった。

 それには、氏の直筆で

 

「M<名称>ハゼツボ。<所在場所>岡山市宮浦。<説明>タテ25cm、ヨコ15cm、深さ5p。ハゼその他の雑魚を捕獲す。以前は素焼きのツボを使用した」

 

 と記されていた。(湯浅氏の未公刊―私家版資料は、雑魚蔵書録に、著者の了解を得て一部掲載済み。雑魚蔵書録は⇒こちら

 

ハゼ壷漁師に会いに出かける

 

 それ以来、壷でハゼを取る「ハゼ壷」のことが妙に気になり、岡山の水産試験場や水産業改良普及所に問い合わせたりして、岡山県内の日生町や牛窓町周辺に、知事許可漁業として「ハゼつぼ縄漁業」が、まだ30件近くが許可されていることがわかった。

 県水産業改良普及所の紹介で、牛窓町師楽地区の坂口保さん(写真↓)という漁師さんに会うことができたのが1995年9月のことだった。

 牛窓町漁協で、80歳で、はつらつとした坂口さんから「ハゼつぼ縄漁」の話を聞くことができた。

 湯浅氏の写真に写っていた壷は、牛窓では、「ハゼバコ」と呼ぶらしく、木製だが、現在はほとんど使われていないという。

 坂口さんが、持ってきてくれた壷が、なんともいえない味のある素焼きの二口壷で、香川県志度町や、宇多津町に蛸壺を作る窯で、注文すれば作ってくれるという。

 壷を上から見ると眼鏡型の二つの楕円(長径6センチ、短径3センチ)の穴があり、胴側に2センチ程度の小さな穴があけられ、引き上げたときに水が抜けて中の魚が逃げないようにする水圧調整用の役目を持つらしい。

ハゼツボ(ヨコから撮影)

左(素焼きAタイプ)高さ21p

右(素焼きBタイプ)高さ20p

坂口さん使用

ハゼツボ(上から撮影)

左 2つ穴のそと幅15p

右 同16p

 漁期は6月から8月までの3ヶ月間で、ウロハゼ(地元でクロハゼ)を海岸に近い浅瀬の岩礁と砂とが混じる地帯に、何箇所かにわけて、幹縄に壷を50から100個つける「つぼはえ縄漁法」で、漁獲する。

 

「カメにはつがいで入るんや」―牛窓町漁協にて

 

 下手な説明より、牛窓町漁協事務所で、坂口さんと柴田正行組合長も同席してくれて話してくれた、取材ノートの聞き書きから紹介しておこう。

 

坂口 ハゼは新しい壷の方がよく入る。タコは古い壷がいい。この壷に入るのがクロハゼといいまして、ドヨウハゼ(土用ハゼ)ともいいますなあ。これ、釣りはせん。まき網でもとれんし、クロハゼとるんは、壷以外にないなあ。マハゼは、シロハゼ。秋口からはえなわで獲ります。

 シロハゼはスマートだけど、クロハゼは色が黒く、ちょっと型が丸いわな。10センチから15センチぐれえだ。獲れる時期が短いんや。6月20日前後に(仕掛けを)こさえて、海にはめるわけだけどな。それからな、7月いっぱいまで良く入る。不思議に思うのが、小さい子がみえんのに、6月の末ごろになったらな、ハゼ壷やると、おおきいんのがとれるわけ。それから、7月5日じぶんにはな、子を持つんじゃ。ハゼがな。ふた腹。そうそう、子を持ち出したらな、カメ(壷)に、二つずつ入るんや。オスとメス。その年によって、多かったら、二つずつ入るし、少ない年には、一つしか入らない。

 それで、7月半ば過ぎると、だんだんハゼが小さくなる。それで、ちいさくなったら、もう、カメ入らんようになるし。子を産むからな。ちさくなって、やせてしもうてな。終わりいうことになるんよ。

 

 ――壷に、産卵するのですか。

 

坂口 ついております。黄色いやつをいっぱいつけております。びっしりとな。これをな、自分の能力にもよるけどな、現在、わしはな、カメをな、800くらいはめる。1日で、半分くれえ、400個ぐらいあげる。

 一人でやる漁だが、二人ならなおさらつごうええ。

 場所場所で、いれる数量をかえて、ここは五十個、ここは百個というぐわいじゃ。そうさな、だいたい、海岸に近いところ、浅瀬。ツボ網(という固定式の網漁具)の漁場のあい間に、七つぐらいの場所にいれる。イツ(五)ヒロぐらいに、一つのカメを幹縄にすぐ結わえてつけてんよ。

 そうそう。深さはな、1メートルから、2メートルぐらいのあいだ。ひっぱると、パット飛び出るのもおるしな。ひき揚げる時間は、潮のかげんよ。潮がな、だいたい、なかばじぶんしたぐらいから、揚げるのがいちばんですな。「ナカバ」とは、満潮と干潮の間ぐらいのところでしょう。400あげるのに2時間ぐらいかかるから。なかばの潮ぐあいから揚げ始めて、干潮までにあげる。

 山のヘリだから、底は、岩もあるし、堅いわな。砂のとこもいいようだがな。

 だいたいこのハゼはな、穴をつくらないんじゃて。シロハゼは、じぶんで穴作って、そこに卵を生むが、クロハゼは、じぶんから穴は掘らんと、人の作った穴にへえる。だから、壷にへえるんだな。シロハゼは、壷には入らん。

 

 ―一操業でどれぐらいとれるんでしょうか。

 

坂口 400揚げて、100(匹)ぐらいおったらええほうではないですか。風が吹いたりしたら、それは2割か3割は増えるけどな。

 一シーズンで、どれぐらいの水揚げかねえ。

 まあ、いいときで、50日ぐらい海にハメとってだな、いいとこ半分ぐらいでしょう。25日から30日ぐらい。はじめは、入らず、それから、最後は小さくなってな、金にならんようになってしまう。

 販売は、活きたまま出荷します。こいつはわりあい、よう生きるんよ。なかなか死なんから、活きたまま売れるんとちがうかな。

 ほとんど地元消費だね。このあたりでは、虫明漁協がいちばん多かったんと違うかな。あとは、皆やらなくなってしまったんや。後継者もおらんし、ワシも一時はやめておったんだ。

 良くはいるコツですか、毎年同じ場所でやりますから、あんまり、場所は変えない。.始めたら、場所は変えんのや。

 ハゼの魚価は。1キロ1500〜1600円くらい。年配の人なんかは、やっぱりハゼの刺身が最高ジャと言いますな。

 

 旧児島湾や、瀬戸内海周辺には、ハゼツボのほか、ハゼを獲る漁法がたくさんあったことがわかってきた。干潟を今でいえばボードのような潟板に乗って、泥の中のハゼを手つかみでとらえる「にぎりとり漁法」などは、やはり干潟ならではの愉快な漁法だ。ハゼだけを取って生計をたてていたけっこう漁師がいたのだという。(初出=「月刊アクアネット」〔1999.11,Vol.2-11〕) 

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